【第6回】家庭で算数を教えるときに注意したいことって?
迫田 昂輝先生
こんにちは!算数・数学講師の迫田です。
今回も算数を学ぶお子様に対して、保護者の皆様に意識していただきたい「接し方」や「心構え」、「家庭で行って欲しいアクション」について記事を書いていきたいと思います。
前回は算数の中学入試対策が本格的に始まる小学3年生の2月頃より前にやっておきたいこと,身につけておきたい姿勢についてお話しました。
そして、今回は「家庭で算数を教える際に気をつけておきたいこと」をテーマにお話ししたいと思います。
お子様が小学生の場合、学校の宿題や塾で出された問題などを、家庭で親子一緒に取り組むことも多いと思います。時には、保護者の皆様が先生となって、お子様に算数を教えるなんて場面もあることでしょう。
今回はそういった「保護者が先生になるとき」の注意点をいくつか紹介したいと思います。
皆さんは時間を割いて教えているのに「お父さんの教え方わからない!」「お母さんの解き方は先生の説明と違う!」なんて言われてしまったことはありませんか?
こんなことを言われると、残念な気持ちになってしまいますよね。
そんな時にぜひ意識していただきたいポイントをご説明させていただきます。また、家庭学習をする際の教材の選び方も紹介しています!
お子様から算数の問題を質問されたとき、ズバッと答えてあげたいですよね。あわよくば「お父さんすごい!」「お母さんって算数得意なんだ!」とリスペクトされたい気持ちも出てくることでしょう。
しかし、そう簡単にはいきません(そんなに簡単に教えられると、我々講師の仕事が無くなってしまいます笑)。
例えば、次の問題は中学受験算数における定番の問題ですが、お子さんにどのように教えますか?
『小学高学年 自由自在 算数』 p.392より
いわゆる「つるかめ算」と呼ばれている算数の問題です。第4回の記事でも紹介しましたね。
この問題は、本来は中学2年で学習する連立方程式(より正確に言うと、中学1年で学習する1次方程式)の単元になります。
ですので、中学・高校時代にしっかり数学を学習した方であればあるほど、ついつい「つるの数をx、かめの数をyとおいて…」と、文字を用いて方程式を立てたくなるわけです。
しかし、もちろん小学生は文字式や方程式は習っていませんから、そのように教えてもお子様は理解が難しいことでしょう。一般的な解説は次のようになります。
『小学高学年 自由自在 算数』 p.392より
しかし、話はここでは終わりません。実は次のような別解もあるのです。
『小学高学年 自由自在 算数』 p.392より
いわゆる「面積図」を用いた解き方です。先生によっては、むしろこちらを先に教えて、表を用いた方法を別解として教えることもあります。
つまり、1つの問題を教えるのにも、さまざまな教え方がある場合があり、単に「正しいことを正しく伝える」だけで、子どもたちはできるようにはならないのです。
クラスやお子様の状況に応じて、適宜教え方をアレンジする。そこが我々プロの講師の腕の見せ所であり、子どもたちの様子を見ながら臨機応変に教え方を調整しているのです。
このように、保護者が教えるといっても、学年の学習進度に応じた解法とパターンを把握したうえで、学校・塾の先生と同じように教えることには無理が生じます。
保護者が心掛けるサポートは、もっと別のところにあります。次の章では、その点について見ていきましょう。
はっきり断言しますが、算数の指導経験がない方が算数を教えようとしてもうまくいきません。
お子様の「何がわからないのか」を掴み、それに適切に対処するには、それなりの経験が必要となります。
これは、ゴルフを例に取るとわかりやすいのかもしれません。初心者ゴルファーでも、ちゃんとしたレッスンプロが2、3アドバイスをするだけで劇的に変化するのですが、素人のうまい人が教えてもあまり上達はしないのです。
では、家庭でお子様の質問に答えることができないのかというと、そういうわけでもありません。
「適切な教え方をしよう」というマインドセットではなく、「一緒に考えてあげよう」という姿勢を持ってみてください。
解き方を教えるのではなく、一緒に考えて一緒に解く。それだけでも、驚くほどお子様の質問を解消できてしまうのです。
その理由は、大人と子どもの読解力の差にあります。お子様が、算数のわからない問題の解説を読むとき、実はしっかりと読んでいないことが多いのです。というより、本人はしっかり読んでいるつもりなのですが、読解力がなくて理解しきれないことが多いのです。
その点に関しては、大人の方が一日の長があります。お子様よりも早く理解できるので、「こういう風に考えたら解けるんじゃない?」と、さらっとアドバイスができるわけです。
間違っても「解説に書いてあるじゃない!ちゃんと読みなさい!」などと叱らないようにしてください。本人は真面目にやっていても、どうしても理解力には差があります。
最初から「教えよう」という姿勢ではなく、一緒に考えることで、お子様がつまずいている箇所が明確にわかってきます。また、解説を読んだ上で説明するので「教え方が違う」ということも起こりにくいのです。
そして、解説を読んで一緒に考えてもわからないときは、素直に「わからない」と伝えてあげてください。家庭でなんとかしようと、何時間も考えて分からなかったのに、先生に聞いたらあっさりできた!なんてこともあります。
さらに、保護者の方が「わからない」と言うこと自体に意味があります。
というのも、「わからない」=「悪」という感覚が染み付いている子が非常に多いのです。
そのため、お子様はわかったふりをしたり、わからない問題を質問せずに放置したりすることがあります。これがひどい状態になっていくと、カンニングをしたり、宿題の答えを写したりするようになるかもしれません。
「わからないことは恥ずかしいことではない。わからないことを1つずつわかるようにしていくことが大切なんだ」というメッセージを伝える意味でも、堂々と「わからない!先生に聞いてみて!そして、わかったらパパやママにも教えてね」と言ってしまいましょう。
保護者の方が、書店などで教材を選び、お子様に取り組ませるケースについても、注意点をお伝えしておきます。
このような場合、次のような目的があって追加教材を購入するかと思います。
●学習塾に行かせていないが、小学校で課される学習量だけでは物足りないので、追加で取り組ませたい。
●学習塾等に行かせているが、あまりできるようにならないので、追加の教材を取り組ませたい。
●学習塾等に行かせているが、まだ余力があり、さらにプラスαの応用問題などに取り組ませたい。
まず、いずれのケースにせよ、教材を買い与える際に肝に銘じていて欲しいことがあります。
一. 学校や塾がメイン。教材はサブと心得よ
二. レビューだけで判断するべからず
三. 安直なタイトルに惑わされるべからず
四. 解説が詳しいものを選ぶべし
五. 合わない場合は、容赦無く捨てるべし
どのようなお子様にも、「学校」や「塾」のように普段の学習の中心となるものがあるはずです。「学校の宿題はやらなくていいからこっちの教材をやりなさい」や「塾の復習よりこの教材をやりなさい」のように、メインを疎かにしないように注意してください。
また、教材を選ぶ際にレビューや口コミなどで選ぶ保護者の方も多くいます。教材には合う、合わないがありますから、必ず中身を書店で確認してから購入しましょう。
同じように、タイトルに惑わされる方も多くいます。「基礎」と書かれているのが、実は結構難しい内容だったり「○日で完成」なんて言うものが、全然終わらない量だったり、逆に完成させるには全然内容が足りないものがあったりします。これも中身を見て購入前に確認をするべきでしょう。
そして、中身を見るときに最も重要視するべきなのは解説の詳しさです。
解説に多くの紙面を割いている本を選ぶようにしてください。できれば、問題の量より解説の量の方が多いくらいの教材を選ぶようにしたいですね。
これは、お子様のためというよりは、保護者の皆様のためです。先ほども述べましたが、お子様はどれだけ詳しい解説だったとしても理解できないことがあるのです。その時は、保護者様が解説を読んでお子様と一緒に考えることになりますから、できるだけ解説が詳しいものを選びようにしてください。
最後に、一番大切なのは「あ、この教材はうちの子に合っていないな」と感じたら、使うのをやめることです。
「せっかく買ったのに」という気持ちも分からなくないのですが、合わないものをずっと使っていても思ったような効果は得られません。それどころか、最も大切な時間という財産を無駄にしてしまいます。
投資の世界などで「サンクコストバイアス」という言葉が用いられるのですが、簡単に言ってしまうと「せっかくお金をかけたんだから、元を取らないともったいない」という考えが働き、損切りができない状態のことを言います。
学習においても、すべての投資が成功するわけではありませんので、合わない教材は躊躇なく使用をストップして、また次の教材を探すようにしてください。
参考までに、私の手元にある本で、オススメのものを列記しておきます。
しかし、これももちろん「合う合わない」がありますので、購入前に書店等でお子様と一緒に手に取って確認するのがよいでしょう。
『ドラえもんの算数おもしろ攻略 算数まるわかり辞典 4~6年生版』 小学館
詳しくは☞こちら(出版社サイト)
キャラクターもので、算数に苦手意識を持つお子様でも取りかかりやすいシリーズです!先の学年での学習ないし中学受験対策スタートを見越しての予習がしたい3年生のお子さんには特におすすめです。
『塾講師が公開! 中学入試 塾技 100 算数 新装版』 文英堂
詳しくは☞こちら(出版社サイト)
「なるほど〜!塾ではこうやって教えているのか!」と、保護者の方のバイブルになるでしょう。塾で教える算数の「アタリマエ」が効率よく確認できます。4年生から受験を意識した学習を始めたいという方にもおすすめです。
『小学高学年 自由自在 算数』 増進堂・受験研究社
詳しくは☞こちら(出版社サイト)
詳しい解説がカラーで掲載されていてオススメです。塾教材と併用するときは、解説の違いに戸惑う可能性があるので、保護者と一緒に進めていく必要があります。
塾等に通っていないのであれば、このシリーズに載っている解法をしっかり身につけていけば良いので、学校の教材のプラスアルファとして与えて、分からない問題を保護者と一緒に考えると良いでしょう。
『下剋上算数 難関校受験編 ――偏差値50から70への道』 産経新聞出版
詳しくは☞こちら(出版社サイト)
詳しい解説があるので、保護者の方とお子様の二人三脚で取り組むには良い教材です。裏紙を大量に用意して、一緒に図を書いたりしながら進めていきましょう。わかりやすい教材ですが、お子様が一人で進めるには難しいかもしれません。
『中学への算数』シリーズ 東京出版
詳しくは☞こちら(出版社サイト)
月刊誌です。高校生向けの「大学への数学」、中学生向けの「高校への数学」も有名です。ハイレベルな良問を月別のテーマで扱っていて、コラムも充実しています。「算数大好きで、さらに得意にしたい」というお子様向けです。
ご家庭だけで取り組むのは(保護者の方が算数マニアで、お子さんと一緒に考える時間が取れない限り)ほぼ不可能です。掲載している問題数も多いので、全てやる必要はありません。私でも悩む問題があります(笑)
さて、お子様が取り組む教材選びは、実はとても奥が深く、難しいのだということを今回の記事の中でお話してきました。
実際、これまで私も最適とは言えない教材の取り組ませ方をさせているご家庭を何度も目にしてきました。
薬と同じで、用法・用量を適切に守り、使用していて違和感を抱いたら,すぐに使用をやめるということを肝に銘じてください。
そして、教材が「薬」ならば、先生は「お医者さん」です。
できることならば、学校や塾のプロの先生から正しい処方箋、すなわち適切な教材を受け取って、お子様に合った取り組ませ方をしてあげてほしいと思います。
そして,もし保護者の方がお子様と書店などで教材を選ばれる際は,今回お伝えしたポイントに基づいて,選ぶことを心がけて頂けると幸いです。
いかがでしたでしょうか。保護者の皆様は、学校・塾の先生とは違います。大切なことは、お子様のよき相談相手として寄り添い、一緒に考えてあげることです。
どんな問題が問われているのか、どんな解説が書かれているのかを読み解いて、「こういうことじゃないかなあ」と優しくサポートしてあげることが大切だと思います。
そうすれば、たとえその時はわからない問題のままであったとしても、お子様の中には「一緒に取り組んでくれた」といううれしい気持ちは残るはずです。問題が理解できたときには、楽しそうに話をしてくれるでしょう。追加の教材を選ぶときにも会話が弾んでくるでしょう。
ぜひ学校・塾の先生とは異なるアプローチで、お子様の学びに取り組む姿勢も後押しし、また算数のどのような分野に難しさを感じているかなど、お子様の学習状態を確かめる機会につなげていってみてください。