最近「対話的学び」という言葉が注目されていますが、これってなんで大切なんでしょうか?
今週も引き続き、早稲田大学人間科学学術院教授の松居 辰則先生にインタビューをしていきます。
まず、10月9日に発表されました「ラーニングイノベーショングランプリ2019」にて、松居先生の研究室が優秀ラーニングイノベーション賞を受賞されたようです。おめでとうございます!
研究の内容は、ロボットが、人間が安心して勉強できる雰囲気を提供してくれるというものでした。
まさに人の安心感やモチベーションといった「感性」というキーワードに絡んだ研究だと思います。
さて、前回の記事では、先生のご専門である「感性情報科学」について概要とその面白さをお話しいただきました。
今回は先生の学生時代のお話を中心に伺いながら、どんな学びや経験、エピソードがあって、先生の今のご研究につながっているのかを探ってみようと思います。
それでは松居先生、よろしくお願いいたします。
前回の記事でも、松居先生が「感性」と人工知能を絡めた研究をされているという点についてお話しいただきました。
では、一体どんなご経験やきっかけがあって、人工知能に「感性」をもたらそうとする研究に取り組むようになったのでしょうか?
その点について、まずはお聞きしてみました。
どうして「感性情報科学」という分野を選ばれたのですか?エピソードなどあれば教えてください。
人が学ぶということ、どのように知識を得るのかということについて、ずっと関心があったからです。
生徒と実際に向き合うご経験をされてきたからこその「気づき」があったんですね。
人工知能が「知性」という観点で、発達を遂げていく中で、それでは教師の役割を代替することは難しいと松居先生は感じておられました。
この「気づき」があったのは、先生が子どもたちに教えるというご経験を実際にされていたからに他なりませんよね。
みなさんは「校正」と「添削」という言葉がどう違うのかを言葉で表現することはできますか。
前者は単純に「誤りを正す」という意味であり、後者は添えたり、削ったりしながらより良いものを目指すという意味です。
学校や塾の先生は、しばしばこの「添削」を行ってくれているわけですが、これをAIに代替させようとした時に、問題となるのが「感性」です。
「校正」であれば、正しいデータと比較して正誤を判定していけばよいので、AIが「知性」の部分でカバーすることができます。
しかし「添削」となると、添削者は解答者がどういう意図や気持ちでその回答を書いたのかということを感じ取り、その上で、より良いものになるように指導してあげる必要があります。
そのため、人間の先生が何気なく行っていることなのですが、これを「感性」が未発達なAIにやらせようとするのは、まだまだ現実的ではないのです。
松居先生は、子どもたちと向き合う中で、そういった教育における「感性」の役割を肌で感じ、ご自身の研究に結びつけていきました。
理論や技術を学ぶことは大切ですが、経験や体験から得られる「学び」が、そこに思わぬブレイクスルーをもたらしてくれるんですね。
先ほどの回答の中で、学生時代に塾講師のご経験があるというお話もありましたよね。
そこで、現在、感性情報科学の世界でご活躍されている松居先生がどんな学生時代を過ごされたのかについてお聞きしてみました。
先生は学生時代、どのような生徒でしたか?
基本的には「真面目」だったかと思います(笑)
とにかく目の前のことに一生懸命でしたね!
朝まで勉強の教え方について語りあかしたというエピソードから、先生の教育に対する熱い思いが伺えます。
このエピソードが素晴らしいのは、他の人たちと語り合いながら、教育についての理解を深めていったという部分だと思います。
それも塾で子どもたちにどうやって学びを提供していくのかという、現場主義的な議論をしていたというのは、現在の先生のAI研究にもつながっています。
AIを研究の分野に身を置いていても、根底には塾講師時代に培った教育に真面目に向き合う姿勢があり、常に教育現場を意識して研究を続けているのでしょう。
また、議論をすることはとても重要で、一人の生徒の学習の仕方を多角的に考えることができます。
それによって先生の研究の基礎となる人間の認知過程について深く探究されたのかもしれませんね。
他の人と語り合う、議論することの重要性を感じさせられるエピソードだと思いました。
先ほどは、学生時代の熱いエピソードをお話しいただきました。
第2回の最後の質問ということで、学生時代の勉強で、今の研究にも役立っていること、つながっていることについてお聞きしてみようと思います。
今役に立っている、学生時代の勉強は何ですか?
恩師である寺田文行先生の素朴な質問によって現実の課題と向き合う心構えを身につけることができました。
寺田先生との出会いがあって、広い視野を持って研究と向き合えるようになったんですね。
このエピソードは非常に学ぶべき点が多いですね。
特に、自分が学んでいること、研究していることを全く知らない人の率直な意見が思わぬ「ブレイクスルー」をもたらしてくれるという点ですよね。
当事者より傍から見ている第三者の方が状況を正確に判断できるという意味で「岡目八目」なんて言葉もあります。
もちろん専門知識を豊富に有した人が集まって、より現実的な議論をすることも当然大切なことです。
しかし、その一方で少しその専門や学問からは距離を置いている人に意見を聞いてみると、意外にも本質的なことに気がつかせてくれることもあるのです。
「アクティブラーニング」という言葉が台頭し、重要性が高まってきていることもありますが、議論や対話の機会は大切にしてほしいですね。
松居先生、ありがとうございました。
今回の先生のお話の「学びのヒント」としては以下のことが挙げられると思います。
(1)他者と議論・対話し、物事を多角的に捉えてみよう!
(2)理論や知識に専心するのではなく、「現場」や「社会」を意識しよう!
まずは、他人と議論したり、対話することで、自分にはない「気づき」をたくさん獲得していくことが重要です。
身近なところだと、学校の道徳の授業なんて面白いですよね。
自分は「こういう心情だと思う」「こうすべきだと思う」と考えて、それが最適解だと思っていても、他の人の意見は全然違うものだったりします。
その時に感じた「!」が、1つの物事に多様な見方があるんだということを教えてくれるのだと思いますし、その繰り返しが子どもたちの「感性」を豊かにしてくれます。
家庭でも、親子で同じ本を読んでみて、感想や意見を交換してみるというだけでも、ちょっとした「!」をお子様に提供できるのではないでしょうか。
また、勉強や研究をしているとつい理論や知識に傾倒してしまい、「現場」を疎かにしてしまうことがあります。
今自分が勉強してることが、社会・世界と繋がっているんだということを常に忘れないようにしたいですね。
例えば、社会科の勉強であれば、白地図の参考書を持って、実際にその場所を訪れてみて、景色や気候、特産品を実際に感じて、味わってみることで「生きた知識」を得ることができます。
今回、松居先生のお話の中であった「学び」をぜひお子様に還元してあげてください。
今回の記事に関連したおすすめの参考書・問題集をご紹介させていただきます。
賢くなるボードゲーム Clew8
これからの時代に求められる次の「3つの力」を伸ばすことを目的としたゲームです。
・変化する状況に戦略的に対処することで,思考力を鍛えます。
・駒の位置を論理的に把握させて,空間認知能力を磨きます。
・常に様々な状況を同時に考えることで,集中力を養います。
直接、学習に関わることではなくても、何か一つの共通の話題で家族で話をすることも非常に重要なことですね。
例えば、ドイツでは、家族で夕食後にボードゲームをしながらゲームの戦略について話し合ったり、全く関係のない一日の出来事について話し合ったりする時間をとる家庭が多いそうです。
たまには、家族でボードゲームでもいかがですか?
また、最後に少し話題に挙げた白地図関連の本を1冊ご紹介させていただきます。
中学 100%丸暗記 白地図&用語
○本文にはゆかいなマンガとゴロ合わせの「イラゴロ暗記」があり,重要語を楽しく覚えられるようにしています。
○赤刷りの重要な地名や産物・用語に消えるフィルターをのせれば,文字が消え,空欄補充問題に早変わり。
暗記するという勉強法はテストに向けては大切ですが、覚えているだけで「使えない知識」になってしまう可能性もあります。
この本はポケットサイズになっておりますので、旅行やレジャーの際などに持って行って、実際に掲載されている内容を確かめたり、自分で見て学んだことを書き込んだりという使い方もできますよ。