【第1回】電力システムの研究から、カーボンニュートラルを目指す!山口順之先生へインタビュー

電力システム工学とエネルギー問題についてお聞きしていきます!

目次





こんにちは。manavi編集部です。

新しい賢者の先生のご紹介をいたします。

今回からお話を伺うのは、東京理科大学 工学部電気工学科 准教授の山口順之先生です。

山口先生のご専門は「電力システム工学」です。発電から電力の供給、消費までを含めた、電力インフラの安定性や経済性に関する研究に取り組まれております。

電力と、それを作り出すための資源を取り巻くエネルギー問題は、日本のみならず、世界規模の課題です。近年「カーボンニュートラル(脱炭素)」や「SDGs」といった言葉をあちこちで聞くようになり、小中高の教育現場でも盛んに取り上げられるようになってきました。

山口先生は、こうしたエネルギー問題に関する造詣も深く、経済産業省のプロジェクト「未来の教室」の「STEAMライブラリー」では、2021年度の東京理科大学のコンテンツ統括責任者を務めていらっしゃいます。

詳しくは、以下のリンク先をご覧ください。
エネルギーの未来を描く:カーボンニュートラル社会実現のために

今回のインタビューでは、エネルギー問題にも触れていただきながら、電力システム研究の内容や、電気工学を学ぶ学生に求められる資質・能力についてもお聞きしたいと思います。

それでは山口先生、よろしくお願いいたします。

電力システム工学とは?

最初の質問は山口先生のお仕事についてお聞きしたいと思います。「電力システム工学」の概要をお聞きしましょう。

電力システム工学」の研究とは、どんなことをされているのですか?

電力システムを効率的に運用・制御するための研究をしています。

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カーボンニュートラル社会に向けて、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを最大限に活用できる電力システムが求められています。

電力を大量に経済的に貯蔵する方法は限られていますので、基本的には、電力の消費と供給は時々刻々一致している必要があります。

再生可能エネルギー電源から発電される電力は、天候に左右され、人間が使いたいときに発電されるとは限りません。

そのため、再生可能エネルギー発電が不足したり、余ったりするときには、何らかの方法で、電力の需給が一致するように調整しなければなりません。

火力発電所の出力を調整すればよいのか、他の地域と電力のやり取りをして調整するのか、発電所ではなく電力需要のほうを調整するのか。

何が、最も経済的で、停電を招くことなく、二酸化炭素排出量を少なくすることができるのかを数理最適化という手法を用いて分析しています。

他にも、電力ネットワークに関する数値計算の高速化や、AIを応用した発電機の制御方法の開発や、災害時にレジリエンス(回復力)が高いビルのエネルギーマネジメント方策の検討などを行っています。


自然現象も絡む電力システムはとても複雑で、調節や最適化には高い専門性が求められるのですね!

カーボンニュートラル社会と、それを支える電力システムは「火力発電を止め、再生可能エネルギーだけにしよう!」というような、単純な話ではうまくいかないようです。経済性・安定性などに加え、国内外の法律や、地理的な条件も考慮しなければならないことでしょう。

発電技術を実社会の条件に照らし合わせて、「分析・調整する力」が重要であり、社会という広い規模で考える先生のご研究の複雑性・専門性をうかがうことができます。

また、お話にあった数理最適化とは、解決したい問題や達成したい目標のためのタスクやポイントを整理し、数学の連立方程式を解くように、最適な解を計算する手法です。まさに理系!という感じがしますね。

気候変動に関する報道をどう捉える?

皆様もご存知の通り、カーボンニュートラルの実現が世界規模の目標となっている背景には、地球温暖化問題や、気候変動の問題があります。

10代とまだ若い環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの活動がメディアでとりあげられるなど、企業や社会の関心も高く、議論も絶えません。

様々な情報があふれる中、お子様が正しい情報で、正しく考えられるようにするには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。

最近、気候変動などについてニュースが多いですが、一方で極論を目にすることも多いと思います。どんな点に気をつけてニュースなどを見れば良いでしょうか。

結論だけを見ずに、前提条件や仮説、論拠をよく確認して理解することが大切です。

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時々、結論を導く前提の説明が不足していたり、過度に単純化したり、一部分だけ強調しているように感じることがあります。

なぜそのような結論になるのか、情報の受け手が相当の想像や思い込みを追加しないと理解できないニュースもあります。

そういったものが極論になってしまうのではないでしょうか。

電力システムで例えれば「欧米では石炭火力を減らしているのに、日本は減らしてなくてけしからん」といったニュースを見たことはありませんか。

それはそうかもしれませんが、そんな決めつけたような表面的なニュースをどのように理解すればよいのか、私にはわかりません。

主張をよく聞けば、例えば、二酸化炭素を回収する技術があったとしても、広く普及する技術になるかわからない状態なのに、それに頼って石炭火力発電所の使用を継続しようとするのはけしからん、と言っているかもしれません。

賛否はともかく、そこまで言えば意見としては意味が通じます。

他にも例えば、「石炭火力発電所は現状では安いが、地球温暖化の影響被害額の予想値を合わせると割高なので減らすべきだ」とか、「大胆に石炭火力発電所をなくしてしまって、再生可能エネルギー発電の発電電力量が不足したら困るので石炭火力発電は必要だ」などという意見であれば、正しいか否かは脇において、主張は理解できます。

このように、論拠があれば、それぞれ具体的に検討することも可能になります。そうすればよい議論になりますよね。

気候変動のテーマやニュースという媒体に限らず、意見交換の中で前提条件や論拠を整理・確認することは、日常生活においても、学力を高めるためにも重要だと思います。


頭から信じ込まずに、根拠や証拠を調べるクセをつけたいですね!

電力会社選びで、エネルギー問題を考える!?

今後の社会の在り方を考える上で、避けては通れないエネルギー問題は、お子様の学びのきっかけにもなりそうです。

お子様にエネルギー問題を考えてもらうには、どのようなアプローチをすればよいのでょうか?

エネルギー問題につながる身近な話題がないか、先生にヒントを伺ってみましょう。

街中で気になることや感心したことなど、身近にあるエネルギー問題の例を教えてください。

身近なことといえば、電力会社の切り替えです。

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電気料金には、基本料金と従量料金の2部制になっているものや、従量料金のみのもの、昼と夜で単価が異なるもの、毎日・毎時刻と単価が変化するもの、使えば使うほど割高になるものなど、いろいろあります。

実は政府は、電力会社別に、電力1 kWhあたりの二酸化炭素排出量を公表しています※。

平均的には453 gですが,全く二酸化炭素を出さない電力会社から、約1 kgも排出する電力会社まで様々です。排出量が少なめだったり、多めだったりする会社が、会社イメージと違う場合があったりしますので、ご自身の電力会社がどれだけの二酸化炭素を出しているのか是非確認してみてください。

さらに、なぜ、各社で価格や二酸化炭素排出量が変わるのか、調べてみるとよいと思います。

電力会社を選ぶことで、ご自宅の電気料金支払額の削減になることもありますし、二酸化炭素の排出量の削減にも貢献できるかもしれませんよ。

※ 電気事業者別排出係数-R2年度実績-R4.1.7環境省・経済産業省公表 より


確かに、電力会社が色々あるのは不思議でした!調べると、色々な違いがあるのですね。

お子様がエネルギー問題を身近なものに落とし込む手段のひとつとして「電気代」や「消費電力」に焦点を当てるのは面白いなと思いました。

また、電気に限らず、水道やガスなども含めた光熱費をお子様との話題にすることで将来、自立して生活する際の費用感をつかんだり、現状の光熱費を減らすための節約の意識が生まれてくれたら嬉しいですよね。

冒頭にご紹介した、「STEAMライブラリー」のコンテンツでは、家庭で消費される電力やその料金、二酸化炭素排出量を計算・視覚化できるシミュレータが公開されています。

詳しくは、以下のリンク先をご覧ください。
家電シミュレータ

学びのヒント

山口先生、ありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

・論拠を整理して、具体的な検討ができるようになろう

今回のインタビューでは、山口先生が安全性、正確性など様々な条件を俯瞰して考え、最適な電力システムの研究を行っているというお話がありました。

お子様にも、具体性や実現性も考慮して、机上の空論にならない議論や検討ができるような人に育ってほしいですよね。

ご家庭での活動でおすすめしたいのは1日の「スケジュール」や「勉強計画」をお子様自身に立ててもらうことです。

「学校」や「食事」や「睡眠」などの時間を想定し、「やりたいこと」や「勉強時間」を限られた時間で確保する、という作業は、タスク整理のよい練習になります。

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先生からアドバイスしていただいた「前提条件や論拠の整理・確認」には、論拠となる情報の分かりやすさや正しさが求められます。

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今回の賢者

山口 順之

東京理科大学 工学部電気工学科 准教授
北海道大学大学院工学研究科 博士後期課程修了(博士(工学))。
2002年 電力中央研究所 研究員。2008年より1年間、米国ローレンスバークレー国立研究所 客員研究員。2015年 東京理科大学 講師、2019年より現職。

専門は、電力システム工学。2021年度 経済産業省「未来の教室」STEAMライブラリー東京理科大学コンテンツ統括責任者。経済産業省 総合資源エネルギー調査会 系統ワーキンググループ 委員、電力・ガス取引監視等委員会 制度設計専門会合 専門委員,技術雑誌「スマートグリッド」編集委員長等。

著書(分担執筆)「電気事業の仕組みを読み解く」「国際標準に基づくエネルギーサービス構築の必須知識」「スマートコミュニティのためのエネルギーマネジメント」「配電システムネットワーク工学」。

山口先生の詳しい情報はこちらから

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