【第7回】新しい大学入試を見据えて、「なぜ?」を突き詰めよう
迫田 昂輝先生
こんにちは!算数・数学を塾や予備校で教えている迫田です。
さて、今回は新しい大学入試について分析し、今後の小中学生の児童・生徒はどういう学習をしていくべきなのかについてお話ししていきます。
先日、(2021年)1月16日、17日に第1回目となる大学入学共通テストが行われました。これは、昨年度までセンター試験(さらに前は共通一次試験)と呼ばれていた試験と同じく、大学間で共通の入学試験です。
世間一般的には、これまでのセンター試験はいわゆる知識偏重型の試験だと思われてきました(実態は全く異なるのですが、それについては別の機会にお話しできればと思います)。
そういった試験に懐疑的な風潮もあり、これからの未来においては課題を自分で発見し、解決できる力が必要になるため、論理力や表現力を重視した試験にしていく必要があると考えられ、名称を変え、新しい試験を導入する流れとなりました。
大学入学共通テストを主催する大学入試センターは、新しいテストの役割について、
大学教育の基礎力となる知識・技能や思考力、判断力、表現力等を問う問題作成
出典:https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_gaiyou/yakuwari.html
を行うと書いています。
私は、どのような試験になるのかがかなり気になっていたので、当日(数学だけですが)新テストを受験してきました。
これまでの試験と変わった点、そして変わっていない点、今後どのような学習をお子様方にさせていけば良いのか、という点について今回はお話ししていきたいと思います。
数学の試験として大きく変わった点は、実はほとんどありません。
しかし、出題形式として実生活に見られる数学的なモデルを扱っていたり、会話文などから数学的な考察を行っていたりなど、これまでにあまり見られない問題はありました。
正しく数学の学習をしていた受験生にとっては、特に影響は無いように思いますが、一部、問題文を読み取る読解力がないと解きづらい問題もありました。
純粋に数学の力だけではなく、問題文を早く読み取り、適切な情報を取捨選択し、数式に落としこんでいく力が必要になっています。
また、数学の力だけでなく、総合的な学力の向上がこれまでより求められる試験になっていると感じました。
こちらは、その問題の例です。
大学入学共通テスト(2021) 数学Ⅰ・数学A より
単元としては「2次関数」という単元なのですが、身近な事象を数学に落としこんでいます。
最終的には「陸上の100m走でタイムを一番良くする為にはどうすれば良いか?」というものなのですが、問題文の情報を正しく拾い上げ、式を作り計算をする必要があります。
このような問題に「対策」を講じることは難しいでしょう。普段から、身近な事象に興味を持ち、一般化する思考を養っていく必要があります。
先に述べたように、正しく数学の学習をしていた生徒にとっては、特に影響のない試験と言えます。
逆の言い方をすれば、正しくない学習をしている生徒にとっては、やはり高得点は望めない試験になっていました。
ここで、数学の正しい学習の仕方とはどういうものなのかについて、詳しくお話ししたいと思います。実際に今年出題された次の問題を見てください。
大学入学共通テスト(2021) 数学Ⅱ・数学B より
細かな解説は省きますが「三角関数の合成」というものがテーマだったのですが、典型的な出題ではありませんでした。
このような問題は、一見すると難しく見えます。データが無いので何とも言えないのですが、おそらく受験生の正答率も高くないでしょう。
しかしながら、普段から「なぜそうなるのか?」「どうしてそのように考える必要があるのか?」「他の考え方がないか?」という「なぜ?」を意識して学習してきた生徒にとっては、難なく回答できる問題だったのです。
数学の学習において大切なことは、常にこの「なぜ?」を追求する姿勢なのです。
「この問題が出たらこう考える」という、いわゆるパターン暗記も必要なケースはもちろんあります。しかし、それだけでは残念ながら数学の力は向上しません。
問題との格闘を通して、より合理的な思考力を養っていくことが、数学の力を向上させる最も効率の良い学習法なのです。
現在、小中学生の児童・生徒が算数・数学を学習していく際に大切なことは、先に述べたように「なぜ?」を意識した学習です。
例えば、円の面積の公式は、次のように習います。
(円の面積)=(半径)×(半径)×(円周率)
さて、この公式は「なぜ?」成り立つのでしょうか?小中学生にもイメージできるのは、次のような解説です。
『小学高学年 自由自在 算数』 p.264 より
このような考え方をすれば、確かに円の面積が上の公式で求められるイメージがつかめます。そして、この考え方は、高校2年生で学習する積分(せきぶん)の考え方と同じようなものなのです。
こうした、普段の「なぜ?」を意識した学習が、後々の大学受験、ひいては社会に出てからの問題解決能力に繋がっていくのです。
ここで気をつけなければならないことは、普段の学習で点数に囚われすぎないことです。特に小学生の段階においては、高得点を取ることより、正しく考えることができているかどうかがとにかく重要になります。
例えば、次の超有名問題を見てみましょう。
『小学高学年 自由自在 算数』 p.266 より
さて、この問題、解き方はいくつかあります。代表的なものに次のような解き方があります。
『小学高学年 自由自在 算数』 p.266 より
この問題は、あまりにも有名なため、一部中学受験界隈では「0.57倍」の問題とも言われています。正方形の面積を0.57倍すると、必ず答えが出るからです。この0.57倍を利用して解ける類題も数多くあります。
確かに、限られた試験時間において、最速で答えを出すならば「0.57倍の解き方」が最も効率が良いのかもしれません。しかし、このような学習をしていては思考力が養われません。
この「0.57倍の解き方」のように、高得点を取りたい児童、高得点を取ってほしい保護者、高得点を取らせたい指導者、三者の欲求を満たす麻薬のようなツールが算数・数学の世界には多くあります。
かく言う私も、生徒に試験で高得点を取らせたい立場ですので、このようなツールを必要最小限に紹介することがあります。
しかしながら「なぜ?」を抜かしたこのようなツールは、時に思考力という大切な力の成長を阻害してしまうこともあるのです。
「なぜ?」を突き詰める学習法は、時に非効率な学習に思われがちです。実際、学校で行われる定期試験などで点数を取りこぼすことも多くあるでしょう。
しかし、「理由はよくわからないけれども、覚えた公式に当てはめたら正解だった」より「しっかり考えたけれども不正解だった」方が、後々成績は向上し、揺るぎない思考力を育てることに繋がっていくのです。
余談ですが、中学受験で難関中学に合格したのに、大学受験では思うような結果が出ない子が多くいますが、このような子は「なぜ?」を蔑ろにしているケースが非常に多いのです。
これまで行われていたセンター試験も、(数学は)思考力が試される良い試験でした。新しくなった大学入学共通テストも、そのスピリッツを受けついでいるように思います。
これまでと試験の役割は何も変わっていないですし、対策の仕方も何も変わりません。
しかし、名称が代わり「思考力・表現力」が声高に強調されたことで、児童・生徒および保護者の方にも「なぜ?」を追求する学習が大切であることが伝わったのかもしれません。
その点は、この新テスト導入の1つの功績だったと言えるのではないでしょうか。
お子様の学習サポートをする機会がありましたら、ぜひ「なぜ?」を添えて、お子様の思考力を育ててみてください。