入試情報に関する書籍やwebサイトで,歴史という科目が次のように表現されているのを見かけませんか?
「暗記科目」
確かに,年号や出来事,人物の名前などを覚えていかなければ,試験で点がとれませんから,この表現は誤りではありません。
しかし,「暗記科目」という言葉の持つイメージにより,歴史への苦手意識を強めたり,歴史を嫌いになったりするお子様もいらっしゃるかもしれません。
2024年5月に受験研究社から発売された『小学 自由自在 歴史のなぜ?新事典』に歴史コメンテーターの金谷俊一郎先生がこんな言葉を寄せています。
その上で,金谷先生は歴史が暗記しなくても頭に入ってくる理由を3つ挙げておられます。
・「物語」として頭に入ってくるから。
・「なぜ?」と「流れ」があるから。
・「人物」が登場するから。
保護者のみなさんは好きなマンガはありますか?思い浮かべてみてください。
さらに質問を重ねます。みなさんはそんな自分が好きなマンガのストーリーやキャラクターを思い浮かべることはできますか?
おそらく,多くの方が「できる」と思います。
金谷先生の述べていることはこれに近いものがあります。
みなさんは内容を覚えるためにマンガを読んではいませんよね?あくまでも物語を楽しむためです。しかし,楽しんでいるうちに,ストーリーやキャラクターが自然とインプットされていて,思い出せる状態になっているわけです。
そして,歴史には「物語」「流れ」「人物」といった要素が含まれるので,見方によってはマンガと同じ楽しみ方ができますし,同じように楽しみながらインプットできる可能性があります。
そう思うと,歴史は「暗記科目」だと決めつけるのは,一種のバイアスなのかもしれませんね。
さて,小学6年生になると,歴史を学校の授業で学び始めます。歴史は好きなのに,授業になると,途端に苦手意識が生まれる,あるいはテストで点がとれないなんてことは実は珍しくありません。
では,「好き」を「得意」につなげるためにはどうすればいいのでしょうか?苦手意識を生まないためにはどんなことが大切なのでしょうか?
この連載では,「小学校低学年」「小学校3・4年生」「小学校高学年」の学齢に分けて,それぞれの時期の歴史の学びにおいて意識したいことや具体的な学びのアプローチについて解説しています。
今回の記事で,スポットを当てるのは「小学校5・6年生」です。
小学校高学年になると,教科として歴史の勉強に取り組む子どもが多くなります。
中学受験を目指す場合は小学5年生から塾の授業が,そうでなくとも小学6年生から学校で歴史の授業が始まりますよね。
それに伴う最大の変化は,歴史の学びに対して成績や得点がつくようになることです。
大人の目線では,当たり前のことかもしれませんが,子どもたちにとっては大きな変化です。
先ほど好きなマンガを話題に挙げましたが,例えば,みなさんが好きなマンガに対する感想文を提出しなさいと言われ,それによって成績がつきますと言われたら,どう思うでしょうか?
趣味や好きなことに対して,対価が発生したり,その取り組みに対して評価をつけられたりすると,途端に義務感に駆られますよね。それによって,好きなことが好きだと思えなくなるかもしれません。
同様に,たとえ低学年のうちから「歴史好き」の子どもであったとしても,それが歴史の成績やテストの得点にただちに結びつくとは限らないのです。
では,教科としての歴史を「得意」にするためには,どんなことを意識すればよいのでしょうか?
教科としての歴史を「得意」にまで導くために,まずはお子様の状況を把握しておきたいですね。
もちろん,普段のご家庭での「歴史」に対する取り組み(歴史を題材にしたドラマやマンガを読んでいるなど)や学校や塾でのテストの成績など,保護者から見える範囲の様子からで構いません。
様子として,大きくは次の3つに分類できるでしょうか。
① 「歴史好き」ではなく,教科としての歴史も「得意」ではない
② 「歴史好き」だが,教科としての歴史は「得意」ではない
③ 教科としての歴史が「得意」である(「歴史好き」でもある)
ここからは,上記のお子様の様子に応じた学習のアプローチについて,詳しく解説していきます。
① 「歴史好き」ではなく,教科としての歴史も「得意」ではない
お子様が「歴史好き」でも,歴史が「得意」でもない場合は,いきなり「得意」ではなく,まずは「好き」「面白い」を目指すことを意識するとよいでしょう。
テストの得点や成績がついたりすると,どうしてもお子様を「得意」にすることに意識が向いてしまいがちです。
しかし,「得意」にさせることにこだわると,お子様に「歴史=暗記科目」というバイアスをかけてしまうかもしれません。
教育科学の研究結果においても,自分のパフォーマンス(=成績)に意識が向いている子どもは,学習内容そのものに意識が向いている子どもと比較して,学習へのモチベーションが持続しにくいことがわかっています。
言い換えれば,歴史を「得意」にしたいと思って,いきなり歴史の暗記学習や知識の詰め込みを勧めると,むしろ「得意」への遠回りになってしまうということですね。
そのため,まずは,お子様に歴史の「面白さ」を伝える,あるいは歴史を「好き」になってもらうところから始めていきましょう。
ここでポイントになるのが,先ほどの金谷先生のコメントであり,とりわけ歴史は「流れ」であるという点です。そして,その「流れ」の中に「人物」が存在するため,歴史には物語性やドラマ性があります。
覚えるためという目的は一度脇に置いて,「流れ」や「物語」性が感じられるように,歴史を題材にした映画やドラマ,マンガなどに触れさせるのもいいでしょう。
前回の記事で,「物語」で歴史を学べるメディアをいくつかご紹介していますので,良かったらそちらもご覧ください。前回の記事は➡こちら
また,歴史の内容をライトに扱った書籍や,「人物」にフォーカスしたビジュアル事典を渡してみるのも一つの手です。その場合は以下の書籍もおすすめです。
・『るるぶ マンガとクイズで楽しく学ぶ!日本の歴史』(JTBパブリッシング)
・ナツメ社『オールカラー マンガで楽しむ! 日本の歴史大事典 人物&エピソード』
・西東社『小学生おもしろ学習シリーズ 完全版日本の歴史人物大事典』
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② 「歴史好き」だが,教科としての歴史は「得意」ではない
一方で,小学校低学年,あるいは3・4年生の頃に,もう「歴史好き」になっているというお子様もいらっしゃることでしょう。
しかし,「好き」だからと言って,それが「得意」に直結するとは限らないのが難しいところです。
そのため,お子様が「歴史好き」なのに,授業になるとやる気がない,あるいはテストになると得点が伸びないというサインに気づいたら,「好き」を「得意」に橋渡しするための働きかけをしてあげるとよいでしょう。
その際にできるアプローチの1つは,お子様の意識を「歴史を『得意』になる」ではなく,「歴史の『好き』を深める」に変えることです。
みなさんは「精緻化」(せいちか)という学習方略をご存知でしょうか?
「精緻化」は,とりわけ記憶への定着という観点で有効とされていて,ある情報をインプットするときに,「複数の別の情報」を紐づけるという方略です。
少しイメージしづらいかもしれないので,簡単な例で考えてみましょう。
「得意」という熟語をインプットするとします。この時に,単体で覚えようとするのではなく,例えばですが,類義語の「上手」,あるいは対義語の「苦手」をセットでインプットします。
そうすると,仮に「得意」という言葉そのものをいきなり思い出すことが難しかったとしても,「『苦手』の対義語だったよね…?」「『上手』と似た意味の言葉だったかな…?」などと,紐づけてインプットした言葉から推測して,「得意」という熟語にたどり着くことができますよね。
このように「精緻化」によって,のちに記憶を検索する際に,その情報を複数のルートから引き出すことが可能になります。覚えている内容を記憶から引き出しやすくなるということは,つまり,テストや試験での成績が向上するということでもあります。
この「精緻化」を「好き」を深めるという形でお子様に勧めるのが,非常に有効だと思います。
「精緻化」をする際には,保護者の皆さんからお子様に「精緻な質問」を投げかけたり,お子様自身が自問自答したりすることが必要です。
「精緻な質問」というのは,「なぜ?」「どうやって?」「もしそうであれば…?」「もしそうでなければ…?」といった一歩踏み込んだ問いのことを指します。
例えば,「東大寺の大仏」を例に「精緻化」の進め方を具体的に確認してみましょう。
手順1:「なぜ?」「どうやって?」といった問いを立てる。
Q1:なぜ,東大寺に大仏を作ったの?
Q2:どうやって,あの時代に巨大な大仏を作ったの?
手順2:立てた問いに対する答えを調べたり,考えたりする。
A1:聖武天皇が「仏教の力で国を安定させたい」と考えたから。
A2:全国から銅や金,水銀が集められた。また,僧の行基が民衆に呼びかけ,大仏づくりに協力した。
手順3:さらに,「なぜ?」「どうやって?」といった問いを立てる。
Q3:なぜ,聖武天皇は国を安定させたいと考えたの?
Q4:どうやって,大量の銅や金,水銀を集めたの?
手順4:立てた問いに対する答えを調べたり,考えたりする。
A3:聖武天皇が即位した頃,平城京では天然痘が流行し,地方でもききんや自然災害が頻発していたから。
A4:奈良時代には,鉱物資源の開発が進み,銅や金が産出されるようになった。
手順5:さらに問いを立てて,深めていく。
このように「東大寺の大仏」という1つの情報にたくさんの情報がどんどんと紐づいていき,どんどんと「精緻化」が進んでいくのがわかります。
自分の興味のあるものをどんどんと掘り下げていく時間って楽しいですよね。自分の好きなものや趣味の調べ物をしているときって,みなさんも苦にならないと思います。
同様に「歴史好き」のお子様にとっても,覚えるという目的抜きに,自分の好きな歴史のことについて調べたり,掘り下げて考えたりする時間は楽しくて,面白いものになるはずです。
そして,この「精緻化」の過程で,歴史のテストで重要になる情報(上記で太字で示した)が自然とインプットされていくのがわかりますよね。
しかも,先ほど述べたように「精緻化」は,インプットした知識を引き出しやすくする上で有効な方略ですから、ひいてはテストや成績の向上,つまり「得意」につながります。
この「精緻化」のアプローチをご家庭で実践する上で,2024年5月に受験研究社から発売された『小学 自由自在 歴史のなぜ?新事典』は最適な1冊です。
まず,マンガのページ,それから各時代の出来事を要約した巻物のページで,大まかに時代の流れを掴みます。
そして,それぞれの時代,出来事,人物などを掘り下げていく問いが数多く立てられているので,じっくりと読み進めていきましょう。問いは,「なぜ?」「どうやって?」といった「精緻な質問」になっています。
このように読み物として読むだけでも,無理なく「精緻化」を進めていくことができると思いますよ。
③ 教科としての歴史が「得意」である
教科としての歴史が既に「得意」な場合は,「得意」を強めることを意識するとよいでしょう。
「得意」ということは,ある程度,知識事項がインプットされているということでしょうから,検索練習の機会を増やしていくのが望ましいです。検索練習とは,簡単に言えば,「思い出す」ことだとイメージしてください。
検索練習の代表例は,問題集で問題演習をすることです。
受験研究社から小学校高学年向けの社会の問題集がいくつか発売されています。
その他にも,お子様に歴史上の出来事や人物について説明してもらうというのも,非常に有効な検索練習の実践の1つです。
その際の声かけとしては,「○○がわからなくて…。よかったら教えてくれない?」というように,保護者が興味や関心を示していること,そしてお子様を先生として立てることを意識すると,乗り気で説明してくれるでしょう。
お子様が教科としての歴史に苦手意識を持っているのに気づくと,つい「暗記科目なんだから,とにかく覚えたらいいんだよ。」と言いたくなりますよね。
しかし,覚えることが目的になってしまうと,歴史を学ぶこと本来の面白さを感じられず,結果的に歴史を学ぶことが嫌いになったり,苦手意識が生まれたりするかもしれません。
そのため,まずは「流れ」「人物」「物語」といった歴史という科目特有の面白さにお子様の目が向くようにサポートしてあげることが大切です。
また,ここまでにも述べてきたように「好き=得意」とは限らないのが難しいところです。それでも「得意」という感覚は,「好き」の先にあるものではないでしょうか。
お子様が「好きだから自発的に学ぶ」状態になるのが,保護者の皆さんにとっても,1つの理想形だと思います。当社の編集者も同じような理想を持って,本づくりに取り組んでいます。
遠回りに感じるかもしれませんが,1歩ずつ理想に近づけるサポートができたらと考えていますし,この全3回の連載記事がその一助になっていれば幸いです。
『小学 自由自在 歴史のなぜ?新事典』
特設ページは➡こちら