【第8回】ブンポウってナニソレ、おいしいの?④:「つなぐ言葉 ~1~」
小池 陽慈先生
こんにちは。現代文講師の小池です。
ここまで、このシリーズ「ブンポウってナニソレ、おいしいの?」では、〈文節〉の知識をベースとして、〈文節〉が一文中で持つ役割としての〈主語/述語〉、〈修飾語〉という考え方について確認してきました。
今回もまた、〈文節〉の持つ役割に着目していくのですが、その中でも〈接続語〉というものについて考えてみたいと思います。
文節の持つ働きとしての〈接続語〉について考える前に、まず、国語学習において、「論理」あるいは「論理的」とはいったいどのようなことを言うのか、その点について確認しておきたいと思います。
ここが前提となっていないと、〈接続語〉の学習はとても無味乾燥なものとなってしまうので…。
皆さんは、例えば、「国語では論理的思考が大切だ」とか「論理的に文章を読み書きする力を身につけましょう」などという言い方を耳にしたことがありませんか?
僕も、しばしばそうしたことを授業や保護者会、講演などで口にします。
では、こうした言葉を口にする際、僕たち国語の指導者は、この「論理」とか「論理的」という語句を、いったいどのような意味で用いているのか。
もちろん、話者によっては、いわゆる難しい専門用語や記号に象徴される論理学の意味でこの言葉を口にする人もいます。当然そうした観点での論理性も、言葉を用いて思考する際には大変に重要になってくるものですが、残念ながら僕はそうした知識に疎く、ここで何かを語るような資格はありません。
仲島ひとみ『大人のための学習マンガ それゆけ! 論理さん』(筑摩書房)がとても素晴らしい論理学の入門書になっていますので、興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてください。
では、本稿において言う「論理」や「論理的」とは、どのような意味か。
まず、「論」とは言葉と言葉の〈つながり〉のことです。
もう少し詳しく言い換えるなら、〈語と語のつながり〉〈文節と文節のつながり〉〈文と文のつながり〉〈段落と段落のつながり〉といったところになります。
そして、「理」とは〈ことわり〉のこと。
つまり、そうした言葉と言葉の〈つながり〉=「論」には、〈こうあるべきということわり〉=「理」がある。言うなれば「論理」とは、〈言葉と言葉における、正しいつながりかた〉を意味する概念でもあるわけです。
以下、拙著で恐縮なのですが、国語学習において大切となる「論理」という考え方について、論理学的なそれとはまた異なる観点から整理したものを引用しておきます。ぜひ、ご一読ください。
ここでいったん、「論理」についてのお話は横に措いておきましょう。
これまでも言及してきた通り、一文のなかで、〈文節〉の担っている役割のことを〈文の成分〉と呼びます。その代表が、〈述語〉であり〈主語〉であり、そして〈修飾語〉であったわけですね。そして今回ここで確認するのが、〈文の成分〉としての〈接続語〉という概念になります。 次の例文を見てみましょう。
雨が/降って/きた。/だから、/試合は/すぐに/中断された。
まず、1文目については、次のような構成が確認できます。
雨が = 主語 + 降って/きた = 述語(述部)
そして2文目についても次のように確認できますね。
試合は = 主語 + すぐに = 修飾語 + 中断された = 述語
ここまでは、前回までの記事でお話しした通りです。
では、この2文目冒頭の「だから」は、〈文の成分〉としては何語に該当するのか。
まず、この「だから」が文章中において担っている役割について、よく考えてみましょう。
先ほど、〈文の成分〉という概念について、「一文のなかで、〈文節〉の担っている役割のこと」と説明しましたよね。
実は、この説明には、ちょっとした補足が必要です。
なぜならば、この「だから」は、「一文のなか」での役割というより、前の文との関係性を示すという役割を担っているわけですから。
すなわち、次のような役割ですね。
雨が/降って/きた。 = 原因
↓
だから
↓
試合は/すぐに/中断された。 = 結果
もちろん、こうした役割を果たす文節が、〈接続語〉。要するに、〈文の成分〉としての〈接続語〉は、
直前までの内容とそれに続く内容とのつながり方や関係性を示す文節
と定義できるのですね。そして、単独でそうした働きを持つ語のことを、品詞の名称としては〈接続詞〉と呼ぶわけですから、要するに〈文の成分〉としての〈接続語〉とは、
〈接続詞〉を用いて、直前までの内容とそれに続く内容とのつながり方や関係性を示す文節
と定義することができる。
なんだ、簡単ですね!……と、締めくくることができれば学びやすいのですが……。
もやもやする言い方になってしまい、ごめんなさい。
実は、学校文法にのっとって〈文の成分〉としての〈接続語〉を定義する場合、この説明だけではダメなんですね。ちょっと以下の例文を見てみましょう。
暑いので、/上着を/脱ぐ。
雪が/降ったら、/外出を/やめよう。
これらの文の、「暑いので」という文節や「雪が降ったら」という連文節も、学校文法の区分では、〈文の成分〉としては〈接続語(接続部)〉扱いになるんですね。
例えば、英語におけるbecause節やif節、とイメージすればわかりやすいでしょうか。
※2021年版では一部表記が変更されております
同じく『小学高学年 自由自在 国語』(p.178) にも、〈接続部〉の例文として、「雨が やんだので、 帰宅した。」という例文中の「雨が やんだので」が挙げられています。
ただ、おそらく本稿をお読みになっている皆さんは……いや、正直に言うと僕もなんですけど、こうした「暑いので」や「雪が降ったら」、「いそがしいので」「雨がやんだので」といった要素を〈接続語〉と呼ぶことには、相当な抵抗があるのではないかと思います。
そして実際に、小学生や中学生を指導していると、この点で理解につまずく子がかなり多い。
というわけで、本稿においては、混乱を防ぐためにも、そして、次回に扱う予定の内容へのリンクのためにも、because節やif節等としての〈接続語〉という考え方については、無視してしまいたいと思います。
けれどもさらに言えば、〈接続語〉の学習を文章の読み書きに応用していくうえでは、〈接続語=接続詞で構成される文節〉という覚え方も、あまりよろしくない。
というのも、さきほど定義した「直前までの内容とそれに続く内容とのつながり方や関係性を示す」という役割を果たす語句については、〈接続詞〉以外にもいろいろと存在するんですよね……。
そこらへんの詳細は次回に説明したいと思いますが、なんであれ、〈接続語〉や〈接続詞〉という用語を厳密に用いようとすると、どうしても、いろいろと面倒くさいことが生じてしまいます。
よって本稿では、ここ以降、
直前までの内容とそれに続く内容とのつながり方や関係性を示す表現
を意味する言葉として、〈つなぐ言葉〉という言い方を使っていきたいと思います。
とはいえ、〈つなぐ言葉〉の代表が〈接続詞〉という語であることは間違いないので、〈接続詞〉の解説を例にとって、〈つなぐ言葉〉の働き方に着目してみたいと思います。すなわち、〈つなぐ言葉〉における、
直前までの内容とそれに続く内容とのつながり方や関係性を示す表現
という定義中の「つながり方や関係性」とは、具体的にどのようなものを言うのでしょうか? 以下、『小学3・4年 自由自在 国語』(p.193∼194)から、その定義を引用してみたいと思います。
①前の事がらが、後の事がらの原因になる。
例 だから・すると・したがって
朝から雨だ。だから、運動会は延期だ。
②前の事がらとは逆の事がらが後にくる。
例 しかし・ところが・でも
簡単だと思っていた。しかし、意外と難しかった。
③前の事がらにつけ加える。
例 また・そして・しかも
夏休みに海に行った。そして、波乗りをして遊んだ。
④前の事がらとくらべたり、どちらかを選んだりする。
例 または・あるいは・それとも
右へ行こうか。それとも、左へ行こうか。
⑤前の事がらをまとめたり、補ったりする。
例 つまり・なぜなら・ただし
ゆみさんは、おばのむすめです。つまり、いとこです。
⑥前の事がらから話題を変える。
例 ところで・さて・では
いい天気ですね。ところでお父さんは元気ですか。
とてもわかりやすい解説ですので僕のほうから何かを付け加える必要はないかと思いますが、せっかくですから、①~⑥の用法の文法的な名称をまとめておきましょう。
これらの名称は、次回の第9回:ブンポウってナニソレ、おいしいの?⑤「つなぐ言葉 ~2~」でも用いますので、しっかりとご記憶いただければ幸いです。
さて、ここで話を「論理」に戻しましょう。
本稿の最初のほうで、僕は、「論理」という概念を、
>言葉と言葉における、正しいつながりかた
と説明しました。そして、次に、〈つなぐ言葉〉について、
>直前までの内容とそれに続く内容とのつながり方や関係性を示す表現
と定義しました。
つまりは、〈接続詞〉等に代表される〈つなぐ言葉〉とは、まさに読み書きにおける「論理」を示す標識のようなものであるということになりますね。
例えば、以下の例文を見てください。
しばしば、暗記という勉強法を否定する声を耳にする。しかし……
"しばしば耳にされる内容"は、いわゆる世間一般でよく言われる〈一般論〉というものであるはずです。つまりここでは、「暗記という勉強法を否定する声」が、〈一般論〉。しかしながら評論文の筆者は、基本的に、この〈一般論〉を批判することが多い。
なぜなら、世間一般で言われているようなことであれば、わざわざ文章にして主張する必要などないからです。逆に言えば、筆者は、世間一般の考えとは異なる意見を持っていればこそ、その文章を書いた可能性が高いのです。
となると、例文の「しかし」を見た瞬間、「あ、直前までの〈一般論〉を『しかし』で否定するのだから、ここから先は筆者の〈主張〉が述べられているかもしれない……!」と、その先の展開を類推することができるわけです……!
このように、〈つなぐ言葉〉をその用法とともにしっかりと覚えておけば、文章を読む際の――いや、文章を論理的に読む際の、大きな武器となるのですね。そしてこの、
いかに〈つなぐ言葉〉を読み書きに活かすか?
という点こそが、次回徹底的に考えたいテーマなんです。
今回はここまでになりますが、ここまでお話した内容は、次回のテーマをご理解いただくうえで大前提となるものですので、ぜひ、何度か読み返し、ご理解、ご記憶いただければと思います。
それでは、次回、第9回:ブンポウってナニソレ、おいしいの?⑤「つなぐ言葉 ~2~」もお楽しみに!