【第4回】脳科学的に「頭がいい」状態は本当に存在するのか?

脳科学的に「頭が良くなるための方法」といった情報を目にしますが、これってどれくらい信用できるものなんでしょう?


さて、今週も引き続き嶋田総太郎先生にお話を伺っていきたいと思います。


嶋田先生へのインタビューは今回が最終回となります。


これまでの記事では、先生の専門である認知脳科学の概要や学生時代のご経験についてお聞きしてきました。


詳細は以下のリンクからご確認ください。



前回の記事では、認知脳科学の世界ないしこれからの社会で求められる力や技能についてのお話を伺いました。


最終回となる今回は、近年脳科学に関する情報があふれておりますが、そういった情報とどう向き合い、どう子どもたちの学びに活かしていくのかを先生に質問をしながら、考えていきたいと思います。


脳科学的に「頭がいい」ってどういうこと?「脳にいい」と言われるものどうやって付き合っていくべき?といった少し掘り下げた質問をしましたので、必見の内容になっていること間違いないです。


ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。


それでは、嶋田先生よろしくお願いいたします。

■ 脳科学的に「頭がいい」状態はある?


皆さんは何気なく「頭がいい」という表現を用いることはありませんか?


では、もう少し掘り下げた質問をしてみましょう。


皆さんは「頭がいい」という表現をどういう意味で用いていますか?


学校のテストで高得点を取ることなのか、それとも頭の回転が速くコミュニケーション力に長けていることなのか・・・。


テレビやインターネットの情報を見聞きしておりますと、「脳科学的に頭がいい」という表現も出てきますが、そういう状態って本当に存在するのでしょうか?


疑問を感じる人も多い点だと思いましたので、嶋田先生にお聞きしてみました。


素朴な疑問ですが、「頭がいい」と言われる脳状態というのはあるのですか?

これは難しい質問ですね(苦笑)

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まず「頭がいい」というのがどういうことかの定義が難しいですね。

テストで良い点数を取るのが良いのか、世界を変えるような大発明をすることなのか。問題を解くにしても、膨大な知識を必要とする問題なのか、一瞬のひらめきが物をいう問題なのか、あるいは問題を解くスピードが重要なのか、時間がかかっても間違えないことが重要なのか。

正解がある問題には強いけれど、正解のない場合には手も足も出ないという人はいませんか?その逆もいそうですね。あるいは運動神経がとても良い人や、コミュニケーション能力が高い人はどうでしょうか?

脳は神経細胞の複雑なネットワークから成っていますが、一方で、部位ごとにある程度機能が決まっています。

例えば、視覚能力は後頭葉、運動能力は前頭葉の運動野が主に司っています。

そしてそこからそれぞれ高次の処理をする領野へと続き、さらにそれらが他の機能を持つ領野とネットワークを形成しています。

一つ一つの能力を見れば、それを司る領野が解剖学的に発達している(たとえば運動の練習をした人は運動野の大脳皮質が厚くなるとか)というような報告はあります。

また最近では領野間の結合の強さを見ることもできるようになってきています。そのような計測技術は確実に進歩しているので、何かに秀でている人の脳の構造の理解もこれから進んでいくのだと思います。

ただし何をもって「頭がいい」というのかは、それとは別によく考えなければいけませんね。


私たちは何気なく「頭がいい」という表現を用いますが、確かに少し掘り下げて考えてみると、すごく不確定要素が多いことに気がつきますね・・・。


日本の社会では、やはり偏差値が重視されてきたこともあり、「成績がいい=頭がいい」と一元的に捉えられてきた節があります。


しかし、学校での成績があまり良くなくとも、社会に出てから活躍している人はたくさんいますよね。


「成績がいい人」というのは、テストや試験で高得点をとれる人ですから、言わば正解のある問題に取り組んだときに力を発揮する人ということになります。


しかし、前回の記事で嶋田先生がお話されていたように、社会に出てからはむしろ正解のない問題に自分なりの答えを出していくことが求められるようになるのです。


そう考えると、「頭がいい」という表現が実に不確定要素に満ちたものであることに気がつかされますし、1つの尺度でもってそれを測ることが難しいことも分かります。


テレビなどを見ていると、「頭がいい子を育てるための脳科学」というようなフレーズも耳にしますが、「頭がいい」ということ自体もまだまだ議論の余地があるわけで、そんな状況で「頭がいいという脳状態」を探し出すことはナンセンスなことかもしれません。


そのため、脳を鍛えることを考える前に、まずは目指すべき教育目標・育成したい力を明確にしてそれに至るための学習方法をしっかりと考えていくことが重要だと改めて理解しました。

■ 脳にも「個性」はある?


私たちは誰しもが「個性」を持っています。


では、その「個性」というものはどこから来るものなのでしょうか?


そこで、嶋田先生に脳科学的に「個性」の存在を解明することができるのか?という疑問をぶつけてみました。


人には個性というものがあると思うのですが、個性も「脳」の計測で分かるものなのですか?

それはまさに現在の脳科学研究のホットトピックの一つですね。

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これまでの脳科学の研究の多くでは、脳は「一般的に」どのような機能を持っているのかが調べられてきました。

つまりいろいろな人の脳活動を計測して、その「平均」から
一般的な脳機能が議論されてきたということです。

これは脳のことがほとんどわかっていなかった時代にはとてもよくフィットする研究の進め方でした。

しかし、脳のおおまかな処理機構が解明されてきた現在では、むしろ注目を集めているのは、個々人の特性を脳活動から予測できるか、という問題です。

ここではむしろ平均からの乖離、すなわち個性が重要になってきます。

最近では、AI技術が進歩してきたので、多くの人のデータをクラスタリングすることによって、その人の傾向性(個性)を割り出すことができるようになってきました。

例えば、何もしていない休息時の脳活動の特徴から、ある課題を解くときに、その人がどのような解き方をするのかを予測することができることなどが報告されています。

今後、こういった研究が進めば、一人ひとりの個性に合った教育方法の開発などができるようになることが期待できます。


なるほど。個々人の脳活動の傾向に最適化した教育ができるようになる可能性があるんですね!


近年、教育界でも「アダプティブ・ラーニング」という言葉は1つのトレンドとなっています。


個々の生徒の学力や学習進度に合わせて、学習内容や学習のレベルを最適化し、提供するというアプローチです。


長年経験を積んだ教員であれば、肌感覚的にそういった最適化を学校現場で行っているということはありますが、非常に強く個人に依存した状態でした。


そこに、発達したAIやICT技術が入ってきたことで、そういった個人の能力や深度、傾向の分析が人の手を離れ、それまで教員の技量に委ねられていた「最適化」のアプローチが一般化されつつあるのです。


嶋田先生のご研究されている脳科学の分野において、脳活動の個性が測定できるようになると、「アダプティブ・ラーニング」はさらに上の次元に到達するように思われます。


例えば、どうすれば勉強に対するモチベーションが高まるのかという観点で、最適な「動機づけ」を脳科学的に導き出すことができれば、保護者の皆さまの「子どもが勉強に集中できなくて・・・。」という悩みの解決につながります。


嶋田先生のお話の中にあった休息時の脳活動と、その後の勉強への取り組みの脳活動の関連性も非常に興味深いですよね。


これが明確になれば、逆算的に勉強への取り組みを改善するための最適な「休息」が導き出されるかもしれません。


教育について考えていく上でも、脳科学ないし脳認知科学の分野は、わくわくさせてくれるようなトピックに満ちていますね。

■ 「脳にいい」という表現との付き合い方


近年、人々の関心が高まってきたこともあり、脳科学の知見がトピックに挙がる機会は増えています。


しかし、ここまでの嶋田先生へのインタビューからも「脳にいい」ということが実に曖昧でぼんやりとした表現であることが理解できます。


最後に、近年話題になっている「マインドフルネス瞑想」について先生の見解を聞きつつ、私たちが「脳にいい」と言われるものとどう付き合っていくべきかについても考えてみましょう。


よく「マインドフルネス」とか「瞑想」ということで、自らの心を落ち着かせたりする方法が話題になります。こういう活動やトレーニングで脳の機能を高めたりできるのでしょうか?

マインドフルネス瞑想に関する脳科学研究は日々増えています。

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実は私の研究室でもマインドフルネス瞑想の研究を始めており、トレーニングの前後で脳活動が変化することが確かめられつつあるんです。

アンケートなどによる本人の主観評価でも違いが出ていますが、それを裏付ける脳活動データも集まってきています。

少し前に米国のIT系企業でマインドフルネス瞑想が取り入れられるようになったことなどもあり、瞑想の効果に関する研究は世界的に増加傾向にあります。

その多くは瞑想の効果に肯定的で、脳活動の変化について言及したものもあります。集中力が上がることや、思考の脱線(マインドワンダリング)が減少すること、またうつ病などにも効果があることが報告されています。

まだ研究の数が少ないので今後の検証が必要ですが、米国では瞑想を行った生徒のほうが行わなかった生徒よりも成績が良くなったという報告もあります。

もしかしたら家庭や学校などで朝や休憩時間、就寝前などに取り入れると良い効果があるかもしれません。


脳科学的な視点から見ても、「マインドフルネス瞑想 」の有効性が認められつつあるんですね!


テレビ番組などで紹介される「脳科学」には科学的に十分な裏付けが為されていないものも混ざっています。


そんな中で近年、1つのトレンドになっている「マインドフルネス瞑想」は、脳科学研究による裏付けが進んでいるようです。


このように世間的に「脳にいい」と言われ始めたものが、本当に科学的な根拠に裏打ちされていて、妥当性があるものなのかという点については確かめてみる必要がありますね。


脳科学の知見は、効果的に取り入れていけば、子どもたちの学びに有効に作用するものもたくさんあると思います。


現に「マインドフルネス瞑想」はGoogleのような大きな企業も研修で取り入れていると言われています。


嶋田先生もこれについて、子どもたちの学習にも良い効果があるのではないかということをお話してくださいました。


テレビやインターネットには、様々な「脳科学」の知見が溢れていますが、それが本当に信頼に足るものなのかを吟味し、その上で補佐的に取り入れていくと効果的だと思います。


しかし、そうであってもまずは教育目標や育成したい力・技能を明確にして、それを実現するための学習方法やフローを検討することが大切です。

■ 学びのヒント


嶋田先生、ありがとうございました。


今回の先生のお話の「学びのヒント」としては以下のことが挙げられると思います。


学びのヒント

(1)「頭がいい」は一元的に判断できるものではない

(2)「脳にいい」を何でも信じて鵜呑みにしない


脳が優れていること、それすなわち「頭がいい」ことなんだという考え方がありますが、「頭がいい」とはすごく曖昧であり、かつ多元的な視点によって判断されうるものです。


だからこそ脳機能的に優れているかを科学的に測定することはできますが、それが本当に「頭がいい」とイコールなのかと聞かれると疑問符が付きます。


そのため、私たちは脳を鍛えることに傾倒しすぎるのではなく、まずは学習方法や学習フローの部分でできることを考えていくべきです。


その上で、「マインドフルネス瞑想」のように科学的な根拠がある提示されている方法を補佐的に取り入れるのは効果的だと思います。


大切なのは、お子様の教育に向き合う際に、1つのものさしや1つの学説に縛られすぎないことです。


多様な尺度、考え方、方法を取り入れつつ、先生のお話の中にもありましたが、その子に「最適な」学びを見出してあげる、そのサポートをするのが保護者の皆さまの役割なのではないでしょうか。

■ おすすめの本


今回の記事に関連したおすすめの参考書・問題集をご紹介させていただきます。


関連書籍

小学 クイズと絵地図で 世界の国々 基礎丸わかり

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○世界の州の学習では,大きな絵地図を使って,その州にある国々とそれらの首都名を知ることができます。また,シルエットにした国を当てるクイズなどにも取り組みます。
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受験対策としての社会科の参考書とは少し異なるテイストの参考書です。


世界の国々について地図や写真を見たり、コラムを読んだり、自分で調べ学習をしてクイズに答えたりしながら、学んでいく1冊です。


受験には直結しないかもしれませんが、お子様が他国の文化や歴史に興味を持ち、広い視野で物事を捉えられるようになる助けになる本であるとも言えます。


ぜひ、こういった少し「教養的な学び」を含んだ参考書・問題集もお子様の学習に取り入れてみてください。

今回の賢者

嶋田 総太郎

明治大学理工学部電気電子生命学科 教授
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科 博士後期課程修了(博士(工学))。東京大学大学院総合文化研究科にて特別研究員(学振PD)等を経て、現職。
著書に『はじめての認知科学』(新曜社、2016)、『認知脳科学』(コロナ社、2017)、『脳のなかの自己と他者-身体性・社会性の認知脳科学と哲学』(共立出版、2019)など。

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