【第4回】感性情報科学は社会にどんな変化をもたらすの?松居先生が考える可能性とは

感性情報科学は私たちの生きる社会にどんな変化をもたらすのでしょうか?


今週も引き続き、早稲田大学人間科学学術院教授の松居 辰則先生にインタビューをしていきます。


松居先生のインタビューは今週が最終回となります。


前回の記事では、先生のご専門である「感性情報科学」の分野で求められる力やそれを養うための方法についてお話しいただきました。


詳しくは以下のリンクからご覧ください。



最終回となる今回は感性情報科学と社会とのリンクについてや、「感性を表現する」ことの意味についてなど、幅広く質問していければと思います。


それでは松居先生、よろしくお願いいたします。

■ 感性情報科学は私たちの社会に何をもたらす?


これまでのインタビューでは、感性情報科学がどんな研究なのかということについてもお話しいただきました。


それを踏まえて、今後この研究がどんな形で社会や教育に活かされていくのかについてお聞きしてみました。


感性情報科学はどのように社会へと還元されているのですか?

業界問わず、多くの関心は寄せられています。感性は今後のキーワードですね。

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感性に関しては、幅広い企業から興味を持っていただいています。というのも人の行動には感性が関わるわけで、そういう意味で私たちの生きている社会は「感性社会」とも言われます。

企業は、サービス開発や道具の機能開発について大変興味を持っておられます。

「使い勝手が良いよね」というだけじゃなく、「これ、なんか良いよね」という、機能だけでは語れない商品の「良さ」をどうユーザーに伝えていくのかを課題しているわけです。

ただ、企業の方では、興味は持っているのですが、どうやっていいか分からない、というのが現状のようですね。

問合せを頂いても、私も「こうやればいいよ」と明示しにくいのが感性についての研究でもあるんです。今までの研究成果や他の研究者の本などは紹介するのですが。

例えば自動車メーカーであれば、車の機能だけじゃなくて、「カッコいい」ということが求められているという点が1つ課題になってきます。

他にも化粧品会社。もちろん化粧品ですから肌に影響があるのかという観点もありますが、見た感じが見る人にどのように影響があるのか、という観点でも考えています。

そのような視点に立った商品開発は、業界を問わず行われていて、感性はキーワードになっています。

例えば「カワイイ」という言葉がありますが、感性工学会の中には「カワイイ研究会」というものもあります。カワイイは研究のキーワードになりうるんですね。

また、「もふもふ」「ふわふわ」みたいなオノマトペを研究している先生もいますよ。


確かに商品の機能性や性能(効能)とは違うレイヤーで私たちは「何か良い」という感覚を抱いていますよね。


私たちは商品の見た目ももちろんですが、まずパッと見た時の「印象」や「感じ」といった第一印象にすごく左右されますよね。


例えば、コンビニなどで缶コーヒーやペットボトルコーヒーがたくさん並んでいるのを見かけますが、その際に決め手となるのは、意外と缶やボトルの見た目だったりします。


それはまさしく私たちが「感性」の部分で商品を判断しているという側面があるからです。


また、この研究が進んでいけば、もちろん商品開発もそうですが、教育にも活かせそうですよね。


例えば、勉強が苦手な子どもを「何かこのドリル良い。」と思わせて勉強に向かわせることができるような教材を、感性の研究から導き出すことができれば、役立つはずです。


以前に、小学校の現場で、勉強が嫌いな子どもが漢字ドリルに取り組むのを頑なに拒んでいたんですが、恐竜のイラストが描いてある漢字ドリルを手渡すと黙々と取り組み始めたという瞬間を目撃したことがあります。


これも漢字ドリルという本質は変わっていないのですが、恐竜のイラストが与える「感じ」が子どもの感性を刺激して行動を変化させた例ではないかと考えられます。


このように、感性を研究し、そのメカニズムを明らかにしていくことは多くの面で社会に恩恵をもたらしてくれることでしょう。

■ 感性を表現する術は「言語」だけにあらず


幼・小学教育の段階で、特に「感性」を表現するということが1つ重要視されるのではないかと思います。


ただこれについては重要とされながらも、まだまだ方法論としては確立されていなくて、 子どもたちが活動の中で無意識的に養っていくものというような扱いになっている印象を受けます。


そこで、松居先生に「感性」の表現についてお聞きしてみました。


感性を「表現する」ことって、どういうことなのでしょうか?

言語による表現だけでは限界があります。あらゆる感覚を総動員して表現することを追求しています。

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特に子どもさんだと、自分がもった感覚を表現しにくいこととかありますね。また、大人もそれをどのように受け止めてあげるべきなのか、という課題もあります。

いただいた質問は本当に重要です。

言語というモダリティ(方法・手段)だけで感性を表現することには限界があります。

例えば、色を使ってみたりとか、触覚を使ってみたりとか、あらゆる感覚をつかって感性を表現するツールなり方法論なりを開発しなければならないな、というのが我々研究者の課題です。

自分の感じているものを、色で表現したり、音で表現したり、絵で表現したりすることが重要だと思っています。

先ほど触れましたオノマトペは本来言語に属するのですが、どの感覚に近いオノマトペなのかということを研究することもあります。


なるほど。私たちは無意識に意思表示・自己表現の手段は「言語」だと思いがちですが、それ以外にもたくさんの手段があるわけですね。


感情を色で表現すると聞いて、昔読んだレオ・レオニ『あおくんときいろちゃん』という絵本が頭に浮かびました。



この本は、顔や手足のある人間が登場するわけではなく、ただ抽象的な色がキャラクターとして登場します。


それにも関わらず、絵本を読んでいると、何となく色たちの嬉しい感情や寂しい感情が読み手にまで生き生きと伝わってくるのです。

色というものが人の「感性」を表現することができるという可能性を感じさせてくれる1冊でした。


私たちは、相手に何かを伝えるとなった時に、まず「言語」を用います。もちろんコミュニケーションの中心にあるのは「言語」でしょう。


しかし、松居先生もご指摘されているように、子どもたちは言語だけでは自分の「感性」の部分をうまく表現できないことがあります。


また、大人がそこに向き合うことができないと、子どもたちは次第に「感性」を表現しなくなってしまうのではないかとも懸念されます。


だからこそ、子どもたちがダイレクトに自分の「感性」を表現できる方法を模索していくことは、非常に重要な研究なんですね。


■ 「感性」は国境や人種を越えて


近年、グローバル化により国や人種を越えて協働する機会がどんどんと増えています。


その中で「感性」はどんな役割を果たすことになるのか?について最後に松居先生の見解を聞いてみたいと思います。


よく、音楽は民族を越える、というようなことが言われます。感性は人種を越えてどれほど共有できるのでしょうか?

まだ研究は始まったばかりですが、これから感性の国際比較などの研究を通じて社会に貢献することを考えています。

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我々はまだ力不足でそこまでの知見を得れているわけではないのですが・・・

知性と感性ということでいうと、大雑把にいってどちらが重いかというと、圧倒的に感性の方が重いわけです。何かを始める時にはまず感性から始まります。感性が働き、理性が働き、知性が働きます。

おっしゃる通り、音楽は世界共通になりうる。

あるいは、オリンピックに皆が注目するのも、競技内容だけではなく、熱気などの「すごさ」なんじゃないかな、と思うんです。

すごい人は見るからに「すごい」ですよね。こういう感性の部分が働いている仕組みをこれからも研究していこうと思っています。

例えば、先ほども出てきました「カワイイ」という感性ですが、これの国際比較なんかも研究していきたいなと思っています。

知性というものだけで考えていくと、民族や人種で齟齬が起きる。

感性も、もちろん齟齬はあるんだろうけれども、知性よりも共通していることが多いのではないかな、と思っています。人間にとって、知性よりも感性の方がもっと原初的なものだと思いますので。

その意味で、感性研究は国際的な場面でも良い方向に資すると思われます。


なるほど。感性が世界をつなぐ「共通言語」のようなものになり得るかもしれないということですね!


外国の人とコミュニケーションを取る際に言語だけでなく、彼らの社会や文化、思想や宗教といったことについても知っておく必要があるという考え方があります。


これは、異なる背景を持つ人たちと理解し合うために、その「知性」の部分を理解しようというアプローチですね。


その一方で、先ほどの質問にもあった「音楽」や松居先生が挙げられた「スポーツ」は、そういった「知性」の部分を越えて人と人を結びつける可能性を秘めています。


例えば、街で英語の歌詞の音楽が流れているのを聞いた時に、歌詞の意味もそれを歌っている人が誰なのかすらも分からずに、気持ちが高揚したり、切ない気持ちになったりすることってありませんか?


これも音楽というものが言語や国を越えて人間の原初的な「感性」の部分で何かを感じ取っているからこそなのだと思います。


日本で大きな盛り上がりを見せ、多くの「にわかファン」を生み出したともいわれるラグビーワールドカップ2019。


多くの人がラグビーのルールすら知らない状態で、テレビ越しに様々な国の選手たちが闘志を燃やし、ぶつかり合う姿に「すごみ」を感じ、惹かれていきました。


グローバル化がどんどんと進む世界で、国や人種を越えた人の結びつきが生まれる中で、「感性」の重要性はどんどんと高まっていくことでしょう。

■ 学びのヒント


松居先生、ありがとうございました。


今回の先生のお話の「学びのヒント」としては以下のことが挙げられると思います。


学びのヒント

「感性社会」が到来しており、グローバル化の中でますます「感性」の重要度が高まっていくことが予見される。


これまではやはり「知性」の部分が重視される傾向が強かったわけですが、冒頭に挙げたヒット商品の話もそうで、「感性」という観点がどんどんと求められるようになってきました。


それ故に幼・小学校の頃から自分の「感性」を表現する機会を持っておくことは大切です。


松居先生も仰っておられますが、まだまだ「感性」については研究で明らかにされていないことも多く、子どもたちの感性の表現、訓練も無意識的な部分に委ねられてしまうケースも多いように感じられます。


方法論としてはまだまだ確立されていませんが、それでも子どもたちに体験や経験を提供することで、「感性」を表現するチャンスを与えてあげることはできると思います。


ぜひ、今回のインタビューを読んだことをきっかけに、お子様の「感性」を豊かにするという方向性で「学び」について改めて考えてみてください。

■ おすすめの本


今回の記事に関連したおすすめの参考書・問題集をご紹介させていただきます。


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今回の賢者

松居 辰則

早稲田大学人間科学学術院教授
早稲田大学理工学部(数学科)卒業、同大学院博士後期課程修了(博士(理学))
寺田文行ほか共著『情報数学の基礎――暗号・符号・データベース・ネットワーク・CG』サイエンス社、1999年。
稲葉晶子ほか共著『インターネット時代の教育情報工学2――ニュー・テクノロジー編』森北出版、2001年。
人工知能学会編『人工知能学大事典』共立出版、2017年。

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