私は名探偵エルキュール・ポワロ。
幼なじみで同級生のミカンと「受験研究社」という出版社に行って…
編集者の男が英単語帳に仕掛けた怪しげな〈ギミック〉を目撃した!!
本を見るのに夢中になっていた私は,
背後から近づいて来るもう一人の仲間に気づかなかった。
私はその男に英単語を覚えさせられ,気がついたら…
身体が縮んでしまっていた!
そんな設定ないでしょ!
…って,あらすじをちゃんと説明してよ!
正体を隠すことにした私は…
名前を聞かれて,
とっさにポワ太と名乗り…
もういいです。読者のみなさま申し訳ございません。
前回の記事は,以下のリンクから読んでみてください。
謎を解き明かしたポワ太とミカン。
しかし,不敵な笑みを浮かべる編集者は,
『英単語2100』にはさらなる「謎」が隠されていることを示唆する。
果たして2人は「謎」をすべて解き明かすことができるのか?
私がこだわりにこだわって作った,この『英単語2100』には,まだたくさんの〈仕掛け〉が隠されているのです。
前回解き明かした「見出し語になった単語がのちの見出し語の例文に繰り返し登場する仕掛け」だけで,学校があんな状況になるのは確かに考えにくいよね。
フフフ。今回は君たちにこれを渡しておこう。
僕たちとトランプ遊びでもしようっていうのか?
いいだろう。ちょうど「大富豪」でもやりたい気分なんだ。
僕の「灰色の脳細胞」に勝てるかな?
トランプで遊びたいだけでしょ?
って,トランプ遊びに「灰色の脳細胞」を使わないで!
このトランプは今回の〈仕掛け〉を見つけるための重大なヒントだ。
ハートのトランプ…。数字は「8」だな。
いったいどんな意味があるんだ…?
君たちにはこのページと,そして先ほど渡したトランプのカードを使って,隠された〈仕掛け〉を見つけ出してほしい。
無論,見つかるはずはないのだけれどね。
※読者のみなさんも紙面を見ながら一緒に考えてみてください。
その〈仕掛け〉は何のためのものなの?
「無理なく覚えるための〈仕掛け〉」だよ。
そんなの簡単だよ。
もう謎が解けたの?
一度にたくさんの英単語を覚えるのは難しい。
だから,1ページに載せる見出し語の数を「8」つにしているんだ。
「8」つなら何とか覚えられそうだしね。
謎はすべて解けた。
確かに「8」つくらいなら,頑張って覚えてみよう!って思えるかも。名推理よ!
1,2,3,4,5,6,7,8,9,…,12。
あれ?このページ,見出し語が「12」あるんだけど。
名探偵にも数え間違いの1つや2つあるものさ。
なんでそんなに誇らしげなの?
う~ん。数に関係がないとなると,「ハート」に意味があるのかも。
よく見たら,このトランプの「ハート」の色は,『英単語2100』の赤文字と色が似ているよね。
赤色は情熱の色。つまり,勉強する人の英単語を覚えよう!という意欲を刺激する色なんだよ。
まさに「ハートに火をつける」ってやつさ。
決まったぜ!みたいな顔してるけど,絶対違うよ?
ポワ太はちょっと色から離れて。
そういえばあの編集者は,「寝ても覚めても例文を作り続けていた」と言っていたよね。
今回の〈仕掛け〉もやっぱり例文なんじゃないかな?
確かにそうかも…。
あっ…。まさか!
そんなはずはないが,一応答えを聞いておこうか。
ポワ太の推理はあながち的外れではなかったの。確かに人間が一度に覚えられる英単語って「8」個くらいなんじゃないかな?と思う。
でも,数える場所が違ってた。数えるべきはあなたがこだわって作ったという例文のほう。
ポワ太,このページの例文の語数をすべて数えてみて。
1,2,3,4,5,6,7。
1,2,3,4,5,6,7,8。
1,2,…。
なるほど,わかったぞ。
単語の数が「8」を超えている例文がないんだ。
そう。おそらく例文を覚えやすくするために,1つの例文に含まれる英単語を「8」語程度に収めたかったんだと思う。
違う?
まさか,この〈仕掛け〉まで見破られてしまうなんて…。
なぜ,こんなことを……。すべて話してもらいますよ。
仕方ありません。この〈仕掛け〉についてお話しましょう。
ついに,紙面に隠された〈仕掛け〉に気づいた2人。
この本を作った編集者は語り始める。
この〈こだわり〉に隠された意図とは?
そしてそれを実現するまでのプロセスとは?
みなさんは「マジカルナンバー」という言葉を聞いたことがありますか?
1956年の論文「The Magical number seven, plus or minus two」にて,ハーバード大学の心理学者であるジョージ・ミラー教授がこの「マジカルナンバー」とも呼ばれる考え方を提唱しました。
ミラー教授は,保持する情報の単位を「情報のかたまり=チャンク」と呼び、短期記憶で保持できる「チャンク」の数の限界は「7±2」であると主張したのです。
近年は「4±1」であるという説も主流の1つになっていますが,やはり情報をインプットする上で,「7±2」という数字はひとつの目安と考えてよいでしょう。
例文が短すぎると,あまり文脈のない英文になってしまうので,見出し語の使用イメージが具体性のないものになってしまいます。
一方で,例文が長すぎると,単純にインプットするのに苦労しますよね。
確かに英単語帳の例文って,難しいものや語数が多いものもあって,それが原因であまり見ないようにしていたかも。
そうなんだ!
例文は,そもそもこんなの覚えられなさそうだからとスルーされてしまうことも多い。
だからインプットする価値があって,それでいてインプットしやすい例文を作ると考えたときに,「8」語あるいは「7±2」語を語数の上限の目安にするのがいいと思ったんだ。
私も『英単語2100』のときは,このくらいの例文なら頑張って覚えてみようかな?と思えたんだ。
でも,単語のインプットは「短期記憶」じゃなくて,「長期記憶」に保持していくことが大切ですよね?
その通りだ。でも,いきなり「長期記憶」に情報を保持することはできない。
情報を「長期記憶」に保持するためには,まず「短期記憶」に保持する必要がある。
その上でリハーサルを繰り返していかなければならないんだ。
リハーサルというのは?
例文や英単語を繰り返しインプット,アウトプットすることで定着を促していく行為がリハーサルに当たるんだ。
例文の学習におけるリハーサルとしては,音声のリスニングやRead & Look Upのような音読が挙げられるかな。
なるほど。その上で,例文が「8」語程度であることにメリットがあると?
例文が8語程度だと,まず「短期記憶」に保持されやすい。加えてその後のリハーサルもしやすいんだ。
例えば,次の数字を頭に入れて,数字を見ずに復唱してみて欲しい。
1890 1103
おそらくこれは難しくないと思う。
確かに,僕でもできる。
でも,この数字だったらどうだろうか。
1853 3360 1586
これは,名探偵の僕でも難しいぞ。
今,やってもらったのがまさしくRead & Look Upだ。
数字が8桁の場合は比較的簡単で,12桁になると難しくなる。これは例文の学習にも通じている。
例文が「8」語程度であることで,「短期記憶」へのインプットがしやすくなることはもちろん,リスニングや音読といったリハーサルもしやすくなる。
つまり,「長期記憶」への保持をサポートしてくれるというわけだ。
mon Dieu. それがあなたの「動機」なんですね。
でも,どうやってこんな大掛かりな〈仕掛け〉を?
急に名探偵ポワロみたいな相槌を…。
これは本当に苦労したよ。
インプットする価値がある例文にするために,その単語が日常生活でよく使われる文脈と使用頻度の高いコロケーション(語と語のつながり)を担保する必要があったんだ。
しかも,それらを担保した上で,8語程度の例文にしなければならない。
あまりにも「8」という数字に追い詰められて,締め切り間近の頃は,もう「8」という数字を見たり聞いたりするだけで怯えていたよ…。
そんなになるまで…。
例文の語数を減らすには,どんな方法が?
そうだなぁ…。
主語を簡潔なものにして,できるだけ見出し語のコロケーションや副詞節に語数を割けるようにしたことだと思う。
本を見ると分かるけど,例文の主語は I や We といった一語のものが多いんだ。
なるほど。
でも,単語のレベルが上がれば上がるほど,例文を作るのが難しくなりそう…。
『英単語2100』の3つ目の章は「中学3年生・公立高校入試レベル」という見出しなんだけど,ここの例文はとくにこだわったんだ。
自然と入試対策ができるように,例文の文脈やトピックは,入試問題の長文問題などで頻出のものを取り入れるようにした。例えばこの例文とかね。
例文を覚えると,単に見出し語が覚えられるだけでなくて,コロケーションを覚えられて,その単語がよく使われる場面や文脈も学べる。
おまけに入試で頻出のトピックまで知ることができる。とんでもない〈仕掛け〉だ…。
ともあれ,今度こそ一件落着だね。
家に帰ったら,早速例文のおさらいをしておこう。
いや,ちょっと待って。
まだ,僕には,この本にいくつか気になることがあるんだ。
フフフ…。
この本の「謎」はすべて僕が暴く!
僕たちの戦いはこれからだ!
最終回みたいなこと言わないで!
まだ終わりませんよ!続きますよ!
つづく……