【第10回】テストの点数にこだわることの意外な落とし穴?
迫田 昂輝先生
こんにちは!算数・数学の受験指導をしています、迫田昂輝(さこだこうき)です。
とうとうこの連載記事も10回目となりました。
算数を中心とした様々なテーマでお話をしてきましたが、せっかくの10回目ですので、ちょっとだけ刺激的なテーマでお話をしていきたいと思います。
私は、小学生から高校生・浪人生までを対象に算数・数学の指導をしてきました。
短期的な視点ではなく、中長期的な視点で学習に取り組む必要性を、ことあるごとに本連載でも述べてきました。
今回は、現在算数の教育で当たり前のように行われていることがらを取り上げ、それについて論じていきたいと思います。
いきなり核心から入りますが、保護者の方は、目先のテストの点数にこだわりすぎないようにしてください。これは長期的な視点で見た時に、とても大切なことです。。
テスト自体は非常に重要ですし、私も授業の時には小テストなどを行います。しかし、テストはあくまでも自分が未定着な部分を明らかにし、どのような勉強をすれば良いのかを考えるための指標に過ぎません。
点数を取ることが目的となるような偏った勉強は、特に低年齢のうちは避けるべきです。あくまでもテストは手段であって目的ではないのです。
しかし、子どもたちは、意外にもテストの点数というものに対して敏感です。
点数に一喜一憂し、学習内容の本質を理解せずに効率よく点数を取る方法に目が眩みがちです。それもそのはずで「高得点を取ると親が喜んでくれるはず!」と思っているからです。
親子ともに点数の呪縛から逃れることは簡単ではありません。
では、算数の学習において「テストの点数の効率化」にこだわり、「理解すること」を怠ってしまった場合、どのような落とし穴があるのでしょうか。
皆さんは「くもわ」というものをご存知でしょうか。割合の公式で、次のような公式があります。
・(割合)=(比べられる量)÷(もとにする量)
・(比べられる量)=(もとにする量)×(割合)
・(もとにする量)=(比べられる量)÷(割合)
これらの公式は、小学生にとっては非常に覚えづらい公式なので、次のような図を書いて覚えるのが「くもわ」方式です。
『小学高学年 自由自在 算数』 p.97より
確かに覚えやすい表ではあるのですが、そもそも子どもたちを見ていると、どれが比べられる量で、どれがもとにする量なのかをわかっていないケースが多々あります。
試しに次の問題をさせてみると、割合のことがわかっていない子どもは間違えます。
税込価格が2640円の商品の定価はいくらですか?ただし、消費税は10%とします。
結局は、割合というのは、きちんと問題の意味を理解して「何に対する何の割合なのか」という当たり前のことが理解できないていないと「簡単な問題は解けるけどちょっと捻られるとわからない」という状態になるのです。
この問題は、「もとにする量」が定価であり、それに対して消費税10%という金額が追加されて、税込価格2640円となります。
もとの量を1つまり100%だと考えると、税込価格は
(定価)×110%=(税込価格)
ということになります。すなわち、税込価格が「比べられる量」となるわけです。
上の式から、定価は
(税込価格)÷110%
という式で求められます。つまり、
2640÷1.1=2400
となるので、定価は2400円です。
問題文を読んだだけだと、どれが「比べる量」でどれが「もとにする量」なのかがわからないので、正しく解答できない子はとても多いのです。
地道に思えるかもしれませんが、結局は呪文に頼りすぎるのではなく、1つ1つの問題をしっかりと理解することが大切なわけです。
他にも「のがけ」というものがあり、以下のような問題のときに用いられます。
2400円の10%はいくらですか?
このような問題があったとき、「の」を「×(かける)」に変換すれば良いというものです。
「の」の後に続く割合を「かける」と答えが出る、というものが「のがけ」の考え方で、上の問題は「の」の後に10%がありますから、
2400(円)×10(%)=240(円)
と考えるわけです。「『の』が出てきたら、とにかくかけるんだ!」と考えることで、簡単な問題であれば悩まずに解答することができます。
確かに、「のがけ」が使える場面はことの他多いのですが、やはりこれもちゃんと割合の意味を理解していないと、次のような簡単な問題ですら、解答できなくなってしまいます。
値札に1000円と書かれた商品に2割引きのシールが貼ってありました。この商品はいくらで買えますか?
「え、流石にこんな問題では『のがけ』なんて使わずに子どもたちは解いてくれるんじゃないの?」と期待したくなりますよね。
しかし、「割合の計算が出てきた時は、とりあえず『のがけ』だ!」と思い込んでいる子は思いの外多く、こんな単純な問題ですらミスをしてしまいます。
先ほどの例題1をもう一度見てみましょう。
税込価格が2640円の商品の定価はいくらですか?ただし、消費税は10%とします。
これもはやり「のがけ」が使えない問題でした。
一見便利そうに見える最後の呪文は「きはじ」です。「距離」「速さ」「時間」の頭文字をとっており、以下のような公式があります。
・(速さ)=(距離)÷(時間)
・(距離)=(速さ)×(時間)
・(時間)=(距離)÷(速さ)
これも割合の「くもわ」のように次の図を使って考えるわけです。
当然、このようなものがなくても、次のごくごく当たり前の定義がわかっていれば十分なのです。
時速=1時間あたりに進む距離
「時速50kmの車が3時間で進む距離は?」と聞かれたならば、次のような図がイメージできていれば、
50×3=150(km)
と瞬時に出せます。
「きはじ」で速さの問題を解く子は、次のような問題でも手こずるのです。
15分で13km走る車の時速は何kmですか?
きはじ方式の子はこのように考えます。
「えーっと、聞かれているのは速さだから『は』を求めればいいんだ!きはじを見ると… 『は』は『き』割る『じ』だ!」
「13÷15は… あれ、割り切れない。よし、分数でいっか。答えは13/15だ!」
「ん?待てよ?これだと、分速13/15kmになっちゃう!聞かれているのは時速だから、60をかけないと!」
「13/15×60=52! やった!時速52kmだ!」
はい!正解です!ちゃんと分速から時速に変換できてえらいです!しかし、速さの概念がちゃんとわかっている子はこのように出します。
「えっと、15分で13km進むんだよな。時速ってことは1時間、つまり60分で進む距離か!15分を4倍すると60分になるんだから、13×4=52 時速52km!」
結局は時速というのは1時間あたりに進む距離なわけですから、13×4であっさり答えは出てしまいます。順序だって考えることができれば、わざわざ「きはじ」の表と照らし合わせる必要もないのです。
また「きはじ」方式の欠点はいくつかあります。次のような問題は速さと同じ考え方の問題なのですが「距離」「速さ」ということばが無いため、困惑するわけです。
1分間に20Lのお湯が出るポンプがある。このポンプで容量が240Lの浴槽を満杯にするのに何分かかるか?
240÷20=12
で答えは12分です。
1分間に20Lのお湯が出るというのが、速さにあたり、240Lという容量が距離に該当するわけですが、「き」と「は」がないため、速さの単元の問題として出題すると手が止まってしまう子が散見されます。
「くもわ」「のがけ」「きはじ」などは、一見すると簡単な問題を間違えずに回答できる魔法のツールのように思えるわけですが、意味を理解したうえで活用しないと行き詰まってしまいます。
しっかり意味を考えずに、こういった解き方を続けて行った結果中学、高校に進学した際に「数学嫌い」が生まれてしまうわけです。
上記で述べたような呪文も「点数が取れたらそれで良いのでは?」と考える方もいることでしょう。ここで私の恥ずかしい経験をご紹介します。
実は私も、初めて小学生を指導したとき、これらの呪文を先輩講師から習い、授業で披露しました。先輩講師からも「こうやって教えれば良い」と言われていましたし、私も疑うことはありませんでした。
授業をしたところ、生徒たちは「わかりやすい!」と笑顔になり、簡単な問題をスラスラ解いてくれました。心の中では「このスラスラ解けた経験で算数が好きになり、自分から勉強するようになってくれたらいいな」なんて思っていました。
「生徒たちが本質的な理解をしていないのでは?」と疑問に思いもしましたが、「点数を取らせてこそプロである」「点数を取れば自分から勉強するようになる」と思い、これらの呪文を私自ら子ども達に教えていました。
しかし、先に述べたように、少し捻っただけで解けない子を一定数生み出すことになりました。
もちろん、呪文効果でモチベーションが上がり、色々な問題に自らチャレンジして、ちゃんと理解を伴って解けるようになる子もいたのですが、型通りの問題しか解けない子が多く、質問対応や補習に追われることになりました。
点数が上がれば、モチベーションが上がる。そういう考えも大切ですし、私もそう思っています。しかし、目先の点数にこだわってしまった結果、先々点数が取れなくなり、結果的にモチベーションが下がってしまうこともあるわけです。
だからこそ、目先の点数に固執せず、ちゃんと理解ができているか、意味がわかっているかにこだわって欲しいと思います。
「テストの点数が取れている」=「よく理解している」とは言い切れないのです。
公式を使うことによって「一時的に」問題を解く速さや正答率が上がるケースがあることは確かです。
ですが、よくわかっていないけど、公式に当てはめて取れた90点を取れた子もいれば、きちんと理解して1つ1つ解いていった結果、時間内に終わらずに60点だった子もいるでしょう。
先々延びるのは後者のタイプなのです。
点数以外にも、宿題についても一言述べておきたいと思います。全国の先生たちを敵に回す恐れがありますが、勇気を持って発言すると「宿題は全部できなくてもよい」です。
いて!どこかから石が飛んできましたが、まずは話を聞いてください。
例えば、夏休みの宿題。全員が一律同じものを解くドリルがありますが、算数が苦手な子にとってはちょっと多かったり、逆に少し物足りないと思ったりする子もいるでしょう。
つまり、全員に一律で同じ宿題を出すというのは、学習の効果という観点からするとどうしてもバラつきが出てしまいます。
かといって、クラスの児童ひとりひとりに合わせた宿題を先生が用意するべきかというと、それは物理的に不可能ですので、ひとまず十分な量の宿題が出されます。
すると子どもたちの中には「宿題を終わらせること」が目的となってしまい、とにかく早く終わらせることを目的とし、あまり頭を使わずに取り組む子が出てきます。
挙げ句の果てには「間違えた問題は赤で正しい答えを書くだけ」という、効果の薄い、無味乾燥な学習をする子も多く見られます。これもテストの点数と同様、手段と目的を理解していないことによって発生します。
とはいえ、出された宿題の量が少ないと「ウチの子は家庭学習できているのかしら」と心配になる保護者心理も理解できます。
お子様自身の頭でちゃんと考えることができる質、家庭学習の習慣づけとして十分な量さえ確保されていれば「宿題は全部できなくてもよい」のです。
日々の学習時間の中で、十ある宿題のうち、六がきっちりできていればよしとする姿勢も大切です。大切なことは、全部の宿題を形だけでも終わらせることではなく、全部終わらなくても良いので、ちゃんと取り組むことです。
保護者の方は「宿題は全部済んだの?」と終わったかどうかだけを話題にするのではなく、その分量が本人にとって多かったか・少なかったかなど、中身の感触を確かめる声掛けもしてみてください。
いかがでしたでしょうか。
中学受験を控えているご家庭の場合「そうは言っても点数が大事じゃないか」と思われることは十分に理解しています。しかし、必要なのは入試本番での点数です。
日々のテストの点数や宿題の出来などはあくまでも目安にしかなりません。
受験までの道のりは、子どもにとっても保護者にとっても、長いものです。点数に前のめりになり過ぎないことも大切です。
本番できっちり点数にこだわるためにも、保護者の皆様には、「正しく理解できているか」「正しい学習習慣が身についているか」といった、点数には表れないお子様の成長をサポート・評価していただきたいと思います。