先生のキャッチコピー、 「石器、青銅器、鉄器、そして半導体の時代へ」 の真意に迫ります。
こんにちは。manavi編集部です。
先週に引き続き、関西学院大学 工学部 准教授の細井卓治先生にお話を伺っていきましょう。
前回の記事では、「研究者に求められる力」や、それらを「どのように養っていけばよいのか」についてご説明いただきました。
連載を通してキーワードに挙がっている「想像力」や研究活動に関連する力を、ご家庭でも鍛えるためのヒントがたくさんありました。
連載最終回の今回は、細井先生の研究テーマである「半導体デバイス」に関連する職業や、半導体デバイスのこれからについてお聞きしていきたいと思います。
それでは細井先生、よろしくお願いいたします。
「大学全入時代」と言われる今日、お子様の大学進学における選択肢は、保護者の皆様の時代と比較して広がっているようにも思えます。
一方で「大学で何を学び・研究し、卒業後はどのように生きるのか」までをある程度計算に入れた上で、進路を考えていくことが大切になってくると思われます。
大学入学後、細井先生のように博士号をとり、研究を続けながら大学教員として生計を立てる人もいますが、学部卒・修士卒で学外へと就職する学生も多いと聞きます。
実際のところ、半導体デバイス研究に携わった学生はどのような進路の選択肢があるのでしょうか。先生にお聞きしてみましょう。
先生の研究室の学生さんたちは将来どのような職についていくのでしょうか。
私自身が学生の頃、この分野からの就職先というとほとんどが電子・電気機器メーカーの技術職でした。
今でもやはりそういったところが多いと思いますが、機械・プラント、自動車、精密機器といったところへの就職も増えています。
日常で半導体が使われるシーンが多くなり、関連する職業の幅も広がっているのですね。
工学の研究ということもあり、技術職への就職が多いとのことでした。第1回記事でも触れられていましたが、半導体技術は世界規模で材料不足に陥るほどに、様々なところで需要がある分野であり、学生の就職先の幅が増えているということからも「将来性がある」とも言えそうですね。
社会の変化に伴って技術の需要も変わっていきます。新しい社会と、自分がこれまで学んできたこととのつながりを見出すことで「全く異なる業界」でも活躍のチャンスはありそうです。特定の研究や学びを突き詰めるストイックさに加えて、そんなつながりを見つける柔軟性を養うことも大切なのかもしれません。
また、大学での研究活動はその具体的な内容だけでなく、「文書作成やプレゼンテーションなどのコミュニケーションスキル 」の鍛錬にもなるとのことでした。近年、初等中等教育で「探究活動」が重要視されていますが、まさにこういった本格的な研究活動で養ったスキルは社会に出てからも役立つ、ということですね。
続いて、「半導体デバイスのこれから」についてお聞きしていきます。
「社会の役に立つ技術の創出」を目指して研究をしておられるという先生ですが、どのようなビジョンをお持ちなのでしょうか。
半導体技術の進歩によって、どんな便利な社会になって欲しいと願っておられますか。
どんな社会かというと難しいのですが、現在は第4次産業革命の真っ只中といわれており、その先には現実空間とサイバー空間が融合した社会が到来すると言われています。
これを牽引するIoT、AI、ロボットといった技術は全て半導体によって支えられていますので、新しい社会の実現に少しでも貢献できればと思っています。
私たちは、人類学上のターニングポイントに生きているのですね!
これから訪れることになるかもしれない「現実空間とサイバー空間が融合した社会」を語っていただきました。まるで小説や漫画の世界のようですが、大学の先生のお話になると、「本当にあり得るかもしれないな」と大人でもワクワクしますよね。
お子様にも、技術の進歩によって「どんな社会になるんだろう?」と想像を膨らませながら過ごして欲しいです。こうしたワクワク感が「好奇心」として、 学びや研究の原動力に繋がると思います。
いよいよ連載も大詰め、最後の質問になりました。
先ほどお答えいただいたビジョンに対して、半導体デバイスの専門家としてお持ちの課題観をお聞きして、インタビューの最後としたいと思います。
先生が描く未来のために、解決しなければならない社会課題があれば教えてください。
これまでにも少しお話ししましたが、あまりにも急速に情報技術が進歩しているので、AIとか言われてもなんだかよくわからない、怖い、怪しい、といった印象を持たれる人もいるのではないかと思います。
結局のところ、半導体はあくまで道具であって、マイナスにつながるとしたらそれを使う人間の問題ですので、必要以上に怖がらないで大丈夫です。
ですが、よくわからないことにつけ込む詐欺等もあるでしょうから、怪しむくらいでちょうどいいんじゃないかと思います。ちなみになんだかよくわからない、というのは私も普段からよく感じていますのでご安心ください。
「怖がらずに、道具として使ってみよう!」ということですね。
大学の先生でも半導体のすべてを理解し、すべてが見えているわけではないことに少し安心しました。よく分からないからこそ、研究・勉強を重ねて、「よい使い方」を考えるのが工学分野の研究者の使命なのかもしれませんね。
またこうして、先生たち研究者の努力で世に広まった技術を「怪しむ」気持ちの大切さを伝えていただきました。スマートフォンが登場した当時、「携帯でいいじゃん」「価格が高いし、使いづらそう」と懐疑的な意見も多かったのを思い出します。
「怪しむ」ことは「興味を持って調べる」の裏返しでもあるはずです。ユーザーの使いやすさの追求の末にスマホ技術が発展したように、技術に対して無条件な受け入れや敬遠をするのではなく「これでいいのか」と一旦考え、可能なら道具として自分なりに使ってみることを心掛けたいですね。
細井先生、4回に渡ってありがとうございました。
今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。
よく分からない新しい技術も「怪しみながら」使って、自分の道具にしよう
思えば、皆様がこの記事をお読みになっているデバイス、PCやスマートフォンも広く普及するようになって十数年といったところです。こうした技術の使い方は、教育現場でも試行錯誤しながら今まさに研究されている段階にあり、「子どもに何歳からスマホを持たせるか」など、保護者の皆様も悩み多きことと思います。
とはいえ、 研究中の「思いもよらなかった現象」が「社会をより豊かにする新しい技術の創出」 につながることもあると先生にお話しいただいたように、使ってみて初めて明らかになる価値もあります。
お子様には、新しい技術を自分なりに考え、研究して使いこなす「したたかさ」を持ってもらいたいですよね。そのために家庭でできることは何でしょうか。
ひとつは、自分の頭で考える習慣をつくることです。常に保護者が「こうしなさい」という正解を与えるのではなく、「こう考えたらどう?」「他の方法はないかな?」といった声かけで、周りの意見を鵜呑みせず「怪しむ」ステップをつくると良いのではないでしょうか。
また、 「日常の中で感じた不思議なこと」 「考えたけどよく分からないこと」をすぐに調べて納得する、という習慣も大事そうです。思ったことを素直に聞ける家庭の雰囲気をつくったり、ひとりでも調べられるように手が届くところに書籍を置いたりして、お子様が感じたモヤモヤを解消する楽しさや、スッキリ感を感じられるようにしたいですね。
今回の記事に関連したおすすめの書籍をご紹介させていただきます。
科学のなぜ?新事典
★取り上げるテーマを,地球・宇宙のふしぎ,植物のふしぎ,動物のふしぎ,私たちのからだのふしぎ,身近なふしぎの5つの分野に分けて,いろいろな「なぜ?」を紹介しています。
★カラーの写真・イラストをふんだんに使って,小学生が理解しやすいように本文をまとめています。
★AI博士,ペンすけ,ペンジーの3つのキャラクターが協力して,みんなの疑問に答えてくれます。
★実験・観察の方法なども紹介しています。
子どもたちが「なぜ?」と思っている疑問に答え、知識とスッキリ感を与えてくれる『 科学のなぜ?新事典 』をご紹介させていただきました。
お子様が感じた「なぜ?」を自分で調べるのにうってつけです。さらに、目次を見るだけでも200以上の「なぜ?」が目に入り、問いを立てるための科学的な着眼点を養うのにも優れていると思います。
実験や観察の方法、小学理科の範囲を超えた発展的な内容も紹介されているので、お子様の「自分の目で確かめたい」「もっと詳しく知りたい」といった気持ちに応え、細井先生のような研究者を志すきっかけの1冊になれば幸いです。