どういう経緯で、先生は「脳」にまつわる研究の道を選んだのでしょうか?
さて、今週も引き続き嶋田総太郎先生にお話を伺っていきたいと思います。
先生は、認知脳科学の研究者で、脳の情報処理メカニズムを解明するために日々研究に取り組まれておられます。
前回の記事で、認知脳科学の概要についても分かりやすくご解説いただきましたので、ご参照ください。
脳科学の分野ってかなり勇み足で扇動的なトピックがメディアで挙がることがあります。
例えば、以前に「チョコレートを食べると脳が若返る」というトピックが話題になったことがありました。
しかし、後にこれが被験者の少ない実験であり、論文以前の仮説段階の事象であることが判明し、政府もこの発表が不適切だったと撤回する始末でした。
脳というものはまだまだブラックボックスですから、それ故にこういった科学的根拠に乏しいような情報までもが広まって、信じられてしまう恐ろしさがあります。
ただ、これからの人間の発達には欠かせない分野であり、解明することができれば、私たちの生活を一変させることもあり得ます。
そういった分野の最前線で嶋田先生は、脳の活動と人間の行動の関係について研究されています。
今回はそんな先生が、どんな学生時代を過ごしたのか?どんな勉強をしていたのか?といったお話を伺ってみようと思います。
それでは、嶋田先生よろしくお願いいたします。
現在、認知脳科学の研究をされている嶋田先生。
先生はどういった経緯でこの分野に辿り着いたのでしょうか?
学生時代のご経験なども交えながらお答えいただきました。
どうして認知脳科学という分野を選ばれたのですか?エピソードなどあれば教えてください。
うーん、巡り合わせ、ですね(笑)。初めからこの分野に行こうと思っていたわけではありません。
学んできたことが自分のオリジナリティに繋がるという視点が非常に面白いです。
このお話は以前に小金丸先生が賢者のインタビューの中でお話してくださった「自己哲学の確立」にも繋がっている内容ですね。
嶋田先生は、心理学に興味があり、最終的にはそれに関連した学問に辿り着きましたが、そこに至るまでにプログラミングや人工知能など様々な分野の研究・勉強をご経験されました。
その点で、目の前の興味を抱いたことを学び続けた結果、気がつくとそれがオリジナリティの確立に繋がっていたんですね。
先生は理工学部で物理科を専攻しようとしていましたが、定員の関係でそれが叶わず、電気工学科へ進みました。
しかし、そんな遠回りも確かに今の研究に活きているということです。
遠回りに見えることでも、一周回ったことによってより広い視野が得られたり、多角的に物事が理解できたりすることがあるのだと嶋田先生のお話から伺えたように思います。
先ほど、いろいろな分野や学問を巡り巡って最終的に自分が最初に興味を抱いていた心理学の世界に戻ってきたというお話を伺いました。
次に、先生が学生時代にどんなことに興味を持って、打ち込んでおられたのかをお聞きしてみました。
学生時代はどんなことに打ち込みましたか?
学生時代はとにかくバレーボールに打ち込んでいました。。
チームで1つのことに取り組む経験、そして1人で黙々と1つのことに取り組む経験。この両方を経験したことが今の研究に生きているんですね!
前回の記事の中で、嶋田先生が多様な知見を持った人と対話しながら、研究を進めていくことの大切さをお話してくださいました。
分野・学問の垣根を超えて、協働し、新しい発見に辿り着こうとする先生の「チームで」の意識は、バレーボールに打ち込みチームプレイの大切さを知っていたからこそなのかもしれません。
その一方で、大学時代にはパソコンに向き合い、黙々とプログラミングに没頭したという対照的な経験もされたようです。
この2つの経験が先生の「有意で建設的な議論」の重視に繋がっているように思います。
専門性を養っていくには、やはり1人で黙々とその学問に向き合い続けるという時間は必要になるでしょう。
しかし、そこから新しい知見を得て、次のステップに進むには、そういった専門性を持った人たちが集まって、協働していくことが求められます。
「個人で」「チームで」どちらでもパフォーマンスを発揮できる人こそが、これからの社会でまさに求められるのではないでしょうか。
先ほど、先生の学生時代のお話を伺いました。
第2回の締めくくりに、学生時代を振り返って、どんな勉強や学びが今の自分に活きているのかをお聞きしてみようと思います。
学生時代の勉強において、どんな姿勢が大切でしょうか?
好きになったことはとことん追求することではないでしょうか。
科目に当てはめられることだけが「勉強」じゃないんですね。
もちろん先生も前置きされている通りで、受験に合格するためには学校で扱われる「教科」について優先的に学ぶ必要があります。
それは大切なことですが、お子様がそういった「科目」以外のことについて調べたり、学んだりしている時に、保護者の方が「他事をせずに勉強しなさい。」といった声掛けをしてしまうと、お子様の「勉強観」「学習観」を狭めてしまう可能性があります。
つまり受験やテストに直結することだけが「勉強」なんだと錯覚してしまう危険性があるということです。
そういった姿勢が身についてしまうと、後に受験やテストから解放された際に「勉強」しない、できないという状況に陥る可能性があります。
ぜひ、保護者の皆さまには受験やテストに向けた勉強を優先させつつも、それ以外の子どもたちの純粋な好奇心や興味から生まれる「学び」を否定しない立場でいてあげて欲しいと思います。
嶋田先生、ありがとうございました。
今回の先生のお話の「学びのヒント」としては以下のことが挙げられると思います。
(1)「個人で」「チームで」どちらも大切な姿勢であること
(2)「科目」と呼ばれるものだけが勉強ではないということ
まず、1つ目の「個人で」「チームで」の両方の姿勢が大切だという点です。
専門性をとにかく高める、学問をものにするためにはある程度「個人で」黙々と追求していくことは大切でしょう。
その一方で、そういった「個人で」黙々と学習し、専門性を身につけた人たちが集まって「チームで」対話し、議論することで、1人では辿り着けなかったような知見や発見に辿り着くことができます。
どちらが重要という話ではなく、どちらも重要なんですね。
そして2つ目の「科目」だけが勉強じゃないという点ですね。
受験・テストという観点で見ると、やはり教科学習が重視されるのは当然です。
しかし、それだけが勉強だという考え方を保護者の皆さまが子どもたちに押しつけてしまわないように気をつけたいものです。
好奇心や興味から生まれる「学び」を否定しないようにし、それを尊重してあげることで、子供たちには真に「学ぶ姿勢」というものが身についていくことでしょう。
また、否定しないように自然に教科学習へと還元していくという手法もあるかもしれません。
例えば、ゲームに熱中している子どもがいたとして、「ゲームの仕組みについて勉強しない?」と声掛けをしてゲームプログラミング教室に連れて行ってみる。
プログラミングには、英語力や論理的思考力が求められるという話があります。
そこからプログラミングに興味を持った子どもに、それとなく英語や数学といった科目の必要性を説明してみるというアプローチもあるのではないでしょうか。
「科目」以外の勉強は「遠回り」だと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、嶋田先生もご経験されたように、「遠回り」が自然と自分の子どもたちオリジナリティを生むこともあります。
とにかく子供が興味を持って学ぼうとしている姿勢を「否定」してしまうことだけは避けたいですね。
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