半導体デバイスはどんな場面で活躍しているのでしょうか。
こんにちは。manavi編集部です。
新しい賢者の先生のご紹介をいたします。
今回からお話を伺うのは、関西学院大学 工学部 准教授の細井卓治先生です。
細井先生は、半導体デバイスの研究をされていらっしゃる先生です。「半導体」とだけ聞くと、ピンと来ない方もいらっしゃるかもしれませんね。
半導体は『中学 自由自在 理科』においては
『中学 自由自在 理科』p.75より
と記述されているように、様々な電子機器の中に組み込まれ、その動作をつかさどる大事な部品になります。スマホやPCなど、高い性能を持つ機器に搭載される半導体には、小型化・高機能化の高い技術力が要されます。
また、半導体の技術は競争が激しく、技術の進歩のスピードがとても速いことでも知られています。例えばApple社のiPhoneは、毎年新しいモデルが発表され、そのたびに性能が向上しますよね。「半導体の性能は18ヶ月で2倍になる」とも言われています。
AI時代の到来がささやかれる今日、「保護者が子どもに就いて欲しい職業」において、エンジニアやプログラマーが上位になることも多く、半導体が活躍するIT業界の注目度は高いです。細井先生が携わっておられる半導体デバイスの研究やその技術は、こうしたIT業界を根元から支えているといっても過言ではないでしょう。
こうした私たちの暮らしを支える「技術の研究」はどのように行われているのでしょうか。そしてその研究者にはどのようなスキルや素質が求められるのでしょうか。今回から4回に渡って細井先生にお話をお聞きし、ご自身の経験談も交えながらお話をしていただこうと思います。
それでは細井先生、よろしくお願いいたします。
まず最初の質問として、細井先生のお仕事の内容についてお聞きしたいと思います。
細井先生の職業・お仕事は、どんなことをされているのですか?
大学教員としての仕事は主に2つありまして、1つは教育で、もう1つが研究です。
2つのお仕事のどちらも、「社会のため」が目的になるのですね。
教育と研究という、大学の重要な役割をお話しいただきました。
「教育と研究は一部オーバーラップしている 」という言葉が印象的でした。理系の研究となると、ひとりで黙々と研究にあたる、という個人プレーのイメージをお持ちの方もいらっしゃったかもしれません。実際には、学生を育てて研究仲間として高め合い、皆で課題解決に向かうという、チームプレーの側面があるようです。
また、工学の研究は「 社会の役に立つ技術の創出 」を念頭に置かれていることが特徴的だと思います。対比されることが多い理学の研究は、純粋に「なぜそうなっているかを調べる」のが目的になります。同じ理系に分類される研究者でも、工学と理学では 研究目的や動機が若干異なるということですね。
冒頭でも簡単にお話ししましたが、半導体技術は様々な電子機器で使用されています。
次の質問は、専門家の先生にその用途例についてお聞きしたいと思います。
細井先生の研究されている分野の技術は、私たちの日常生活でどのように活用されているのでしょうか。
私が研究している半導体は、身の回りの電化製品で使われていないものがないと言っていいほど、現代社会に必要不可欠なものとなっています。
代表的なものはパソコンやスマートフォンなどの情報端末で、これらが行う演算処理はトランジスタという半導体でできたスイッチの組み合わせで行われています。
複雑な処理を高速にできるようトランジスタひとつひとつは非常に小さく、1 cm²あたり100億個以上も詰め込まれています。
そして現在ではテレビや洗濯機などの家電製品や自動車にも半導体は使われており、その供給不足によって生産が遅れているといったニュースを目にされたことがあるのではないかと思います。
半導体はこれ以外にも直流・交流の電力変換や、光を電気・電気を光に変換する光電変換にも使われています。
電力変換の身近な例としてはスマートフォンの充電器があり、交流100Vのコンセント電源を直流5Vに変換して供給しています。
光を電気に変える例としては、光で発電する太陽電池や、光信号をデジタルデータに変換するカメラのイメージセンサーがあげられます。
また、電気から光を生み出すといえば、かつては電球や蛍光灯が大半でしたが、今ではより省エネで明るいLED照明に替わっています。
このLEDも半導体で作られており、青色LEDの発明に対して3名の日本人が2014年ノーベル物理学賞を受賞しています。
充電器の内部や照明にも使われているんですね!
半導体は電気を制御・変換する技術ということで、電気を使うものにはほとんど例外なく搭載されており、半導体を全く使用していないという人がほとんどいないほどに、たくさんの場で使われているようです。
この記事を読んでくださっている方も、 PCやスマホの中で、あるいは照明として使用中なのではないでしょうか。(ひょっとしたら、紙に印刷してロウソクの灯りで読んでいる方もいらっしゃるかもしれませんが…)
先ほど用途例を紹介していただき、先生が研究されている半導体デバイスは生活の様々な場面で活躍していることが分かりました。新型コロナウィルスによって加速したデジタル化・オンライン化の波もあり、その技術の需要はより高まっていくことでしょう。
今なお進化を続ける半導体デバイスですが、初回のインタビュー最後の質問は、 半導体の技術において、 今現在ホットな分野やその背景をお聞きしてみましょう。
近年、特に成長著しい技術はありますでしょうか。
電力変換を司る半導体パワーデバイスには、ON時には低抵抗で大電流を流すことができ、OFF時には高電圧に耐えて電流を遮断することが求められます。
この半世紀ほど半導体といえばシリコン(極めて純度の高いケイ素の結晶)でしたが、パワーデバイスには炭化ケイ素や窒化ガリウムなどの新たな半導体が使われるようになってきています。
炭化ケイ素は鉄道や電気自動車で使われており、窒化ガリウムはスマートフォンの充電器の大幅な小型化に貢献しています。
この技術の発展には、人類全体が取り組まないといけない課題である地球温暖化が背景にあります。
我々が日常的に利用している電力の大半は化石燃料を燃やして得たものですので、副生成物として温室効果ガスであるCO₂が排出されています。
CO₂排出を削減するためには作った電力を無駄なく使うことが重要ですが、発電から消費に至るまでに複数の電力変換を経ており、この電力変換で電力をロスしています。
身近な例をあげると、スマートフォンの充電器を触ると熱くなっているのに気付くと思いますが、これが電力を熱としてロスしている典型です。
確かに、充電器がとても熱くなることがありますね!あれはもったいないことをしていたんですね。
半導体技術の進歩の背景には、効率化・省エネ化をすることでエネルギー問題や地球温暖化問題への意識があるということでした。
最初の質問の答えにもあったように、 「 社会の役に立つ技術の創出 」 が念頭にあるという性質上、工学の技術研究は何かしらの社会の問題解決を目指すことになります。
細井先生のような研究者にも「生活を便利にしたい!」という思いだけでなく、社会の現状や課題観などを広く知り、自分の研究分野で問題解決へのアプローチを試みるなど、研究の需要を見極める目も必要になるのかもしれません。
細井先生、ありがとうございました。
今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。
学びや取り組みと、社会とのつながりに目を向けよう
お子様の学びや日々の取り組みにおいては、もちろん「楽しいから続けたい!」という内発的な動機が一番重要です。そこから一歩進んで、続けることでどんな職業を選択できるようになるのか、その職業で社会にどう貢献できるのか…といった、「社会の役にたっている自分」が具体的にイメージできていたら素敵ですよね。
とはいえ、お子様がいきなり社会問題を想定して自分を変える、というのは難しそうです。まずは最初のステップとして、自分の取り組みがどのように社会とかかわっているのか考え、少しずつ視野を広げていくのが良いかもしれませんね。
例えばAI時代に先駆けてプログラミングを習っているお子様が、「凄いAIを作ってみんなを喜ばせたい」と思っていたとします。そこでシンプルに、「将来はプログラマーになる!」という考えも良いと思いますが、少し視野を広げると、プログラムを実装する機械本体を作る人がいて、細井先生のように技術の研究をする人がいます。そしてそのフィールドには、レアメタル不足の問題や環境問題などが存在しています。
「 プログラマー以外にも、AI技術を支える人々や課題が存在し、生き方がある 。」といった事実に気がつくには、お子様自身が様々な体験をすることが一番大切でしょう。加えて、 保護者の皆様も知識・経験を磨いていただき、大人の視点からの助言やサポートも求められるのではないでしょうか。
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本書を使って知識の足並みをそろえ、社会科学習を親子の話題にしていただくことで、お子様が視野を広げるきっかけとしていただければ幸いです。