【第3回】先入観をもたない。失敗もポジティブに。山中伸弥先生が考える可能性を広げるアプローチ

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こんにちは。manavi編集部です。

引き続き、京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授の山中伸弥先生にお話を聞いていきます。

前回の記事では、先生が医学の基礎研究に関心をもったきっかけや、ご自身の学生時代の学びについてお話いただきました。

実験結果が仮説と全く逆になったときに、がっかりするのではなく、なぜこんな結果になったのだろうと研究の魅力にどんどん引き寄せられていったというエピソードが印象的でした。

第3回の今回は、未知の分野を切り拓いてきた山中先生の考え方や心構えに触れながら、保護者のみなさまがお子様の学びや成長を後押していくうえでのヒントを探してみようと思います。

それでは山中先生、よろしくお願いいたします。

アプローチ①:先入観をもたずに真っ白な心で

研究への姿勢は、主体的に物事を考えて行動していくことにも通じるような気がします。研究者・科学者と限定せずにまずは見ていきたいと思います。

未知の分野を研究、開拓していくのに必要な力とはどんなものだと思われますか?

科学者は芸術家と同じで、真っ白なキャンバスに自由に作品を作り上げるように、ゼロから無限の可能性を引き出せる魅力的な仕事です。そして、今まで世の中の誰も知らなかったことを明らかにでき、それらは社会の役に立つこともできます。

そのためには、先入観をもたずに真っ白な心で物事を見るのが大事だと思います。

今まで教科書に載っているような常識として信じられていたことが、後に間違っていると分かる場合があります。先入観を持ってしまうと真実が見えないことが多いので、そのことに気をつけて私たちも研究しています。

©京都大学iPS細胞研究所 (ヒトiPS細胞から誘導したドーパミン産生神経細胞)

先入観にとらわれずに物事と向き合えることが、可能性を広げることと関係しているということですね。

確かに「これは当たり前のことだから」としてしまうと、そこで止まってしまって話題が広がらないかもしれません。一方が断定してしまったりすると、会話がそれ以上続かないというのと似ているでしょうか。

前回の「なぜ?」のアンテナの話にも重なりますが、特に幼少時代のお子様は、いろんなことに興味をもって保護者のみなさまに話しかけてくれると思います。

大人から見ると教科書的な当たり前のことであっても、その会話をなるべく引き延ばすようにラリーを続けていくことが「先入観をもたない」姿勢にもつながっていくのかもしれませんね。

山中先生にも聞いてみましょう。

保護者の方が協力できるような家庭での取り組みはあるでしょうか?

教科書に載っていることを鵜呑みにするのではなく、本当にそれが真実かを自分なりに考えるのが面白いのです。

ですので、例えば、理科の実験などをしているときに、思い通りの結果にならなくても、なぜそんな結果になったのかを考え、予想外の結果を楽しむように励ましていただけたらと思います。

思い通りの結果にならないときこそ、保護者のみなさまの出番ということですね!

「鵜呑みにするのではなく」「自分なりに考える」ことに面白さが見いだせるようになると、お子様が主体的に行動していくことにもつながっていくような気がします。

進路を選択するときや、何かを判断するときにも、誰かに言われたからではなく、ブレない自分を大切にできるようになるのではないでしょうか。

アプローチ②:失敗をポジティブに。英語でたくさんの交流を

ここからは少し範囲を絞って、山中先生の研究分野や再生医療・基礎研究を志すような学生さんへのアドバイスをお聞きしてみようと思います。

再生医療・基礎研究を志すような学生のみなさんに、取り組んでほしい活動はありますか?

研究をしていると、失敗ばかりです。実験が成功するのは10回中1回あったらいいほうです。しかし、失敗したからといってがっかりすることはありません。

失敗の中に新たな発見のヒントが隠されているかもしれないからです。ぜひ学生のみなさんには、何事においても失敗を恐れずに、さまざまなことに一生懸命挑戦をしてほしいと思います。

また、研究者になったおかげで、海外で行われている学会に参加して、海外の研究者と議論や交流する機会が多くあります。海外に行くことでずいぶん視野が広がり、かけがえのない経験をたくさんすることができした。

ぜひみなさんにも海外で学んでほしいと思います。そのために英語の勉強をしっかりとしていただきたいと思います。

失敗の中に新たな発見のヒントがあるかもしれない。失敗をポジティブに受け止める姿勢を身につけていくことが重要ということですね。

また海外の研究者との交流の話も出てきました。日本の中では当たり前と思っていることが、他の国ではそうではないということもよくあります。

文化的な背景が異なる人たちと学び合える環境に身を置くことで、考え方がより多様になり、新しい発見と出会う機会が増えていく。自らの研究や視野を広げたりするために、コミュニケーションのツールとなる英語を学ぶと位置づけられると、目的がはっきりして勉強する意欲も高まりそうです。

今回の賢者

山中 伸弥

京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授。公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団理事長、米国グラッドストーン研究所上席研究員兼務。
神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て大阪市立大学大学院博士課程修了(医学博士)。グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年に京都大学iPS細胞研究所所長、2022年より現職。2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功したことを報告し、2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。

学びのヒント

山中先生、ありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

自分なりに考える機会を増やしてみよう

教科書に載っていることを鵜呑みにするのではなく、本当にそれが真実かを自分なりに考えるのが面白いというお話や、思い通りにいかないときや失敗したときこそ、どう向き合えるかが重要というお話がありました。

保護者の気持ちからすると、素直に知識を吸収してくれるほうが学校のテストにもつながるのではと考えてしまいそうです。

ただ、部活動や習い事、友達や先生との交流の場面では、自分の考えを発信することや、自分の判断で行動していく機会も多いはずです。

お子様が受け身になりすぎているかなと感じたときに、「本当にそうなの?」とたまに声掛けをしていくくらいの気持ちでいると、保護者にもお子様にも無理のない程度に、お子様が自分なりに考える時間をつくれるかもしれませんね。

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