【第1回】公立高校入試で内申点はどのくらい大切?正しい情報を知って最適な学習戦略を!

はじめまして。谷津綱一(やつこういち)と申します。

私は、首都圏の進学塾に数学科講師として約30年間勤めておりました。

今回の記事から、数回に分けて中学生やその保護者の皆様へ向けて、塾の講師目線で高校受験へ向けてのアドバイスを発信していきたいと思っております。

これから受験までお付き合いくださいますよう、よろしくお願いします。

そこでまずは公立高校入試の概略から入り、今後その核になる部分を順次テーマとして取り上げていきます。

第1回となる今回の内容は受験学年(中3)だけでなく、これから受験の準備を始めるご家庭にも是非参考にしていただきたい内容です。

取り上げるのは、ズバリ「内申点」について。

この時期になると、特に受験生にとっては、受験学年として初めての評定(内申)が示されます。

うちの子の評価はどうなのか、保護者の皆様は、当の本人よりヤキモキして気が気でないかもしれません。

そこで、講師時代に保護者の皆さまが持っていることが多かった疑問をいくつかピックアップして、それに答える形でお話させていただければと思います。

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1.入試の情報はどこで仕入れるの?

入試制度の情報はどこから仕入れるのが良いでしょうか?

インターネット上には、様々な情報がありますが、まずは各都道府県の教育委員会HPをチェックしてください。

まず前提として、公立高校入試の制度は全国で統一されたものではなく、都道府県ごとに異なるものです。

ですので、高校入試においての情報共有や情報交換は、自ずとお知り合いの方や近くの先輩などという範囲に限定されます。ネットの口コミサイトから正しい情報を得ることも案外難しく、保護者の中には「初めての高校受験で、とても不安」と心配される方もいらっしゃるのも事実です。

では、入試制度はどのようにして知ればよいかというと、各都道府県の教育委員会HPに詳しく書かれている場合がほとんどです。今年の受験生ならば、「令和4年度入試」でお調べください。

昨今はこの情報更新は迅速で、我々のような塾関係者も、このHPから入手しています。こちらに掲載されたものだけが公式で、他に飛び交う情報はあくまで噂話の部類と思われて問題ないと思います。

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2.内申点は入試にどれくらい影響を与えるの?

実際、内申点が大事ということはよく聞くのですが、どれくらい入試に影響するのでしょうか。

先ほども述べたように、地域差こそありますが、内申点は公立の入試制度においては非常に重要です。ただ、内申点が入試における総得点に占める割合は都道府県・高校やコースによって異なるので注意が必要です。

私立だと「合否が当日の試験の点数のみで順位づけられる」ケースも多く、非常にシンプルですが、公立だと初めに述べたように、内申点の存在があるため、点数の計算も複雑です。

ほとんどの都道府県では、学力試験と内申点の合計で合否が決まりますが、そもそもなぜこんな制度になっているのでしょうか。

それは、試験当日に体調を崩したり、あるいは極度に緊張したりして、実力を発揮できなかったりというような不安定な要素をできるだけ取り除くための配慮なのです。

入試当日のその場限りの力ではなく、そこに至るまでの日頃の学習の成果や努力を、評価するのが内申点という仕組みです。

ここからは、内申点が入試の結果に与える影響を、東京都の「学力検査に基づく選抜(いわゆる”推薦入試”ではない入試)」における学力試験と内申点の具体的な計算方法を例に挙げながらご説明させていただきます。

東京都は「学力検査」と「調査書」という名称が用いられています。「学力検査」とはいわゆる学力試験(試験本番)のことで、「調査書」は内申点を指します。

東京都では、選抜においての学力試験と内申点の比重は7:3と定められています。

学力試験は5教科で各100点、つまり500点満点です。これを1.4倍して700点と換算します。

学力検査
(英+数+国+理+社)×1.4(…

また内申点は中3の2学期の評定のみが対象で、中でも技能4教科の評定は2倍され、次のような計算式に当てはめ300点満点と換算します。

調査書
{(英+数+国+理+社)×1+(美+技+音+体)×2}×300÷65(…

つまり=1000点満点で、得点の上位者から順に合格が決まります。同点者は共に合格となります。この他に合否に関わる要素はありません。

東京都の例で特徴的な部分をまとめてみます。

①学力試験:内申=7:3からわかるように、学力試験が重視されている
②内申点は中3の2学期の評定分のみ
技能4教科の評定が学力検査を行う5教科の評定の2倍の重みを持つ

実は東京都は全国でもかなりシンプルな方で、例えばお隣の埼玉県は、学校ごとに選抜方法が異なります。

例えば浦和高校の全日制コースの一般入試であれば、

①→定員の60%は学力試験:内申=6:4、残りの40%が学力試験:内申=7:3
②→内申点は中1から中3までのすべての評定を参照する
③→中1:中2:中3=1:1:2で中3に重みを持たせている

他に、生徒会長や部活動で県大会上位進出や資格検定2級以上で加点するとあります。

このように内申点は入試において総得点に対する一定の割合を占める指標となっています。

そのため、まだ入試に加味される内申点を改善できるチャンスがあるお子様は少しでも良い点数が得られるように意識しましょう。

また、もう内申点に関わるテストが終わってしまっているという受験学年のお子様の場合は、もちろん当日の試験の点数の方が割合は大きいわけですから、気持ちを切り替えて準備をしていきたいですね。

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3.志望校の具体的な情報収集はどこでできる?

子どもの志望校の入試について気になることがあるのですが、どこで情報を仕入れるのが良いでしょうか?

志望校がある程度決まっている場合は、学校説明会に足を運ぶことをおすすめします。
もし公立高校全般の話であれば、各教育委員会のHPに問い合わせ先が書かれています。ここに問い合わせるか、あるいはお通いの中学校の担任の先生へご相談するのが良いでしょう。ネットの情報サイトを漁るのではなくて、信頼のおける先生へ伺うのが一番です。

学校説明会への参加をおすすめする理由があります。それは「噂に惑わされないようにするため」です。

少し脇道にそれますが、よく保護者の方から寄せられる質問で「生徒会に入った方がいい?」「部活をやらないと内申点は下がる?」などがあります。

私のこれまでの経験では、保護者どうしで有利不利の情報が入り乱れ、疲弊しきったご家庭を見たことがあります。

保護者の方自身の受験経験や他の地方の情報、いわゆる情報発信者の「思い込み」「誤情報」といったものに惑わされるのです。しかし、これらのほとんどは公式情報ではありません。

公式情報を手に入れる機会は、秋に開かれる各高校の学校説明会です。HP以上のつっこんだ内容の説明がある場合があります。

私が実際に伺ったある学校では、「部活に入っているだけでは加点の対象にならない。生徒会も会長だけは加点するが、それはほんのわずか。当日の試験1題でひっくり返される程度」とはっきりとおっしゃってくれたところもあります。人気校だけに、包み隠さずとても明確な説明でした。

終了後、高校の先生に直接質問できる機会もありますが、教育委員会や学校のHPを調べて質問はコンパクトに整理しておくのがマナーです。後ろに長蛇の列を作らないようにしてください。

またもちろん、学習塾にもこうした情報の蓄積があります。ご近所に特定の高校に強い塾があれば、そこには先輩たちからの情報も集まってくるはずです。通塾生には「ここだけの話」をしているでしょう。

私が講師をしていた時も、こうした「ここだけの話」を塾生にしていたので、これは間違いないです。

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4.具体的な「得点差」を知って今後の学習計画を!

先ほど、東京都の入試制度における内申点について取り上げました。

東京都は学力試験の割合が高いといいましたが、それでは実際に内申点でどれぐらいの差ができるのでしょうか。

例えば、音楽3と5の生徒では、500点満点の筆記試験に置き換えると、それは約13点と換算されます。

通知表の実技教科2ポイント分が劣る受験生は、入試本番で13点分多く得点する必要があるということがわかります。

この13点のリードを保って逃げ切る側なのか、ひっくり返さなければいけない側なのかによって、夏の学習戦略も異なってきます。また両方をうまくこなしていくバランス型もいるでしょう。

今回は内申点の仕組みについてお話させていただきました。

今まで何となくしか知らなかった、また知っていても情報が入り乱れて不安の大きかったという皆様に、普段の授業や目前に迫る定期テストへの向き合い方、実技4教科までふまえた意識の持ち方など、少し先を見据えた受験の準備を進めるきっかけにしていただけるとうれしいです。

次回以降はこうしたことを踏まえて、中3の受験生の夏休みへの準備についてお話します。受験生はすることがいっぱいです。

著者紹介

谷津 綱一


元進学塾数学科講師。進学塾講師時代には最上位クラスを担当し、数多くの生徒を筑駒や開成などの超難関校合格に導いた実績がある。教室長を歴任したのち、教務部長を務める。

主な著書は『高校への数学 入試を勝ち抜く数学ワザ52』『高校への数学 入試を勝ち抜く数学ワザ・ビギナーズ52』(ともに東京出版)。

趣味は和算の研究。2020年より月刊『中学への算数』(東京出版)で「新・江戸の算術に挑戦!」を連載中。著書『親子で楽しむ 和算の図鑑』(技術評論社)では、生活に根差した和算の考え方をわかりやすく解説している。

関連書籍

絶対に公立トップ校に行きたい人のための 高校入試数学の最強ワザ120
(かんき出版)

★2021年5月に刊行の谷津先生の著書。

★「数学で得点を稼ぎたい」という目標を持って、公立トップ校を狙う中学生のための受験参考書です。

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