【第3回】山口順之先生に訊く 「深い議論」を支えるコミュニケーション能力とは?

大学での研究活動に必要な力を伺っていきます!

目次





こんにちは。manavi編集部です。

今回も東京理科大学 工学部電気工学科 准教授の山口順之先生にお話を伺っていきます。

前回のインタビューでは、先生の「学生時代」 や、「研究者としての今に活きている学び」についてお話しいただきました。

インタビュー3回目は「大学での研究活動に必要な力」をテーマに、お話を伺っていきたいと思います。

それでは山口先生、よろしくお願いいたします。

研究で活きてくるコミュニケーション能力とは?

この春(2022年4月)から、高校では新学習指導要領に沿った新しいカリキュラムが実施されるようになります。新課程では「総合的な探究の時間」に代表される「探究科目」が新設されました。

探究科目では、今後の社会でも求められる「課題を見つけ、自ら探究していく力」が重要視されます。これには、大学での研究活動に通じるものがあるのではないでしょうか。

今回最初の質問は、「大学での研究活動に必要な力」や、「山口先生が学生に求めるもの」についてお聞きしたいと思います。

先生の研究室で研究をするのに必要な力とはどんなものだと思われますか?

コミュニケーションをとりながら検討をすること」に慣れて欲しいです。

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議論をしていて、「なぜそのような結論になるのですか」と尋ねると、いつもお詫びをする学生さんがいます。

「すみません」というばかりで、決して理由を言わないのです。こちらは理由を聞いているつもりですが、学生さんは間違いを指摘されているように感じているようです。優しく話すようにしているので、学生さんも教員を信じて自分の考えを述べてください。

「考えてみたけれど、AかBか絞り切れず、まずはAとした」ということでも良いのです。そこまで言ってくれると、具体的な議論が進みますよね。

また、自分の都合や希望を臆せずに伝えて欲しいと思います。自分も他人も尊重したアサーティブなコミュニケーションですね。期末試験の勉強が忙しくて、卒業研究の作業が進まないのでしたら、そのように言えばよいのです。

上記はいわゆるコミュニケーション能力というものですが、それは「表面的」に、はきはきしているとか、礼儀正しいとか、相槌を打つとか、テンポの良さとか、滑舌が良いこととは大きく異なります。

深い議論をするときには、それほど重要ではありません。理由を聞いたときにいくら礼儀正しくお詫びをしても、コミュニケーションになっていませんよね。

込み入った議論をしていれば、真剣な顔になって愛想笑いなどしている余裕はありませんし、うまく口頭で説明できないことも当然あります。

学生との研究うち合わせでは、じっくり時間をとって、少しずつ検討を言語化していきます。

自分が納得いくまで時間をかけて考えることが大切です。


深い議論」ができるコミュニケーション能力が求められるのですね!

前回のインタビューにおいても「自分が納得いくまで時間をかけて考えること」 の重要性をお話しいただきましたが、考えたことを言語化して議論を行うための「コミュニケーション能力」について触れていただきました。

同じコミュニケーション能力でも、議論をするためのものと、礼儀正しさや気持ちのよいやり取りをするためのものを区別して考えていらっしゃるのが印象的です。理系の研究といえど、考えたことを正確に言語化したり、逆に相手の考えを読み取ったりする「文章力」や「読解力」といった国語の力も必要になってくるのかもしれませんね。

また、研究室の学生さんへの指導においても、討論や議論に熱意を持って取り組まれていることが伝わってきました。山口の研究室では「大学の学びの醍醐味」とおっしゃられていた卒業研究を堪能できそうです。

「物思いに耽る余裕」が生むもの

研究活動には「深い議論」と、そのための「コミュニケーション能力」が欠かせないことをお話いただきました。では、これらをご家庭ではどのように身につけていけばよいのでしょうか。

山口先生からヒントを頂戴したいと思います。

先ほどのお話にあった「コミュニケーションをとりながら検討」することができるようになるために、保護者の方に理解・協力してもらいたい点はありますか?

お子さん一人で物思いに耽るような時間的・空間的な余裕を持たせて頂きたいです。

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今のお子さんは習い事や塾などで忙しいですよね。そうなると学校の授業がおろそかになり、それを取り戻すために、ますます塾が忙しくなる。加えてスマホやゲームに夢中になる。

お子さん自身が内発的に何かを考える余裕はあるのでしょうか。

すぐに答えや結果が出てくるものばかりに接していると、なかなか結論が出てこない難しくて重要な問題に向き合わなくなるのではないかと心配です。

自分一人で何をすることもない時間を用意して、頭をしっかり休ませたり、自分の中で考えを整理したり、咀嚼したりさせてあげて欲しいですね。

私の専門外ではありますが、スマホやゲームは依存性があると思います。お酒やたばこを未成年から遠ざけるように、保護者が適切に管理する必要があると思います。

私もネットニュースや電気工学に関係するような動画などをついつい見すぎてしまうことがあります。それら一つ一つは勉強に関係があったり、真面目なものなのかもしれませんが、それらに時間を取られて、本当にやりたいことをやる時間のやりくりが難しくなったら、依存症の兆しがあると警戒し、対策をした方が良いでしょう。

無理やり取り上げることはできませんので、まずはお子さんに、本当にやりたいことを考えさせましょう。

絵をかいたり、本を読んだり、音楽をきいたり、良い成績を取りたいなどと素朴なことでよいのです。

それを実現するための方策の一つとして、スマホやゲームから遠ざけるのも良いと思います。

私の研究室の学生を説得して、デジタルデトックスをしてもらったら、1か月でずいぶん顔色が良くなって、卒業研究も進むようになりました。

もちろん、保護者自身も率先して行動する必要があります。


時にはスマホから手を離して、じっくり考えたり、話したりする姿勢をお子様にも見せてあげたいですね。

情報端末が普及し、学校でも活用するようになった現代では、子どもたちも膨大な情報に簡単にアクセスできるようになりました。

文字を打てばすぐに答えが返ってくる、そのスピード感に慣れた子どもたちの「モチベーションの続きにくさ」は正頭英和先生のセミナーでも触れられていました。

たくさんの情報・興味を引くものが次々と視界に入ってきて、とても忙しい…そんな現代の子どもたちだからこそ、山口先生がおっしゃるような「 一人で物思いに耽るような時間 」を意図的に設けてあげる必要があるのかもしれませんね。

また、時間的・空間的余裕が「頭を休ませる機会」になることにも気づかされました。「スマホやゲームへの依存」のお話もありましたが、お子様が自分で生活を管理できないうちは、保護者が上手くサポートしてあげたいですね。

「電力システムを学びたい!」山口先生おすすめの本、映画

第3回は、研究活動に必要な力についてお聞きしてきました。

今回最後の質問は、先生のご専門である「電力システム工学」に興味を持った方や、「今まさに電力について勉強中!」という方のために、おすすめの本や映画をお聞きしたいと思います。

将来、先生の研究領域に進む学生の皆さんに、おすすめの本や映画などはありますか?

中学生や高校生は電力システムというよりも、理工系の本や映画は自分で興味のあるものを自由に選ぶと良いと思います。

それでも敢えて電力システムに関連する本や映画を、ということで紹介します。

『日本電力業発展のダイナミズム』
橘川武郎 著・名古屋大学出版会

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橘川武郎先生の「日本電力業発展のダイナミズム」では、日本の電気事業の歴史が詳しく書いてあり、今がなぜこうなっているのか、手掛かりになるのではないでしょうか。

『エネルギー400年史・薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで』
リチャード・ローズ 著,秋山勝 訳・草思社

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リチャード・ローズの「エネルギー400年史・薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで」は、イギリスで薪がなくなるところから物語が始まります。時代とともにエネルギーの主役が入れ替わっていくところが面白いですね。

『市場を創る・バザールからネット取引まで』
ジョン・マクミラン 著,瀧澤弘和/ 木村友二 訳・慶應義塾大学出版会

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変わったところでは、ジョン・マクミラン「市場を創る・バザールからネット取引まで」はいかがでしょうか。第14章 競争の新時代 では、排出権取引や電力市場が取り上げられています。

『サバイバルファミリー』
矢口史靖 監督
https://www.amazon.co.jp/dp/B0721BDXNQ

映画でしたら「サバイバルファミリー」なんていかがですか。なぜだかわかりませんが、コンセントも電池もとにかく電気が使えなくなるところから始まるストーリーです。

『黒部の太陽』
熊井啓 監督
www.amazon.co.jp/dp/B00AZH6462

古いものですが、黒部ダム建設の苦闘を描いた「黒部の太陽」もおすすめです。建設当時の日本社会のエネルギー事情などにも触れられています。

学びのヒント

山口先生、今週もありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

・時にはじっくり時間をかけて、自分の考えを整理しよう

大学での研究活動においては、「深い議論」とそのための「コミュニケーション能力」が求められるというお話しがありました。

「あれもこれも」と学びを詰め込むのではなく、自分の考えを整理するために「物思いに耽るような時間的・空間的な余裕」を大事にしたいです。

また、「すぐに答えや結果が出てくるものばかりに接していると、なかなか結論が出てこない難しくて重要な問題に向き合わなくなるのではないか」というお話もありました。

ご家庭でも、「動植物の飼育・観察」など、一朝一夕に終わらない長期的な学びに取り組むのはいかがでしょうか。

manaviおすすめの本

今回の記事に関連したおすすめの書籍をご紹介させていただきます。

関連書籍

標準問題集 読解力 

★各単元は,ごく短い文章で取り組むステップ1(基本問題)とやや長い文章で取り組むステップ2(標準的な問題)の2段階で読解力を身につけます。その後数単元ごとに長い文章で取り組むステップ3(発展問題)で実力が身についたか確かめることができます。

★巻末に「総復習テスト」を設けているので,読解力が確実に身についたか確かめられます。

★解答編は,解答・考え方だけでなく間違えやすい点などを「ここで注意」で適宜示しています。

詳しくはこちらから

今回のインタビューでは、研究活動におけるコミュニケーション能力が話題になりました。おすすめさせていただいた標準問題集 読解力シリーズは国語の読解力に焦点を置いた問題集です。

相手の主張を正確に読み取ったり、自分の考えを簡潔に表現したり…といったことは、研究活動を通した「生きた経験」が最も効果的に学べるのかもしれませんが、長文読解や記述問題に取り組むことでも鍛えられるのではないでしょうか。

「将来は理系の大学に進学して、山口先生のような研究に取り組みたい…!」と考えるお子様にこそ、小さなうちから国語の読解力のトレーニングにも取り組んでいただければと思います。

今回の賢者

山口 順之

東京理科大学 工学部電気工学科 准教授
北海道大学大学院工学研究科 博士後期課程修了(博士(工学))。
2002年 電力中央研究所 研究員。2008年より1年間、米国ローレンスバークレー国立研究所 客員研究員。2015年 東京理科大学 講師、2019年より現職。

専門は、電力システム工学。2021年度 経済産業省「未来の教室」STEAMライブラリー東京理科大学コンテンツ統括責任者。経済産業省 総合資源エネルギー調査会 系統ワーキンググループ 委員、電力・ガス取引監視等委員会 制度設計専門会合 専門委員,技術雑誌「スマートグリッド」編集委員長等。

著書(分担執筆)「電気事業の仕組みを読み解く」「国際標準に基づくエネルギーサービス構築の必須知識」「スマートコミュニティのためのエネルギーマネジメント」「配電システムネットワーク工学」。

山口先生の詳しい情報はこちらから

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