AI技術の発達で既存の職業がどんどんなくなっていくとも言われますが、これからはどんな仕事が生まれ、求められていくのでしょうか?
今週も引き続き、有限会社セメントプロデュースデザイン 代表取締役を務め、「ものづくりプロデューサー」としても活躍されている金谷勉先生にお話を伺っていきます。
4月1日に『企画~流通をツナグ!工場と職人とモノづくりをプロデュースする現場とは』と題しまして、金谷先生にオンラインセミナーを実施していただきました。
その際、平日の午前中の時間帯にもかかわらず、同時視聴者数40人ほどの方にご覧いただきまして、進路について考えておられる学生の方々にも多くご参加いただきました。
そこでお話させていただいた内容をより多くの人に届けたいという思いもありまして、今回はそんなセミナーの内容を全4回に分けて、皆さまにお届けできればと考えております。
この記事は第4回となります。前回は自分の「やりたいこと」を見つけるためにという観点で、先生の学生時代のエピソードや今の道を選んだきっかけについてお話していただきました
最終回なる今回は、セミナーの参加者から挙がった質問について金谷先生にお答えいただいた内容をまとめました。
印象的な企画を作るためには…?これからの社会はどうなっていくの…?皆さんの気になる内容が盛りだくさんですので、ぜひ最後まで読んでいただけますと幸いです。
それでは、金谷先生よろしくお願いいたします。
さて、オンラインセミナーの中で最初に挙がったのは、いかにして企画を魅力的なものにするか、相手に印象づけるか?というものでした。
これは非常に気になるポイントですし、企画・デザインに携わられている先生にぜひとも聞いておきたい内容ですよね。
自分の企画したものを相手に印象に残るように伝えるにはどうすれば良いでしょうか?
よく言われるのは、自分の両親や友人に1分くらいで話して「えっ、それなに?」と食いつかれるような企画は、「印象に残る」ものですよね。
例えば、新しいパン屋が出来ましたと言われても、それだけでは皆さんもあまり関心を持ちませんよね。
ただ、100種類のカレーパン焼いてんだよ!と言われたら、興味を持ってくれる人がいると思います。
企画を形にしていく中で、だんだんと形式にとらわれて見えなくなっていくこともあるのですが、最初に自分がやりたかったことは何なのかをきちんと伝えていくということは、まず大切ですね。
ですので、意外と皆さんが知っているものの方がプロデュースしやすいと思いますよ。
知っているものの方が、驚かせたり興味を引いたりするような価値づけがしやすいということですよね。
その通りです。ですので、逆にタピオカを地球で1番最初に売ってくれと言われた人はすごく大変だと思いますよ(笑)
だってカエルの卵みたいで、美味しそうじゃないですよ…。自分だったらどう売るかすごく悩みますね。
飲んでみろとしか言えませんよ(笑)
そうであれば、こんにゃくをどう売るかの方が元々認知度がある程度あるので、売りやすいと思います。
大切なことは、単純なものの構成要素が何なのかをばらして考えてみることだと思うんです。
テレビ番組などで取り上げられて話題になっている商品やお店、サービスを分解してみると、どこに「斬新さ」があるのかが見えてきますよ。
素材が面白いからなのか、それを提供している場所が変わっているからなのか…。
こう考えていくと、先ほどのカレーパン100種類の店も、パン屋というものはたくさんあれど、「100種類売っている」という価値づけがされているということに気がつきますよね。
すると、この店をテレビなどで知った人はどうするかというと、店名ではなく「パン屋 100種類」といったキーワードで調べることになりますよね。
これがまさしく「企画を印象づける」ということなのだと思いますよ。
なるほど。印象に残るキーワードを入れていくということですね。
今ある商品やサービスを分解してみて、その構成要素を別のものの構成要素と掛け合わせてみるというのが、新しく企画していく上では大事になってくるのかもしれませんね。
近年は、産学連携ということで、企業と学校が連携して新しい製品を開発するという機会も増えてきました。
その一方で日本の学校では学校や学生同士の横の繋がりの中で、何かを生み出していくという動きが弱いようにも感じられます。
金谷先生はそんな状況についてどう考えておられるのか?ということが次の質問として挙がりました。
企業と教育現場の産学連携のようなものはありますが、学校間の連携等について何か考えていることはありますか?
めちゃくちゃあります!
それは、どの学齢になりますでしょうか?高校…大学ですか?
例えばですが、美術系の大学ですと、どちらかと言うと右脳型人材が多い傾向にありますよね。
ただ、その一方で文系の学部でも経済学部や商学部となると左脳系の人材も多いんですよ。
では、この2つの学校、学部を連携させてみましょう。
経済・商学部の学生たちはプランニングが得意ですが、どちらかというとデザインして創造して形にしていくという点では不得手にしている人も多いでしょう。
そういった学生が美術系大学の学生たちと組めば、そこを補完でき、新しい製品や技術が生まれる可能性が出てきますよね。
文科省が立ち上げかけていたプロジェクトでも、理系の学生とデザイン系の学生を組ませて、新素材を使った製品開発をするというものがありました。
こういった連携はこれからもっと増えていくべきですよね。
なるほど。日本における産学連携や学校間の連携について、何か問題点などは感じていますか?
日本はそういった連携がものすごく「下手」ではないかと個人的には感じています。
つまり研究を「売る」に結びつけられる人がいないんですよね。
研究者自身に、開発もやってそして「売る」ところまでやってを求めるのは酷な話じゃないですか。
であれば、ビジネス系の学部の学生と連携して、販売の方法を模索するというのは、1つ解決策になり得ると思っています。
まさしくその通りだと思います。
昨年日本でワールドカップが開催されたことで話題になりましたが、ラグビーの日本代表って非常に日本に帰化した選手が多いですよね。
これについて、そういった帰化した選手なしで日本がここまで強くなれたか?と聞かれて手を挙げる人ってまずいないと思います。
つまり、多様性を持ちこむことでチームは強くなっていくのではないでしょうか。
似たような人材の足し算ではなくて、多様な人材がかけ算でチームになっていくことで、新しいものが生まれるということですよね。
そうなんですよ。だからこそ「ワンチーム」というのは、同質な個人のチームではなく、多様性のある個人のチームということなのだと思いました。
金谷先生は「ものづくりプロデューサー」として技術や職人を繋ぎ、新しい価値を生み出す仕事に取り組まれています。
そんな先生は、これからの社会をどう捉えているのかを、セミナーの最後にお伺いしました。
金谷先生は、これからの社会はどう変化していくと思いますか?
若い人たちに向けてのメッセージでも良いですし、逆に今の社会が抱えている問題や課題などがあればそちらについてもお話を伺ってみたいと思います。
う~ん。なるほど。
例えば、六本木ヒルズが出来たときは、ITバブルの時代だったんですよね。その次に、ミッドタウンが出来たときに、もう1度日本の良さを思い出そうとする流れが出てきた。
そして、その後の日本がどうなっているのかを考えてみた時に、ITもITの業界だけで成立しているものではなくて、どちらかというと、地域の中へと入っていったように感じています。
ITのシステムを地域の中で、活かしていこうという動きですよね。
ですので、ものづくりも含めて、これまで当たり前のように存在していた世の中のシステムや仕組みがどんどんと変化していくのがこれからの10年なのかな?と考えています。
病院や銀行すらも今後、その仕組みや位置づけは変わっていくんじゃないでしょうか?
今、自分としても銀行と組んで、地域の人たちのための「ものづくりゼミ」を実施するなどして、新しい銀行と地域の企業の関わり方を模索に取り組んだりもしています。
なるほど。
銀行を中心にして、地域の企業や産業の未来を考えていくことに取り組んでいるとのことでしたが、当然課題となるのは後継者問題じゃないかと思います。
このあたりについてはどう考えておられますか?
やはり商人と職人の関係性も変わってきてしまったので、これからそれを再編成していく必要がありますよね。
従来は、商いをまとめる人(プロデューサー)がその地域にいて、その地域内で分業的に成立していました。このヘッドを務める人たちが地域からどんどんと減ってきています
だからこそ、その仕組みを改変して、組みなおしていかなければなりません。
しかも、こういった人材が育つには時間がかかります。ただ、未来に向けて、人を繋げていくことができる人を育てていかなければならないと思います。
これからは人と人、企業と企業、技術と技術の「ハブ」になれる人が求められるようになってくるのかな?と感じました。
やはり地域に目を向けてみると、そういった従来的なコミュニティがバラバラになってしまっていますよね?
というよりは、「商人」側の人たちが日本で作らなくなったということだと思います。
安い労働力を求めて、海外に生産の場がどんどんと移されていきましたよね。
「売る」側の人たちがどんどんといなくなってしまったわけですね。
そうです。ですので、残された職人さんたちが自分で作って、自分で売らなくてはいけなくなってしまったわけです。
従来のシステムでは、もう「ものづくり」の現場が維持できなくなっていますね。
ただ、言い換えると、こういった状況が「ものづくりプロデューサー」のような新しい仕事が生まれ、求められるきっかけにもなっています。
出来上がったものを流通に乗せて、販売して、お客様のところに届けるまでのプロセスを「デザイン」する人がまさしく今の職人さんたちのコミュニティで求められていたわけですよね。
そう思うと、今の社会が抱えている課題の分だけ、これからどんどんと新しい職業が生まれていく予感がしますね。
自分もそう思います。
例えば、Amazonや大きな家電量販店が発達する一方で、逆に地域の小さな電気屋さんがこれから再び求められるようになってくるんじゃないでしょうか。
日本ではどんどんと高齢化が進行していますから、それに伴って「コンシェルジュ」的に地域の人たちをサポートする役割が必要とされるはずです。
金谷先生、ありがとうございました。
今回の先生のお話のポイントをまとめると以下のようになるかと思います。
(1)これから従来的な社会のシステムや仕組みが大きく変化していき、それに伴って、これまでにはなかった職業や仕事が生まれる。
(2)新しい企画を考えるときに、既存のものやサービスの構成要素を分解して考えてみよう。
(3)多様な人材が掛け合わせることで、新しい商品やサービスの可能性が生まれる。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が現在の人間の仕事の多くが人工知能に取って代わられるという予測を出したことも話題になりました。
私たちの社会は、これから大きく変化していき、それに伴って現在は存在していない職業や仕事がどんどんと生まれていくことになるでしょう。
金谷先生の「ものづくりプロデューサー」としての仕事も、従来の社会システムの変容の中で、求められるようになり、生まれた仕事の1つです。
どうしても子どもたちは、今ある職業の中から自分の将来を想像しがちですが、その職業というものが不安定な時代になっています。
そのため、まず自分が「やりたいこと」は何なのかを明白にした上で、それを実現するための職業という位置づけをきちんと持っておく必要があると思います。
「やりたいこと」が明白であれば、どの職業を選んだとしてもブレることはありませんし、金谷先生のように「新しい仕事」を見出すこともできるでしょう。
全4回のインタビュー記事の中で、「世の中には簡単に分類できない職業がたくさんあるんだ!」「社会の変化に伴ってどんどんと新しい仕事が生まれていくんだ!」という感覚が伝われば幸いです。
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私たちは日本に住んでいますが、自分の国の各地域の特徴を意外と知らないということがあると思います。
金谷先生のように、社会の既存のものを組み合わせて新しいものを生み出していくためには、今の社会についてまずは知っておく必要があります。
『中学 100%丸暗記 白地図&用語』は中学生としての試験勉強対策の役割も果たしつつ、日本の社会についてもっと深く知れる1冊となっております。ぜひお手に取ってみてください。