【第3回】図形問題を得意にするために意識したい学習の3つのステージ
迫田 昂輝先生
こんにちは、迫田です。
今回からは、小学生のお子様が算数の学習に取り組む中で苦手に感じやすい単元や分野をピックアップして、それを得意に変えていくためのポイントをお伝えできればと考えております。
この記事では、やはり多くの小学生が苦手だと感じる傾向にある「図形問題」にフォーカスしていきたいと思います。
お子様が図形問題に対して苦手意識を持っていたり、正答率が悪かったりするのには様々な原因が考えられます。
ただ、これまでの記事でもお話させていただいたように算数・数学は「積み重ね」の教科ですので、図形問題を苦手にしないためにも、やはり学齢に応じた学習を「積み重ね」ていくことが肝心です。
そこで、今回の記事では発達段階と目標レベルをざっくり区分した上で、それぞれの段階における学習のポイントを押さえていきます。
この段階で図形問題に関して苦手意識を持っていることはほとんどありません。
なぜなら、小学校入学前のお子さんであれば、宿題やテストなどを意識する機会がほとんどありませんし、小学校低学年では図形問題といっても同じ形を選んで分類したり、長さを測ったりするくらいで、特に難しいものはないからです。
しかし、この時期の図形に対しての接し方や習慣が、後々の学習に影響を与えていきます。どのようなことを意識していけば良いのでしょうか。
『小学1・2年自由自在算数』p.255より
上記の問題は、解くスピードに差はあったとしても、多くのお子様が自力で答えまでたどり着くことでしょう。
ただ、このように瞬時に同じ形を探し、分類する能力が未就学児〜小学校低学年の時期に身につけられているかどうかは非常に重要なことです。
というのも、小学校高学年になって図形問題に苦手意識を持つお子様は、この分類が非常に苦手な傾向があるからです。
小学校高学年で学習する面積の問題で1つ例題を見てみましょう。
図形問題が苦手な子は、この問題を間違えます。
よくある誤答は、
2×5÷2=5(㎠)
という式です。正しくは、
2×4÷2=4(㎠)
です。
底辺の長さを2cmというところまではOKなのですが、高さを取り違えてしまうわけです。
この、いわゆる鈍角三角形の面積を求める問題は、多くの子どもが一度は間違えますが、仕組みを説明し、正しい考え方を身につけるとちゃんとできるようになります。
ところが、また時間をおいて同じような問題を出すと、同様に間違えてしまうのです。
このような子たちに共通している原因の1つは、違う問題を見たときに「あ、これはこの前間違えた三角形の形と同じだ!」と気づかないところにあります。
つまり、似たような形を探し、分類する訓練は「どのようなパターンに落とし込んで計算すれば良いのか」の方針を立てる意味で非常に重要なわけです。
回転させたり、移動させたり、大きさを変えたりしても「同じ形だ」「似たような形だ」「この形とこの形は違うものだ」と識別する訓練が大切なのです。
このような能力は、当然問題を多く解くことで身につきはしますが、未就学児〜小学校低学年の時期であれば、普段の生活や遊びの中にも練習を取り入れる方が効果的です。
図形を得意にする上で、やって欲しい遊びは次のようなものになります。
・折り紙(作り方をみながら同じものを作らせる)
・ブロック遊び(レゴブロックなど)
・お絵かき(目の前にあるものを描く)
・地図遊び(地図を作ったり、地図をみて何がどこにあるのか説明させたりする)
・工作(プラモデルなどでも良い)
・迷路づくり
また、普段の生活の中でも、同じ形の皿を分類させたり、ゴミとなるティッシュ箱やトイレットペーパーの芯をバラしたりしてどんな形になっているのかを認識させることも、図形を識別する感覚を高めていく上では効果的です。
このように普段から、様々なカタチを意識させることが大切になります。
これらのアクティビティは、小学校高学年以上で図形問題に苦手意識があるお子さんにも効果があると思います。
この段階になると、図形問題に苦手意識を持つ子たちが増えてきます。
算数の図形問題を解くためには、図形を識別するそれなりに感覚的な理解だけではなく、問題を解く筋道を立てる論理的な理解が必要になってきます。
まず、図形問題をよく間違えてしまうのは、公式を覚えていたとしても、それを正しく理解し、活用できていないことが原因として考えられます。
先ほどの三角形の面積についてもそうですが、「底辺×高さ÷2」という公式は覚えていても、「どこを底辺にしてどこを高さにするのか」という視点がかけているケースがよく見られます。
さらに言えば、なぜそこを底辺とするのか、なぜそこを高さとするのか、という「なぜ」の視点も必要になってきます。
家庭学習の際意識してほしいのは、しっかりと式を書かせること、そして、その式を説明させてみると良いでしょう。先ほどの問題を使って会話の例をイメージしてみましょう。
「この三角形の面積を求めるんだけど、まず三角形の面積を求める式は覚えてる?」
「うん!底辺×高さ÷2!」
「そうだね!じゃあこの三角形の面積を求める式はどうなる?」
「2×5÷2」
「最初の2は何かな?」
「これは底辺(の長さ)!」
「じゃあ、次の5は何?」
「これは高さ!」
「本当にそうかな?」
「あれ?じゃあ4cmかな?」
「なんでそう考えたの?」
「う〜ん、なんか5cmじゃないっぽいから、もう1個の方かなと思って…」
(ここで助け舟)
「高さってね、ボールを落とした時を考えるとわかりやすいよ。ここからボールを落とすと、こんな感じになるよね?これが高さのイメージなんだよ。」
このように、立てた式とそうした意図を説明させるようにしてみてください。
公式の理解があやふやになっている場合は、式を説明させることで理解不十分な箇所が明らかになります。
そうした理解が不十分な箇所についてお子様に「気づき」を与えていくことで、徐々に公式を正しく理解し、ただ当てはめるだけではなく論理的に活用できるようになっていきます。
学校の教科書に載っているような基本的な図形問題が解けても、応用問題や中学受験レベルの図形問題となると解けない子もいます。
これは、中学生や高校生でもそうなのですが、公式も理解していて簡単な問題なら解けるけれども、応用問題や入試問題になると手も足も出ないという生徒は非常に多いのです。
せっかくの機会ですので、私が昔作った図形問題を例に出して、原因と対策について言及してみましょう。
皆さん、次の問題にチャレンジしてみてください。
詳しい解説を聞きたい方は、「数学のトリセツ」より、こちらの動画をご覧ください。
さて、この問題の解法の手順は次のようになります。
という流れになりますが、ポイントは2です。「直角三角形が出てきたときの補助線の引き方」という知識を持っているかどうかが重要になります。
つまり、図形問題を解く際には、ある一定の知識が不可欠になるということです。
私はこれを図形問題の定石と呼んでいるのですが、この定石(「この形が出たらこう考える」というパターン)を多く知っていることが、難しい図形問題を解いていく上では必要不可欠なのです。
難しい図形問題は、発想力や閃きといった、いわゆるセンスが必要と思われている方が多いのではないでしょうか。
確かに、算数や数学の図形問題の難問の中には、そのようなセンスが必要となるケースもあるのですが、これらが苦手な子は圧倒的にこの定石の数が足りない、もしくは覚えていない場合がほとんどです。
調理器具をイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれませんが、凝った料理を作るときには、包丁とフライパンだけでは厳しいですよね。
野菜の皮を剥くときにはピーラーがあった方が便利で効率的ですし、グラタンを作ろうと思えばオーブンが必要です。
調理器具のバリエーションが料理のバリエーションにも繋がっていくわけで、算数においてはそうした調理器具が定石ないし知識であり、料理が図形の問題に当たります。
このように難しい図形問題を解くときには、ある程度の定石が必要不可欠なのです。
例えば、次の問題は何も定石も知らない状態で解くと非常にやっかいな問題です。
『小学高学年自由自在算数』p.255より
この問題は、等積変形という定石パターンを把握していれば比較的容易に解くことができますが、そうでない場合は正答を出すことは難しいでしょう。
解法は以下の通りです。
このように、ある程度難しい図形問題を解くためには、典型的な型や解法といった定石を意識的にインプットしていくことが大切です。
今回の記事で紹介している問題は、『自由自在シリーズ』に掲載されている問題ですが、このような体系化された教材を用いて、定石を身につけていくことで応用問題に対するアプローチを増やすことができます。
余談ですが、中学や高校で数学の図形問題が苦手な生徒も、圧倒的にこの定石が足りていません。
図形問題は発想力や閃きのそのずっと前段階として、まずは手元にある道具をいかに使いこなすかという視点が大切になります。
もちろん、算数や数学というのは試行錯誤を繰り返し、思考を重ねることで面白い発見や考え方、思考力が身に付いていく側面があります。
しかし、難しい図形問題が苦手な子の多くは、必要な知識が足りていないことがほとんどなので、体系的に定石を覚えていくことが重要になっていきます。
図形問題を得意にしていくためには、
1.未就学児~小学校低学年
:普段から様々なカタチ意識し、探し、分類していく
2.小学校高学年
:公式の意味をしっかりと理解する
3.中学受験期
:ある程度の定石を身につける
という3つのステージを意識した「積み重ね」が大切になってきます。
小学校高学年で苦手を感じている方は、低学年のステージに立ち返ってみるといった具合に、1つ下のステージの学習に立ち返ってみるのも良いでしょう。
ぜひ、普段の生活や学習の場面で、意識をするようにしてみてください。