【第10回】文章の読み方を知る「指示語を使いこなそう!」
小池 陽慈先生
こんにちは。現代文講師の小池です。
前々回、そして前回は、〈接続詞〉に代表される〈つなぐ言葉〉についてお話をしました。
この〈つなぐ言葉〉と、そして今回学ぶ〈指示語〉とは、〝文章のつながり=論理〟をとらえていくうえで、とても大切な働きを担うものとなります。
ぜひ、ご熟読ください!
まず、『自由自在』から、〈指示語〉の解説を引用してみます。
いわゆる〈こそあど言葉〉のことですね。同じ『自由自在』でも、『小学高学年 自由自在 国語』では、次のように解説されています。
指示語を使用する効果や意図についても解説してくれていますね。
例えば、以下のような事例を考えてみましょう。
(例)去年私は、町の洋服屋でセーターを買った。去年私が町の洋服屋で買ったセーターは、とてもかわいらしいデザインだった。
この文章を読んで、率直にどう感じましたか。
二文目の「今日私が洋服屋で買ったセーター」という情報は、すでに一文目で述べているわけですから、わざわざ繰り返さなくてもわかる。むしろ、繰り返してしまったことで、くどい冗長な文章となってしまっています。
もちろん、ここは次のようにした方が良いでしょう。
(例)去年私は、町の洋服屋でセーターを買った。それ(そのセーター)は、とてもかわいらしいデザインだった。
「それ」や「その」等の指示語を用いて表現したほうが、まさに「簡潔でわかりやすい文章」になるはずです。
それだけではありません。元の文章をもう一度見てください。
(例)去年私は、町の洋服屋でセーターを買った。去年私が町の洋服屋で買ったセーターは、とてもかわいらしいデザインだった。
一文目と二文目が、それぞれバラバラに記述されているように感じられませんか?
そして指示語を用いた文章を見てください。
(例)去年私は、町の洋服屋でセーターを買った。それ(そのセーター)は、とてもかわいらしいデザインだった。
こうすると、一文目と二文目とのあいだに、密接なつながりが生じることになります。それはもちろん、二文目の指示語「それ」「その」が、一文目の内容を指し示しているからですよね。
このように、指示語を的確に運用することができると、文と文、あるいは文章と文章とのあいだに存在する〝つながり=論理〟を、はっきりと示すことができるわけです。
これは逆に言えば、
文章を読む際に指示語を丁寧に確認すれば、文章の論理を正確に把握することができるようになる
ということでもありますよね。
やはり〈指示語〉は、接続詞に代表される〈つなぐ言葉〉とともに、読解の軸となるような知識であると言えるわけです。
では、その指示語を、どのように把握していくか。より正確には、指示語が指し示す内容、すなわち指示内容を、どのようにとらえていけばいいのか。
それを考えるうえで、まずことわっておきたいことがあります。
これは完全に僕の主観でしかなく、お叱りを頂戴する可能性もあるのですが……
「こそあ」が持つそれぞれの性質、すなわち〈こ=自分に近い/そ=相手に近い/あ=どちらにも遠い〉という働きについては、正直、実際に書かれた文章を読む際には、その知識を応用するのはちょっと難しい。
実際に長年子どもたちを指導してきたなかで、僕はそう感じています。
もちろん、〈こそあ〉それぞれの性質・働きについて専門家の方々が書かれた論文などにも目を通し、「なるほど!」ととても勉強にはなったのですが、そこで得た知識を小中学生に教えるのは現実的ではありません。
かなり乱暴な考え方になってしまうというのは重々承知の上で、「読解知識としての指示語については、〈こそあ〉の違いはあまり気にしなくてかまわない」というのが、現時点での僕の持論です。
では、仮に〈こそあ〉の違いにはこだわらないとして、それならば〈指示語と指示内容の対応〉については、具体的にはどうように確認すればよいのか。
それに関しては、『小学高学年 自由自在 国語』に素晴らしい解説がありますので、それをそのまま紹介したいと思います。
この、「いきなり前を探すのではなく、指示語を含む一文を最後まで読んで考える」ということが、きわめて大切なポイントとなるのですね。
上記『小学高学年 自由自在 国語』に紹介されている例もわかりやすいですが、例えば、次の例文を見てください。
(例)一年生の蹴ったボールがこっちに転がってきた。私はそれを蹴り返してあげた。
この文中の「それ」は、〈私が蹴り返してあげたもの〉と定義することができますよね。このような確認をしたうえで前の一文に戻ると、〈それ=一年生の蹴ったボール〉であることがすぐにわかる。
そして、この〈指示語を含む一文の確認〉においてしばしば大きな武器となる観点が、本シリーズでも相当な力点を置いて説明してきた、〈主語/述語〉〈目的語としての修飾語〉等の、いわゆる〈文の成分〉であるわけです。
例えば、先ほどの『小学高学年 自由自在 国語』 に挙げられる例では、「これ」は、「僕が昨日買ってもらったものだ」という〈述語(述部)〉に対する〈主語〉を構成する主成分です。
そこから、〈これ=僕が昨日買ってもらったもの〉という関係性を見抜くことができる。そしてその把握によって、直前の記述から、〈これ=本〉という情報を正確にとらえることが可能となったわけです。
あるいは、僕の用意した例文では、「それ」は「蹴り返してあげた」という〈述語(述部)〉に対する〈目的語としての修飾語〉です。
そこから、〈それ=蹴り返してあげたもの〉と整理し、結果として〈それ=一年生の蹴ったボール〉という認識に至ることができた。
まとめるならば、
指示語の指示内容を確認するためには、まずは指示語を含む一文を読み、〈主語/述語〉〈目的語〉等の〈文の成分〉などにも着目しながら指示語を分析する!
ということですね。
以下は、実際にとある難関大学で出題された文章の一部分です。傍線部「そういう作業」は、どのような内容を指し示していると考えられますか?
「そういう作業」を含む一文を読むと、「そういう作業」は、「軽視される」という〈述語〉に対する〈主語〉であることがわかります(学校文法以外では、また異なった説明をすることになるのですが、その点は無視します)。
ここから、〈そういう作業=学校では軽視されるもの〉という内容を整理することができる。そして直前までの記述に目を通すと、この文章は、「幼稚園」と「学校」とを対照的なものとして比べていることが確認できますよね。
つまり、〈そういう作業=学校では軽視されるもの〉という情報は、裏を返せば〈そういう作業=幼稚園では重視されるもの〉と説明し直すことができる。結果として、〈そういう作業=幼稚園の日常のなかで行われる、他人の身体に起こっていることを生き生きと感じる練習〉と把握することが可能となるわけです。
大学入試レベルの文章とはいえ、この事例における指示語の使い方は、さして難しくはなかったかもしれません。
ただし、どれほど難解な使用例になろうと、指示語の指示内容の把握については、ここに示したような分析手順が、基本的なルーティンとなります。お子様の学習をサポートしていく際には、ぜひ、意識してみてください。
さて、ここまでは主に、文章を読む際に〈指示語〉をどう確認するか、という側面からお話してきました。最後に、設問に答える際に〈指示語〉をどう意識するか、という観点から、少しだけ補足をしたいと思います。
まず、先ほど引用した『自由自在』での解説中に、〈指示語〉を使用する目的として、
文中に一度出てきた言葉を指示語で言いかえ、同じ言葉のくり返しをさけて、簡潔でわかりやすい文章にするため
という点が述べられていました。
これは、逆に考えれば、〈指示語とは、本来そこにあったはずの正確な内容を置きかえた、単なる代替記号に過ぎない〉ということでもあります。
つまり、「僕はそれを知った」などと口にしても、「それ」の内容が明示されないかぎり、この文は何を言っているのか絶対にわからない。指示内容の示されない指示語は、単なる意味の空白に過ぎないのです。
となると、例えば国語の読解問題で、傍線部や傍線部を含む一文の中に〈指示語〉があったなら、たとえ「指示内容を明らかにせよ」と書かれていなくとも、それは当然、確認しなければならないわけです。傍線部や傍線部を含む一文の中に意味の空白があっては、傍線部の説明も傍線部についての理由説明も、正確に実践することは難しいでしょう。
そして、もう一つ。
中学受験でも、高校受験でも、そして大学受験でも、〈記述〉を課す試験がどんどん増えている、という話は耳にしたことがあるかと思います。そしてこの〈記述〉答案の作成において、〈指示語〉はやはり大切なポイントとなる。
例えば、作成した答案が、
(例)A子は大学への合格を母に告げたが、娘の大学合格の報告を受けた母は、涙を流して喜んだ。
となっていては、やはりくどい。読みづらい。
それなら、次のようにしてしまう方が端的で読みやすい答案になるでしょう。
(例)A子は大学への合格を母に告げたが、その報告を受けた母は、涙を流して喜んだ。
(例)A子は大学への合格を母に告げたが、それを聞いた母は、涙を流して喜んだ。
ただし、逆に、あまりに〈指示語〉を多用したりすると、何がなんだかわからなくなったりもします。
例えば、これは実際によく見かける答案なのですが、
(例)A子はそれを母に告げたが、その報告を受けた母は、涙を流して喜んだ。
などと、指示内容を示さずに解答を記述することは、絶対に避けなければいけません。
繰り返しますが、指示内容の示されない指示語は、単なる意味の空白に過ぎないのですから。
宣伝となってしまい恐縮ですが…。
笠間書院より刊行されている拙著『一生ものの「発信力」をつける! 14歳からの文章術』(このたび、おかげさまで重版出来となりました!)の「第2部 表現編 03指示語を使いこなそう」では、文章を書くうえで〈指示語〉をどのように考えていくか、詳しく解説しています。お読みいただけると幸いです。
一生ものの「発信力」をつける! 14歳からの文章術
今回はここまでとなります。
文章の読み方が身についてくると、問題を解く場面だけでなく、日常の文章の書き方や読書の楽しさも変わってきます。
本シリーズの連載も、残るはあと2回。最後まで、何卒よろしくお願いいたします!