【第5回】中学受験に備えよう!小学3年生までの算数
迫田 昂輝先生
こんにちは、迫田です。
早いものでこの連載記事も第5回目を迎えました。前回までの記事で「図形問題」や「文章題」など、具体的な算数のテーマを取り上げてきました。
今回からは、少しテイストを変えて、算数を学ぶお子様に対して、保護者の皆様に意識していただきたい「接し方」や「心構え」、「家庭で行って欲しいアクション」について記事を書いていきたいと思います。
算数の学習においては、問題の解き方などに重点が置かれがちではありますが、実は普段の学習に対する姿勢であったり、心構えであったりの方が重要なのです。今回からは、そのような内容にフォーカスを当てていきたいと思います。
さて、この記事を書いているのは11月。今年のことを振り返ったり、来年に向けて思いを馳せたりする時期なのではないかと思います。
世間では、受験のことが話題にのぼる時期でもあります。そこで今回は、中学受験に関して記事を書いていきたいと思います。
小学校低学年のお子様がいらっしゃるご家庭で中学受験を考えている場合、今からどのような準備をしていけばいいのか…。
今回の記事で書いていくのは、ズバリ算数の中学受験対策で最高のスタートを切るために保護者の方に意識していただきたい「心構え」です!
小学3年生の2月頃から中学受験に向けて本格的に学習塾への通塾を始めるお子様が多い中で、それまでにどんな学びができるのか、そして保護者の皆さまがどんなサポートをできるのかお話させていただきます。
このmanaviでの連載記事をお読み頂いている方の中には、お子様の中学受験に強い関心がある方が多いことでしょう。
ひょっとしたら、親しい友人の家庭も中学受験を考えていたりするかもしれません。街中にある学習塾を見かけると、「うちの子も中学受験をさせてみようかしら」と考えることもあるでしょう。
しかし、中学受験というのは、お子様にとっても、そして保護者にとっても決してやさしいものではありません。私は、中学受験、高校受験、大学受験と、それぞれ指導していますが、最も指導が難しいと感じるのが中学受験です。
理由はいくつかあるのですが、一番の理由は、小学生にとって、受験というものを「自分事」にすることがとても難しいという点です。
高校受験をする中学生や、大学受験をする高校生は、ある程度成熟しているので受験を「自分事」としやすいのですが、まだまだ成長途中である小学生にとっては、周りのサポート無くして中学受験を乗り越えることは困難でしょう。
また、高校受験や大学受験は、学校の学習の延長線上にあります。中学や高校での学習をちゃんと取り組んでいれば、高校入試、大学入試で戦える力はある程度養うことができます。
しかし、中学受験の入試問題は、小学校で学習する内容だけではとても太刀打ちできません。小学校の教科書に載っていない内容が平気で出題されます。
学習塾や通信教育の利用、書店で受験用の問題集や参考書を購入して取り組むなど、プラスアルファの学習は不可欠と言えます。
挙げればキリが無いほど、中学受験の厳しい側面は多く存在します。そうとはいえ、中学受験の学習をする過程で身に付いていく考える力は、その後の学習で大きく役立ちます。
私が高校生を指導しているときに感じることでもあるのですが、高校数学の理解がスムーズな生徒は、中学受験の算数に取り組んだ経験がある場合が非常に多いです。
中学受験はとても厳しいものですが、単に「中高一貫校に入れる」というわかりやすいメリットだけでなく、後々の学習にもプラスの影響を与えることもできる側面があります。
さて、本格的に中学受験に取り組む場合、小学3年生の2月から学習塾への通塾などを開始することが一般的です。
実は2月というのは、学習塾にとっては新年度の始まりの月なのです。つまり、小学3年生の2月というのは、新小学4年生という位置付けで授業が始まります。
ここから本格的に受験対策が始まるのですが、実はこの時点で大きく差がついていることが非常に多いです。
「差がついている」というと、もっと早くから通塾を始めていた児童と「学習進度で差がついている」と思われがちですが、そうではありません。
学習に対する姿勢や、ノートの取り方、普段の生活での頭の使い方などで既に差がついているのです。
中学受験をする場合、通塾は早ければ早いほど安心と考えているご家庭が多いのですが、実はそうでもありません。小学校低学年から通塾していたのにも関わらず、いざ中学受験を迎えた6年生の時には、塾では一番ベーシックなクラスにいるケースはざらにあります。
当然、中学受験をした結果、思うような進学ができないということもあるわけです。
3年生の2月を迎える前に、既に差がついていると述べましたが、算数に絞ってどんなことをしていけば良いかを紹介していきます。
何度も強調しますが、とにかく計算力が大切です。
第1回目の記事でも触れていますが、小学3年生の2月の時点で最も重要な力は計算力です。先取り学習を進めることや、つるかめ算や植木算など特殊な解法を知っていることではありません。
計算力がどれほど大切なのかは、こちらの記事で具体的に書いておりますので、改めて、是非もう一度お読みいただきたく思います。
さて、計算力があることを前提とした上で、さらに身につけてほしい力があります。
それは、表現力です。表現力というと、難しく聞こえるかもしれませんが、要は自分の考えを他者に説明できる能力です。
これは、図形問題を得意にする方法や文章題の対策の記事でも触れていますので、こちらの記事もぜひ読んでみてください。
小学校低学年時であれば、学校のテストは計算力さえあればある程度の点数が取れます。というのも、与えられた数値を足したり引いたりして「なんとなく」計算すれば答えが出るからです。
しかしそれだけど、応用問題を解くことができません。論理的な考えのもと、式を立てていかなければなりません。
数式や言葉だけでなく、イラストなどを用いて、その問題をどうやって解いたのかを具体的に説明させるようにしてみてください。自分の言葉で伝えることで、考えが整理され、論理的な思考体系が構築されていきます。
私が指導をしていて、小学3年生に対して「この子は算数ができるな」と感じる児童は、この自分の言葉で説明する能力が非常に優れているのです。
これは、一朝一夕に身につくものではなく、普段の学習から意識を向けていないといけません。
では、お子様がこういった「表現力」を身につけるために保護者の皆さまができるサポートはあるのでしょうか?
実はこのような表現力をつける取り組みとして、家庭でできる取り組みがあります。それは、お子様に問題を作らせて、それを保護者が解くというちょっとしたゲームです。
例えば、お子様がわり算を習っていた場合、こんな風なやりとりをしてみてください。
「最近は、学校の算数でわり算を習っているんだよね?お父さんもわり算の問題を久しぶりに解いてみたいから、何か問題を作ってくれない?」
といった感じで、お子様に問題を作ってもらうのです。
実は、問題をうまく作れる子というのは意外と少ないのです。
例えば、こんなトンチンカンな問題を作ってしまいます。
「アメが30個ありました。1人何個ずつもらえるでしょう?」
このままでは「割る数」、すなわち「アメを何人に配るのか」が分かりませんよね。自信満々にこんな問題を作ってしまうのです。当然解くことができないので、お子様に説明させます。
説明をしてもらう際にはこんな声かけをしてあげると良いでしょう。
「ちょっと解けなかったから、解き方を教えてもらえる?」
こうして、お子様に自分で問題を解き直しさせて、問題が成立していないことに自ら気がつくように仕向けましょう。
そして、「この問題、どうやったら解けるようになるかなぁ?」と問いかけをしてあげて、徐々に問題が成立する方向へ誘導してあげてください。
という具合に、問題を作るというのは、その設定を考える時に非常に頭を使います。そして、自分で式を一旦立てて答えを導いてから問題にするので、意外と難しい作業なのです。
この作業をすることで、自分の言葉で説明する力と論理的に算数の問題を考える習慣がついていきます。もし、問題を作るのが難しい場合は、お題を出してあげると良いでしょう。
「アメ30個を使って、何か、わり算の問題を作ってみて!」
のように、テーマやお題を与えてあげると問題が作りやすくなります。
中学受験を目指す場合、小学校低学年時からしっかりとした学習の習慣や姿勢を定着させることは大切です。そして、普段の学習だけではなく、日常の生活全てが学びに繋がります。
第2回の記事でも触れていますが、何も机の上でやるものだけが勉強ではありません。
世の中には、様々な数が溢れています。道路の標識、値札、体重、天気予報、野球の打率、などなど、算数のテーマはたくさん溢れています。ぜひ日頃から、これらのものに目を向けさせて、興味を持たせてください。
例えば道を歩いているとき、お父さんと息子のせいご君には、こんな会話のチャンスがあります。
「あそこの道路の標識に40って数が書いてあるでしょ?あれは何の数かわかる?」
「わかんない!」
「あれはね、車は時速40kmまでしか出しちゃいけないって意味だよ」
「?」
「速さっていうのは、1時間で何km進めるかって意味なんだ。時速40kmって言うのは、1時間で40km進むスピードって意味なんだよ」
「ふーん」
「家からせいごの学校まで、大体1kmだけど、何分くらいで学校につく?」
「うーんと、30分くらいかな」
「ってことは、1時間あれば2kmくらい歩けるってことだよね?ってことはせいごの歩く速さは時速2kmってことだ」
「え!そうなんだ!車って速いね!」
「じゃあ新幹線ってどれくらいの速さだと思う?」
「わかんない!100kmくらい?」
「なんと、時速320km!」
「すごいね!速過ぎて全然わかんないけど!」
こんな風に、標識1つで立派な算数の学習に繋がります。
実は、このような会話は他にもメリットがあります。それは、ある程度現実的な数の感覚を養うことができるということです。
「かずひろ君の歩く速さを求めなさい」という問題に対して、平気で「時速40km」などと答える生徒は数多くいます。
現実的に考えれば間違いであるとすぐ気づきそうなものですが、こういう誤答をする生徒にとっては「時速40km」というのが現実的にどれくらいの速さなのかがわかっていないわけです。
このような数の感覚というのは、日常の生活の中で培われていきます。身の回りにあるもの全てが算数の教材となり得るということを意識して、お子様とのコミュニケーションにつなげてほしいと思います。
小学3年生の2月から学習塾への通塾開始時点で「差がついている」なんて聞くと、どうしても早く塾に通わせなければと焦ってしまうかもしれません。
しかし、早くから塾に通っていれば安心というわけではなくて、中学受験対策を始めるにあたって必要となる力や学びに向かう姿勢がしっかりと身についているかどうかが大切になってきます。
つまり、『中学受験対策』のための「土台」をいかに構築できているかどうかで「差がつく」のです。
基礎がグラグラしていると立派な家を建てることが出来ないのと同じで、中学受験対策という発展的・応用的な問題に取り組んでいくためには、「基礎」や「土台」がしっかりしていないといけません。
そのためには「計算力」「表現力」「数量感覚」が身につくように普段の学習のサポートをしたり、日常の何気ない場面から学びに向かう姿勢を育てていくことが有効です。
ぜひ、小学校低学年のお子様がいらっしゃる方は、今回ご紹介した内容を実践してみてください。