【第4回】映画で多様性を学ぶ!記録という側面がもたらす「学びのコンテンツ」としての可能性

映画には、撮影当時の風景や空気感が閉じ込められているように感じられますよね!


今週も引き続きフィルム・コミッショナーの西崎先生にお話を伺っていきたいと思います。


西崎先生へのインタビューは今回が最終回となります。


これまでの記事をチェックしておきたいという方は、以下のリンクからどうぞ!



前回は西崎先生にフィルム・コミッションのお仕事の中での様々なご経験について伺う中で、想像力・創造力と共にそれを実現するために動き出す行動力が重要であることを強調していただきました。


今回は最終回ということで、フィルム・コミッショナーの西崎先生の視点から見た「学びのコンテンツ」としての映画の可能性についてお伺いしてみようと思います。


映画をお子様と一緒に鑑賞する際に、これも勉強になればと考えておられる保護者の方もいらっしゃると思いますが、どんな映画をどこに着眼してみると、「学び」に繋がるのでしょうか。


そんな疑問に映画の制作に関わられている先生の視点からご回答いただきます。


それでは、西崎先生よろしくお願いいたします。

子どもたちに見て欲しい映画は?

西崎先生は、映画に携わられているということで、やはり子どもたちへの「おすすめ映画」はぜひ聞いておきたいところですよね。


映画を「どんな視点で子どもに…」という点もそうですが、より多くの人が関心を持っておられるのは、やはり「どの映画を」の部分だと思います。


映画は学びのコンテンツになると思いますが、小・中学生に観てもらいたい映画はありますか?

アニメーション映画『この世界の片隅に』は、2016年の公開まで、広島フィルム・コミッションが5年半にわたり支援した映画ですので、ぜひ見ていただきたいですね。

主人公のすずさんの目を通して、戦時下の日常が描かれ、大ヒットし映画賞も総なめにした作品です。

5年半にわたって1つの作品をご支援されていたんですね!

『この世界の片隅に』のどんなところが子どもに見て欲しいと考えられる理由でしょうか?

監督の片渕須直さんが長い年月をかけて、多くの方の聞き取りや調査を繰り返したからこそ、遠い過去の出来事ではなく、戦争を自分のこととして考えられる多くの仕掛けがあります。ぜひご覧いただきたいです。

『この世界の片隅に』は時代考証が非常に丁寧なので、見ていると当時の広島にタイムスリップしたような感覚がありますよね。

史実や、他国の文化や歴史もスクリーンを通して学べます。

戦争や原爆は、私たちが語り伝えるべきことの一つと考えますが、実体験のある方から直接お話いただける機会も減っています。そんな時こそ映画で学んでいただきたいです。

前回のインタビューで「映画が時間も国境も越えて旅をする」というお話がありましたが、まさに遠い時代、遠い国の出来事を「自分のこと」のように追体験できるというのは、映画の「学びのコンテンツ」としての強みですね!


高校の世界史の授業の中で、史実をベースにした映画を扱う先生もいらっしゃいますよね。


例えば、ローマ帝国の五賢帝時代の終末期を描いた『グラディエーター』という作品があります。


この作品を見ると、教科書のテキストや写真でだけでは掴みづらい、当時の政治や社会構造、剣闘士たちの実像を視覚・聴覚を使って体感できるので、歴史を「イメージ」で捉えることができます。


片渕須直監督の『この世界の片隅に』もそうですが、丁寧な時代考証・歴史考証を経て作られた映画は、「学びのコンテンツ」として最適です。


もちろん歴史学習の教材としても有効ですが、今とは違う時代や社会、国や文化が存在しているのだという多様性を学べるチャンスを与えてくれるものでもあります。


勉強の合間に、時間を設けてお子様と映画鑑賞というのも良いのではないでしょうか?

映画を見るときはどこに注目すれば良いの?

先ほどは、子どもたちにおすすめの映画作品ということでお話を伺いました。


次に、映画を「学びのコンテンツ」として見る際に、どんなところに着目すると、より深い「学び」に繋がられるのかについてお聞きしてみましょう。


映画のロケ地の誘致などに携わる西崎先生が思う「映画のここに注目してほしい!」を教えてください。

皆さんが映画をご覧になるときは、とにかくストーリーにどっぷりとつかってほしいと思います。登場人物の物語を追体験することで、たくさんの気づきがあるはずです。

まずは、やっぱりストーリーですよね。登場人物の行動や感情を読み解きながら鑑賞することで作品を深く味わうことができそうです!

西崎先生はフィルム・コミッショナーということで、やはり映画のロケ地に注目することも多いのではないでしょうか。

そうですね。私が映画を見る時には、ついロケ地に目がいってしまいます。

「この素敵な場所はどこだろうか」とか「どんな工夫でこの場面設定に見えるようにしているのか」などフィルム・コミッションの職業病ともいえるかもしれません(笑)

やはり!

では、映画の中の風景や舞台に着目していて、何か面白い「気づき」はありましたか?

例えば、イランは日本からはとても遠い国ですが、イラン映画を見ていると感情の動きが日本人と似ていることや、イランでコタツが使われているのを発見したり…。

知らない何かに気づくことは何ともワクワクするものです。映画を見ながら新たな発見を繰り返してほしいですね!

『この世界の片隅に』もそうですが、映画は異なる時代や異なる国の風景や生活をそのまま閉じ込めてあり、だからこそ驚きや発見に満ちていますよね!

そうなんです!また、逆に自分たちの町で撮影された古い映画を見てみるというのも、面白いと思いますよ。

自分たちの町のですか?

映画には「ドキュメンタリーとしての力」が備わっています。自分たちの町で撮影された古い映画を見ると、今暮している自分たちの町と全く違う風景が広がっていることに気づいて楽しいと思います。

映画『愛と死の記録』(1966)では、SLが広島を走っていました。映画『ひろしま』(1953)を本年広島で英語字幕付きで上映した際、広島在住の外国の方が楽しまれたのは、1950年代の広島の風景でした。

なるほど、今の自分たちの街の風景と比較しながら「学ぶ」ことができるというわけですね!

あとはやっぱり映画を見て、素敵だと思った場所にはぜひ自分の足で出向いてみて欲しいですね。

私はロケ地巡りを設定する側ですが、映画『エルネスト』
(※) にドハマリしてキューバまでロケ地巡りに行ってしまいました(笑)

※チェ・ゲバラと共に革命闘争に参加したフレディ・マエムラの生涯を描いた作品(2017年公開)


映画の「ドキュメンタリーとしての力」という視点は非常に面白いものだと思います。


「映画の父」とも呼ばれるフランスのリュミエール兄弟はシネマトグラフを開発し、「映画」の礎を築きました。


その頃の映画は、フィクションというよりは、日常の何気ない風景を撮影した「記録映像」の側面が強かったとされています。


今を生きる私たちが、日本で過去に撮影された映画を見ることの意義もまさにここにあるわけで、その中に閉じ込められた当時の風景を見て、様々な「気づき」を得ることができるのです。


西崎先生も仰っていますが、自分の住んでいる町で撮影された映画を見てみるのは、お子様にとって非常に良い「学び」になると思います。


「自分が今過ごしている町や地域が昔はこんな風になっていたんだ!」という「気づき」が生まれ、子どもたちは今自分が住んでいる町や地域と映画の中の世界を「比較」する視点を獲得できるのです。


早稲田大学の松居辰則先生のインタビューの中でも「何事も比較してみる癖をつけることで子どもたちには観察眼が身についていく」というお話がありました。


こういった視点で映画を見ることで、子どもたちの世界が時間的にも空間的にも広がっていくことが期待できますね。


西崎先生から子どもたちへメッセージ

4週にわたったインタビューも今週で最終回ということで、西崎先生に子どもたちに向けてメッセージをいただきました。


とある映画作品で、爆破シーンの撮影を広島の市街地で行う際、警察から許可をいただくのには2カ月かかりました。

「許可が出せるわけがない!」と言われながらも、足しげく通い、方法論を見つけていきました。

映画キャンペーンを広島で企画した時も、「東京、大阪、福岡だけでいい。」と断られましたが、開催まで粘って交渉を続けました。

どうか、さまざまなことに、あきらめずに取り組み、やり遂げていってほしいと思います。

また、ますます多様化するこれからの社会で必要なのは、違いを認め合い寄り添える力です。

映画は手軽に、自分たちと違う地域の方言や、全く違う言葉、習慣を体験することができます。

そして、さまざまな違いに気づき、学びとっていただければ、きっと深くて優しい心の受け皿を持つ人になれると信じています。

学びのヒント

西崎先生ありがとうございました。


今回の「学びのヒント」としては以下の点が挙げられるのではないでしょうか。


学びのヒント

・映画を通じて多様性を学び、違いを尊重する姿勢を身につける!


映画は多様性や他者性をお子様が感じ取る上で、有効な「学びのコンテンツ」になります。


例えば、同じ映画を親子で見ても、その着眼点は違います。その「差異」を親子で共有し合うと、子どもたちは自然と1つの物事にも多様な見方があるのだと感じ取っていきます。


また、西崎先生のお話の中にもありましたが、映画には「ドキュメンタリーとしての力」が備わっています。


自分の今生きる世界・社会・時代と、映画の中の世界・社会・時代には大きなズレがあることも少なくありません。


そのため、その「ズレ」を比較・検証することで「変わらないもの」「変わってしまうもの」を学び取ることもできます。


先生にもご提案していただいたように、自分の町で撮影された映画を見てみるのも非常に面白い「学び」に繋がるでしょう。


ぜひ、お子様には様々な映画や本などに触れていただいて、多様性や違いを認めることができる大人に成長していって欲しいと思います。

関連映画作品

この世界のさらにいくつもの片隅に

ポスター画像西崎先生の所属する広島フィルム・コミッションが支援された本作がいよいよ2019年12月20日に公開されます。

2016年に公開され大ヒットを記録した『この世界の片隅に』に250カットを超えるシーンが追加された長尺版となります。

ぜひこちらも劇場でご覧ください!

?映画公式サイトはこちらから

■ 関連書籍

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百人一首新事典

百人一首新事典○各短歌の作者の紹介,短歌の意味,短歌の解説,短歌に出てくる語句の解説,出典(どの和歌集から選ばれたか)などをまとめています。

○「小倉百人一首」に関するコラムや,短歌に出てくる地名などを地図で示したページを設けています。

?詳しくはこちらから


「小倉百人一首」は当時の人が、自分たちの見たもの感じたものを「五七五七七」の定型で「歌」にしたものです。


今の人と昔の人の感性や視点を比較してみるのも面白いですし、歌の中に登場する事物を詳しく掘り下げてみるのも良いでしょう。


ぜひ『百人一首新事典』を手に取っていただいて、「歌」の向こうに広がる奥深い世界を味わっていただければと思います。

今回の賢者

西崎 智子

香川県出身。2003年より現職。
2005年AFCI(国際フィルム・コミッショナーズ協会)認定の国際フィルム・コミッショナー資格取得。
初支援作品は『父と暮せば』。主な支援作品に『夕凪の街 桜の国』や『エルネスト』『孤狼の血』、市街地で爆破シーン撮影を行った『DOG×POLICE 純白の絆』ほか、広島ならではと言える海外作品の支援も多い。公開まで5年半にわたり支援を続けたアニメーション映画『この世界の片隅に』。

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