【第1回】嶋田総太郎先生に聞く!認知脳科学の面白さとその可能性とは?

テレビなどでも「脳科学」という言葉を聞く機会が増えてきましたよね。


さて、今週からは新しい賢者の先生にお話を伺っていきたいと思います。


インタビューさせていただいたのは、明治大学理工学部電気電子生命学科で教授を務めておられる嶋田総太郎先生です。


先生は、脳の情報処理メカニズムを解明するために日々研究に取り組まれておられます。


脳科学の現状,可能性,おもしろさを伝えるテレビ番組等が増えてきて、これをきっかけに、脳科学というものが子どもたちにも親しみのあるものになってきたことは1つ良い傾向なのかもしれません。


しかし、それに伴い面白さや注目されることだけを目的にしたような、いわゆる「ニセ脳科学」と呼ばれる非科学的な情報も氾濫するようになってきました。


そんな昨今だからこそ、本気で脳科学の分野と向き合い続け、実績を残し続けてこられた嶋田先生のお話を聞ける機会というのは、本当に貴重だと思います。


全4回のインタビューの中で、先生のご専門の話からそこで求められる力や技能などについて伺い、最終回では、昨今テレビなどで話題になっている「脳科学」に対して先生がどんなご意見をお持ちなのかといった少し突っ込んだ質問も投げかけていきます。


まず、1回目となる今回は、先生のご専門について分かりやすくご解説いただきます。


それでは、嶋田先生よろしくお願いいたします。

■ 認知脳科学ってどんな研究?


まずは、嶋田先生にご自身のご専門についてお聞きしてみようと思います。


「人の心をつくる脳のメカニズムに迫る」という賢者理念でご紹介させていただきましたが、一体どんな研究に取り組まれているのでしょうか。


嶋田先生はどんな研究をしているのですか?

人間の心が脳のどのような働きによって生み出されているのかを探求する「認知脳科学」という分野です。

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認知脳科学は、最新の脳活動計測装置などを用いて、人間が何らかの活動をしているときの脳活動を計測し、心と脳の働きの関係を明らかにしようとする学問分野です。

他にも脳活動計測をしない心理学実験や脳活動損傷患者の認知機能の研究、コンピュータを用いたシミュレーションモデルの研究なども行います。

私自身は普段は脳波計やNIRS(近赤外分光法)と呼ばれる装置を用いて、自己を認識する脳の働きや、他者とコミュニケーションしているときの脳の働き、またその応用分野としてVRやメディア視聴時、教育場面での脳活動なども調べています。


確かに普段の生活の中で、自分の活動に際して脳がどんな働きをしているのか?って意識することはないですよね。


私たちは脳の働きを意識することなく生活していますが、逆に言うと脳の働きを意識することができれば、私たちはより効果的に活動することができるということでもあります。


東京大学大学院の開一夫先生が中心となり「認知脳科学に基づくEdTechの実証実験」が行われたというニュースが話題になりました。


これは簡易な脳活動計測装置(fNIRS)を用いて、生徒の学習中(授業中)の脳の状態をリアルタイムで確認し、先生がそれを確認して指導に役立てることができるという内容でした。


「アクティブ・ラーニング」という言葉が注目され、対話的・活動的な授業が推進されていますが、対話や議論を授業に取り入れれば、それで本当に「アクティブ」と言えるのでしょうか?


そういう疑問に対して、脳活動を計測することで、表面的な形だけの「アクティブ」ではなく、脳が「アクティブ」な状態になっている学びを目指すことができるというのは、認知脳科学の教育分野における有意性ですよね。


このように認知脳科学は、これまで意識してこなかった行動と脳の活動のリンクを明らかにしていくことで、本当の意味で「アクティブ」な学びを目指していく上でも重要な研究なのです。

■ 認知脳科学の研究で何が変わるの?


先ほどは、先生のご専門である認知脳科学の概要についてお話していただきました。


続いて、その研究のどこに魅力や面白さを感じているのか、またその研究がどんな変化を起こすのか?についてもお聞きしてみましょう。


認知脳科学の面白さや魅力について教えてください!

まさに「己を知る」ことの愉しみ、ということに尽きます。

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私たちは自分が思っているほど自分のことをよくわかっていません。

あのときなんであんなことをしてしまったんだろう、なんであんなことを言ってしまったんだろうと思うことは誰にでもあると思います。

また、いちいちそんな風に振り返ることはなくても、普段の自分の行動のすべてをきちんと説明できる人はいないでしょう。

なぜなら、私たちの行動の多くは無意識の脳の働きに依っているからです。

もちろん人間ですから、自ら意識して行動することもできます。

でもそれと同じくらい、いやそれ以上に、私たちは無意識のうちに複雑な行動を手際良くしていたり、あるいは意識して行動しようとしてもその通りにうまくできなかったりするわけです。

認知脳科学は、脳の働きを知ることによって、そのような人間の行動を説明しようと試みる学問なのです。


人間の神秘を解明していくような、そんなロマンがある学問ということですね!


人間の脳の無意識の働きを解明していくことができれば、AI(人工知能)などの分野も大きな進歩を遂げることになるでしょう。


「人工知能の父」マービン・ミンスキーは、最も解明が難しい人間のスキルは「無意識」だと言いました。


私たちの脳において意識に上ってくる情報というものはごく一部で、その背後には無意識の作用が働いています。


無意識の領域の解明が進められてはいますが、まだまだ未知の領域が膨大なのです。


最近では、京都大学が食物に対して無意識の領域で感情を感じる脳内メカニズムを解明したというニュースが話題になっていました。


これにより例えば、ダイエット(減量)をしようとしている人に対して、食物に対して無意識下で掻き立てられる感情を抑制するようにアドバイスするなどの対策がとれるようになりますよね。


ある意味で「人間らしさ」を司るとも言える無意識の解明が進めば、人工知能の分野も含めて、様々な分野でブレイクスルーが起こりそうです。

■ 様々な知見を持つ人と交流せよ!


ここまでは、先生のご専門の概要や魅力についてご解説いただきました。


第1週の最後に、認知脳科学がどんな学問とリンクしたものなのかについてお聞きしてみました。


関連する分野との、似ているところ・違うところを教えてください。

認知脳科学は、心理学や脳科学、哲学、人工知能とも重なる分野です。

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認知脳科学のベースである「認知科学」は学際的な学問分野だと言われます。

「国際的」がたくさんの国が集まって何かをするという意味であるのと同じように、「学際的」というのはたくさんの学問分野の研究者が集まって一緒に議論・研究を行うという意味です。

例えば、心理学、脳科学、哲学、人工知能、人類学、言語学、精神医学、経済学など様々な分野が含まれます。

そういう意味であえて境界を作らないのが認知科学の特徴でもあります。

認知脳科学は、認知科学の中でも脳のメカニズムの理解に軸足を置いた立場だと言えますね。

人の心のはたらきを理解するためには、非常に多くの分野の知識や見解を必要とします。

ですから多くの人々と意見を交換し合い、様々な分野の知見から自分の学びや理解を深めていくことが大切です。

分野が違うというのは問題に対する切り口が違うということだと言えますが、人間を理解したいという共通の目標を持っているので、そういった方々との議論は実りのあるものとなることが多いです。


なるほど。様々な分野の研究者が意見を交換しながら、研究が進められているんですね。


一般的に「研究」と聞くと、1人で黙々と研究対象に向き合い続けるというような、ステレオタイプ的なイメージを持ちがちですが、実際はそうではありません。


むしろ専門や分野の垣根を越えて、様々な人と交流し、新しい知見を得ることで、それを自分の研究に還元していくことが重要になってきます。


他の分野の研究やアプローチを知ることで、思わぬ発見や知見を得られることも少なくないでしょう。


境界線を引いてしまうのではなく、全ての学問はつながっているのだという考えの下、様々な人とコミュニケーションを取ることはとても重要です。


その中でも嶋田先生は「共通の目標を持った人との建設的な議論」を重視されています。


何の目的もなく、とにかくコミュニケーションを取ることが重要だからと、ただやみくもに人と話をしていても、実は自分の成長にはつながっていないのかもしれません。


大切なのは、「とにかくたくさんの人と」という意識も大切ですが、自分と同じ理念や目標を持った人と濃い議論・意見交換をすることの重要性を軽視してはいけません。

■ 学びのヒント


嶋田先生、ありがとうございました。


今回の先生のお話の「学びのヒント」としては以下のことが挙げられると思います。


学びのヒント

(1)アクティブ・ラーニングを考えていく上でも脳の働きを知ることは重要

(2)有意で建設的な議論の大切さ


昨今、アクティブ・ラーニングという言葉が注目されていますが、とにかく議論や対話をすれば良いというものではありません。


脳が「アクティブ」になっていない状態の形だけの対話や議論では、「対話的な学び」「深い学び」にはつながりません。


そういう意味でも、脳についての研究が進み、人間の脳と活動のリンクが解明されていけば、教育もより良いものになっていくと考えられますよね。


また、それと関連した話でもありますが、嶋田先生は「有意で建設的な議論」の大切さをお話されていました。


つまり、ただボーッと相手と話すということではなく、お互いが相手に自分の考えや理念を伝えあい、そして発見や知見を得られるような議論や対話が重要ということです。


家庭でも、例えば本を読んだり、映画を見たりしたときに「楽しかった」「面白かった」「よく分からなかった」という会話で終わってしまうと、これは有意とは言えません。


そこから一歩踏み込んで、なぜ面白かったのか?なぜ分からなかったのか?と疑問を立て、保護者の皆さまがお子様と意見を交換しながら、その疑問の解明に取り組んでみるというのは、身近でできる1つの「建設的な議論・対話」になるのではないでしょうか。


日常生活の中で、お子様の脳を「アクティブ」にするシーンを取り入れていけると良いですね。

■ おすすめの本


今回の記事に関連したおすすめの参考書・問題集をご紹介させていただきます。


関連書籍

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どんな力が重要で、そのためには保護者がどんな姿勢をとるべきで、どんな働きかけをすべきなのかといったノウハウがたくさん掲載されています。


ぜひ一度お手に取っていただきたい1冊です。

今回の賢者

嶋田 総太郎

明治大学理工学部電気電子生命学科 教授
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科 博士後期課程修了(博士(工学))。東京大学大学院総合文化研究科にて特別研究員(学振PD)等を経て、現職。
著書に『はじめての認知科学』(新曜社、2016)、『認知脳科学』(コロナ社、2017)、『脳のなかの自己と他者-身体性・社会性の認知脳科学と哲学』(共立出版、2019)など。

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