【第2回】「モノの動きを想像する。」細井卓治先生に聞く、シミュレーションの重要性

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こんにちは。manavi編集部です。

先週に引き続き、関西学院大学 工学部 准教授の細井卓治先生にお話を伺っていきましょう。

前回の記事では、先生の研究テーマである「半導体デバイス」が活躍している場面や、研究の背景などをご説明いただきました。

従来のシリコンを使った半導体とは異なるタイプの半導体が近年登場しており、小型化・省エネ化が進んでいる、というお話がありましたね。

今回は、細井先生が半導体デバイスの研究の道へと進んだきっかけや、ご自身の学生時代の学びについてお聞きしていきたいと思います。

それでは細井先生、よろしくお願いいたします。

半導体デバイスの世界に入った意外なきっかけ

大学での研究活動はどのようにしてスタートするか、皆様はご存知でしょうか。

前回先生に「研究室に配属された学生さんたちと一緒に研究に取り組んでもいる 」とお話しいただいたように、多くの大学では教授が持つ”研究室”に学生が配属され、 ときには教授の研究に参画しながら研究の手法やアイデアを学び、研究者としての第一歩を踏み出すことになるようです。

では、細井先生ご自身はどのような経緯やきっかけで半導体デバイスの研究を始められたのでしょうか。第2回最初の質問としてお聞きしたいと思います。

研究分野に関心をもったきっかけを教えてください。

指導教官と卒業研究テーマとの出会いや世界中の研究者との出会いの中で研究そのものへの関心が育まれたと思います。

私の場合は、早い段階で今の研究分野に進もうと考えていたわけではありません。本当にたまたまです。

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工学部に進学した時点で大枠では興味関心はもっていたと思います。それが明確になってきたのは大学生の後半です。

大学4年生のときに研究室に配属されて始めた卒業研究のテーマが半導体の代表ともいえるシリコンの酸化膜の構造解析でした。

大学院修士課程修了までの3年間その研究を行ったのですが、指導教員の先生からいただいた題材がよかったと思っています。

修士1年のときに海外で開催された国際学会に参加することができ、世界中の研究者と交流したことで研究そのものに強い興味を持ちました。それで博士課程への進学を考え始めたのですが、博士課程(一般的に3年間)の途中で指導教員の先生が定年退職となるため、他の専攻への進学を視野に入れていました。

その頃、学会等で色々な方からシリコン酸化膜の構造と電気特性との関係を聞かれることが多かったのですが、当時の私は半導体デバイスをよく理解していませんでした。

そういう場面になると曖昧な回答しかできないことが心に引っかかっていたこともあって、博士課程ではデバイスの電気特性をしっかり勉強しよう、と決心して他専攻に進学しました。

その後、デバイスを作るためのプロセス技術にも興味を持って取り組みまして、現在に至っています。


卒業研究で始めた研究テーマを掘り下げていくうちに、新たな興味や研究テーマが開けていったのですね。

「工学」という分野への大枠での興味はあったものの、「半導体デバイス研究」という具体性を帯びてきたのは、博士課程になってからということでした。何年も研究を進めてきた内容から興味を広げて、思い切って新たな分野の勉強をしよう、と思える先生の意欲に驚かされました!

また、「指導教員の先生からいただいた題材がよかった」という言葉にもあるように、学部生・修士時代の下積みや出会いが現在の先生を支えているのを感じますね。

お子様の進学先を考えるときに、念頭に置きたいのは「そこで何を学び、その後の人生にどう活かすか」ということです。 興味や好きな気持ちに沿った「学部」や「専攻」を選び、学びの意欲を持ち続けられるかどうかが一番重要なのかもしれませんね。

今は学者で教員でも、昔は物理が苦手だった!?

現役バリバリの研究者でいらっしゃる細井先生ですが、学生時代はどのような生徒だったのでしょうか。

どんな学生時代を過ごされましたか?

今では理系の研究者ですが、学生時代は物理が苦手で、国語は得意科目でした。支えていたのは通学中の読書でした。

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中学・高校・大学と勉強がとりわけできたわけではなく、恥ずかしながら出来の悪い学生でした。

中学・高校時代に赤点を取ることもあるほど物理が苦手だった私が物理分野の大学教員をやっているのが不思議なくらいです。

ただ読書は好きでした。

通学の電車内ではひたすら歴史小説や推理小説を読んでいました。その分の時間で参考書や単語帳を開いて勉強していればもう少し成績は良くなったかもしれませんね(笑)

それは冗談としても、大学入試の時期に国語が得意科目になっていたのは読書の効果だったかもしれないと今になって思います。

また、理系の研究者が書く文章は文学的なものと違って、曖昧な表現を避けて明快である必要があるので、実はかなり国語力が重要です。

理系に将来進もうと思ってる方も、ぜひ国語の勉強や読書はしっかりしておいて欲しいと思います。


読書好きだったことが、大学入試でプラスになり、研究活動にもしっかり活きているのですね!

読書で培った「国語力」の重要性を挙げていただきました。同じく理系の研究者である、昆虫博士の後藤寛貴先生も、研究活動における「作文力」の重要性をおっしゃっていました。

また、たとえ中高生の時に多少苦手な分野であっても、情熱や努力次第で立派な研究者になれる!というのは、成績に伸び悩むお子様の励みになるのではないでしょうか。

計算力だけじゃない!そろばんで鍛えたモノ

「学生時代は物理が苦手だった」という先生。研究者としての現在に活きている勉強法や、経験などはあるのでしょうか。

第2回記事最後の質問は、細井先生に勉強についてのアドバイスをいただきましょう。

今役に立っている、学生時代の勉強はありますか?

すごく遡ってしまいますが、小学生のときの習い事でそろばんをしていたのは大きかったと感じています。

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そろばんを習ったことで、計算が得意になったこともあります。それ以上に、暗算の際に頭の中でそろばんの玉を動かすイメージを訓練したことで、モノの動きを頭の中でシミュレーションする想像力が養われたと思います。

このシミュレーションをする力は研究にも非常に役立っているのです。

半導体の中での電子や原子の振る舞いを直接目で見ることはできません。ですので、イメージが持てないとなかなか理解できません。そういった意味で大いに役立っています。

また、勉強法はやっぱり何事も手を動かして書く方が身につくように感じます。

たとえ暗記ものであっても、書きながら体の動きや鉛筆や文字の動きをイメージする。ただ聞いている・見ているだけだと、すぐに忘れてしまう気がします。英単語だと声に出して読みながら書いたりしたものが長く頭の中に残っています。

ぜひ、覚えるという作業自体にもシミュレーションや想像力を働かせる工夫をしてみてください。


そろばんの練習には、そんな効果もあったのですね。

「そろばん」の意外な効果を語っていただきました。「何事も手を動かす」というアドバイスも、計算と同時に手を動かすそろばんにルーツがあるように思います。

「シミュレ ーション」という単語だけ聞くと何となく理系のイメージが強くなるかもしれません。

ですが例えば「1週間の予定をたてる」といった、社会人としては基本的なアクションに関しても、時間や場所の条件を整理して、予定通り進んだ場合と進まなかった場合の複数のパターンを考慮して…など、「直接目で見ることはできない未来の自分」をイメージして考える必要があり、実は結構複雑なことをしていますよね。

このように、先生がそろばんで培った 「シミュレ ーションする想像力」は理系に限らず、生活のありとあらゆる場面で役に立つのではないでしょうか。

学びのヒント

細井先生、今週もありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

想像力を働かせて未来の自分をシミュレーションしよう

始める前に「これが終わったら、ご飯を食べよう」「この単元をマスターすると、○○ができるようになる」といった、ちょっと先の未来や将来の自分をイメージできるようになることで、 目の前の取り組みへのモチベーションが変わってくるような気がします。

こうした想像力を、お子様が自然と発揮できるようになるには、どうすればよいのでしょうか。そろばんが反復練習で計算力を鍛えているように、「シミュレーションする力」も小さなうちから繰り返し鍛えることが重要なのかもしれませんね。

例えば勉強を促す際に、「とりあえずこのドリルを、いつまでにやりなさい」という言い方では、お子様が自分のアクションに対して自分で考えて管理する行程は生まれません。

そこでちょっとアプローチを変えて「これはどのくらいで終わると思う?」「どうやったら早く終わって遊べると思う?」といった質問を挟むことで、お子様がアクションの前にシミュレーションする機会をつくり、想像力を働かせるクセをつけるサポートをしてみるのはいかがでしょうか。

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文章を読み、頭の中でイメージを再構築することが求められる算数の文章題と、目で見た情報を頭の中で動かすことが求められる図形問題に取り組むことで、まさに本記事で話題にあがった「シミュレーションする力」が鍛えられるのではないでしょうか。

その両方の問題に特化した小学 基本トレーニング 文章題・図形をおすすめさせていただきました。

また、本書は30回分に分けて毎日コツコツ取り組む構成になっており、反復練習での「定着」を図っております。

学年を問わない進級制なのも特徴のひとつです。「いつまでに何級を極める!そのために毎日このくらい頑張る!」といった、目標設定と達成までのシミュレーションも意識しながら取り組んでいただけたら幸いです。

今回の賢者

細井 卓治

関西学院大学 工学部 准教授
大阪大学工学部卒業、同大学院工学研究科博士後期課程単位取得退学。
広島大学博士研究員、大阪大学工学部助教を経て現職。
博士(工学)(大阪大学)。
専門は半導体工学。より生活を豊かにし、そして環境に優しいエレクトロニクスの実現に向けて、様々な半導体デバイスの研究を行っている。

細井先生の詳しい情報はこちらから

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