身近なものに置き換える?イメージを掴みながら論説文を読もう!<前編>【ミニ読書連載第4回】

こんにちは。増進堂・受験研究社、編集部の永峰です。

当サイトにて国語の参考書を活用した「ミニ読書」の実践例を既に2つの記事でご紹介させていただいたのですが、こちらはご一読いただけましたでしょうか。


ここまでの「ミニ読書」の記事では、主に小説や随筆にスポットを当ててきましたが、こうなると残されているのが「論説文」ですね。

論説文を題材にした読解問題が苦手というお子様は多いのではないでしょうか?


私見ではありますが、中学生のお子様が論説文を読みづらいと感じるのは、極めて当然のことだと思います。

なぜなら、中学生が試験問題や参考書などで触れる論説文は、総じて「中学生をターゲットにして書かれたもの」ではないからです。

例えば、『中学 自由自在 国語』の中に池内了さんの『科学者と戦争』の一節を題材にした問題が掲載されていますが、書き出しはこうなっています。

「研究者にとって軍事研究の最大の魅力は、研究資金が豊かであることだ。」

この時点で、保護者の皆さんも「なんだか難しそうな文章だな。」「この文章に書いてあることは私には無縁そうだな。」と無意識に感じ取ってしまったかもしれません。

保護者の皆さんですらそう感じる方が多いだろうと推察されるわけですから、中学生のお子様が同じ文章に直面したらどう感じるかは言うまでもないですね。


論説文はこのように著者が想定している読者像と中学生という実際の読者との間に、小説や随筆とは比べ物にならないくらいの大きなギャップが生じるジャンルなのです。

つまり、論説文を題材にした読解問題に取り組むことは、そうしたギャップを何とか自分の力で埋めようとする行為であり、中学生の読者である自分を、その論説文が意図していたターゲットに近づけようとする行為でもあります。

しかし、これが非常に難しく、結果的に論説文を読むことが嫌いになり、さらには苦手意識を抱えてしまうことに繋がるんですね。

ですので、今回論説文を用いた「ミニ読書」では、あえて逆のことをやりませんか?という提案をしたいと思います。

ズバリ!「論説文の内容を自分に引き寄せて考えてみよう!」です。

読解問題を解く上では、おすすめしづらい読み方ではあるのですが、自分で読書をする分には何も問題はありません。

加えて、設問を解くことから離れて気の向くままに知らない語句を調べたりすることが、むしろ論説文に親しみを感じるきっかけになるかもしれません。

ぜひ、本記事をご一読いただき、たまにはこんな読み方もいいかもしれないと感じていただけたら、お子様との会話で話題にしてみたり、記事を薦めてみたりして、論説文の「ミニ読書」にチャレンジしていただければと思います。

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やっぱり「論説文」って難しい…


今回は、先ほど『中学 自由自在 国語』に掲載されている池内了さんの『科学者と戦争』の一節を引用して実践してみようと思います。

本文

企業にとっては、軍事開発は実にありがたい資金源となる。軍事開発という名目で初期投資を軍に肩代わりさせられるから、採算を考えず新製品の開発ができるし、成功すれば軍需品生産のための設備投資だって期待できるからだ。企業は軍に寄生することで、膨大な投資が節約できるのだ。さらにスピンオフに成功すれば、独占的に商売ができるし、軍需製品を輸出すればいっそう大儲けができる。日本がアメリカから高い装備を買わされているように、軍需品は売り手市場であるからだ。

(『中学 自由自在 国語』pp.52-53 池内了『科学者と戦争』より引用)

皆さん、読んでみてどう感じましたか?

私は中学生でこんなに難しい文章を読むんだ…と率直に思いました。


そもそも「軍事開発」という言葉に馴染みのない中学生には、読むことすら苦に感じられる文章かもしれません。

文章の構成を簡単に解説しますと、この一節が一番言いたいことは、最初の1文「企業にとっては、軍事開発は実にありがたい資金源となる。」であり、それ以降はそれをサポートする例示や解説になっています。

そうなると、読み取りたい情報は、「企業にとってなぜ軍事開発がありがたい資金源なのか?」という部分だと推測できます。


しかし、それ以降の例示や解説がどうも馴染みのない言葉ばかり並んでいて、イメージがしづらいと感じるお子様は多いでしょう。

そのため、何とか「身近なものに置き換え」て、理解できるように一緒に考えていきましょう。

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まずは文章を整理して、平易な言葉に「置き換えて」みよう!

いよいよ「身近なものに置き換える」に挑戦していくのですが、実はこれ、タスクのレベルとしては比較的高度なものなのです。


そのため、文章を整理するところから始めなければならないのですが、読み込んで深く理解するというよりは、とりあえず1つ1つ書き出しながら整理していくのが取り組みやすいかもしれません。

「企業にとってなぜ軍事開発がありがたい資金源なのか?」を考えるにあたって、まずは企業が軍事開発によって受ける恩恵やメリットの部分を文章中から抜き出してみましょうか。

・初期投資を軍に肩代わりさせられる
・採算を考えず新製品の開発ができる
・軍需品生産のための設備投資だって期待できる
・膨大な投資が節約できる
・スピンオフに成功すれば、独占的に商売ができる


抜き出していくと、上記のようになりますが、「初期投資」「採算」「設備投資」「スピンオフ」といった難しい言葉が並んでいますね。これについては辞書等を使いながら、丁寧に理解していきましょう。

ある程度、語彙の知識が補完できたら、上記の5つのメリットを自分なりに平易な言葉で言い換えるという作業をしてみてください。

「論説文の内容を自分に引き寄せて考えてみる」の第1歩は、難しい言葉や言い回しを自分なりに平易なものに言い換えてみるところから始めるのが良いと思います。

・最初に必要なお金を軍に肩代わりしてもらえる
・利益が出るかどうかを考えずに新しい製品を作れる
・軍が製品を作るのに必要な器具・装置・部屋などにお金を出してくれる
・利益を得るために、出さなければならない資金を少なくできる
・開発の過程で生まれた副産物を自分の企業だけで販売できる


このように平易な言葉に置き換えていくと、かなり分かりやすくなりましたね。

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逆パターンを想定してメリットとなる理由を探ろう!


ここまでは「軍事開発」の場合のメリットを整理してきました。

しかし、読み手が気になるのは、

なぜこれがメリットになるのか?

ではないでしょうか。

これを理解するためには、「軍事開発」ではない場合の新製品の開発を想定して、比べてみるのが良いと思います。

そのために、先ほど挙げた一連のメリットたちを反転させていきましょう。


・最初に必要なお金を軍に肩代わりしてもらえる
→最初に必要なお金を誰にも肩代わりしてもらえない
=最初に必要なお金を自分で払わないといけない

・利益が出るかどうかを考えずに新しい製品を作れる
→利益が出るかどうかを考えないと新しい製品が作れない

・軍が製品を作るのに必要な器具・装置・部屋などにお金を出してくれる
→誰も製品を作るのに必要な器具・装置・部屋などにお金を出してくれない
=製品を作るのに必要な器具・装置・部屋などのお金を自分で払わないといけない

・利益を得るために、出さなければならない資金を少なくできる
→利益を得るために、たくさんのお金を出さないといけない

このように、逆の意味を考えていくと、「軍事開発」ではない場合の新製品の開発がどうなるかが見えてきます。

整理しておきますと、「軍事開発」ではない場合は

・最初に必要なお金を自分で払わないといけない
・利益が出るかどうかを考えないと新しい製品が作れない
・製品を作るのに必要な器具・装置・部屋などのお金を自分で払わないといけない
・利益を得るために、たくさんのお金を出さないといけない


といったデメリットないしリスクがあるということが想像できるのです。

つまり、こうしたデメリットやリスクを回避できるのが、「軍事開発」の場合であるということも同時に見えてくるわけですね。

いよいよ次回の記事ではここまで整理してきた内容を自分の身近なものに置き換えていきます!


次回の記事は「8月20日」に公開されます。

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