【第3回】研究にも活きる、想像力を伸ばすヒント「考え続ける」「好奇心を持つ」「読む」

想像力はどのようにして磨けばよいのでしょうか。

目次





こんにちは。manavi編集部です。

先週に引き続き、関西学院大学 工学部 准教授の細井卓治先生にお話を伺っていきましょう。

前回の記事では、 先生が半導体デバイスの研究の道へと進んだきっかけや、ご自身の学生時代の学びについてをお話しいただきました。

小さなころ、習い事のそろばんで培った「頭の中でシミュレーションする想像力」が研究者としての今に活きているというお話が印象的でした。

連載3回目の今回は、「研究者に求められる力」や、それらを「どのように養っていけばよいのか」について、 半導体デバイスの研究者の視点からお話しいただきたいと思います。

それでは細井先生、よろしくお願いいたします。

想像力と創造力を鍛えるために

今回最初の話題は、「資質や能力」についてです。

将来細井先生のような研究者を目指したい子も、そうでない子も、多かれ少なかれ研究に近しい活動をすることがあると思います。最たる例が、夏休みなどの長期休みに課題になることも多い「自由研究」です。

研究者として、研究をライフワークとしているお立場からの視点や、ご自身の学生時代の経験も踏まえて、研究活動にはどのような能力が必要になってくるのかを細井先生にお聞きしましょう。

半導体研究に必要な力とはどのようなものでしょうか。

半導体に限らずどんな研究でも、これまでにないものを創ろう、誰も知らないものを発見しよう、というわけですから、想像力創造力が必要だと思います。

想像力と創造力を鍛える方法が何なのか私自身よくわかっていませんが、考え続けることしかないんじゃないかと思っています。

考えることではなく、「考え続ける」ことです。

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本当の話かどうかはわかりませんが、化学で習う有名な六角形のベンゼン環を発見した学者はうたた寝のときに見た夢で着想を得たという逸話があります。

そんなことができるのは天才だけ、と思われるかもしれませんが、これは夢に見るほど考え続けていたという意味だと私は思っています。

半導体分野の研究は電子とか原子とか肉眼では見えないくらい小さいものが相手ですので、どう振舞うかイメージできるかどうかが大切です。

そしてイメージしたことを図や言葉で表現して人に伝える能力も重要ですね。

正直なところ、それらはやりながら身につけていくものでもありますので、やはりまず必要なのは知らないことを知ろう・理解しようという好奇心だと思います。

そういった好奇心があればきっと子どものころから物理に興味をもって取り組めるんじゃないかと思います。中学生のときに物理で赤点を取った私が言うのもなんですが…



『⌬』と表記されることもある、ベンゼン環

知らないことを知ろうとする好奇心が、お子様の勉強や、研究の原動力にもなるんですね。

前回のインタビューから度々話題になっている「想像力」や「創造力」が、研究では求められること、そしてそれらは「考え続ける」ことによって鍛えられるのではないか、というヒントをいただきました。

図や言葉で表現して人に伝える能力」も確かに重要そうです。研究者はその成果を論文や学会での発表という形で世間に報告しなければなりませんし、お子様の自由研究にしてもレポートにまとめたり、クラスで発表会を行ったり、という「伝える」プロセスがありますよね。

こうした力は、「やりながら身につける」という言葉もありましたが、ご家庭の何気ない場面に「伝える」要素を取り入れて伸ばしていくのが効果的です。例えば、「今日読んだ本はこんな内容だった」「学校でこんなことがあって、こんな風に考えた」などと日々の出来事や、考えたことを共有する時間を設けるのでも良いでしょう。

好奇心が発想力と行動力を生む?

では、創造を生む「考え続ける」姿勢や習慣を、ご家庭ではどのように養っていけばよいのでしょうか。

保護者ができる取り組みのヒントをいただければと思います。

お子様が「考え続ける力」を養うために、保護者の方に理解・協力してもらいたい点はありますか?

興味のないことに対して取り組むのは子どもに限らず大人にとっても辛いですよね。

一方で、面白い・楽しいことには思わず時間を忘れるくらい夢中になった経験があると思います。そういったことに対してはもっともっとやりたい、という気持ちがあるので、そこをうまく利用するといいかもしれません。

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例えばネット動画を見るのが大好きなお子様には、単に視聴時間を制限するのではなく、再生速度を1.2~1.3倍にして見せて実質的に時間を短縮する、とかです。

逆に言うと限られた時間内にもっと見たい、というお子様がいつの間にか勝手にやってるかもしれません。こういうセコイとも思える方法を編み出す、あるいは調べて実践していたらむしろ褒めてあげて欲しいですね。その発想・行動力を勉強にも活かしてほしいな、と付け加えるかどうかはお任せします(笑)。

話は変わりますが、物理が苦手なお子様を持つ保護者の方に理解しておいていただきたいのは、物理は他の科目と違って暗記科目ではないということです。

なので、ひたすら問題集をやれば必ずできるようになるというものではありません。

他の理科科目が暗記と理解の比重がそれぞれ50%だとすると、物理は暗記10%理解90%です。

言い換えると、理解さえしていれば覚えてなくても解けるのです。私はそれに気づくのが遅かったために赤点を取ってしまったのだと自分に言い訳をしています。

夕焼けはなぜ赤いのか、雷の音はなぜ遅れてくるのか、海はなぜ波があるのか、IH調理器はなぜ熱くなるのか、非接触でなぜ充電できるのか、こういった事柄は全て物理で説明できます。

身の回りの些細なことを不思議だなと思って欲しいですね。


お子様が夢中になる気持ちを、大人が抑え込まないようにしたいですね!

1つ目の質問でも「好奇心」が話題に挙がりましたが、それを活かすことがポイントになりそうです。お子様の自主的な取り組みや工夫を促し、褒めてあげて欲しい、とのことでした。

また、「物理は暗記科目ではない」「90%の理解と10%の暗記の比率」という、物理のに対する考え方は、中学時代に赤点を取ってしまうほど苦手だった先生だからこそ、重みのあるアドバイスです。弊社の書籍には『100%丸暗記シリーズ』がありますが、確かに物理はシリーズに含まれておりません。

物理に限らず、暗記による詰め込みを重視するあまり、その教科に苦手意識を持ってしまうお子様は多いと思います。その場合には、「現象のイメージ・理解」に努めたり、 「リンクする学習内容に目を向けて一緒に考える」 など、自然な好奇心を上手く活用してモチベーションを保ったりすることで、勉強効率もアップするかもしれませんね。

読書で己の想像力を知る

准教授として学生を指導するお立場でもある先生ですが、研究者のたまごとも言えるお弟子さんには、どのような学びや経験を期待しているのでしょうか。

第3回最後の質問として、学生におすすめの取り組みを話題にしたいと思います。

学生の皆さんに、取り組んで欲しい活動はありますか?

読書でしょうか。

本はどんなものでも読めば読むだけ自分の中に何かが残ります。

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読みやすかった、わかりにくかった、などの印象だけでもいいんです。何年、何十年後に、わかりにくかったのは自身の経験・知識が足りなかったことが原因だったと気付くこともあります。

絵がある漫画と違って、小説では情景を想像しながら読むわけで、経験・知識不足で想像が追い付かないからわかりにくかったんだ、と後々わかるわけです。

私は最後まで犯人が分からない「本格」と言われるジャンルの推理小説が好きでよく読んでいました。

中には「読者への挑戦状」とあって、さあ犯人を当ててみなさい、というのもありました。そういったときには読み進める手を止めて、ああでもないこうでもないと一晩くらい頭を悩ませていました。

私自身、考え続けることへの抵抗があまりないのはそういった経験があったからかもしれませんね。


読書は想像力を鍛えるのと同時に、想像力不足を知る機会にもなるのですね…

自らの想像力をはたらかせる機会として、活字から様々な情景を思い浮かべる「読書」をオススメしていただきました。

同じく「想像力」を鍛える手段として、ICTコンピュータ専科教諭中原悟先生も映画や本を通じて壮大な「ストーリー」や「世界観」に触れることの重要性をおっしゃっていました。

「読書=読解力」と捉えると、どうしても国語の能力と結び付けがちですが、正確に問題文を読むのはどの教科でも必要になってきますし、小説の情景を活字からイメージするように、理科や算数の問題では、身のまわりの事象や法則、図形やグラフを問題文からイメージすることも大切です。

学びのヒント

細井先生、ありがとうございました。

今回のインタビューから、以下のような学びのヒントが得られたと思います。

ヒント

粘り強く「考え続ける」癖をつけよう

研究に必要な想像力や創造力は、「考え続ける」ことで鍛えられるのではないか、というお話がありました。お子様にも、すぐに成果が出なくても諦めずに粘り強く取り組みができる子に育ってほしいものですよね。

取り組みを「続ける」ためのポイントは、「好奇心を活かす」というヒントもありました。とはいえ、大人が色々と口出ししてしまうと、うんざりしたり大人の目が気になったりして、お子様の自主的な好奇心は簡単に無くなってしまいます。「本を読みなさい!」というアドバイスよりも、保護者が普段から本を読み、楽しむ姿をお子様に見せることの方が効果がありそうです。

加えて、お子様がどうしても何か困っているときに、「自分でやりたい」という気持ちを押さえつけない程度に助言をしたり、子どもだけでは考えにくいような安全面に配慮したり、「見守る立場に徹する」というスタンスでいるのが良さそうです。保護者の皆様もある種の「粘り強さ」が求められているのかもしれません。

また、これまでのインタビューでは「研究活動では思いもよらなかった現象に遭遇することもある」、細井先生ご自身は「たまたま現在の研究分野に出会った」といったエピソードがありましたが、お子様が色々な分野へ好奇心を向けることで、研究活動に限らず「取り組みの行き詰りを解消するアイデア」を得るチャンスになるかもしれませんね。

manaviおすすめの本

今回の記事に関連したおすすめの書籍をご紹介させていただきます。

関連書籍

考える力ドリル

★本文の表面には算数の「文章題(図形問題を含む)」,または国語の「読解問題」を掲載しているので, 算数や国語の応用力をこの一冊で身につけることができます。裏面は,パズル形式の問題になっているので, 楽しく取り組めて, 思考力を養うことができます。

★解説がとても詳しいので, 間違えた問題についてじっくりと理解を深めることができます。

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読書を通じてはたらく想像力の重要性が語られた今回のインタビューに関連して、国語読解や算数の文章題、思考力パズルを通して「頭の中でイメージしたり、仮説を立てて検証したりしながら考える力」を養う『考える力ドリル』をおすすめさせていただきました。

「算数」「国語」に「パズル」の要素を加えて複合的な問題にすることで、1冊で考える力を高めることができる書籍になっております。

今回の賢者

細井 卓治

関西学院大学 工学部 准教授
大阪大学工学部卒業、同大学院工学研究科博士後期課程単位取得退学。
広島大学博士研究員、大阪大学工学部助教を経て現職。
博士(工学)(大阪大学)。
専門は半導体工学。より生活を豊かにし、そして環境に優しいエレクトロニクスの実現に向けて、様々な半導体デバイスの研究を行っている。

細井先生の詳しい情報はこちらから

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