【第2回】夏期講習選びは「目的」が大切?高校入試を意識した夏休みの勉強法を解説!

こんにちは。元進学塾講師の谷津綱一(やつこういち)です。日々、気温も上がっている中、みなさん、体調管理は万全ですか?

私は、首都圏の進学塾に数学科講師として約30年間勤めておりました。

先月より中学生やその保護者の皆様へ向けて、高校受験のアドバイスをお送りしています。

前回は誰もが気になる「内申点」についてお話しました。こちらの記事は下記のリンクからご確認ください。

今回は受験生(中学3年生)向けに、高校受験の天王山ともいえる夏休みの過ごし方について「夏期講習」の活用法をテーマにお話していきたいと思います。

受験の準備を効率よく進めていくためのヒントにしてみてください。

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1.中学最後の夏は、夏期講習を充実させよう!

中学校生活最後の夏休み。部活がまだ続いている、あるいは習い事に集中している中学生も多いと思います。

ですが、入試を控えた2学期の内申点も気になるところだし、受験勉強もそろそろ始めなきゃと考えると、最も自由な時間が取れるこの時期は塾の夏期講習で充実した時間を過ごすことが大切です。

しかし、重要な「塾選び」ですが、「とりあえず」で選んでいませんか?もちろん、近くに複数の塾がないケースもあり、状況・環境はそれぞれ異なりますから、塾を「選ぶ」ことそのものが難しい場合もあります。

そこで今回は、塾の夏期講習の上手な「活用法」についてお話しします。もちろんこれは私見ですので、最終的にはご家庭でよく話し合って決めてください。

今回も、講師時代に保護者の皆様から相談されることが多かった疑問・質問をいくつかピックアップしながら進めていきたいと思います。

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2.効果を最大限に引き出すために夏期講習の目的を明確にしよう!

夏期講習を受けるにあたっての、心構えなどを教えてください。

夏期講習で「何を得るのか」という目的を明確にすることです。当たり前の話になってしまいますが、塾通いの目的は、目標への到達及び達成をするためです。

でもそうは言ってもまだ中学生だと、具体的な目的を持ちづらいものですよね。

はい、難しいですね。塾の先生とも事前にしっかり話し合って決めて欲しいのですが、先生から与えられたことをただ受け入れるだけではなく、自発的に自分の課題を整理した上で塾の先生と話し合い、納得してもらいたいと思います。そのために、私から大きく4つ柱を提示します。まだ何もない人は、是非参考にしてください。

夏期講習選び「4つの柱」

A 基礎固め・弱点克服
B 学校の成績のさらなるupで、目標の内申点に届かせたい
C 入試問題に触れ、受験の準備を始めたい
D 志望校へ向かって一直線

もちろんB+Dなどいう組み合わせもあるでしょうが、ここでは最も大事にしたい1つに絞って選んでください。

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3.目的別に夏期講習の活用法を確認しよう!

それでは、具体的にAから見ていきましょう。過去に私が受け持った生徒(先輩)の成功例も一緒に紹介していきます。

A「基礎固め・弱点克服」を選ぶ人

学校内容の基礎固めは最も大切なことです。ここを疎かにすると、さらに難しくなる2学期以降の学習で間違いなく苦しむでしょう。

ではなぜこの時期に基礎を固めなければいけない状況に陥ってしまったのかと考えれば、それは端的に言って“学習の抜け”があるからでしょう。その理由は学校を休んでしまったとか、授業の理解ができなかったとか、その場では理解できたが定着しなかったなど、理由はいろいろと考えられます。

ただやらなければいけないことはただ一つ、その抜けを補い前に進むことです。

ですので、夏期講習でもコースを選べるのであれば、復習を丁寧にしてくれるものを選びましょう。どうしてもコース選択が難しい場合には、自習室利用や質問に対応してくれるかなど事前に確かめておきましょう。

でもやることが多すぎて手の付けようがありません。

もし特定の科目が苦手ならば、この夏は苦手科目に集中するのもいいでしょう。特に2学期に積み上げに迫られる英語や数学ならばなおさらそうです。

この場合必要なのは、「どこからできなくなったのか」を分析することだと思います。過去の学校のテストを見てもらうか、塾で実施されている診断テスト類を受験することをお勧めします。

「今のあなたの課題はどこにあり、この夏にどう克服していくのか」という指標を明確にする必要があります。

Aのケースでの夏期講習は、自身との闘いになります。周りの仲間に惑わされず、自分がしなければいけないことにひた走りましょう。

先輩の成功例
中1からつまづいていることがわかり、さかのぼってやり直したら中3範囲も解けるようになった。

B「学校の成績のさらなるupで、目標の内申点に届かせたい」を選ぶ人

公立高校受験に内申点は欠かせませんし、私立高校の推薦枠もそうです。「内申点をあと2つupさせて目標の志望校に挑戦したい」という少し高めの目標を掲げる生徒は、現実的にかなり多くいます。1つでも2つでも2学期に内申点を上げたいと、どの生徒も狙っています。

つまり2学期のこの競争はかなり激しいものと考えてください。ですので、一歩先んじるために夏休みにスタートしておきたいのです。

でも、内申点を上げるのは簡単ではないですよね?

はい。簡単にあがるものではありませんが、取り組む価値はあります。内申点を上げるためには、まずは学習への姿勢を改善することです。

うろ覚えや理解の不徹底を自分でチェックして確実に「解ける」という感覚を身につけることも重要です。

それと同時にしっかりと2学期内容の基盤を固めることです。先取りにより「何となくわかる」というぼんやりしたレベルでなく、「教科書内容なら解ける」と言い切れるところまで引き上げる必要があります。

2学期の新出単元の『理解』はもちろんのこと、その『定着』までを目指しましょう。

この場合、勉強の質も大事ですが、まずは勉強時間をとり勉強量を増やすという努力を惜しまないことです。夏の間に主要科目を仕上げ、2学期末前は実技科目に専念できるのが理想です。

そのためには、優先的に行う学習内容の整理とそれらを「いつ行うのか」「いつまでに行うのか」といったスケジュール管理が必要になります。この夏で意識して取り組んでみましょう。

塾によってはその範囲の学習内容を確認するために、プリント類が用意されているところもありますから大いに利用して反復練習をしてください。

先輩の成功例
5教科の学習の割り振りがうまくいくように、用意したスケジュールノートに科目ごとに色分けした。この先やることや今日やったことを書き込み、教科のバランスをチェックした。

C「入試問題に触れ、受験の準備を始めたい」を選ぶ人

教科書内容の理解については手応えを感じているものの、志望校はまだ漠然としており、「半年後に迫った高校入試に備えないと、もう間に合わないのでは?」という危機感を持っている中学生も多いでしょう。

そういう人は、実際の入試問題に触れることが重要です。

高校入試問題は中学校の学習内容より発展的ですし、これから2学期に学習する分野も入試で重要なので、入試問題に挑戦するならば2学期内容の先取学習も必要です。

学校の2学期の授業や定期テストに備えるBからもう一歩進めた、入試問題を解くための先取学習ですね。

まず前提となるのは、教科によっては教科書の学習内容と高校入試問題には差がある、という実態です。

それにはいくつか理由があります。

1つは普段の学校では単元学習をしていますが、入試問題は単元をまたいだ融合問題であるということ。これは英語に強く見られます。

もう1つに高校入試特有の出題傾向があります。定期テストではそこまで重視されていない問題が、受験者の合否分岐に影響するように配置されていたりするのですね。これは特に数学で顕著です。

すると英語は単元の融合に慣れていかなければいけないし、数学ならば特有の出題を知ることが必要となります。

入試対策に最も大切なことは何ですか?

傾向を知り、そのための基礎をしっかりと固めることです。

英語の「単語や熟語」、国語の「漢字や語句」、といった語彙・語句問題は大抵の高校で出題されます。また、数学なら「計算」「数の性質」などの単元です。

入試問題を解いていくと、ついつい難度の高い問題が目についてきてしまい、地道に何度も解くことで確実な得点源にできる問題を軽視する受験生がいます。

多くの塾ではこの土台が揺らがないように、定期的に確認テストを行ってくれるところもあります。

このような土台を固めつつも、同時に入試に出題される問題の知識を学ばなければなりません。

『授業でめいっぱい吸収し、後でそれを整理する』という作業を続けます。

はじめはその分量や内容に圧倒されるかもしれませんが、慣れてくると「習う→整理する」が当たり前になってきます。

入試に臨むには、「夏期講習での授業の復習が最重要」と位置付け、秋以降の演習に備えましょう。

先輩の成功例
入試問題を解く手順をノートに貼りつけてまとめ、それを横に置きながら問題に触れて慣れていった。

D「志望校へ向かって一直線」を選ぶ人

実際の例を挙げてみましょう。数学のある大問では、(1)が中2で学習する図形の証明、(2)では中2範囲の図形の角度と中3範囲の相似の利用の融合、そして(3)は中1範囲の求積という具合に、入試問題は学年の枠を越えて出題されます。

そのため最終的には、学年の枠を取り払った縦割りの単元別の学習に進むことになります。

特にDを選んだ人は中学で学ぶほとんどの単元を終えた自負がある方でしょう。一度、志望校の過去問にチャレンジして、現時点で得点しにくい大問をピックアップして、その単元・項目が何なのかを知ることが必要です。

ただそのような融合問題を見ると、各学年での各単元や解法が複雑に絡まっているので困惑する方がおられます。その場合には、以前の学年も含めて、各単元・各テーマの理解を深めることをしなければなりません。

そこで、この夏は、全ての学年での学習内容を俯瞰して、苦手な分野・単元・項目を克服することを優先しましょう。

本人はどこが苦手なのかわかっていないようです。

最近学んだ単元だけではなく、これまでの学習全てを振り返ると、意外とどこが苦手なのかが分かりにくくなっています。

自分自身ではそこまで苦手意識はなかったとしても、実際に入試問題レベルで問われると解けないこともあります。

これを解消するには、ある程度の問題量をこなした上で「特にできていない項目」をマークし、苦手な単元をすぐにわかるように目立たせます。

できれば、その単元に関連する前の学年の単元もチェックしてみましょう。こうすれば後で洗い出す手間が省けるのと同時に、より一層自覚を持つことができます。

次に克服のためにどのような対策をとればいいか。以前の学年の単元からやり直すことや再度正確な知識を学び直すことで克服できることもあります。

しかし、考え方がこんがらがっていたり、間違えて覚えていたりしていて、自分がどこを理解し損ねているかが自分では見つけられないこともあります。この場合は、塾の先生と相談しましょう。塾の先生ならばその原因を突き止めてくれるはずです。

克服の対策としては、教科書や学校のワーク、あるいは塾のテキストを再度解き直すことを勧められるかもしれません。塾にプリント類があればそこを集中してトレーニングするなどの方法も有効です。いずれにしても『どこ』を『どうする』を明確にしましょう。

さらに学習する教科のバランスも大事です。当たり前のことですが、同じ1時間という時間制限の元で学習すれば、得意科目はどんどん進むのにかかわらず、苦手教科は立ち往生になるはずです。さらに苦手科目の学習は苦痛に感じることでしょう。

「今日はこの単元を解けるようにしよう」というように、時間ではなく内容で目標を定めるといいです。

また「自分はこれだけ勉強したのだから」と安易に満足してはいけません。もしかしたら周囲の友人はもっと勉強しているかもしれません。Dのケースでは明らかに他者との勝負です。

先輩の成功例
苦手教科を1日も休まず勉強して、秋にはそれが得意教科になった。

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4.家庭学習でもアプローチは同じ!

ここまでお話してきた内容を整理しておきましょう。

ここまでお話してきた内容を整理しておきましょう。

A:基礎固め・弱点克服

・周囲に惑わされず、自分の苦手とひたすらに向き合っていくことが大切。
・復習を丁寧にしてくれる塾や夏期講習(コース)を選ぶ。
・自習室利用ができたり、質問に丁寧に対応してくれたりする塾を選ぶ。

B:学校の成績のさらなるupで、目標の内申点に届かせたい

・とにかく反復練習などの学習量の確保が欠かせない。
・学習内容を確認するためのプリント類など塾が用意する課題の充実度を確認する。
・先取り学習を踏まえての学習スケジュールがカギになるため、親身に相談に乗ってくれる塾を選ぶ。

C:入試問題に触れ、受験の準備を始めたい

・とにかく実際の入試問題に触れていくことが大切。
・単元の枠を超えた融合問題や入試特有の出題傾向に慣れていく必要がある。
・確実に得点すべき問題の基礎固めと入試特有の問題、融合問題への対応を両立できる塾や夏期講習(コース)を選ぶ。

D:志望校へ向かって一直線

・入試で出題が想定される問題に取り組みながら、自分の苦手の分析をすることが大切。
・苦手教科、単元に時間をかけ、秋以降に持ち越さないことが何よりも重要。
・入試を想定した確認テスト等でのミスから自分の苦手を丁寧に分析し、その解消のための道筋を示してくれる塾を選ぶ。

今回は塾の夏期講習活用法という観点でお話ししましたが、もちろん塾を利用せずに自学で克服することも可能です。

その際でもA~Dでやることは変わりませんから、教科書やワーク類、あるいは市販の教材などを利用しながら、勝負の夏休みを有効に過ごしてください。

秋以降の成果はもちろんこの夏にかかっています。暑い最中ですので、体調管理に気をつけて頑張ってくださいね。

著者紹介

谷津 綱一


元進学塾数学科講師。進学塾講師時代には最上位クラスを担当し、数多くの生徒を筑駒や開成などの超難関校合格に導いた実績がある。教室長を歴任したのち、教務部長を務める。

主な著書は『高校への数学 入試を勝ち抜く数学ワザ52』『高校への数学 入試を勝ち抜く数学ワザ・ビギナーズ52』(ともに東京出版)。

趣味は和算の研究。2020年より月刊『中学への算数』(東京出版)で「新・江戸の算術に挑戦!」を連載中。著書『親子で楽しむ 和算の図鑑』(技術評論社)では、生活に根差した和算の考え方をわかりやすく解説している。

関連書籍

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