【第3回】褒めるって実は難しい?子どもの学びに向き合う「大人」の役割とは?

SDGsを教育活動に取り入れることで、子どもたちにはどんな変化や成長がもたらされるのでしょうか?

先週に引き続き、神田外語大学言語メディア教育研究センター長/准教授として日々、研究や実践に取り組まれている石井雅章先生にお話を伺っていきます。


前回は、先生の学生時代のご経験やそこでの学びがどう今の研究に活かされているのかについてお話を伺いました。



今回は、先生の取り組まれている実践にもっとフォーカスしたお話を伺っていきたいと思います。


SDGsないし持続可能な社会の実現という私たちの社会が抱える大きな課題を教育活動に落とし込むことで、子どもたちにはどんな成長が見込めるのか。


また、そこでの実践でどんな力を養うことができるのか、そしてその際に大人はどんな姿勢で見守れば良いのかといった、より実践的な内容にも言及していただきました。


読んでいて、思わずハッとさせられるようなお話もありますので、ぜひ保護者の皆さまにはご一読いただきたいです。


それでは、石井先生よろしくお願いいたします。

「答え」ではなく「問い」を見つける力を育てる

SDGsに関連した様々な教育活動を実践されている石井先生ですが、まずはその実践について掘り下げてお話していただきたいと思います。


これまでに取り組まれてきた実践の中で、学生たちにどんな成長や変化がもたらされたのでしょうか、具体的な例も含めてお話を伺ってみました。


SDGsの教育活動をしていて、どんな点で学生たちが成長していると思いますか?

SDGsに限ったことではありませんが、学んでいる学生たちが「たくさんの問い」を持つようになることでしょうか。

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与えられた知識をただ吸収するだけでは、なかなか問いは生まれません。

実際に手を動かしてみたり、現場に足を運んで自分の目や耳で確かめたり、実際に体験した人の話を聴いたりするプロセスを通じて、「あれ、なんでこうなっているのだろう?」「インターネットで事前に調べた感じと違うな?」「次はこうしてみたらどうなるんだろう?」などの問いが生まれてきます。

たくさんの「答え」を知っていることも無意味ではないと思いますが、たくさんの「問い」を持つことができる方が、まだ実現したことのない「持続可能な世界」をつくる担い手としては、より重要になってくると思います。

その意味では、生きる上で現実的な課題に取り組みながら学ぶP B L(プロジェクト型学習/課題解決型学習)は魅力的です。プロジェクトや課題解決という具体的な目的・目標に向かって、試行錯誤をしながら「ああでもない、こうでもない」といって継続的に学びを繰り返していくことができるからです。

覚えるだけの暗記型の繰り返しは苦痛ですが、目的に向かう試行錯誤型の繰り返しは、なかなかうまくいかない辛い部分もありますが、基本的には楽しくて時間が経つのが早く感じられるようです。


問題発見能力が身についていくということですね!

では、これまで具体的にはどんな教育活動に今まで取り組まれてきたのでしょうか?

休耕地活用プロジェクトやアプリプログラミングが主な活動です。

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私が授業で取り組んできたこの農業とプログラミングには、目的に向かって試行錯誤を繰り返すという共通点があると思います。

ただ、両者には興味深い大きな違いもあるのです。

面白いエピソードがあって、学生と一緒に米づくりをしていたときのことなのですが、ある学生がボソッと呟きました。「先生、あのベテランに見える農家さんも、まだ米づくり50回くらいしか経験していないですよね」と。

たしかにそうなんです。自然に対する人為的な営みである農業は、季節や気候、風土などに大きな影響を受けますし、米づくりは基本的に年1回しかできません。

つまり、20歳から米づくりを始めたとしても、50回経験するには70歳くらいまでかかる。そう考えるとプログラミングは、別の意味で興味深いですよね。

1日に何度も書き換えて、どんな挙動をするのか、どんなエラーが起こるのか、数をたくさん試すことができる。農業とプログラミングでは「繰り返し」の特性が異なるというわけで、これはとても興味深いことだと感じています。

ともあれ、学生が目的に向かって繰り返しながら、自分で問いを持って取り組んでいく。このような姿を見ると学生の成長を感じますね。

こういう学びのサイクルがまわり始めると教員はあまりいらなくなります。「先生、こうやってみたら、こんなふうになったんですけど。あ、じゃあ次はこうやってみればいいのか」と独り言のように自分で納得しながら学ぶようになったら、もう一人前ですね(笑)


「教えられる」「教えてもらう」という受け身的な姿勢から、生徒が「自分事化」して能動的に取り組むようになるというのは、非常に大きな成長ですね!


「答え」というよりも、「問い」を発見する能力が成長していくのが、SDGs教育活動のメリットなのだとお話していただきました。


学校での勉強や受験勉強に取り組んでいると、どうしても与えられた問題に対する「答え」を導き出すことにばかり重きを置きがちで、自ら問題意識を持って考えるという時間が少なくなってしまいます。


しかし、ここまでのインタビューでたびたび言及されているように「持続可能な世界」というのは「答えのない問題」です。


そのため、自ら問題意識を持って「問い」を見出し、その解決に向けて、自分なりに試行錯誤していく必要があるのです。


先生が取り組まれている「休耕地活用プロジェクト」は、休耕地を活用する「しくみ」をつくり、地域の資源である農地を放置することなく維持していこうとする活動です。


休耕地とは、社会のシステムからはみ出してしまった農地ですから、それを何とか再びシステムの中に組み込めないかと自分なりに「問い」を立て、その解決を模索していくこととなります。


こういった取り組みの中で、だんだんと学生たちが「先生いらず」になっていくというのも1つ面白い傾向だと思います。


自ら学ぶという姿勢が身についていることの証明とも言えますね。

持続可能な社会の実現に求められる力とは?

先ほどは、先生の教育実践の中で、学生たちにどんな成長や変化が見られたかを具体的なエピソードも踏まえて、お話していただきました。


では、そんな実践に取り組まれている石井先生は、子どもたちにどんな力を身につけて欲しい、どんな力を身につけて社会で活躍してほしいと考えているのでしょうか。


その点について、お聞きしてみました。


実際に指導されていて、今後、どのような力が社会で活躍する上で重要になってくると感じていますか?

期待外れかもしれませんが、「こういう力が重要です」という決定的なものはないと思います。

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「〇〇力が重要です」と切り取ると、たいていの人はそればかりを目指してしまうというのもちょっと問題かな、と日頃から感じています。社会学者なのでどうしても捻くれてしまいがちです(笑)

人がどのような力を発揮するかは、その人の有する能力にもよるのはもちろんですが、その人の置かれた状況、タイミング、他の人との兼ね合いなど様々な要因によって変わってきます。

ですので、「こういう力」という決定的なものはないと思いますが、強いていうならば、「自分がどのような力を発揮できる(できた)のか」という自身の実感と、「あなたはこういう力を発揮できる(できた)よね」という他者からの承認が重要になってくると思います。

そして、これらの実感と承認が単なる言葉によるのではなく、学びのプロセスを通じて得られたものであることがポイントです。

私が「学びに対する信頼」と呼んでいるのは、まさにこのことになります。

自然や他人、社会に関わりながら、自分自身の知識や経験を膨らませ、そこから浮かび上がる問いを持って、継続的に自然や社会に関わり続けるというのが学びのプロセスです。

この学びのプロセスを通じて、自分自身が発揮した力を実感し、他者からの承認を得られることで、学ぶこと自体に対する悦びと信頼が生まれるのだと思います。

例えば、休耕地活用プロジェクトにしても、アプリプログラミングにしても、一つのプロジェクトの中で、それぞれの学生が発揮する力はかなり多様です。地元の酒蔵と直談判して日本酒製造の約束に漕ぎつけるかなりアグレッシブな学生もいれば、炎天下の畑で黙々と雑草をむしる粘り強さがある学生もいます。

斬新なアプリのアイディアをどんどん出してくる発想力豊かな学生もいれば、プログラムをじっと観察し、誰もが気がつかなかったバグや問題点を見つけだす集中力に富んだ学生もいるのです。

人類にとって到達したことのない持続可能な世界の構築に向けて、これらの多種多様な力が「すべて等しく」重要なのです。その意味では、自身の有する力を信じられること、他の人が有する力を尊重できること、そのような力が求められるのだと思います。


人類未踏のビジョンを実現していく上では、あらゆる人の持っている力や技能が等しく重要なんですね。


社会をシステムの複合体として考える視点の重要性を訴えていた石井先生ならではの回答ですね。


目の前の具体的な事例に絞れば、おそらくそこで活きる力・活躍できる力というものは、ある程度定まってくると思います。


しかし、その背後に膨大なシステムやネットワークが広がっているのが「社会」ですから、各セクションにおいて求められる力も必要とされる力も変わってくるのが当然です。


また、SDGsの掲げる社会像は、未だ人類が実現していないシステムですから、そこでどんな力が求められるかを「大人」視点で判断してしまうのは、かえって子どもたちの視野を狭めてしまうことになりかねません。


そのため、石井先生が述べられたように、多種多様な力を持っている子どもたちが、それぞれに自分の力が役立つと信じられるようになっていくことが大切なのでしょう。

そうなると、保護者としては、どういった視点で子どもたちと向き合っていくのが適切なのかという新たな疑問が膨らんできましたね…。

保護者に求められる「認める姿勢」

先ほど、子どもたちが自分なりに自分の持っている力を信じられるようになることが重要だというお話がありました。


では、それを実際にお子様の学びに落とし込んでいくためには、子どもそして保護者の皆さまに、どんな姿勢が求められるのでしょうか。


自発的・能動的に学ぶ姿勢を子どもたちが身につけるために、小中学生からでもできることを教えてください。また、その際に保護者はどんなことに留意すればよいのでしょうか?

オトナの言うことを聴きすぎないことでしょう(笑)というのは言い過ぎかもしれませんが、あながち冗談ではありません。

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というのも、子どもたちは本来、様々なものに関心を持ち、触れて、問いを持つ力を持っているからです。

先ほどの話に照らせば、子どもは元々学びのプロセスを回しているということです。

そうなると、子どもたちの「学びに対する信頼」を高めるためにできることは、オトナが子どもの学びの邪魔をしないことです。

ポジティブな言い方に変えるならば、子どもたちが学びのプロセスを通じて力を発揮できていることが実感できるようにフォローすること、そして力が発揮できていることを他者として承認してあげることになります。

親や教員はどうしても、こちらが期待している力の発揮できているかどうかを基準にしてしまいがちです。

その力が運よく発揮できている時はいいのですが、そうでない場合は否定的な反応をしてしまうことによって、子どもは学びを通じて力を発揮できた実感に乏しく、他の人からの承認も得られません。

それが繰り返されることで、学ぶこと自体に対する信頼感も失っていくのです。

ですので、子どもの学びのプロセスをオトナが邪魔をしない、ということがとても重要になってくるのだと考えています。


なるほど、保護者としては自分の期待した成果や結果、成長だけを褒めるという姿勢にならないよう気をつける必要があるんですね!


自分が子どもだった時の頃を思い返していただけると、イメージが湧きやすいかと思いますが、子どもの頃って人から褒められると嬉しくなって、その行動を繰り返したりしますよね。


例えば、朝、両親の代わりにごみを捨てに行って、それを褒められたことがきっかけで、毎日の習慣になったというような経験はありませんか?


特にお子様の年齢が小さいときには、周囲の大人からの「褒められる」という経験が、非常に重要な意味を持っています。


だからこそ「褒める」ときには、保護者の皆さま自身の求めるものや理想をお子様に押しつけ過ぎないようにすることが大切になります。


そのため、子どもたちが自分なりに力を発揮できたというプロセスを認めてあげる姿勢を取るようにしたいですね。



否定することもそうですが、それと同時に「褒める」という行為も、その方法と姿勢次第で、子どもたちの可能性を狭めてしまう可能性があることは忘れないようにしたいものです。

学びのヒント

石井先生、ありがとうございました。


今回の先生のお話の中での「学びのヒント」としては以下のことが挙げられると思います。


学びのヒント

(1)自分なりの「問い」を見つけられるようにしよう!
(2)「大人」視点で子どもたちに必要な力や姿勢を決めつけないようにしよう!


石井先生がインタビューの中で繰り返し述べられているように、SDGsがゴールに掲げる社会像へのたどり着き方には、「答え」がありません。


そのため、与えられた課題に最短経路で答えを導き出す力というよりは、自分で問題を発見し、そこに自分なりの答えを模索していく力が重要になってくると予測されます。


先生が、いくつかの実践の中で、学生たちにそういった力が身についたと実感したと語っていることからも、SDGsを教育活動に取り入れるのは、そういった力を育て、様々な社会問題を「自分事」と捉え、取り組む姿勢を涵養するうえで効果的と言えるでしょう。


そして、「答え」がないからこそ、そこへの到達方法を模索する過程で「求められる力」を「大人」が決めてしまうと、かえって子どもたちの視野や可能性を狭めてしまう可能性があります。


ですので、お子様の学びをサポートする際には、保護者が期待する理想や成長を押しつけるのではなく、お子様が自分なりに力を発揮できていることを認めてあげるようにしたいですね。


今回のお話は、「SDGs×教育」に限らず、ご家庭で保護者の皆さまがお子様の学びをサポートするうえでも役立つ内容だったように思います。


次回は、ご家庭での学びにSDGsを取り入れるには?という観点で、より実践的な内容を伺っていきます。

おすすめの本

今回の記事に関連したおすすめの参考書・問題集をご紹介させていただきます。


関連書籍

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歴史人物できごと新事典○歴史に登場する人物や現代の著名な人物を取り上げ,その人物に関連する歴史上の重要なできごとを解説した人物・できごと事典です。

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学校での歴史の勉強では、1人の人物について掘り下げて勉強することはないかもしれません。


しかし、それぞれの人物の背後にエピソードや偉業があり、そこに興味を持って追求していくと、学びの楽しさが生まれます。


そんな子どもたちの「もっと知りたい!」に応えるのが、この『歴史人物できごと新事典』です。マンガやイラストを見ながら、楽しく学べるのが本書の強みでもあります。


そして、子どもたちが自ら興味を持って、歴史上の出来事や偉人について知ろうとしたという小さな学びの過程を保護者の皆さまが褒めてあげることで、自ら学ぶ姿勢に繋がっていくのではないでしょうか。


また、増進堂・受験研究社では、この本に登場する偉人が時空を超えてトークバトルを繰り広げる『オレ以上の偉人がこんなにいるワケない』という動画シリーズを始動させました。


声優事務所のアトミックモンキーとコラボした本格的なボイスアクトも魅力で、お子様の勉強の合間にも適したコンテンツになると思います。


現在、そのプロモーションビデオを公開中ですので、ぜひご覧ください。


今回の賢者

石井 雅章

神田外語大学言語メディア教育研究センター長 / 准教授
千葉大学大学院修了。博士(学術)。
タブレット等のICTやデータを活用した新しい授業実践や学習環境づくりに取り組んでいる。また、環境社会学では「持続可能な開発目標(SDGs)」の社会実装に向けた研究や講演、ワークショップを幅広くおこなっている。

石井雅章先生の詳しい情報はこちらから