【第3回】まだ早い?それでも9月に高校入試の過去問を「見て」おきたいワケ

こんにちは。元進学塾講師の谷津綱一(やつこういち)です。私は、長い夏期講習も終わりが見えてくるこの時期には、多くの受験生の頑張ってきた姿や少しホッとした表情を思い浮かべたりします。皆さんは充実した夏を過ごせましたか?

とはいえ、あまりホッもしていられないのが現状ですね。

いよいよ中3の2学期。夏の疲れも残る2学期はやることが満載。ここからは本腰を入れ、受験モードに切り替えていきたいところです。

中3の2学期は内申点に大きく影響する期末テストがある地域も多いので、授業の予習・復習もおろそかにできない中で、入試本番に向けての準備も進めていかなくてはいけません。

では、この時期に具体的にどんな対策をしておくと良いでしょうか。それはズバリ「過去問(実際の入試問題)を見ておく」ことだと思います。

過去問に本格的に取り組むのは「11月~」という生徒が多いというデータもありますが、9月の段階で実際の問題に目を通しておくだけでも非常に価値があるのです。

なぜなら、過去問は自分の苦手や穴を可視化するツールでもあり、先行して内容や特性を知っておくことで勉強の計画が立てやすくなるからです。

今回の記事では、これを踏まえて、期末テスト対策と並行して行っておきたい「受験勉強」についてお話します。

この記事では9月に取り組みたい「受験勉強」を大きく次の3段階に分けております。

・入試問題を知る
・入試問題を分析する
・入試問題と向き合う準備をする

では、ここからはそれぞれの項目についてみていきましょう。

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1.入試問題を知る

「〇○高校へ行きたい」と憧れを口にしても、まだ入試問題を見たことがないという中3生が多くいるのも事実です。

公立高校の入試問題は、どのように知ることができますか?

各都道府県教育委員会のHPから、閲覧やダウンロードができますので活用しましょう。また、○○県学力検査問題で検索しても見つけることができます。

公立高校の入試問題は原則どの高校も同じ出題ですが、都道府県によっては「自校作成問題」「学校選択問題」「裁量問題」のように特定の高校だけが別問題になっていたり、「A問題・B問題・C問題」からの選択制になっていたりするケースもあります。

ここは注意が必要なので、まずは教育委員会のHPで確認しましょう。また私立高校は、HP上で公開していないところもあります。

それともうひとつ調べておくのが試験の制限時間です。公立高校の入試問題の特徴として「時間内に解き終わるの?」と思わせるくらい、分量に圧倒されるので気に留めておきましょう。

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2.入試問題を分析する

本人が問題をみても、何年生で習った分野なのかわからないようです。

確かにそれはあるでしょう。そこで市販の、これまでの出題をまとめた過去問題集が役立ちます。

もし過去問題集を購入するなら、複数年分の収録がある物がお勧めです。過去の出題と解説が連なっているだけでなく、出題分野や単元の表記があることが選ぶポイントです。

数学・理科・社会の分野ごとの割合や、英語や国語の出題形式。頻出の事項が丁寧にまとめられているので、入試問題全体のフレームをつかむことができます。

どうしても問題のみに目が行きがちですが、こうした本では、毎年共通したお約束のような傾向も肌で感じることができます。

ただし令和3年入試は、出題範囲が絞られている場合があるので注意しましょう。

過去問題集では分析のみならず、学習の対策も書かれています。ただしこの部分は読者対象を広くとろうとするためか、俯瞰した表現に留まっているので参考程度がよいでしょう。

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3.入試問題と向き合う準備をする

入試問題を知ることの重要性はよくわかったのですが、どこから手を付けていいのかわかりません。

第一歩を踏み出すには、模擬試験を入り口にするとよいです。9月は模擬試験を受けてみましょう。

過去問題集で実際に入試問題を解いていくのもいいのですが、頭で入試の内容・傾向を理解するだけではなく、そっくりの問題や会場の雰囲気を「体験」することから始めてみることも重要です。

もし公立高校が第一志望ならば、都道府県単位のものがよいでしょう。お住いの都道府県に大きな模擬試験があるはずです。ここでは全国区の必要はありません。また、私立高校が第一志望であれば、その高校の傾向に合わせた模擬試験があるか探してみてください。

この模擬試験は、出題傾向が実際の入試にならっているものがほとんどです。問題冊子や解答用紙、制限時間や科目順、公表されていれば配点もそうです。

また英語のリスニングや国語の記述量、数学の解法欄の設定、マークシートの出題などなど、先ほど述べた 毎年共通したお約束のような傾向 が踏襲されています。

とにかくできる限り入試本番に近づけてくれているので、受験生にはよい練習の場となります。

模擬試験を受けてみたら学校の成績とまるで違って、得意だったはずの教科の偏差値が低く驚いています。

原因のひとつに出題範囲の広さがあるでしょう。学校の定期テストのように”今習ったこと”の出題ではないので、中1や中2で学習した箇所が本当に身についているか確認する必要があります。

つまり定期テストの対策が上手な人でも、範囲の広い模擬試験ではそうはいきません。

模擬試験で思うように点数が取れなかった先輩の例をご紹介しましょう。

先輩の経験談
(1)中1の定期テストではできていたので安心していたら、この内容がすっぽり抜け落ちてしまっていた。

(2)これまで単元学習ばかりしていたので、融合されたとたん難しく感じてしまった。

経験上、これらの失敗に気づくことはとても大切だと考えています。

(1)のケースでは、もしかしたら学校の定期テストで点数を取るため、詰め込むような学習をしていたのかもしれません。

(2)は学年や分野をまたいだ出題のことに触れています。これを克服することが、私は“受験勉強”だと考えます。

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4.これから受験勉強を始める人へ

では9月はどのように勉強すればよいですか?

私なら、これまで習ったことを振り返る期間としたいと思います。

それもできれば9月は中1、10月は中2のように計画的にすることです。

先輩談(1)にあったように、中1で習ったことが定着していないケースがあります。ありますというか実際はとても多いです。

特に苦手科目であればなおさらで、語句や知識を改めて確認しておかないと、”忘れた→できない”と点数に直結してしまいます。

では、先輩たちはどのように振り返りを行ったのでしょうか。例をご紹介しましょう。

先輩の経験談
苦手科目は学校のワークを見直しました。そうでない教科は市販の参考書や問題集を併用しました。

もちろんすべての問題を解く必要はありません。パラパラとめくって強調されている部分や文字を見るだけでも、中1の頃の記憶がよみがえるはずです。

もちろん不安な人はワークや市販の問題集を再度解いてみて、”覚えている・忘れている”の確認をするとよいでしょう。

また、もうすでに受験勉強が進んでいる人へもアドバイスがあります。

最も陥りやすいのは、難しい受験問題ばかりに目が行くことです。本人はやっているはずなのに一向に成果が出ない時は、基本に立ち戻ることをお勧めします。

どんなに経験を上積みしたところで、土台がぐらついていたら何かの拍子に崩れてしまいます。このことがスランプの原因の一つになりかねません。

再度強調しますが、9月は中1内容の確認をするといいでしょう。

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5.9月の過ごし方

9月は受験勉強のスタートを切る大切な時期ですが、同時に内申点に関わる重要なテストが実施される地域も多い時期でもあります。

また、学校の学習内容もそのまま受験に通じるものばかりです。ほとんどの先輩たちは、受験勉強と学校の学習の両立に悩んでいました。

両者をめいっぱい頑張ることは難しいですし、まだそういう時期ではありません。大事なのは、現実から逃げずにこれらの学習のバランスを真剣に考えることです。

受験勉強としては、まず過去問などから『入試=ゴール』がどんなものなのか知っておく、そして余裕があれば1年生の復習に取り組んでみるのが良いでしょう。

そして、期末テストが実施される地域のお子様の場合は、内申点を確保するための定期テスト対策をまずは大切にしてくださいね。

焦って受験勉強に時間を割きすぎる必要はまだありませんので、目の前のことから着実にこなしていきましょう。

普段の過ごし方や時間の使い方を見直したり、生活リズムなどにも気を遣ったりしながらこの秋を乗り切ってください。

著者紹介

谷津 綱一


元進学塾数学科講師。進学塾講師時代には最上位クラスを担当し、数多くの生徒を筑駒や開成などの超難関校合格に導いた実績がある。教室長を歴任したのち、教務部長を務める。

主な著書は『高校への数学 入試を勝ち抜く数学ワザ52』『高校への数学 入試を勝ち抜く数学ワザ・ビギナーズ52』(ともに東京出版)。

趣味は和算の研究。2020年より月刊『中学への算数』(東京出版)で「新・江戸の算術に挑戦!」を連載中。著書『親子で楽しむ 和算の図鑑』(技術評論社)では、生活に根差した和算の考え方をわかりやすく解説している。

関連書籍

絶対に公立トップ校に行きたい人のための 高校入試数学の最強ワザ120
(かんき出版)

★2021年5月に刊行の谷津先生の著書。

★「数学で得点を稼ぎたい」という目標を持って、公立トップ校を狙う中学生のための受験参考書です。

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