先生100人超に聞いた!「かけ算の順序問題」に保護者はどう向き合うべきか?

【第12回】答えは合っているのに、式は間違っている?かけ算の順序でギモンを感じたら。
迫田 昂輝先生

こんにちは!塾や予備校で数学・算数を教えている、迫田昂輝(さこだこうき)です。

とうとうこの連載も最終回になりました。これまで多くの方に本連載を読んでいただき、多くの反響がありました。連載最終回は、このテーマで記事を書こうと密かに決めていました。

ズバリ「かけ算の順序問題」についてです。

SNS等で、次のような子どもの採点済み答案を見たことがないでしょうか?

画像はイメージです

主にテストの採点において、このように「かけ算の順序」がクローズアップされることが多々あります。しかし、かけ算というのは可換性がある(順序を変えても値は変わらない)わけですから、このような採点に疑問を持っている保護者様も多いのではないでしょうか?

連載最終回では、これからお子様と二人三脚で学びを進めていく保護者の方へ、このようなケースで悩んだ時に冷静に判断するための私なりの指針を示すことにしたいと思います。

さて、先に結論を述べておきますが、私はこのようなかけ算の順序をこだわることには反対の立場です。

そうとはいえ、このような採点をされる先生も、当然それなりの理由があるでしょう。

実は、このかけ算の順序問題というのは、かなり昔から議論されていました。しかし、時代が変われば世論も変わるでしょう。

今回は、この記事を執筆するにあたり、現代の先生達がどのような立場でどのような指導をしているのか、アンケートを実施しました。小学校の先生から塾の先生まで100人以上の先生方にご協力をいただきました。

アンケートの結果を踏まえつつ「かけ算順序問題の背景」を詳しく紹介していくと共に、「かけ算の順序にこだわることのリスク」という本テーマについての私見を述べ、「現場の先生方、そして保護者様へのメッセージ」で締めくくりたいと思います。

ぜひご一読いただき、今後の参考にしていただけますと幸いです。

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かけ算順序問題はなぜ起こる?

小学校のテストでは、「式」と「答え」と分けて書くことが多くあります。そして、そのそれぞれに配点が与えられ、「答えは合っていたけど式は不正解」というようなことが起こり得ます。

確かに、ただの山勘で答えを書いて正解だった場合、生徒がしっかりと理解しているかどうかを計測することは難しいので、この「式と答えを分けて採点する」方式は一定の効果があるでしょう。

その中でも、議論が分かれるのはかけ算の式の順序が異なっていた場合です。小学校のかけ算の指導においては、

(1つ分の数)×(いくつ分)

という指導をすることが通例となっています。先の例で言えば、

・一人の子どもが12個ずつみかんを持っているので、1つ分の数は12
・いくつ分は「子どもが何人いるか」ということなので、いくつ分の数は3

したがって、

12×3=36

という式を正解とするわけです。

さて、このような式が一般的ではあるわけですが、考え方を変えれば(1つ分の数)と(いくつ分)は入れ替わることもあります。例えば、先ほどの問題の例を考えてみましょう。

みかんを3人の子どもに配るという状況を想定すると、どのように配るでしょうか?

仮にみかんを配る人を小池さんとしましょう。小池さんが3人の子ども(名前をA、B、Cとします)に配る場合、一般的にどのように配るでしょうか?おそらく、

A→B→C→A→B→C→A→B→C→ ……… →A→B→C

と、トランプのカードのように配るのではないでしょうか。

この場合、1回あたり「A、B、C」の3人にみかんを配り、その回数が12回あると考えることができます。

・1回で3個ずつみかんを配るので、1つ分の数は3
・いくつ分は「何回みかんを配るのか」ということなので、いくつ分の数は12

と考えれば、

3×12=36

でも良いのではないでしょうか。

また、そもそも論ですが、先にも述べたようにかけ算には交換法則が成り立ちますので、

3×12=12×3

という具合に2つの計算は同じものです。片方を正解にして、他方を不正解とするのはおかしいのではないでしょうか。

しかしながら、このようにかけ算の順序にこだわる先生方にも意見があります。アンケートの結果集まったのは大別すると次のような2つの意見でした。

意見1
式の順序(解答例と)逆に書いた場合、正しく理解できているかどうか判断ができない。極端な話、問題文に出てきた数を順番に掛ければ答えが出てしまう。それでは理解しているとは言えない。
意見2
教科書、指導書にもそのように書いてある。算数指導の世界では、かけ算は「ひとつ分×いくつ分」と定義すると決められている。小学校のテストでは指導的採点というのが往々にしてあり、そこには教師の「こうなってほしい」という願いがあります。

一方で「かけ算の順序にこだわるべきではない」という意見も多く集まっており、私が集めたアンケートの結果は次のようになりました。

一方で「かけ算の順序にこだわるべきではない」という意見も多く集まっており、私が集めたアンケートの結果は次のようになりました。

※便宜上、かけ算の順序にこだわる「順序固定派」、かけ算の順序はどちらでも良いとする「順序容認派」と呼ぶこととします。

アンケートの結果、圧倒的に容認派の方が多くなりました。その他の意見としては、

・図を書かせて説明させ、理解できていれば○にする。
・学年によって異なる


などがありました。

さて、これらの状況を踏まえた上で、かけ算の順序にこだわるべきかどうかについて論じていきたいと思います。

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かけ算の順序にこだわるべき?

一生懸命考え、かつアンケートをしっかり読んだのですが、残念ながらかけ算の順序にこだわることの良さが個人的には見出せませんでした。

アンケートに回答していただいた先生方には、大変申し訳ない気持ちではあるのですが、なぜかけ算の順序にこだわらなくてもいいのか、私見を述べさせていただきます。

意見1に対する反論

まず、「生徒が正しく理解できているかどうか判定できない」という意見に関してですが、非常に的外れだと思います。

というのも、そもそも書かれている式だけを見て、その生徒が正しく理解しているかどうかを判断するのは不可能だからです。

先にも述べましたが、(1つ分の数)や(いくつ分)というのは、いくらでも入れ替えることが可能です。それを式から読み取ることはできません。それにも関わらず「順序が異なるから」という理由で不正解とするのは、あまりにも乱暴ではないでしょうか。

そして、「生徒が正しく理解できているかどうか判定できない」というのであれば、そもそも逆の視点についても論じる必要があるのではないでしょうか?模範解答の式と同じ式を書いていたからといって、果たしてその子はちゃんと意味を理解していると言えるのでしょうか?

にわかには信じられないのですが「『ずつ』という言葉があれば、その数が『1つ分の数』になるので、式の先に書きましょう」などと指導する先生もいるようです。一周回って結局生徒が理解できないまま式を書いてしまう、良くない指導です。これも、かけ算の順序にこだわることから生まれる弊害ではないでしょうか。

アンケートの回答で「模範解答とは異なる順序で式を書いていた場合、その生徒には図などを用いて説明させる」というものがありましたが、それをやるなら模範解答通りに式を書いた子も含め、全員それをやる必要があるでしょう。正しく理解しているかどうかは式からでは判断できないのですから。

また「問題文に出てきた数を順番に掛ければ答えが出てしまう」というのであれば、普段の小テストなどは、適当にダミーの数字を問題文に入れてしまえば良いのです。

この意見1のような意見を述べられる先生方に共通しているのは「生徒に正しく考えて欲しい」という願いであることは十分に理解していますし、それは当然私も支持します。

しかし、その願いと「式を判断基準にする」ということは繋がらないのです。

繰り返しになりますが、式から生徒の考えを読み取ることは不可能です。正しく考えてほしいのであれば、それは式の採点以外で行う必要があるのです。

意見2に対する反論

教科書や指導書にそう書いてある、というのを判断基準とするのは、生徒たちに「考える力」を養わせる立場の意見としては非常に残念です。また、そう決められているというのも疑問が残ります。

本当に指導法に決まりなどあるのでしょうか?

私も長いこと指導の現場におりますが、聞いたことも見たこともありません。あるのは「指導の仕方」という例示であり、このようにしなさいという決まりではないのです。学習指導要領を確認しましたが、かけ算の順序を(1つ分の数)×(いくつ分)にしないと不正解にするという記述はありませんでした。それどころか、学習指導要領解説にはこのような記述がありました。

ここで述べた被乗数と乗数の順序は,「一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。  乗法による表現は,単に表現として簡潔性があるばかりでなく,我が国で古くから伝統的に受け継がれている乗法九九の唱え方を記憶することによって,その結果を容易に求めることができるという特徴がある。

出典: 【算数編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 p.115

ただ、こちらには次のような記述もあり、それが混乱を招いている恐れもあります。

式を読み取る指導に際しては,例えば,3×5の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」という問題をつくることができる。このとき,上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現 において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という場面との対置によって,被乗数と乗数の順序に関する約束が必要であることやそのよさを児童が理解することが重要である。

出典: 【算数編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 p.116

ただし、これは「式を読み取る指導に際しては」と書かれているように、式の読み取り方に関する記述です。

教科書や指導書は、学習指導要領に示された目標に対して到達するためにアプローチを示しているに過ぎませんし、それは絶対的なものではありません。参考にするのは大いに結構ですが、拡大解釈し、正しい指導ができなくなるのであれば本末転倒です。

教科書や指導書は絶対ではありません。1つの参考材料であり、「教科書を教える」のではなく「教科書で教える」のです。そのために、教員には免許制度があるのではないでしょうか?

教科書をそのままなぞるだけならば、映像授業で十分です。現場で先生方が指導する意味は、型通りではうまく理解できない、思考力が育たない子のためにあるのではないでしょうか?

かけ算の順序にこだわることは、これに沿っているとは言えない行為だと、私は思います。

数学というツールは、万人が意思疎通するために生み出された、最高の言葉です。そこに変なローカルルールを押し付けるのは、この言葉のメリットを放棄することにつながりかねません。

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現場の先生方、そして保護者の皆様へ

今回の記事は、現場の先生方にとって、ひょっとしたら嫌な気持ちにさせてしまうものになっていたかもしれません。私も現場に立ち続ける人間の一人ですし、勉強を続けています。私の主張が全て正しいわけでは当然ありません。

そもそもの問題として、「テスト」が実施され「採点」という業務がある以上、一定の基準を設ける必要があるでしょう。

また、その中で先生方が赤ペンに込める思いが、中々汲み取ってもらえないかもしれません。この記事をきっかけに様々な議論が為され、結果として多くの生徒・児童が算数に楽しさを感じ、学習意欲が高まることを切に願っています。志は同じ方向を向いていると思いますので、その点はご理解いただけたらと思います。

保護者の皆様方へも、1つお願いがあります。

かけ算の順序だけに留まらず、保護者の方から見て「え?何でこれが不正解なの!変な採点!」と、憤りを感じることもあるでしょう。私も塾や予備校の現場で生徒から質問をされ「なぜこれが不正解になるのか」と思ったことは度々あります。

その時に大切なことは「採点だから」とただ受け入れるのではなく、お子様と一緒に教科書を読んで考える、先生に間違いの理由を聞いてみるという姿勢を保護者が見せてあげることだと思います。

前の学年の先生など、複数の先生に聞いてみるのもよいかもしれません。

テストの点数は、お子様のモチベーションを左右するものです。納得できない採点で不正解になったお子様は、やる気をなくすこともあるでしょう。それだけではなく、誤った考え方を身につける可能性すらあります。

点数ではなく、正しく考えていることを評価してあげてください。点数が高いか低いかということは、正しく理解できているかできていないかに比べれば瑣末な問題に過ぎません。

その姿勢が、お子様のモチベーションを維持することにつながると思います。

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全12回を振り返って

約1年にわたり、連載記事を執筆させていただきました。私自身、この記事を執筆することで新しい考え方を発見したり、改めて指導法を考え直したりするきっかけになりました。

このような機会を頂けた、manavi編集部の方々には感謝の気持ちでいっぱいです。また、共に国語、英語の記事を連載した小池先生、Z先生から、大変多くの刺激をいただきました。

特に小池先生は度々私の連載にお名前をお借りしました。多くのご出演ありがとうございました。

最後に、本連載を毎回読んでくださった読者の皆様へ。

読んでくださった多くの方が、お子さんを持つ親御さん、教育関係者の方々だったのではないかと思います。

今回の記事でもお分かりいただけたように、教育の世界は様々な考え方の土台の上にあり、まだまだ完成してない業界です。いや、ひょっとすれば、こうして議論をし続けることに意味があるのかもしれません。

多種多様な意見で賑わう世界ですが、全員の根底にあるのは「子どもの幸せ」であることは、共通していることでしょう。

目の前のお子さんを幸せにするため、引き続き教育関係者、保護者の皆で議論を重ね、試行錯誤を繰り返していきましょう。もちろん、私もその一人として頑張ります。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

著者紹介

迫田 昂輝


株式会社LIBER代表取締役、一般社団法人Next Education 理事。河合塾数学科講師。大手進学塾、予備校で算数・数学を担当。また、自身が経営する会社で英会話家庭教師事業を運営。英語で算数を教えるコースなども開講している。「親の関わり方が子供の学びを変える」というテーマで、保育園や幼稚園などでも講演を行う。早稲田大学理工学部数理科学科卒。 「数学のトリセツ」シリーズ著者。YouTubeで「数学・英語のトリセツ」を公開中。

●数学・英語のトリセツ →https://www.youtube.com/channel/UC7zx7uOmqXsD153rPSUvxcg?view_as=subscriber

●子供英会話ビバイ
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