真剣にパソコンに話しかける生徒たち。一体何をしているんでしょうか?
みなさま、こんにちは。
増進堂・受験研究社編集部の永峰です。
突然ですが、皆さま最近AIという言葉をテレビ等でよく耳にしませんか?
AIというのは、「Artificial Intelligence」の略称で、一般的に「人工知能」と訳されています。
皆さんはこの「AI」という言葉にどんなイメージをお持ちですか。
2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文の中で「AIの躍進によって今ある職業の半分がなくなる」という予測が発表され、世界中に衝撃を与えたのは記憶に新しいですよね。
また、映画の中でもAIは「人間の脅威」だと言わんばかりの描写が目立ちます。例えば金曜ロードショーなどで夏休み映画としてよく放送されている『サマーウォーズ』。この映画も主人公たちの敵として立ちはだかるのはAI(人工知能)です。
こういう背景があり、何だかAIというものがある種の「侵略者」のように思えて、すごく恐ろしいものだと考えている方もいらっしゃるかもしれません。
当然AIも万能ではないわけで、何でもできるというわけではありません。しかし、使い方次第では、私たちの社会を豊かなものにしてくれる可能性を秘めています。
そしてもちろん教育を豊かにしてくれる可能性も大いに秘めているというわけです。
増進堂・受験研究社はこれまで紙の参考書や教科書を中心に皆さまに「学び」を提供してきました。時代や社会の変化の中で常に最適な「学び」の形を追求してきた私たちは、そんなAIを教育に活用した教材開発に試行錯誤しています。
そんな中で、今回は私たちの開発と試行錯誤の風景の一端をお届けできればと思っています。
増進堂・受験研究社は高校の検定教科書の関連教材として、AI技術を活用した株式会社デジタル・ナレッジ(https://www.digital-knowledge.co.jp/)のシステムであるトレパ(https://torepa.jp)と協同し、新しくfesta!というサービスを開発しました。
トレパというシステムは、英語の発音をネイティブスピーカーの「耳」を基準にしてどのくらい通じるのか?を判定してくれるサービスです。
私も英語の発話には自信があるぞ!と意気込んで、トレパに向かって英語を話してみましたが、シビアすぎる採点に思わず打ちのめされてしまいました・・・。
トレパは先生が自由にAIを活用した英語教材を作成していただけるエディターという強みがありましたが、逆に最初は1からコンテンツを作成していかなければならないということで導入に抵抗を感じておられる先生もいらっしゃったようです。
そこで増進堂・受験研究社は予め教科書と連携したタスクをスターターとして用意することで、AIと学校現場の架け橋になれないかと考え、festa!の開発がスタートしました。
festaという言葉はイタリア語で「祭り」という意味で、私たちはこのにぎやかで明るいイメージの言葉に生徒に楽しみながら英語の力を伸ばしていって欲しいという願いを込めました。
そしてついに先日、そのサービスを発売に向けてより良いものにするべく大阪市天王寺区にある四天王寺高等学校にて実験的に授業を実施させていただきました。
四天王寺高等学校には平成30年度よりfesta!の共同開発にご協力いただいておりました。
AIを使った教科書教材に生徒たちはどんな反応を示したのでしょうか?
2019年7月12日の午後に約20名の高校1年生を対象に授業を実施しました。
教科担任の先生によると、普段からおとなしい子が多いクラスだそうで、もう少し授業内での積極性が向上すれば・・・と思っておられるようでした。
授業の導入として英語の歌を歌うことでクラスに英語の発話をする雰囲気づくりを行いました。選曲は今話題の映画『アラジン』より『Speechless』でした。
話題の楽曲ということもあり、生徒は大きな声で歌っていました!
その後にメディアルームに用意されたパソコンで各自festa!のタスクに取り組み始めました。
先生から「始めてください。」と指示が最初にありましたが、生徒には、誰かが話し始めるのをお互いにけん制しあっているような様子が見受けられました。
パソコンと向かい合っていて、しかもヘッドセットをしていてお互いの声が聞こえづらいという状況でも、生徒は英語を話すことに対して「照れ」のようなものを感じているようです。
そうなると当然、対人でのコミュニケーションは、もっとハードルが高いことが予想されますよね。
徐々に生徒がパソコンに向かって話し始めましたが、授業序盤はやはり周囲の生徒を気にしての照れた様子や声の小ささが目立ちました。
そこで私も生徒たちに少しアドバイスをしてみました。
「この単語があんまりAIに認識してもらえてないみたいだね。」
「実はこの単語はすごく発音に自信のある人でも認識させるのが難しいんだよ。」
生徒はこの言葉を聞くと、その1つの単語を認識させるために何度も何度もタスクに挑戦するようになりました。
授業後半になると、積極性に生徒同士で「この発音が難しい」「私はこの文を〇%認識させられた!」などの会話をする様子も見られるようになり、お互いにどうすれば発音の信頼度が向上するのかどうかを議論している姿も見られました。
また授業前半に「この単語は認識させるのが難しいよ」とアドバイスをした生徒が「できました!」と声をかけてくれるなど、成長を実感している様子も教室のあちこちで確認できました。
何とか自分の英語をAIに伝えようと、パソコン相手に身振り手振りをしながら話している生徒がいたのも興味深い光景でした。
英語の授業では、授業内で本文の音読が行われることが多いですが、とりあえず英語を口に出しているというだけで、本当に英語の力が伸びるの?と疑問に思われている方もいらっしゃると思います。
また、一斉授業の中で現場の先生が生徒の1人1人の音読を聞いて、それに対して評価していくというのは、やはり難しい部分があるでしょう。
それでも学習指導要領や入試の仕組みが変わる中で英語の検定試験が入試に導入され、英語を「話す」ことの重要性は年々高まっています。
そんな状況の中で現場の先生とAIの力が組み合わさることで、生徒の英語を「話す」力を効果的に向上させることができるのではないか?という可能性を今回の授業で確認できました。
授業の最初に先生から5つのタスクを時間内に終わらせることという指示がありました。
普通であれば与えられたタスクを早く終わらせたいと考えるのが当然の心理ですよね。
授業内で英語のプリントを5枚渡されて、それを解き進めてくださいという指示があれば、それを早く済ませてしまいたいと考える生徒が多いのは当たり前です。
しかし、今回の授業では、終盤になっても1つ目や2つ目タスクに何度も何度もトライしている生徒も見受けられました。
これは生徒が効率よくタスクに取り組めていないと、ネガティブに捉えることもできるかもしれません。
しかし、これはむしろポジティブに捉えるべき傾向ではないでしょうか?
festa!を前にした生徒は、1つのタスクに、1つのパラグラフの音読に、1つのセンテンスの音読に何度も何度も時間をかけてトライをする傾向が顕著に見られました。
これを見たときに、festa!とは「こだわり」を生む教材なのだと強く感じました。
自分の音読がAIによって評価されて、そしてシビアに発音の判定が下されると、どうしてもそれをクリアしたいという欲求に駆られるようです。
生徒の中には「評価が厳しいからこそやる気が出る」という声や「認識させるのが難しいといわれていた言葉を認識させられた時に達成感を感じた」という声がありました。
1つ単語の、1つの文の発音にこだわるのは、英語でコミュニケーションをする上では重視される事項ではないかもしれません。
しかし小さな達成感が英語を学ぶ「楽しさ」や「喜び」に繋がることは間違いないと思います。
また、そういった小さな達成感や喜びが、対面で英語のコミュニケーションを取る際の自信に繋がっていくことになることも期待できます。
先生曰くおとなしくシャイな子が多い対象の生徒たちも授業の後半になると、次第に発話する声も大きくなり、「照れ」が消え英語らしい発音を心がけるようになり、そしてパソコンに向かって身振り手振りで話すようになった子すら確認できました。
またお互いに信頼度をめぐりお互いに褒めあったり、発音のコツを尋ねあったりする一幕も見られ、生徒の自主的な「学び」への姿勢の涵養にもつながっているように思いました。
冒頭にも書きましたが、やはりAIは怖いもの、人間の役割を脅かす存在というイメージが先行しているような印象があります。
しかし、私たちはそれを心配するよりも、どうすればAIを使って社会をより良いものにできるかを考えていくべきでしょう。
AIももちろん万能ではありませんし、完全に人間に取って代わることはできません。しかし、AIには人間にはできないことができたり、人間と同じタスクをより高いレベルでできたりという長所があります。
現場の先生方とAIが手を取り合ってお互いの強みを生かせるような「場」を作ることができれば、生徒の「学び」の可能性は大きく広がっていくはずです。
増進堂・受験研究社はこれまで培ってきたノウハウを生かして、AIと「学び」を結びつけられるようこれからも試行錯誤を続けていきます。
また皆さまにお伝えできるようなニュースがありましたら、随時発信させていただきます。