【第4回】昆虫研究を通して「新しいことを知る面白さ」を追求する

昆虫に興味を持ち、研究をすることで、何が見えてくるのでしょうか。

こんにちは。manavi編集部です。

国立遺伝学研究所 特任研究員として、「昆虫の体の仕組み」について研究なさっている後藤寛貴先生のインタビュー記事、今週はその最終回になります。

先週は、後藤先生の研究プロセスや、求められる力についてお聞きし、おすすめ書籍などもご紹介いただきました。

前回までインタビューは以下のリンクから閲覧することができます。

4週目となる今回は、昆虫に関する文化や、後藤先生が力を入れている活動などをお聞きし、最終回としたいと思います。

それでは、後藤先生よろしくお願いいたします。

日本は昆虫にやさしい国?

最初にお聞きするのは、「昆虫の文化」についてです。2018年には国立科学博物館にて、特別展「昆虫」が開かれたことが記憶に新しいです。

例えば、昆虫採集できることが売りのキャンプ場が存在したり、海外産の昆虫がペットショップ等で販売されていたりしますよね。お子様が近所で捕獲した昆虫を飼育するご家庭も多いかと思います。このように、 日本では古くから昆虫飼育の人気が高いです。

では、この「昆虫飼育の文化」は日本以外にも存在するのでしょうか。海外での研究実績をお持ちの先生にお伺いしてみましょう。

日本では昆虫は身近なペットになっている場合がありますが、海外でもそのような文化はありますか?

海外でも東アジア(韓国、台湾、中国)においては多少みられる文化です。しかし、欧米ではそのような文化はほぼ見られません。

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もちろん欧米にも昆虫を趣味として飼育する人々はいますが、極少数です。

どのホームセンターにも昆虫飼育専門コーナーがあるような日本ほど、昆虫を趣味にする人が多い国はないように思います。

日本は、ある意味で昆虫に優しい国です。

カブトムシ用のゼリーがあると言うと、海外の人は不思議がります。



日本は海外と比べて「一般家庭でも昆虫の飼育・研究がしやすい」と言えそうですね!

買い物に行くと、花火コーナーや昆虫飼育コーナーを見かけるのが日本の夏の風物詩ですよね!

こうした家庭での飼育環境の作りやすさが根強い昆虫人気を支え、日本を「昆虫に優しい国」にしているのかもしれません。

記事を書いている私も小学生の時に、カブトムシを卵から成虫まで世話したことがあります。

幼虫が出すフンの掃除やエサ兼家である土の管理など、色々と手がかかった分、羽化して元気に飛び回る姿を見たときにはとても感動したことを覚えています。

昆虫のみならず、ご家庭で生き物を飼育することは、お子様にとって、命の大切さや継続的な管理の大変さを学ぶ良い機会になると思います。

実は私たちの生活を支える「昆虫の研究」

先ほどのインタビューから、昆虫の飼育環境を身近なところで整えやすく、学びの機会にしやすいというのは、「日本ならではのチャンス」とも言えそうですよね。

では、昆虫について学び、研究することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

昆虫について学ぶことで、私たちの普段の生活や社会活動をよりよくするためのヒントがあったら教えてください。

ズバリ、これは「昆虫の研究をしてなんの役に立つの?」という質問かと思います。実際、そのような事はよく聞かれます。

直感的には「虫の研究をしても社会には何の役にも立たないのでは?」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。

例えば、実用化されている農薬の中には、昆虫の脱皮・変態を乱すことで害虫を駆除するようなものがあり、そこには昆虫のホルモンの研究の成果が大きく活かされています。

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農作物の生産量は、害虫によって大きなダメージを受けています。

そこで、害虫被害を抑えるために農薬が使われますが、基本的に農薬は生物にとって「毒」なので、できれば「昆虫にしか効かない」ような物質を使うことが求められます。

昆虫のホルモンを標的にする農薬ならば、我々人間や哺乳類などに健康被害を及ぼさず、昆虫だけを駆除することができると考えられています。

恐らく、最初に昆虫の変態を研究していた人は、将来的に農薬に自分の研究成果が活用されるとは思っていなかったでしょう。(昆虫の変態について、はじめて体系的な図版を出版したマリア・ジビーラ・メーリアンは、17世紀の人間です。)

また、例えば現代でも農作物の受粉はミツバチを始めとするハチ類に大きく頼っていますし、近代日本はカイコが生産する「絹糸」に支えられて発展してきました。

このような人間社会に密接にかかわる昆虫も多くみられます。ハチやガの研究は、効率的にそのような昆虫を利用するために活用されていることも少なくありません。

ちょっと変わったところだと、人工衛星のソーラパネルの収納は昆虫の翅の収納方法が応用されています。

今、僕が研究しているカブトムシでも、角の折り畳み方を解析することで立体物をコンパクトに折りたたむ技術につながるかもしれません。


さて、この連載の最終回であるここまでお読みくださったということは、読者の方はそれなりに昆虫の研究の話を「面白い」と思ってくださったのではないでしょうか。

そのように「新しいことを知る」というのは人間の持つ根本的な欲求の一つです。

新しいことを知り、それを面白いと感じてもらえたなら、それはもう立派に「役に立っている」と言っていいのではないか、と個人的には考えています。


研究による発見が農業や工業のみならず、人の心も豊かにするとお考えなのですね。

昆虫に関する研究の成果として、農薬づくりや機械設計に活用されているという例を挙げていただきました。

これまでのインタビューで「様々な知識・経験が研究に役立つ」という学びがありましたが、研究成果もまた、思いもよらない様々なところで役立つ可能性がある、ということでしょうか。

とはいえ、後藤先生の研究はこのような目に見える成果を求めてきたのではなく、「昆虫のカッコよさの秘密を探りたい」というご自身の欲求からスタートしているように思います。

だからこそ、「新しいこと」を発見し、「知りたい欲求」を満たすことが、先生ご自身に対して研究が一番「役に立っている」瞬間なのかもしれません。

「目に見える形の成果」が欲しくなるというのは、 例えば「テストで良い点数を取る」、「志望校に合格する」、「大会で成績を残す」など、お子様の勉学にもつきまとうと思います。

成果を追求するあまり、学び本来の面白さや楽しさが失われることがないようにしたいものです。

もっと昆虫に親しんでもらうために

さて、4週に渡るインタビューもいよいよラストです。

後藤先生の今後の活動の展望を最後の質問としてお聞きしたいと思います。

今、力を入れている取り組みや、今後実施していきたい教育活動があったら教えてください。

昆虫のことを良く知ってもらいたい、昆虫にもっと親しんでもらいたい、という気持ちから、2015年から毎年地元の小学校でサイエンストークをしています。

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クワガタ・カブトムシをテーマにした話は、やはり小学生のみなさんの食いつきが良く、毎年大好評をいただいています。

ちょうど3年生では理科で「昆虫」について習うので、学習内容に即した内容にしますし、理解力が上がってくる4年生には外来種の話をすることにしています(北海道においてカブトムシは国内外来種であり、話題に親和性があります)。

本当はもっといろいろなところでやりたいのですが、なかなか本業との兼ね合いでそうもいかないところが難しいところですね。研究して業績を積まないと職がなくなってしまうので…(笑)


ご自身の研究を進めながら、クワガタ・カブトムシのカッコよさを子どもたちにも広めていかれるのですね!

専門家の方によるイベントには、長期休暇なども利用して、是非お子様をお持ちのご家庭にも積極的に参加していただきたいと思います。

例えば、文部科学省からの「科研費」と呼ばれる資金で行われる最先端の研究において、各大学や研究機関にて研究成果をお子様向けに紹介する「ひらめき☆ときめき サイエンス」というプログラムがあります。詳しくはこちらからご覧ください。

この他にも、研究所や大学の先生が実際の研究施設を公開しながら行われるようなものや、後藤先生がされているように各地の学校や科学館での出張講演もあります。最近ではオンラインでも開催されているようです。

その道のエキスパートのお話を直接聞きに行くということは、お子様の知識や興味の幅を増やすだけでなく、同じことに趣味や興味を持つ友達に出会うチャンスでもあります。お子様にとって密度の濃い時間になるはずです。

学びのヒント

後藤先生、ありがとうございました。


今回のインタビューでは以下のような学びのヒントがありました。

学びのヒント

勉強や研究で「新しいことを知る面白さ」を感じよう

インタビュー記事連載を通して「研究」をひとつのテーマとしてきました。

「勉強」も「研究」もその面白さの本質は、先生のインタビューにあった「新しいことを知る」ことにあると思います。そして勉強の面白さをとことん追求していった先にあるものが研究であると感じました。

時に面白さと離れ、「我慢して取り組む」というのも勉強の一側面かもしれませんが、保護者の皆様におかれましては、読書やイベント参加などを通して面白い部分を見つけるサポートをしてあげてください。

一方で研究には勉強と異なり、「誰も知らないことを調べる」という点もあります。王道というものが少なく、様々な知識・経験が役に立つ可能性があります。

お子様の興味関心や「なんでだろう?知りたい!」という気持ちからスタートし、あれこれ調べて自分なりの答えを出すことがベストです。その主体性を尊重して、「教えすぎない」というのも気をつけていただきたいところです。

目標やゴール、それに向かう道筋まで自分で計画して実行する自由研究は、達成した時の喜びもまた格別で、お子様を大きく成長させてくれることでしょう。

おすすめの本

今回の記事に関連したおすすめの書籍をご紹介させていただきます。


関連書籍

『科学のなぜ?新事典』

★取り上げるテーマを,地球・宇宙のふしぎ,植物のふしぎ,動物のふしぎ,私たちのからだのふしぎ,身近なふしぎの5つの分野に分けて,いろいろな「なぜ?」を紹介しています。

★カラーの写真・イラストをふんだんに使って,小学生が理解しやすいように本文をまとめています。

★AI博士,ペンすけ,ペンジーの3つのキャラクターが協力して,みんなの疑問に答えてくれます。

★実験・観察の方法なども紹介しています。


詳しくはこちらから

お子様の「なぜ?」という気持ちに寄り添い、その理由を深く調べることができる 『科学のなぜ?新事典』 を紹介させていただきました。

身の回りの疑問に答える形式で構成された、全く新しい理科事典です。気になったときにすぐ読めるよう、お子様の手元に置いていただけたら幸いです。

今回の賢者

後藤 寛貴

国立遺伝学研究所 特任研究員
1984年札幌市生まれ。北海道大学理学部で生物学を学ぶ。 同大学大学院環境科学院 生態遺伝学コースに進学し、昆虫の形態形成とその進化の研究を始める。 学振海外特別研究員(ワシントン州立大)、名古屋大学農学部特任助教などを経て現職。 博士(環境科学)。専門は進化発生学。

後藤先生の詳しい情報はこちらから