こんにちは。増進堂・受験研究社、編集部の永峰です。
いよいよ夏休みがスタートということで、習い事や部活動に打ち込んだり、夏期講習に通ったり、友達と出かけたりと盛りだくさんの毎日になることでしょう。
そんな多忙な時間の中でも、少しでも家庭学習の時間をということで、弊社公式サイトの「自由自在ナビ」のページの中で、「ミニ読書」というアプローチをご紹介させていただきました。
その中で「問題を解かなくていいので、例題や問題文に出てくる小説や随筆、論説文の本文を気軽に読んでみましょう。」というご提案を1つさせていただいております。
詳細は以下のリンクからご覧ください。
とにかく読んでみるとは言っても、「どんな読み方をすれば良いんだろ…。」と逆に難しく考えてしまうこともあるかもしれません。
ですので、今回の記事では、私の方から次のような「読み方」を提案させていただきます。
それはズバリ、
親子で同じ文章を読んで、世代により生じるギャップを楽しんでみよう!
です。
長文読解で扱われる文章の題材には、最近のものもあれば、少し古いものもあります。書かれたのが最近でも、そこに描かれている時代が古いということもあるでしょう。
そうした文章に触れると、保護者の皆さんにとっては「当たり前」のことが、子ども世代には、意外と「当たり前ではない」という気づきが生まれたりします。
こうした気づきは設問を解く中では、意外と気づきにくいですし、保護者世代の人と意見を交換してみて初めて気づくことも珍しくありません。
そのため、ぜひとも「ミニ読書」に取り組む中でこうした気づきに触れて欲しいですね。
今回の記事では、とある「随筆文」を例として取り上げて、具体的な「ミニ読書」の実践例を皆さんにお伝えできればと思います。
今回は増進堂・受験研究社から発売されている『中学 標準問題集 国語読解』に掲載されている読解問題の中からある随筆文の一節を引用して、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
この文章は70歳近くになって初めて入院した筆者の母の様子を描いたものです。
入院して二、三日は、まるでお祭り騒ぎであった。夜になると十円玉のありったけを握って廊下の公衆電話から今日一日の報告をするのである。
三度三度の食事の心配をしないで暮らすのがいかに極楽であるか。献立てがいかに老人の好みと栄養を考えて作られているか。看護婦さんがいかに行き届いてやさしいか。テレビのリポーターも顔まけの生き生きとした報告であった。
(『中学 標準問題集 国語読解』p.18 向田邦子「父の詫び状」より引用)
この文章を読んで、保護者世代の人は特に疑問に感じることはないと思います。
しかし、小学生や中学生のお子様が同じ文章を読んだときに、こんな疑問を口にするかもしれません。
「なんで、電話を使うために、十円玉のありったけを握っておかないとダメなの?」
もしくは「公衆電話って何?」という根本的な疑問を口にするお子様もいらっしゃるかもしれません。
NTT東日本が2018年に調査をしたところ85%の小学生がアンケートに「公衆電話を使ったことがない、知らない」と回答したと言います。
つまり、保護者の皆さんの世代にとっては「当たり前」だった公衆電話は、お子様世代にとっては、もう「当たり前」ではなくなってきているのです。
そのため、先ほど挙げた「なんで電話に十円玉が必要なの?」という疑問は、保護者の皆さんからすると「なんでそんなことも知らないの?」と思ってしまうかもしれませんが、お子様にとってはごく普通の疑問なのです。
親子で意見を交換する中で、こんなギャップを感じたら、調べ学習のチャンスですね。
今回の事例では、「公衆電話」が登場しています。
「公衆電話」はまだまだ探せば街の中で見つけることができるでしょうから、近所を散策しながら、探してみましょう。
まずは、硬貨の投入口に目を向けてみましょう。
すると、「10円玉」と「100円玉」しか使えないことが分かりますね。
さらに、その下に書かれている注意書きを読んでみてください。
「100円玉はお釣りが出ません。」
「なるほど、100円玉を入れてしまうと、お釣りがもらえないから10円玉を入れなきゃダメなんだ。」とお子様は納得するはずです。
それから、基本的な使い方を教えながら、保護者のスマートフォンに公衆電話から電話してみるよう伝えてみてください。
すると、10円玉を1枚入れると、どれくらいの時間電話ができるのかも分かってきます。(現在の設定では10円玉1枚で60秒電話ができるようです。)
ここまでくると、先ほどの文章で筆者の母が10円玉のありったけを握りしめている理由がお子様にも理解いただけると思います。
公衆電話を使う時には、100円玉を入れてしまうとお釣りが出ないので、10円玉を使う必要がありました。(また、画像の公衆電話以前では、公衆電話の機種によっては10円玉しか入れられないものもありました。)
それに加えて、60秒ほどで通話が切れてしまうので、電話を続けるために、10円玉を継ぎ足さなければならなかったんです。
そのため、筆者の母は10円玉をたくさん握りしめて公衆電話で通話をしていたということになります。
実際の公衆電話を自分の目で見て、使ってみて初めて描写の意味が分かる。これってすごく貴重な経験だと思います。
もちろん、この公衆電話に関するくだりは設問を解く上では分からなくても問題にはなりません。
だからこそ「ミニ読書」の機会には、こうした普段ならさらっと読み流してしまうようなところでじっくりと立ち止まってお子様と意見を交換したり、考えたりする時間を設けてみて欲しいと思います。
さて、先ほどの随筆文の一節についてはお子様も納得してくれたでしょうか。
しかし、好奇心旺盛なお子様であれば、こんな疑問を持つかもしれません。
「なんで、公衆電話より便利なスマートフォン(携帯電話)があるのに、公衆電話が今でも残っているの?」
すごく良い質問ですね。これ意外と子どもの疑問に正確に答えてあげられる保護者の方も少ないんじゃないでしょうか。
ということで、これについてはぜひ一緒に調べてみてください。
以下に簡単な解説を掲載しておきますが、まずは自分で調べる習慣を大切にしてくださいね!
まず、総務省のサイトにこう書かれています。
社会生活上の安全及び戸外における最低限の通信手段を確保する観点から、市街地においては概ね500m四方に1台、それ以外の地域においては概ね1km四方に1台という基準に基づき設置される公衆電話(第一種公衆電話)をいいます。
(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/universalservice/kousyu.html)
なるほど。設置の義務があるわけですね。では「社会生活上の安全及び戸外における最低限の通信手段を確保する」というのはどういうことなのでしょうか。
もう少し掘り下げて調べてみましょう。
総務省の資料の中に公衆電話の2つの特徴が書かれていました。
(1)災害時優先電話
公衆電話は、災害等の緊急時において電話が混み合い、通信規制が実施される場合であっても、通信規制の対象外として優先的に取り扱われます。
(2)通信ビルからの給電
公衆電話は、NTT東日本・NTT西日本の通信ビルから電話回線を通じて電力の供給を受けているため、停電時でも電話をかけることができます。
確かにスマートフォンって便利ですが、「圏外」になると全く使えなくなりますよね。
地震などの災害の多い日本では、こうした災害時にスマートフォンが利用しづらくなる、もしくは利用できなくなるリスクに備えて、公衆電話を今も残してあるのです。
自宅での「ミニ読書」から始まり、そこから家を飛び出して実際の公衆電話に辿り着き、そして図書館などで調べ学習をして、最終的には災害が起きたときに公衆電話が役立つという実用的な学びに繋がっていく。
なんだか、すごく面白い「学び」ですよね。
文章読解問題に取り組む際は、こうした設問に関係のない部分はさらっと読み飛ばしてしまうことが大半です。
しかし、夏休みの「ミニ読書」では、あえて設問に関係のない部分をじっくりと読んでみていただきたいのです。
今回ご紹介したような問題集で扱われている文章でももちろん良いですし、『中学 自由自在 国語』のような厚物参考書や夏休みに宿題として配られたワークやドリルなどで扱われている文章を題材にして「ミニ読書」をしてみるのでもOKです。
そして、ぜひ疑問に思ったことや感じたことを言葉にしてみるようアドバイスをしてあげてください。自分の感覚や考えを言語化するのは、とても大切なことです。
特に、今回のような世代間のギャップにより生まれる「当たり前」のすれ違いは非常に興味深いものですし、これは国語の読解問題で扱われる題材において時々起こりうるものだと思います。
それを一緒に調べてみる中で、保護者の皆さんが考えたり、学んだりする姿勢をぜひお子様に見せてあげてください。
主体的に自ら学ぼうとする姿勢というものは、こうした経験から育っていくものです。
ぜひ親子で「ミニ読書」に取り組んで、この夏休みを実り多きものにしてください。