【第2回】予想どおりにならないことも楽しい!山中伸弥先生が大事にしていた「なぜ?」

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こんにちは。manavi編集部です。

引き続き、京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授の山中伸弥先生にお話を聞いていきます。

前回の記事では、先生のお仕事の内容や現在の取り組み、iPS細胞の技術の可能性や近年の動きなどについてご説明いただきました。

iPS細胞技術の実用化の道のりをマラソンで例えると、今は30kmくらいの地点というお話がありましたね。

今回は、山中先生医学の基礎研究に関心をもったきっかけや、ご自身の学生時代のエピソードについてお聞きしていきたいと思います。

それでは山中先生、よろしくお願いいたします。

研究を始めるきっかけとなった「なぜ?」

医学の世界と聞くと、患者さんに接して診断や治療を行うお医者さん(臨床医学)を思い浮かべてしまいますが、山中先生はどういうきっかけで基礎医学の道へと進むようになったのでしょう。

研究分野に関心をもったきっかけを教えてください。

私は医学部を卒業後、大阪の病院で整形外科の研修医になりました。医師になってすぐに父を病気で亡くしたのと同時に、どんな名医でも治せない病気を患う患者さんがいることを実感しました。

どうしたらそのような患者さんを救えるのかと考え、治せない病気を治せるようにするための研究をしたいと思うようになり、大学院に入り研究を始めました。

大学院に入ってから行った初めての実験で、結果が仮説と全く逆になったのです。実験に失敗したとも言えるのですが、予想通りに行かなかったことにがっかりするのではなく、「なぜこんな結果になったのだろう!」と驚き興奮しました。この経験によって、研究の魅力にとりつかれ、それ以来ずっと医学の基礎研究を続けています。

自分だったら仮説と逆の結果にがっかりしてしまいそうです…。

予想や過去の結果にとらわれることなく、今起きていることを素直に受け止める姿勢があるからこそ、結果がどう転んでも次につながる「なぜ?」を引き寄せることができるのかもしれません。

ついつい正解を求めがちになってしまいますが、答えがない、答えが1つではない課題と向き合ってモヤモヤする時間も大切にしておきたいところですね。

高校時代の「なぜ?」 自分の脈が気になって・・・

次は、山中先生の学生時代について聞いてみましょう。

どんな学生時代を過ごされましたか?

小さい頃から科学に興味がありました。父親が経営するミシンの部品を作る工場のそばで生活をしていたこともあり、機械いじりが好きでした。目覚まし時計の仕組みに興味を持ち、分解をして元に戻せなくなったことがあります。

中高を通じては、数学と物理が得意でした。理科の実験も好きでした。高校生の時に、自分の脈を測る実験をしたことがあります。座っている時と比べて、立つと脈拍が速くなり、何度やっても同じ結果になりました。その理由をじっくりと考え、レポートを書きました。先生からは、自分で考えたことが素晴らしいと褒めていただいたことが印象に残っています。

学生のころから、ご自身の「なぜ?」のアンテナに触れたものは、とにかく触って試して確かめてみるということをされていたのですね。

お子様が身の回りにある何かに興味を示したときに、壊れてしまっては困るという気持ちが働いてしまうかもしれませんが、時にはそっと見守って、そのまま少し様子を見てみる時間も必要かもしれませんね。

柔道やラグビーが教えてくれたこと

興味をもち数学や物理が得意で、科学や実験が好きだったという山中先生

それらに関連する部活動に所属していたのでしょうか?

今役に立っている、学生時代の勉強や部活などはありますか?

中学、高校と打ち込んでいたのは柔道です。父親に勧められて柔道部に入って、毎日稽古に勤しんでいました。恩師にも出会い、良い友達にも恵まれました。勉強と部活の両立は大変でしたが、何事に対しても、やるときは一生懸命やるということは意識していたと思います。

大学時代はラグビーに夢中でした。医学部のラグビー部に所属して、講義よりも熱心なくらいに練習や試合に取り組んでいたのですが、礼儀、仲間の大切さ、フェアプレーの精神、最後まであきらめないことなど、たくさんのことを学びました。

研究生活にも柔道やラグビーを通して学んだことが活かされていると感じています。

柔道、ラグビー、どちらも身体と身体がぶつかり合う激しい競技で驚きました。

「何事に対しても、やるときは一生懸命やる」、「最後まであきらめないこと」というお話を聞いて、粘り強く研究を続けられている姿勢と重なるように感じました。

保護者のみなさんの中にも、習い事や部活動、課外活動といった経験が今に活きていると感じることがあるのではないでしょうか。ひたむきさや一生懸命な姿勢は、やはり多くの学びを引き寄せてくれるような気がします。

今回の賢者

山中 伸弥

京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授。公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団理事長、米国グラッドストーン研究所上席研究員兼務。
神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て大阪市立大学大学院博士課程修了(医学博士)。グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年に京都大学iPS細胞研究所所長、2022年より現職。2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功したことを報告し、2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。

学びのヒント

山中先生、ありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

「なぜだろう?」のアンテナ磨き

幼少期のころから「なぜ?」に触れる機会が多くあると、知りたいことに辿り着くまでに何度も調べたりすることや、答えがまだ見つからないといったことに対して素直に受け止めやすくなるのではないでしょうか。

答えが1つではない日常は、保護者のみなさんがお仕事をされているなかでも目にする機会が多いと思います。学校では「探究」の時間が注目されるようになってきていますが、さあ「探究」をやろうというのは少ししんどいかもしれません。

お子様が何かに興味を示したときには、答えをすぐに口にするのではなく、いっしょに「なぜだろう?」と問いかけて、お子様が踏み出す次の一歩に寄り添ってみるのはどうでしょうか。

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自然に「なぜ?」を繰り返して算数の意味や役割を知り、ものごとを深く考える力を後押ししていきますので、学生時代に算数・数学が苦手で面白さが見出せなかったという保護者のみなさんにも、一度手に取ってみてもらえたらと思います。

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