映画やドラマを見ていると、そこで描かれる世界に行ってみたいと思うことがありますよね。
今回から新しい賢者の先生にお話を伺っていきたいと思います。
インタビューにお答えいただいたのは、広島でフィルム・コミッショナーとしてご活躍されている西崎智子先生です。
「フィルム」つまり映画に携わるお仕事ですが、初めて耳にされた方も多いのではないでしょうか。
映画に携わっている人の中でも、監督や脚本家、俳優といった方々は比較的イメージが湧きやすいと思います。
しかし、1つの映画を作るというだけでも非常に多くの人が携わっており、映画のスタッフクレジット(エンドロール)を見ていると、「こんなにたくさんの人が関わったんだ・・・。」と胸が熱くなることもあります。
西崎先生はフィルム・コミッショナーとして数々の映画作品に関わり、2017年には『この世界の片隅に』、2018年には『孤狼の血』といった多くの映画賞を受賞した作品の支援を担当されました。
manaviでご紹介させていただきました賢者理念は「想像力と創造力で映画と街をつなぐ」ということですが、一体どんな形で映画に携わられているのでしょうか?
今回はそんな先生に、「フィルム・コミッショナー」の概要や仕事内容から始まり、そこにどんな面白さややりがいを感じておられるのかといった内容にも踏み込んでいけたらと思います。
それでは、西崎先生よろしくお願いいたします。
さて、先ほどもご紹介させていただいた通りで、西崎先生は「フィルム・コミッション」を通じて、映画作りを支えておられます。
ただ、先生が一体どんな活動をされているのか、どんな形で映画と携わられているのかについては想像しにくいという方も多いのではないかと思います。
まずは、その「フィルム・コミッション」というお仕事の概要について簡単にお伺いしてみました。
西崎先生はフィルム・コミッショナーとして普段どんな活動をされていますか?
広島の魅力が映像となって発信されるように日々取り組んでいます!
具体的には、皆さんが普段ご覧になっているテレビドラマや映画の撮影がスムーズに進むように、エキストラさんを募集したり、ロケ地を提案したりといったサポートしています。
なるほど。ロケ地を提案するということですが、やはり自ら売り込みをかけるといった誘致活動もされているのでしょうか?
もちろん直接映画人に会って広島の売り込みを行っています。また、国内だけではなく海外のイベントや映画祭にも出向いてセールス活動を行っています。
広島と映画人を繋ぐお仕事ですね!映画が完成した後にも作品を支援していくことはあるのでしょうか?
広島で撮影された映画を多くの方に知っていただけるよう映画の上映も応援します。
また映画と街がより繋がるようにロケ地巡りやロケ地パネル展などのイベントを企画・実施したりしています。
「聖地巡礼」という言葉も近年、注目される中で映画のロケ地に訪れてみようという方も増えてきていますね。
そうですね。そういった方たちに、より楽しんでいただこうと『この世界の片隅に』の上映1周年を記念して「まいごのすずさん」という企画をしたこともあります。
「すずさん」というのは同作の主人公ですね。なぜ「まいご(迷子)」なんですか?
劇中で、すずさんが迷子になると、落書きし始めるという描写があるので、それに準えて、広島・呉のロケ地に、こうの史代さん(『この世界の片隅に』の作者)にすずさんの落書きを描いていただいたんです。
このイベントの折には、たくさんの方がカメラ片手にロケ地を訪れて、「落書き」を撮影してくださりました。
「ロケ地」を訪れた方が、プラスアルファで楽しめるイベントということですね!
ここまで、「フィルムコミッション」のお仕事の内容について具体的な例も交えながらお話していただきました。
私たちが普段何気なく見ているテレビドラマや映画の撮影が、こういった方々の力で支えられているというのは、驚きでした。
思わずその場所に自分が行ってみたいと感じさせるような魅力を、映画やドラマといった映像コンテンツを通じて発信し、実際に映画人や観客(視聴者)が訪れる。
以前に岡本先生のインタビューの中で挙がっていた「聖地巡礼」もそうですが、こんな形で人と街が繋がるというのは非常に素晴らしいことだと思います。
そして、そのための支援をする「フィルム・コミッショナー」というお仕事はすごく魅力的に感じました。
先ほどは、「フィルム・コミッション」の概要についてお話しいただきましたが、ここからはもう少し掘り下げてみようと思います。
概要を聞くだけでも、非常に魅力的に感じましたが、西崎先生ご自身はどこに魅力や面白さを感じておられるのでしょうか。
現在の活動の中で魅力や面白さを感じるのはどんな瞬間ですか?
広島滞在中に平和記念公園で平和を願い歌う修学旅行生に遭遇し胸を熱くされるなど、映画人は、感性がとても鋭くて豊かです。
そして、彼らが映画の上映後もずっと広島に想いを馳せてくださるようになることが何よりも嬉しいです。
映画人たちが、映画の撮影のためだけではなく、その後もずっと広島のことを気にかけてくれるというのは、感慨深いですね。
はい。撮影前にスタッフ・キャスト揃って献花してくださるチームもありました。
大女優さんが撮影の合間に「なかなか伺えなくてごめんなさいね。」と献花を申し出てくださったときには思わず涙が出ました。
また、昨年の豪雨による土砂災害の時には、気にかけてお電話してくださった監督さん、ボランティアで駆けつけてくださった映画スタッフさん、義援金をすぐに送ってくださったプロデューサー、避難所の慰問に駆けつけてくださった映画チームなどがありました。
素晴らしいエピソードですね。
もちろん広島という場所が持つ歴史や文化、風景に魅力を感じた映画人たちが撮影後も思いを馳せてくれているという側面もあります。
しかし、それ以上に大きいのは、やはり映画の撮影時に一生懸命汗を流して、映画作りに携わられたことで、先生ご自身に多くの映画人が魅力を感じているということではないでしょうか。
子どもを「魅力的な人」に育てたいという思いは保護者の皆さまが誰しも抱いているものだと思います。
「魅力的」の定義を明確にするのは難しいですが、他人と関わる際にその人のために一生懸命になれるというのは、相手の人からすると「魅力」を感じるポイントの1つだと思います。
相手に「またこの人と仕事がしたい」「この人のために何かしてあげたい」と思わせるような仕事ができる人は、どんな世界・業界でも活躍できます。
ここまでの質問の中で、西崎先生の活動が多くの映画人と広島を繋げているのだということが分かってきました。
そして、これはもちろん西崎先生が情熱をもって、映画作りをサポートしたからに他なりません。
第1回の最後に、なぜそれほど多くの映画人に魅力を感じてもらえるのかについての秘密を探ってみたいと思い、活動の際の心がけについてお聞きしてみました。
映画のロケを誘致するにあたってどんなことを心がけていますか?
相手の抱いている「イメージ」をしっかりと掴むことです。
監督の「イメージ」に合うロケ地を提案できれば、撮影にお越しいただけるので、想像力と創造力を駆使して、模索するようにしています。
なるほど。ただ良さを伝えるだけではなく、相手のイメージを推し量ったうえで提案することが大切なんですね。ちなみに、そのために何か準備されたりはするんでしょうか?
実は今の仕事を始めた時、映画の知識が全くなかったので、監督にお会いする前には、レンタルビデオ屋さんに駆けこんで、過去作品をすべて借り、目を通してのを繰り返しをしていました。
監督の過去作品から少しでも雰囲気をつかみ、作品に合う場所を提案する際に活かすようにしています。
また、このシーンで大切にされたいのは、光なのか、広さなのか、など下見の時の監督のつぶやきにも一生懸命耳を傾けます。
過去作品や監督自身の言葉をしっかりとインプットした上で、「イメージ」しているものを「想像」することで、より相手に響く提案ができるんですね。
近年「想像力」は、学習指導要領の中でもその育成が課題として取り上げられており、「生きる力」に含まれるものとしても挙げられています。
「想像力」という言葉を聞くと、現実とはかけ離れたことを思い描くというような意味を思い浮かべるかもしれません。
一方で、国語の学習指導要領解説の中にこんな一節があります。
重要なのは、「様々な資料を基に」や「根拠に基づき」という部分です。
「想像力」には、ただ自分が見たり聞いたりしていないことを思い描く側面だけではなく、資料や根拠に基づいて推し量るという側面があります。
西崎先生のフィルム・コミッションへの向き合い方にもまさにこれと同じことが感じられます。
相手の作品や言葉をしっかりとインプットして、それに基づいて「イメージ」を掴もうとするからこそ、相手の思い描いているものに合致するものを提案できるのです。
西崎先生ありがとうございました。
今回の「学びのヒント」としては以下の点が挙げられるのではないでしょうか。
・相手の求めているものを推し量る想像力の重要性
西崎先生が、多くの映画人から魅力を感じてもらえるのは、もちろん一生懸命作品に向き合う姿勢にも起因します。
ただ、それに加えて相手が本当に求めているもの、探しているものを「想像」する力に長けていることが大きいのではないかと感じました。
そういった「想像力」が映画人と西崎先生を結び、ひいては映画を通じて広島と多くの人々とを結びつけているのでしょう。
そして、この力を養うためには、西崎先生も「監督の過去作をチェックして・・・」ということを仰っていましたが、「様々な資料を基に」や「根拠に基づき」という部分をまずはクリアしたいところです。
映画でもドラマでも、それから小説でも良いと思います。
登場人物の行動・発言といった根拠を読み取り、そこから心情を「想像」するといったトレーニングをすることでも「想像力」は少しずつ身についていきます。
ぜひ、これからの社会を「生きる力」の1つである「想像力」の涵養に改めて注目してみてください。
この世界のさらにいくつもの片隅に
西崎先生の所属する広島フィルム・コミッションが支援された本作がいよいよ2019年12月20日に公開されます。
2016年に公開され大ヒットを記録した『この世界の片隅に』に250カットを超えるシーンが追加された長尺版となります。
ぜひこちらも劇場でご覧ください!
中学 トレーニングノート 英語長文(発展)
○素材文は「小説」「論説」「随筆」から選んださまざまな作品を扱っています。
○巻末には「入試に良く出る著者」として作家や,その作品の紹介を掲載しています。
○取り外しできる解答冊子では,小問ごとの解説や読解についての考え方を示しています。
ハイレベルな問題で、自分の読解力を磨きたい方におすすめの1冊です。
想像力を磨くためには、まず資料の中から根拠を探し出す読解力の育成が不可欠です。
ぜひ、本書をお手に取っていただいて、骨のある読解問題に取り組んでみて欲しいと思います。