【第4回】美添先生が解説!スーパーコンピュータの高速化は社会をどう変える?

これまでAIやスーパーコンピュータについてのお話を聞きましたが、それがどのように私たちの生きる社会に還元されていくのでしょうか?


今週も引き続き、美添先生にお話を伺っていきたいと思います。


先生の記事は、今週が最終回となります。


探索アルゴリズムの研究をする中で、より正確で速い処理が可能なコンピュータを作ろうと尽力されているということをこれまでの記事の中でもお話していただきました。


このアルゴリズムは、カーナビの最短経路探索や電車の乗り換え案内などに使われているというお話もありましたね。


そこで最終回となる今回は、


  • 私たちの身の回りでどこに探索アルゴリズムが使われているのか
  • 機械学習の分野でどんな研究が面白いのか
  • スーパーコンピュータの高速化が私たちの生活をどう変化させるのか

この3つについて先生にお話を伺ってみようと思います。


特に、多くの人が気になっているのは、3つ目の「スーパーコンピュータの高速化が私たちの生活をどう変化させるのか」という部分ではないでしょうか。


少しでも速く処理ができるコンピュータを作るために美添先生をはじめとする方々が日々、研究を重ねているわけですが、それがどんな形で社会へと還元されていくのかって意外とイメージが湧かないのではないかと思います。


またプログラミング教育が小学校から導入されることが話題になっている今だからこそ、ぜひ聞いておきたいことでもありますよね。


それでは、 美添先生よろしくお願いいたします!

■ 探索アルゴリズムはこんなところでも!


囲碁・将棋の世界では探索アルゴリズムを活用したAIが人間の名人に勝利するなど注目されていますよね。


ただ囲碁や将棋って小さなお子様だとあまりイメージが湧きにくい「遊び」ではないかと思います。


そこで、もう少し子供が身近に感じられるような分野で探索アルゴリズムが使われていないかどうか、美添先生にお伺いしてみました。


身近な「遊び」で探索が利用されているものは、囲碁・将棋以外にもありますか?

囲碁将棋以外でもチェス、オセロなどの二人ゲームやいろいろなパズルは探索でプレイさせることができます。

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最短経路探索と同じような方法で、パズルを探索で解くことができます。

例えば、ルービックキューブはどんな配置からでも20手以内で解けることが探索で証明されています。

二人ゲームは少し違う種類の探索アルゴリズムが必要ですが、min-max探索という方法で将棋、チェス、オセロなども強いプログラムを作ることができます。

囲碁は少し難しく、モンテカルロ木探索というアルゴリズムが使われます。

いろいろな探索アルゴリズムと機械学習を使い分けることで、いろいろなパズルやゲームをコンピュータにプレイさせることができるようになっています。


ルービックキューブやオセロのような遊びでも、探索アルゴリズムを活用してゴール(勝利)への最短経路を導き出せるんですね!


オセロというと先日、日本のAI会社「AVILEN」が開発した「世界最弱のオセロAI」が大きな話題になりましたね。


世界最弱のオセロAI

このAIの戦績を見てみると、9月19日時点では「4026勝4026勝 1290323敗 223引分」となっており、このAIに「負ける」ことがいかに難しいかが伝わってきます。


こんな風にすごくお子様の身近にある遊びにも探索アルゴリズムを取り入れることができ、さらにその圧倒的な処理能力で人間を凌駕するんですね。

■ 知ると面白い機械学習・深層学習の世界


近年、AIやコンピュータ、機械学習を扱う世界では、日々新しいものが開発されており、目まぐるしく変化していっております。


新聞やニュースなどで「AI(人工知能)」を導入しました!という文言を見る機会も増えてきていますよね。


そこで、美添先生にご自身の専門である探索アルゴリズム以外の分野で、今”アツい”分野や研究についてお聞きしてみました。


先生の専門以外で、最近「この学問は面白いな」と思ったことはありますか?

何回か話題にでていますが、機械学習、中でも「深層学習」と言われる分野は面白い成果がたくさん出ています。

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機械学習にも色々ありますが、深層学習(ディープ・ラーニング)という技術の進歩はめざましく、今までコンピュータには難しかった様々なことが可能になっています。

一番有名な成果はおそらく画像認識の分野で、たとえば犬と猫を見分けることが簡単にできるようになっています。

他にも自然言語処理という分野の進歩で自動翻訳の質が大きく向上しましたし、スマートスピーカーに使われる音声認識や音声合成も精度が非常に良くなっています。

実はコンピュータ囲碁の強さも探索と深層学習を組み合わせた方法で人間の名人を超えたのです。


「深層学習(ディープラーニング)」ってすごく縁遠い世界の話だと思っていたんですが、私たちの日常生活にも進出してきているんですね!


画像認識関連の話で言えば、1つ有名なのが「Googleの猫」と呼ばれた、近年のAIブームに火をつけたニュースですよね。


これは人間が猫の画像を与えて、それが「猫」かどうかを識別できるようになったということではありません。


インターネット上の膨大な画像の中からコンピュータ(AI)が「猫」の存在を発見し、特定し、判別できる段階に至ったというニュースなのです。


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Googleが「深層学習」でAIが学んだとした「猫」の画像

AIは膨大な量の画像を読み込み、そこから「猫」の特徴を学習し、自力で認識できるようになったということですね。


画像認識の精度が向上すれば、製造業、医療、防犯など様々な分野でメリットが生まれると思います。


このように遠い世界の出来事にも思える「AI(人工知能)」の発達が、知らず知らずのうちに私たちの社会を豊かにしてくれていたり、将来的に豊かにしてくれる可能性を秘めているということです。


だからこそ、これから学び、社会に出ていくこととなる子どもたちには、こういった分野や研究のことを少しでも知っていて欲しいですね。

■ スーパーコンピュータの高速化で何ができる?


これまでの記事で、今まさに日本最高峰のスーパーコンピュータであった「京」が次世代の「富岳」へと移行しているというニュースを紹介しました。


今、スーパーコンピュータの世界では日本は中国やアメリカに大きく後れをとっている状況とも言えます。


美添先生をはじめとする研究者の方々が、今懸命に高性能のスーパーコンピュータ開発を目指しているわけですが、それが実現すると、一体私たちの生活にどんなメリットがあるのかについて、最後の質問としてお聞きしてみました。


探索をスーパーコンピュータが高速でできるようになると、私たちの生活でどんな便利なことが起こるのでしょうか?

医療や新素材開発の分野で活躍が期待されています。大きく社会が変わる可能性を秘めています。

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パズルやゲームが高速に解けるだけではなく、最善の組合せを発見する問題が高速で解けるようになります。

我々は探索をスーパーコンピュータで動かして、新しい問題を解こうとしています。

一つは遺伝データなどの解析です。データから病気の原因を計算で推測する事が可能なのですが、非常に長い計算時間がかかります。

スーパーコンピュータを用いた探索で高速に遺伝データの解析を行う研究に取り組んでいます。これによって、医療分野で誤診が減ることが期待されています。

もう一つは(以前のインタビューでも触れましたが)新しい材料を発見する問題です。

コンピュータ囲碁で使われたのは探索と機械学習を組み合わせる方法ですが、この方法を使ってコンピュータ上の計算のみで新しい化合物を発見する研究を行っています。

これも非常に長い時間がかかるのでスーパーコンピュータを使うことが欠かせません。

化合物の発見は、建築物や身の回りのものの新しい材質になるかもしれませんし、数えきれないくらいの可能性を秘めています。

スーパーコンピュータが人間の処理能力では辿り着くことが難しい領域に到達することを可能にしてくれるんですね!

民主党政権時代にスーパーコンピュータ「京」の開発について事業仕分けが行われた際に、「2位じゃダメなんですか?」という言葉が話題になりました。


しかし、スーパーコンピュータはその処理能力が速ければ速いほど、より私たちの辿り着ける世界の領域を広げてくれるのです。


それ故に、少しでも高い処理能力を目指すのは、当然とも言えますし、今日本がアメリカや中国に大きな後れをとっている現状を考えても、その開発・発展は急務と言えます。


スーパーコンピュータが良くなれば、こんなことができるんだよ!というわくわくするような話を、美添先生のインタビューの内容も踏まえつつ、ぜひお子様にお話してあげてください。

■ 学びのヒント


美添先生、4週にわたってありがとうございました。


最終回となった今回の記事の学びのヒントとしては、やはり遠い世界のことに感じられる「AI(人工知能)」や「深層学習(ディープラーニング)」、「スーパーコンピュータ」といった言葉が実は私たちの身近な世界にも進出してきているということですね。


そして、これらの分野は日々、目まぐるしく進歩していて、将来的に私たちの社会に大きな恩恵をもたらしてくれる可能性を秘めています。


そのため、ぜひともこれからの社会を生きる子どもたちには興味を持って欲しいですし、4回にわたる美添先生のお話は非常に分かりやすいものだったので、子どもたちにも伝えやすいのではないかと思います。


例えば、家に置いてあるスマートスピーカーにお子様が興味を示されていたら、その時に、美添先生がお話してくださった「AI」に絡めた話をしてあげるのも良いでしょう。


今はまだ「デジタルに疎くて」という言い訳がギリギリ通じる時代ですが、これからはそうはいかなくなることは自明です。


ぜひ、まずはそういう先端技術の世界について「知る」というきっかけを日常の何気ない会話からお子様に与えてあげて欲しいですね。

■ おすすめの本


今回の記事に関連したおすすめの参考書・問題集をご紹介させていただきます。


関連書籍

天才脳ドリル仮説思考中級

○子どもたちがこれからの人生を生き抜くために必要な「本物の学力」を身につけるためには、「センス(感覚的要素)」や「思考力」の育成が不可欠です。天才脳ドリルはこれらを育成し高めます。

〇その中でも仮説思考力を鍛えることに特化した本書は子どもたちの答えを導く、高い戦略性と思考力を育てます。

詳しくはこちらから


仮説思考力とは、習った解き方を思い出して問題を解くのではなく、仮説と検証をくり返しながら、自分で解法や答えを発見する能力です。


この力を定着させることで、子どもたちは難問に出会っても、「自分の作戦」で粘り強く考えて、解答に辿り着けるようになります。


探索アルゴリズムの研究もまさに自分で仮説を立てて、試行錯誤しながら、最適解を見つけていくという世界ですよね。


そして前回の記事で、美添先生がご紹介くださった本も非常におすすめなものばかりです。



高校生の淡い恋物語という読み物的な楽しみもありつつ、乱数やアルゴリズムについて学べる良書です。


ぜひこちらも読んでみてくださいね。

今回の賢者

美添 一樹

理化学研究所革新知能統合研究センター
探索と並列計算ユニットのユニットリーダーを務める。
コンピュータ囲碁に関するアルゴリズムに興味を持ち、現在は主に探索アルゴリズムと機械学習の組み合わせや探索アルゴリズムをスーパーコンピュータ上で高速に動作させる研究に取り組む。

美添先生の詳しい情報はこちらから

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