【第4回】理科の知識だけじゃない!「未来を描く」ために大切なこと

「エネルギーの未来を描く」ために大切なことはなんでしょうか?

目次





こんにちは。manavi編集部です。

今回も東京理科大学 工学部電気工学科 准教授の山口順之先生にお話を伺っていきます。

前回のインタビューでは、「大学での研究活動に必要な力」についてお話しいただきました。

また、電力システムに興味を持ったり、学んだりしたい方へ向けたおすすめの本や映画も紹介されていますので、合わせてご覧ください。

連載最終回の今回は、エネルギー問題に関する質問を通して、家庭でエネルギー問題を話題にし、お子様の気づきや学びにつなげるためのヒントを探していきたいと思います。

それでは山口先生、よろしくお願いいたします。

日本の特殊なエネルギー事情

先生のご専門である「電力システム工学」、そして「エネルギー問題」は、地球規模のグローバルな研究課題です。とはいえ、私たちが住む日本以外の状況は、想像しづらいものがあります。

そこで第4回最初の質問は「エネルギー事情における日本の特徴」や「外国との違い」についてお聞きしていきたいと思います。

エネルギー問題に関して、諸外国と日本とで異なる点などあれば教えていただけますでしょうか。

日本は、エネルギー資源に乏しい島国で、しかも人口が1億2千万人もいる大きな先進国です。これは世界的に見ても珍しいと思います。

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エネルギー自給率は、わずか12.1%(2019年度)です。ノルウェー約700%、オーストラリア約350%ははさておき、米国は約100%、中国約80%、英国約70%、フランス約50%、ドイツ、スペイン、イタリアがだいたい20%から30%強ぐらいなので、それらと比較しても、自給率が大変低いことがわかると思います。

エネルギーを海外に依存するということは、国際紛争が先鋭化したときに、エネルギー調達が難しくなりますよね。

日本の場合、海外と接続している送電線(国際連系線)がありません。これも諸外国と大きな違いだと思います。

電力は大量に経済的に貯めることができませんが、海外と送電線を接続すると、電気が流れる瞬間的な速さで、海外と電力をやり取りできます。しかしこれには良い点と悪い点があります。

片方の国で電力不足が発生したときには、もう片方の国から電気を送って助けることができます。一方で、電気の送り手側の国で、事故や災害などにより急に電気が足りなくなったら、受け手側の国も巻き添えになって電力不足になります。

そのため、国際的に電力を融通しあっている国では、電力供給の安定性を確保するために、電力に関する国際組織を作って、情報交換をしたり、国際的な大停電の原因究明を行ったりしています。


大陸国だと、隣国と直接電気のやり取りをすることもできるのですね!

国内のエネルギー自給率が十数パーセントしかなく、ほとんどが海外に依存しているというのは衝撃です。

社会科ではこうした「日本の自給率」の話題や問題が取り上げられています。教科書や参考書での記載も多い「食料自給率」と比較してみるのも面白そうですね。

またお話にあった「国際連携線」も日本で暮らしていると想像しづらいシステムですよね。このように「自分たちの地域の特徴に気づくために、あえて地域外の情報を調べる」というのも学びの機会になるかもしれません。

STEAMライブラリーの講座に込めた想い

続いての質問は、山口先生がご監修されている、経済産業省「未来の教室」STEAMライブラリーの講座についてです。

詳しくは、以下のリンク先をご覧ください。
エネルギーの未来を描く:カーボンニュートラル社会実現のために

コンテンツの統括責任者として、自らも講座にご出演なさっている山口先生ですが、どのような想いを講座に込められていらっしゃるのでしょうか。

先生がご監修されている、「未来の教室」STEAMライブラリーの講座もリニューアル公開されています。この講座を通じて、広く伝えたいことはありますでしょうか?

エネルギー問題は、自分たちの問題で、すべての人が解決に貢献できる問題であることを知っていただきたいです。

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エネルギーは、地球温暖化問題に関わってくるので、理科の問題のように思われがちです。しかし、それだけではありません。暮らし・仕事・社会に関わる問題です。

地球にやさしい電力をどのように発生させ、運び、貯めて、使っていくかという工学の専門家ばかりでなく、環境や政策・世論を調査し提案するコンサルタントや、法律を作る政治家、環境ビジネスに強い投資家など、様々な関わり方があります。

生徒さん皆さんが、自分の将来のキャリアを思い浮かべながら学んでほしいですね。

もちろん、STEAM実践ということで、秋山仁先生がエネルギー問題にヒントを得た数学の実験をしてくださったり(どんなものか想像できますか?)川村康文先生が防災グッズとして発電機の実験をしてくださったりしています。こちらも是非お楽しみください。

私も、大学の11階の建物の屋上から水を落とすという水力発電大実験をしていますので、そちらも是非どうぞ。

実験で使った水槽も貸し出せますので、使ってみたい方はお知らせください。


エネルギー問題に関する学びを通して、未来社会と、自分自身の生き方を思い描く講座なんですね!

山口先生は東京“理科”大学の先生でいらっしゃいますが、「暮らし・仕事・社会」の大切さを繰り返しお伝えいただきました。まさにSTEAM教育の「A」の部分、「Arts(人文社会・芸術・デザイン)」に相当する分野になります。理系・文系の括りに囚われない、幅広い視野を持ちたいですね。

お話で紹介されていた 「歌う大学教授」 川村康文先生には、manaviでもインタビューを行っておりますので、そちらの記事も是非ご覧ください。

身近なエネルギーから考えたい「問い」

さて、先生へのインタビューもいよいよ最後になります。

最後に山口先生から、家庭での親子の会話や、調べ学習の種になりそうな「問い」をお聞きしたいと思います。

ご家庭でエネルギー問題を考える際に考えてもらいたい「問い」はありますか?

ご自身のご家庭の電力消費はどのくらいでしょうか。詳しく調べると何かわかるかもしれません。

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一部の電力会社では、ご自身のご家庭の電力消費量が確認できるウェブページを提供しています。データが得られたら、明日の電力消費量は予測できるだろうか、などと考えてみましょう。気温と一緒にグラフを書いてみるとイメージが湧いてくると思います。

そして、家電製品の使い方を工夫すると、電力消費量を減らすことができるのかも考えてみてはいかがでしょうか。また、第1回のインタビューで取り上げた電気料金について、ご家庭の電力消費の様子がわかれば、どのような契約がよいか考えることもできるでしょう。

さらに、電気料金と温室効果ガス排出係数に関係はあるのだろうか、などと確認をしても良いですね。

私たちが作成したSTEAMライブラリーコンテンツ「エネルギーの未来を描く:カーボンニュートラル社会実現のために」には、「家電シミュレータ」もついています。実際のご自身のご家庭の電力消費量とは、なかなか一致しないと思いますが、ヒントになると思います。


詳しくは、以下のリンク先をご覧ください。
家電シミュレータ

また、STEAMライブラリーコンテンツ「エネルギーの未来を描く」の水力、風力、手回し発電を実際にやってみたときに、どのくらいの発電できたのか、測り方を考えてみても良いですね。

買うと高いので、自分でどうやって測るか考えてみるとよいです。

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電圧×電流=電力、電力×時間=電力量ですが、電力や電力量でない測り方もあるかもしれませんよ。第11節動画2で秋山仁先生が、太陽光でお湯を沸かしています。大変ですが、こういう測り方もあると思います。

エネルギー問題ということで、こうした身近なことを考えたあとに、これを1億2千万人、8,760時間(24時間×365日)に拡大して考えたらどうなるか考えてみると良いですね。

拡大して考える、というのは、例えば、日本の世帯数は5500万世帯だそうですので、自分の家の電力消費量を5500万倍したら、日本の消費電力量になるのだろうか(なりませんよ)とか、この電力量を手回し発電機で発電するには何人が何時間必要なのかとか、そういうことかもしれませんが、皆さんご自身で考えてみると良いでしょう。


たくさんの「問い」をありがとうございました!

学びのヒント

山口先生、4回に渡ってありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

・自分の将来を思い浮かべながら学びに取り組もう
・身近なことを考えたあとに、拡大して考えよう

STEAMライブラリーのコンテンツを「自分の将来のキャリアを思い浮かべながら学んでほしい」というお話にあったように、学びの先にある「こうしたい・こうなりたいという夢やワクワク感」は大切だと思います。

こうした夢やワクワク感は、長期的な取り組みに対するモチベーションになります。具体的な職業まではいかずとも「有名人の○○さんみたいになりたい」「漫画の○○みたいに暮らしたい」といった、人物像やライフスタイルを目標にしても良いかもしれませんね。

また「家電シミュレータ」のように「身近な話題に落とし込む」ことも学びを自分事にするヒントになると思います。

まずは身近なことで考えることで、具体的にイメージしやすかったり、課題点を見つけるための情報を整理しやすかったりします。一見理科の話題に見えるようなものも、社会や算数の話題からヒントを得るなど、考え方の枠組みを徐々に拡大して「STEAM」的に考えることも覚えておきたいですね。

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小学 クイズと絵地図で 都道府県基礎丸わかり

★この本では,はじめに日本の国土のありさま・地方・都道府県の順に,都道府県に関するいろいろな事がらを理解し,学んでいくことができます。

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川やダムがないところで水力発電はできません。エネルギー問題のみならず、人々の暮らしに密接した話題と向き合うとき、その地域固有の事情を考慮する必要があると思います。

本書をきっかけに、お子様が土地や地域に着目して考えられるようになっていただけたら幸いです。

今回の賢者

山口 順之

東京理科大学 工学部電気工学科 准教授
北海道大学大学院工学研究科 博士後期課程修了(博士(工学))。
2002年 電力中央研究所 研究員。2008年より1年間、米国ローレンスバークレー国立研究所 客員研究員。2015年 東京理科大学 講師、2019年より現職。

専門は、電力システム工学。2021年度 経済産業省「未来の教室」STEAMライブラリー東京理科大学コンテンツ統括責任者。経済産業省 総合資源エネルギー調査会 系統ワーキンググループ 委員、電力・ガス取引監視等委員会 制度設計専門会合 専門委員,技術雑誌「スマートグリッド」編集委員長等。

著書(分担執筆)「電気事業の仕組みを読み解く」「国際標準に基づくエネルギーサービス構築の必須知識」「スマートコミュニティのためのエネルギーマネジメント」「配電システムネットワーク工学」。

山口先生の詳しい情報はこちらから

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