【第4回】中学受験に備えよう!小学校低学年から始める算数の文章題
迫田 昂輝先生
こんにちは、迫田です。
第3回の記事より,小学生のお子様が苦手意識を持ちやすい単元にフォーカスしていくシリーズを展開しています。
前回の記事では、特に図形問題にフォーカスして、お子様に苦手意識を持たせないための学習計画についてご紹介しました。
そして今回は、「文章題」をテーマに攻略法を紹介していきたいと思います。
保護者の皆さまの中にも、自分が小学生の頃に「文章題」が苦手だったなあ…と思い当たる方は多いかもしれませんね。
この記事では、「文章題」全般に向き合う上で必要となる基本的な力、そして中学入試レベルの問題に対応するために意識しておきたいことをお話します。
お子様が抱えている苦手の原因を解明するヒントが見つかりますと幸いです。
文章題といっても、その種類は様々です。例えば、以下の問題は全て文章題と呼ぶことができるでしょう。
1. 『小学3・4年 自由自在 算数』 p.91より
2. 『小学3・4年 自由自在 算数』 p.358より
3. 『小学高学年 自由自在 算数』 p.392より
一般的に文章題とは、「計算問題でもなく図形問題でもないもの全般」をそう呼んでいるような傾向があるかと思いますが、問題文を読んでいくとそれぞれテーマが異なります。
1. は、「割り算」の問題
2. は、「和差算」の問題
3. は、一般に「つるかめ算」の問題
と分類できます。
つまり、一口に文章題といっても、そのテーマや解法は多岐に渡ります。文章題を得意にしていくためには、文章題のテーマに合わせて、それぞれ解法を身につけていく必要があります。これは、図形問題などでも同じですね。
しかしながら、個々のテーマ演習に入る前段階として、全ての文章題を解く上で必要な基本的な能力が3つあります。まずはそれらを確認していくことにしましょう。
1つ目は、イメージ力です。与えられた文章から状況をイメージする力です。もっと簡単に言ってしまえば「文を絵にする力」と言えます。次の問題を見てみましょう。
小池君とZ君は、マラソン大会に参加しています。レース終盤、Z君の順位は5位です。小池君は最後の力を振り絞り、Z君を追い抜いてそのままゴールしました。小池君の最終順位は何位ですか?
問題文を読んで、意味を理解することはできたと思います。ですが、正しく状況をイメージできたかは別問題なのです。
さて、小池君の最終順位は「5位」というのが正解です。正解した方にとっては「え、当たり前じゃない?」と思うでしょうが、実は間違える方は結構多いのです。間違えた方はおそらく「4位」と答えたのではないでしょうか。
小池君は5位のZ君を追い抜いたので、ゴールしたときは5位です。5位の選手を追い抜いたからといって4位になるわけではありません。これは、次のようなイメージですね。
文章題を解く上で大切なのは、このように文章で与えられた状況をイメージすることです。
また、先ほど紹介した2.の「和差算」の問題は、次のように解くことになります。
『小学 3・4年 自由自在 算数』 より
この問題は、このように線分図と呼ばれる図を使うと考えやすくなりますが、これも状況をイメージする力ということができます。
文章題に苦手意識がある場合、まずは問題を解く前に状況を絵で表す練習からしてみましょう。
お子さんが意外とうまくイメージできてない時は、イラストがうまく描けないはずです。算数ではなくお絵かきのつもりで取り組ませてみてください。
文章題を解く上で大切な2つ目の力は、文章で与えられた状況を式で表す力、すなわち立式力です。
計算問題が解けるけど文章題が解けないお子様の多くは、この式を立てる力がついていないわけです。
もちろん、式を立てる上では、上述したイメージ力が不可欠なのですが、そのイメージした状況を数式として表す力が立式力です。
1.の「割り算」の問題を確認してみましょう。
『小学 3・4年 自由自在 算数』 より
文章から式を立てる作業は、数式という「言葉」を用いて表現することに他なりません。これこそが算数・数学を学習する最も重要な要素と言っても過言ではないでしょう。
この作業が苦手なお子様は、いきなり式を立てる練習をさせるのではなく、正しい式を自分の言葉で説明させる訓練をしてみると効果的です。
「この÷4っていうのはどういう意味かわかる?」
「えっとね!1つの箱に4つケーキが入るから、箱が何個必要かを求めてる!」
のように、与えられた式を読み取る訓練をさせてみてください。
そのようにして、式を正しく読めるようになると、自分で式を書く力もついていくでしょう。まずは「式の読解」にチャレンジしてみてください。
文章題を解く上で重要となる3つ目の能力は読解力です。
1つ目のイメージ力、そして2つ目の立式力を支えるのがこの力ですね。
読解力というと、とても大袈裟なものに聞こえるかもしれないので、より簡潔にいうと「誰(何)がどうした」ということをちゃんと理解しているかどうかです。
何が主語で、それがどうなっているのかをきちんと理解することが重要です。これもまた例を見てみましょう。小学1年生の問題ですが、間違えるお子様は多くいます。
(1) チョコが7つあります。チョコはクッキーより4つ多いです。クッキーはいくつありますか?
(2) 犬が5匹います。犬は猫より3匹少ないです。猫は何匹いますか?
さて、それぞれの正解ですが (1) 3つ (2) 8匹 です。
これらの問題に対して、次のような式を立てて間違えてしまうケースがあります。
(1) 4つ「多い」から、
7 + 4 = 11
(2) 3匹「少ない」から、
5 – 3 = 2
としてしまうわけです。
「多い」からたし算、「少ない」からひき算と安直に考えてしまうと、このようなミスを生んでしまいます。
何が(何と比べて)多い(少ない)のかを考え、何の個数を求めたいのか、を意識していないと間違えてしまうでしょう。
これらの問題も、イラストを描いていけば間違えることは少なくなりますが、普段から文章を読む時に「誰が何をした」という、主語・述語の関係を意識させることが大切になります。
これは当然、国語力が大きく影響していきます。私が小・中学生の指導をしていると、このような基礎的な読解力がきちんと身についていないために、算数の文章題に苦手意識を抱えている生徒によく出会います。
国語力はすべての科目の土台となるものですので、しっかりと学習をしてほしいですね。同じく連載をしている小池先生の記事もぜひ合わせてお読みいただきたいと思います。
ご家庭での学習の際に、上述した3つのポイントを押さえて、チェック・サポートしていただければ、少なくとも小学校で出されるテストレベルの問題で困ることは減っていくでしょう。
もし、それでも中々正答が得られない場合は、計算力に課題が残っている可能性があります。第1回目の記事で、計算力について触れていますので、ぜひ合わせてご覧ください。
さて、これらの基本となる3つの力をつけた上で、中学入試レベルの応用的な文章問題について、その攻略法をご紹介していきます。応用的な問題を解けるようにするには、2つの段階があります。
ホップ、ステップのようなイメージで考えると次のようになります。
ホップ:典型的な解法を習得する
ステップ:問題に対して、どのような解法を選択すれば良いか見抜く
これは前回の記事でお話したように、図形問題が得意になるためのアプローチと全く同じです。
まずは、自分の頭の中に「道具」を揃えると考えていただき、典型的な解法をインプットしていく必要があります。
はじめに紹介したこちらの問題で確認していきましょう。
『小学高学年 自由自在 算数』 より
この問題は有名なつるかめ算の問題です。「つる」と「かめ」が出ているから、つるかめ算というわけではありません(笑)。中学で習う連立方程式の内容を、算数の知識だけで解く解き方をつるかめ算と呼んでいます。
このように2つの数を求める際に、2つの条件が与えられていれば、上記のようなつるかめ算の解法が威力を発揮します。
その次に、インプットした解法を実際の問題に直面した時に、選択し、活用するトレーニングを積んでいく必要があります。
次の問題を見てみましょう。
ある水族館に入館するのに大人5人と子ども3人で3400円、大人3人と子ども4人で2700円払いました。
(1) 大人1人、子ども1人の入館料はそれぞれ何円ですか。
(2) ある日の入館者数は980人で、入館料の合計は364000円でした。入館した大人、子どもの人数をそれぞれ求めなさい。
『小学高学年 自由自在 算数』 より
さて、問題の(2)でつるかめ算を用いています。このように、応用的な文章題を扱う際に「どの解法を使えばうまくいくのか」という訓練を積む必要があります。
問題に対応する適切な解法を選択できるようになるには、効率的な方法はなく、ひたすら試行錯誤を繰り返して解いていくことで、その判断力を徐々に養っていくしかありません。
そして、その判断力がどんどん磨かれていくことで、最後のジャンプ、つまり、中学入試レベルの問題が解けるようになるわけです。
応用的な文章題の学習の仕方は、図形問題のときと同じような方法−必要な知識を得てから試行錯誤の訓練をする−というシンプルなものなのです。もちろん、ホップ、ステップの前段階にあたる3つの力があってこそです。
文章題は「与えられた問題を数式化する」という、算数・数学のコアとも言える作業が必要になります。
それゆえ、一朝一夕にできるようにはなりませんし、劇的に得意になるような裏技もありません。
ですので、今回お話させていただいた内容を実践していただき、コツコツと積み重ねていくことが何よりも大切です。
お子様が算数の文章題を苦手とされている場合、まずはその苦手がどこで生じているのかを紐解いていくようにしましょう。
基礎的なところでは、「イメージ力」「立式力」「読解力」そして、それ以前に「計算力」の部分でつまずいている可能性もあります。
応用的な問題では「典型的な解法のインプット不足」「解法を問題で活用する試行回数の不足」が原因になっている可能性が考えられます。
こうした苦手の根源を、お子様と保護者の皆さんが正確に把握することが、苦手意識をなくしていくための第1歩です。
そこが突き止められたら、今回の記事でご紹介したようなアプローチで学習を進めていきましょう。