【第3回】「分かりやすい言葉とは何か?」からコミュニケーションを相手視点で考える

外国人とコミュニケーションをとる時、どんなことに気をつければよいのでしょうか?


先週に引き続き、株式会社エルロン代表取締役、そして日本語講師としてもご活躍されていらっしゃる石川陽子先生にお話を伺っていきます。


先生は、日本の企業で働く外国人を対象とした、社会人基礎力養成を取り入れたビジネス日本語カリキュラムを作成し、大手コンビニ、国立大学等にて授業を実施などに取り組まれてきました。

第2回のインタビューでは、石川先生の「やさしい日本語」を活用した取り組みにも影響深い、「問題意識・課題感」や「行動力」が培われた、先生ご自身の学生時代の経験やエピソードについてお聞きしました。



第3回の今回は、より実践的に「日本での外国人とのコミュニケーション」について、「やさしい日本語」と関連づけてお伺いしていきたいと思います。

外国人に「やさしい日本語」で接するためのポイントとは?

これまでのインタビューでキーワードとして挙がっている「やさしい日本語」ですか、私たちが実践する際にはどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。

「やさしい日本語」を使ってコミュニケーションする際、どんな点が難しいですか?

弊社では「やさしい日本語」を使う練習をするワークショップをさせて頂くのですが、その際に、普段の日本語に慣れている受講者の方々が決まって「難しい!」とおっしゃるのは、外国人にとって「分かりやすい言葉は何か?」ということです。

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ひとつは、「漢語をなるべく避ける」とよいのですが、これが意外と難しいようです。

例えば、「今朝」ではなく「今日の朝」と言ったほうが分かりやすいですし、「危険」よりも「危ないです」と言ったほうが、外国人にとって「分かりやすい言葉」なのです。

「やさしい日本語」に初めて触れた皆さんは、最初はこれを難しそうに話されます。

ですが、2時間も練習すれば、慣れてくる方も多いです。

それから、もうひとつ。これは、外国人と接している日本人の様子を見ていて感じていることですが、「敬語表現を使わないようにする」ことが難しいようです。

どうして難しいかと言うと、日本人の敬語は、相手を「おもてなしする」際に使う表現であり、外国人とコミュニケーションをする際には、自然に「おもてなし」したくなるからだと思います。

でも、外国人にとっては「います」が「いらっしゃいます」になったり、「食べます・飲みます」が「召し上がります」になったりというのは、もう全く違う言葉になっているように感じて、「知らない言葉」を使われているように思っている方が多いようです。

「相手のために、敬語を使わない」ということが必要なのですが、これが意外と難しいです。ちなみに、丁寧に話すときは、文末を「~です。」「~ます。」にすると、「分かりやすい言葉」になります。


私たちが普段何気なく使ってしまう表現を、意識して「やさしい日本語」に変換しなければならないんですね!


漢語や敬語といった、外国人にとって不慣れな言葉や言い回しを避けることが「やさしい日本語」でのコミュニケーションにおいて難しい点、ということでした。

普段の私たちの会話では、漢語や敬語が相手に通じないことはほとんどありませんよね。

日本人同士の会話に「慣れ」があり、「この言葉が外国人には伝わりづらい」という感覚がないからこそ、私たちがとっさに「やさしい日本語」を使うことは難しいのかもしれません。

普段の感覚にとらわれず、言葉がどのように受け取られるか、「相手の視点で考えてコミュニケーションを行うことが大切」といえると思います。

意外とハードルは低い?外国人との会話の「最初の挨拶」


観光客や外国人労働者の増加に伴って、街中で外国人を見かける機会が増えてきましたよね。

お子様の通う学校でも、家庭の事情から「日本語がほとんど話せない同級生」がいるなんて状況も、もう珍しいものではないかもしれません。

しかし、「彼らとコミュニケーションをとってみたいけど、英語は苦手だし、どうやって声をかけていいか分からない」と尻込みしてしまうことも多いものです。

そんな時、どうアクションを起こせばよいのか、どんな心がけが大切なのか、お話を伺いました。

今後は私たち一般市民も、旅行客や日本に住んでいる外国籍の方との交流が増えると思います。彼らとコミュニケーションを図る際のポイントを教えてください。

ポイントとしては、「ハロー」ではなく、まずは「こんにちは」と挨拶することだと思います。

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私が関わる外国人の方から、「日本人の友達がほしいです。どうしたらいいですか。」と、よく相談を受けます。

日本に旅行に来たり、日本に住み始めたりすると、その国に友人が欲しいと思うのは、ごく普通のことですよね。

みなさんが身近なところで出会う外国人の方も、そう思っていらっしゃるのではないでしょうか。

ですが、「外国人と話すときは英語!」だと思っていると、私たちから話しかけるのは、ハードルが高いと感じてしまうかもしれません。

言葉は、相手に何かを伝えるために使うツールなので、「伝わればよい」と個人的には思っています。

伝わればよいとすれば、「簡単な英単語や身振り手振りを交えて何とか伝える」、という方法もありますが、「日本語でも大丈夫!」と思えば、外国人とコミュニケーションする上でのハードルが下がるのではないでしょうか。

例えば、「こんにちは。日本語、だいじょうぶですか?」とか、「こんにちは。あなたの国はどこですか?」とか、「やさしい日本語」から始めてみると、今までに出会えなかった友人が、みなさんにも増えると思います。

あとは、月並みですが「笑顔」が大切だと思います。

日本語教師として、全然日本語が通じないクラスを担当する場合は、私は「笑顔」で接するということを大切にしています。

言葉が通じなくても、笑顔で接していれば、不思議と相手も笑顔になるものです。


あえて「日本語」で話しかけることも大切なんですね!


外国語にあまり自信が持てないために、「コミュニケーションをとりたいのにとれない」状況はもどかしいですが、外国人相手でも最初のひと声が「こんにちは」で大丈夫というのは、グッとハードルが下がった気がしますよね。

また、第1回のインタビューにあった通り、「私たちが『やさしい日本語』を使うことで、日本に住む外国人の方々が抱える不安要素が軽減される」ということでした。

「外国人だから話しかけられない」ではなく、「不安を抱えている外国人だからこそ、『やさしい日本語』で話そう」と意識して、積極的にコミュニケーションをとるようにしたいですよね。

またインタビューの最後にあった「笑顔で接する」というのは、相手の視点からは「会話を楽しむ姿勢」に映ると思います。

「テクニック」としても、もちろん重要ですが、ハードルを下げ、気楽に接することで、意識せずとも笑顔で会話を楽しめるようになれれば最高ですよね。

外国人が驚く日本の文化・風習ベスト3


先述のように、「相手にとって分かりやすい言葉」を使うことはコミュニケーションの上で大切にしたいことです。

とはいえ、そもそも相手の事情を全く知らなければ「相手の視点」で考えることは難しいですよね。

外国の事情を知り、日本との違いに注目できれば、そこから生じる「勘違い」や「すれ違い」を避けることができ、「やさしい日本語」における「分かりやすい言葉選び」のヒントにもなるのではないでしょうか。

そこで第3回の最後は、「外国と日本の文化の違い」について、石川先生にお聞きしたいと思います。


海外から日本に来た人が必ずと言っていいほど驚く、日本独自のルールや文化・風習などありますか?先生が経験したり、聞いたりした中で印象に残っているエピソードなどを教えてください。

私が出会った外国人の方が必ずと言っていいほど驚いていること、ベスト3をあげたいと思います。

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3位は、「物価の高さ(特に、果物の値段とタクシーの料金)」です。

果物が高いというのは、どの国の方からも聞きますが、印象に残っているのは、スイカの値段です。

中国では、1玉30円程度で購入できるそうです。

これからの季節、スイカが美味しいのですが、日本では高くてとても買えないという話を良く聞きます。

2位は、「ゴミ」です。

外国人が驚いているポイントが2つあるのですが、1つ目は、「ゴミの分別は一切しない」という国が結構多い中、日本は分別がとても細かいということです。

2つ目は、街にゴミがほとんど落ちていないということです。

日本の街はすごくキレイだ」という話も本当に良く聞きます。

1位は、「時間厳守意識」です。

日本人の時間厳守という意識には、私が出会った33カ国のどの国の方も方みなさん驚いたと言っていました。

仕事に遅刻しないだけではなく、5分前には仕事がスタートできるように準備するということに、驚かれる外国人は多いです。

以前、中国、韓国、イギリス、ロシアの方と、友人のホームパーティーに招待されたとき、「19時に来てください」と言われたら、何時に、友人宅に行くか?という議論をしたことがあります。

ちなみに、みなさんなら何時に行かれますか?

「私は、5分前くらいに、到着するようにいく」と言ったのですが、「それは失礼じゃないか・・」と、他のメンバーに言われました。

まだ準備が整っていない部屋に、押し掛けるのは迷惑だから、というのが理由です。

19時からと言っても、準備には時間がかかるだろうから、遅れて行ったほうがいいのではないか、という意見が中心で、「19時半前後に行くのがいい」という結論に至りました。

私の、5分前行動は少数派な意見だったことに気づきました。


日本では当たり前になっていて、誰も不自然に思っていない内容ばかりですね!


インタビューにあった、「物価の高さ」、「ゴミ」、「時間厳守意識」のどれも、日本では当たり前でも、海外では異なることに気づきにくい文化・風習ですよね。

特に、「時間厳守意識」は日本人と外国人との考え方の違いがよく表れていると思います。

文化・風習と同様に考え方の違いを知ることも、外国人の視点や立場に近づくヒントになると思います。

また、「5分前行動は少数派」ということが分かったように、文化・考え方の違いを知ることで、気づきを得ることもコミュニケーションの醍醐味のひとつですよね。

学びのヒント

石川先生、ありがとうございました。


第三回は石川先生の日本語講師としての経験から、「日本での外国人とコミュニケーション」について、ポイントをお聞きしてきましたが、今回の「学びのヒント」としては以下のことが挙げられると思います。


学びのヒント

(1)「自分にとって当たり前」が「相手にとって分かりやすい」とは限らない。

(2)「〇〇で大丈夫!」と、高すぎないハードルを設定して、気楽に挑戦しよう。


今回ポイントになった相手にとって分かりやすい言葉を考えるというのは「自分にとって当たり前の言葉」にとらわれず、「相手の視点」で考えることだと思います。

しかし、これがなかなか難しいですよね。

「相手の視点で考える」という想像力も必要ですし、そうやって何とか考えた「相手の視点」を確かめないうちは独りよがりになってしまうこともあります。

重要なのは、日々の生活の中でも「お母さんはこう思う。」、「友達はどんな気分だったと思う?」といった会話の機会を持つことだと思います。

お子様が「他の人の視点に気づき、考える機会」を増やしたいですね。

同時に、お子さんの意見を尋ねてあげてください。お父さん・お母さんには新鮮な視点や意見・考え方に出会えるかもしれません。

自分にとって簡単なことが、相手にとっては難しく見えることがあります。これは親子でもありますよね。

私たち日本人が海外に行くときには、そのような壁に出会うことが多々あるでしょう。構造は同じはずです。

「相手の視点で考える」「相手の意見を素直に聞く」という配慮ある環境で培われた姿勢は、きっとお子さんが社会に出たときに役立つものとなるはずです。

また、「日本語で大丈夫!」とハードルを下げることで、外国人に話しかけやすくなったように、「高すぎないハードルの設定」は、「取り組みへのモチベーション」を上げることにも活かせそうです。

学習目標やそれに向けた困難といったハードルを前にしたとき、最初は案外「跳び方」が分からず、ぶつかったりつまずいたりするのが怖いものです。

「食わず嫌い」という言葉のように、難しい」というイメージや「できない」という決めつけで取り組みへの自信や機会を失うこともあります。

お子さんがチャレンジに尻込みしていると感じたら、「できる範囲だけで大丈夫。」、「まずは半分できたら上出来だよ。」といった声かけで、背中を押してあげてください。

「手をつけてみたら意外と出来た!」という経験は、新しいことに自発的に挑戦する勇気になるはずです。

おすすめの本

今回の記事に関連したおすすめの参考書・問題集をご紹介させていただきます。


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日本ではよく、ことわざや四字熟語を使いますし、外国人相手にもつい話しがちですが、正しく伝わるか気をつかいたいところです。

一方で、豊かな表現力を持つ言葉は日本の文化として、是非外国の方にも馴染んで欲しいとも思います。

日本語表現の良さや多様さを誰かに正しく伝えるには、その正確な意味に加えて「伝えるべきエッセンス」までしっかり理解して、自分のものにしておく必要があると思います。

そんな日本語の「深い理解」の一助になればと思い、本書をおすすめさせていただきました。

お子様には、ことわざや四字熟語を「難しい言葉」として単に暗記するだけではなく、それらの表現がもつ「意味」をしっかり味わい理解することで、自分の言葉で翻訳してコミュニケーションができるまでになって欲しいものですね。

今回の賢者

石川 陽子

株式会社エルロン代表取締役・日本語講師
新卒から10年間、大手人材派遣会社に勤務。その後、日本語教師に転職。
「やさしい日本語」を使ったワークショプを成功させ、介護施設での「やさしい日本語」ワークショップの実践報告の論文を発表した。
2019年3月、株式会社エルロンを設立し、「やさしい日本語」の普及など外国人人材定着支援に力を入れている。

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