【第1回】ノーベル生理学・医学賞受賞の山中伸弥先生に聞く。iPS細胞の可能性とは?

iPS細胞の研究分野やその可能性についてお聞きしていきます!

目次




こんにちは。manavi編集部です。

今回ご登場いただく賢者の先生は、マウスやヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥先生です。

ノーベル賞受賞の知らせやその後の報道特集などを通じて、保護者のみなさまも「iPS細胞」や「再生医療」という言葉に触れる機会が多くあったかと思います。ではその研究分野はどのようなものなのでしょうか。

未知の分野を切り拓いてきた原動力や、研究の先に見えてきた日常の私たちの暮らしとの関わり山中先生の現在までに至るお仕事や普段から大切にしていること学生時代のエピソードなども話題にしながら、今回から4回に渡ってお聞きしていきます。

それでは山中先生、よろしくお願いいたします。

iPS細胞の実用化に向けて

まずは最初に、山中先生お仕事の内容についてお聞きしていきます。

山中先生の職業・お仕事は、どんなことをされているのですか?

私の職業は医学系の基礎研究者ですが、特にiPS細胞の研究を行ってきました。

iPS細胞は人工的に作られる多能性幹細胞の1種で、さまざまな組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもっています。

この性質を活用して、多くの研究者がiPS細胞を使って病気の治療法開発を行っています。

©Tomoyuki Narashima/©京都大学iPS細胞研究所

現在は、京都大学iPS細胞研究所とアメリカのグラッドストーン研究所で研究室を持っており、毎月二つの国を行き来して、研究を進めています。

iPS細胞研究のほかに、30年ほど前にアメリカ留学時代に自分で発見した遺伝子があるのですが、その遺伝子に関わる謎を追い続けています。

また、2020年に公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(iPS財団)を始動させており、私が理事長を務めています。

iPS財団は、医療用iPS細胞の製造などを行っており、iPS細胞を使った医療を適切な価格で患者さんに届けるために、製薬企業などへ「橋渡し」をする役割を担っています。

病気の治療法開発を行ううえで重要な研究を、世界規模で行われているわけですね。

また財団を立ち上げてiPS細胞の製造に取り組んでいるというお話は、研究の先にある実用化までを見据えて日々の活動に取り組まれていることがわかります。

あったらいいなと思っていた新薬や治療法が出てきても、高額な費用のままだと、いざというときに選択肢に入れることができないかもしれません。医療に限らず、さまざまな職業における研究開発や技術開発への姿勢として大切なことのように感じました。

現在は治らない病気への新しい治療法を届けられる?

では、実際にiPS細胞の研究はどういう場面で活躍が期待されているのでしょうか。次の質問で迫ります。

山中先生の研究されている分野の技術は、私たちの日常生活で今後どのように活用されていく可能性があるでしょうか。

iPS細胞を用いた応用研究としては、「再生医療」研究と「創薬」研究の二つに大きく分けられます。

「再生医療」研究では、iPS細胞から眼や神経、心臓などのいろいろな細胞を作り出し、それを患者さんに移植して、損なわれた機能の回復を図ることを目指しています。

「創薬」研究では、患者さんの体の細胞からiPS細胞を作り、そこから患部の細胞へと分化させます。細胞を用いて病気の症状を再現して、病気の症状を改善させたり、病気の進行を遅らせたりするための薬を探索・開発するという研究です。

これらの研究開発が進むと、現在治らない病気を患う患者さんに新しい治療法を届けられる可能性があります。

©Tomoyuki Narashima/©京都大学iPS細胞研究所

原因が特定できない患者さんの病状に対して、iPS細胞でシミュレーションして対処法を探るということもできるわけですね。

近年の動きや技術の進歩はどうなのでしょうか?

iPS細胞研究の進捗をマラソンで例えると、ゴールをiPS細胞技術の実用化とすると、今は30kmくらいの地点だと思います。

マラソンでは、この地点から苦しくなるのと同じように、iPS細胞の実用化ための技術開発もこれからが正念場といえます。

一番進んでいるiPS細胞研究としては、再生医療研究では、加齢黄斑変性症やパーキンソン病、がんなどで、患者さんにご協力いただいて、細胞移植治療が効果があるかどうか、安全かどうかを確認する臨床試験の段階にきています。

創薬研究では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や家族性アルツハイマー病などで臨床試験が行われています。

実用化までの道のりは、具体的なイメージが見えてきてからが大変だということですね。

それでも、大切な家族にも自身にも起こりえる難病に対して、臨床試験の段階に入っているというお話を聞くと、iPS細胞の研究が遠く離れた存在ではなくなってきていることを感じ取ることができます。

話題や注目が集まるのは、何か新しいものを発見したときになりがちですが、大切なのは発見した後にどのように現実の世界と結び付けていくのか、そのためにどう行動するのかということのように思います。

企画したアイデアをそのままで終わらせずに、周囲を巻き込みながら実現・実行できる状態へ整えていくような場面においても大事になってくる姿勢かもしれませんね。

今回の賢者

山中 伸弥

京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授。公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団理事長、米国グラッドストーン研究所上席研究員兼務。
神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て大阪市立大学大学院博士課程修了(医学博士)。グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年に京都大学iPS細胞研究所所長、2022年より現職。2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功したことを報告し、2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。

学びのヒント

山中先生、ありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

見つけた・覚えたで終わりにせず、次への行動のきっかけも

お子様と過ごす日常において、特に小学生のころはあたらしい発見や知識を吸収している場面に遭遇することがたくさんあると思います。

そんなときに、「すごいね」「えらいね」と声をかけるだけでなく、「どうやって見つけたの?」「次にやってみようと思っていることがありそうだね?」ともうひと声を投げかけてみると、次への行動に広がりが生まれるかもしれません。

ちょっとした出来事を学びの機会にして、少しずつミニ研究を進めてみるのも楽しそうです。

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