漢字辞典の使い方で変わる?小学生から始める一歩先を見据えた意味調べ

「語彙力ハ思考力ナノダ!④:国語辞典の使い方/漢字辞典の使い方
小池 陽慈先生

こんにちは。現代文講師の小池です。

第1回から第3回の連載記事では、日本語における〈熟語〉という言葉に目を向け、「熟語の組み立て」「対義語」「同音異義語」といった観点からその重要性について考えてきました。

何度も繰り返しになって恐縮ですが、「二つ以上の漢字が結びついて一つの言葉になった(『小学3・4年 自由自在 国語』p.140)」〈熟語〉なる言葉。それが

〝具体的な記述内容を抽象化・一般化する〟という読解に必須の実践において、最も頼れる語彙知識となる
「語彙力ハ思考力ナノダ!②:類義語/対義語」より

という点については、十分にご理解いただけたかと思います。

一方で、本シリーズをお読みくださっている皆さまのなかには、こんな感想をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

では、どうすればそうした熟語を数多く覚え、効果的に運用することができるようになるのか? 何か、小学生・中学生にも可能な学習法はないものか?

ということで、今回の記事では、〈熟語〉の学習――その効果的な暗記法について、お話させていだだきたく思います。

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「漢字=熟語を構成する部品」という観点の大切さ

くどいようですが、このシリーズで言う〈熟語〉とは、「二つ以上の漢字が結びついて一つの言葉になった」ものを指します。そしてここで強調したいのが次の点です。

漢字は、それ自体が単体で意味を持つ!

例えば「新(シン)」という漢字は、「あたらしい」という意味を持っていますよね。あるいは、「聞(ブン)」という漢字も、「きく」という意味を持っています。すると、「新聞」は、「新しく聞く」という意味を、全体として表していることになる。

このように分析すると、「あ、確かに新聞に報道されているニュースって、"新しく聞いた話"のことだな!」と、納得がいくわけです。

そして実はこうした考え方こそが、〈多くの熟語を覚え、効果的に運用する〉ための鍵となります。もうお分かりかと思います。

〈熟語〉は「二つ以上の漢字が結びついて一つの言葉になった」ものだが、それを構成する個々の漢字にも、それぞれ意味がある。そして、その個々の漢字の持つ意味が合わさって、〈熟語〉全体の意味を表している!

要するに、

〈熟語〉を覚える際には、それを構成する個々の漢字の意味にも可能なかぎりこだわる!

という点こそが、〈熟語〉学習のポイントとなるということです。

第1回で説明した「熟語の成り立ち」の中で取り上げた熟語をいくつか振り返ってみましょう。

決心める)

作文る)

帰国る)

人造る)

機械のメンテナンスをする人のイラスト

市営む)

市役所のイラスト

頭痛い)
頭痛のイラスト

⇒こちらをクリックで該当記事にジャンプできます。

このように〈熟語〉を構成する個々の漢字の意味に着目し、その〈熟語〉全体が日本語の文としてどのような意味を表しているかについて考えることは、改めて申し上げますが、非常に重要です。

また、前回の記事で扱った「同音異義語」についても、その理解と運用について、次のようにご説明をしたかと思います。

・会心の作だ。
⇒会心:〈心に+出会う〉➡心に思い浮かべていたものに出会い満足する、気に入ること。


・改心して勉強する。
⇒改心:〈心を+改める〉➡自らの悪を認めて、心を改めること。

⇒こちらをクリックで該当記事にジャンプできます。

ここでもやはり、漢字それ自体が持つ意味を参照し、〈熟語〉全体の意味を理解することが大切でしたね。

もう一度、反復させていただきます。

〈熟語〉を覚える際には、それを構成する個々の漢字の意味にも可能なかぎりこだわる!

ここが〈熟語〉学習における最大の重要ポイントであり、これまでの記事の中でも触れてきたことなのです。

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国語辞典+漢字辞典を使って熟語の意味にこだわろう!

では、そうした"漢字それ自体が持つ意味"について、その学習ツールとして不可欠のものは何か。

まず大前提として、漢字それ自体が持つ意味は、普通、その漢字の持つ〈訓読み〉によって理解されます。

*音読みしか持たない漢字もあります。

漢字の読み方には、音読みと訓読みがあります。
・音読み…中国の漢字の発音をもとにした読み方。
・訓読み…漢字を、その漢字の意味をもつ日本の言葉にあてはめた読み方。
『小学3・4年 自由自在 国語』p.20
訓とは、漢字の意味に日本の言葉をあてはめた読み方です。耳で聞いただけで、その意味がはっきりとわかります。 『小学高学年 自由自在 国語』p.25

ということは、〈熟語〉学習において必須のツールとは、出会った〈熟語〉について、それを構成する漢字の〈訓読み〉などを調べることのできるものとなりますが……もちろん、それこそが、『漢字辞典』あるいは『漢和辞典』であるわけです。

*なお、『漢字辞典』と『漢和辞典』の区別については、本稿では触れません。小中学生の段階では、単なる名称の違いと考えておけば問題ありません。

例えば、次の一文を読んでみてください。

小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。 芥川龍之介「トロッコ」

この文中の、「敷設(フセツ)」という〈熟語〉に注目してみましょう。

まず、この「敷設」という語そのものの意味を知りたいですよね。もちろんそのようなときは、まず『国語辞典』で調べてみるわけです。

すると、次のように説明されています。

電線をうめたり、線路をしいたりすること。鉄道を敷設する。学研『新レインボー小学国語辞典【改訂第4版】』より抜粋

なるほど、この説明で、「軽便鉄道敷設の工事」という表現も、きちんと理解できますよね(なお、「軽便鉄道」とは、普通の鉄道よりもレールの幅が狭い、小型の機関車を走らせる鉄道のことを言います)。

ただ、おそらく多くの方は、ここで満足して、「ああ、なるほどそういう意味なのか……」と辞書を閉じ、意味調べの作業を終えてしまうのではないでしょうか? 

しかし、それでは、〈熟語〉を効果的に暗記し、運用するための学習としては、ちょっともったいない。

ここで終わってしまうと、

〈熟語〉を覚える際には、それを構成する個々の漢字の意味にも可能なかぎりこだわる!

という点は、実践することができていないのですから。

というわけで、ここで『漢字辞典』の出番です!

この「敷」という漢字は、『漢字辞典』を調べると次のように説明されています。


しく
意味 しく。一面にしきならべる。しいて広げる。敷設。敷布。
旺文社『小学漢字新辞典【第四版】』より

「敷設」の「敷」は、〈しく〉と〈訓読み〉することができるわけですね。

それと同時に、この漢字の意味するところとして、「一面にならべる」「しいて広げる」という語義があることも説明されています。

この「一面に」や「広げる」というニュアンスを掴んでおくと、「敷設」の意味も、クリアに見えてきますよね。

もちろん「設」は、これも『漢字辞典』にあたれば、〈訓読み〉が〈もうける〉であるとすぐにわかります。要するに「敷設」は、次のような組み合わせになっているのです。

敷=広げる + 設=設ける/設置する

となると、『国語辞典』での「電線をうめたり、線路をしいたりすること。」という説明も、すとん!と腑(ふ)に落ちますよね。なぜなら「電線」も「線路」も、"広い範囲にわたって設置するもの"であるからです。

そして、こうした理解をしておくと、単に言葉の知識が増えるのみならず、その言葉を正確に運用することが可能となります。つまりは、表現力・記述力が向上するということ。

例えば、上のような理解を前提とすれば、次のような使い方が誤用であることを容易に判断できます。

“父は、家を敷設した。”

普通「家」は、"広い範囲にわたって"建てるようなものではないですよね。そのため、誤用であると分かる。

それだけではありません。

これは小中学生にはまだ難しい語ですが、高校での学びや大学入試では重要語となるものに、「敷衍(ふえん)」という〈熟語〉があります。これは〈個別の事柄を他のものにも押し広めて考える〉といったような意味を表します。

例えば、"自分の子どもについてあてはまることを、子ども一般の性質であると考える"といったような思考法のことですね。

そして、この難解な語句に出会ったときも、「敷衍」の「敷」が「広げる」という意味を持つ漢字であることを知っていれば、〈他のものにも押し広めて〉という語義をイメージし、記憶することも容易になるはずです。

付言するなら、高校や大学入試で本格的に学習することになる漢文でも、こうした漢字1つの1つの意味にまでこだわる学びが役立ちます。

ぜひ、小学校・中学校の段階で、その後の学びも見据えた語彙の学習を意識してみてくださいね。

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漢字や熟語を使いこなすための「意味調べノート」の作り方

さて、最後に、「意味調べノート」なるものについて、少し触れておきたいと思います。

ここまで〈熟語〉を覚える際、個々の漢字の意味を理解して習得するために、『国語辞典』や『漢字辞典』を活用しながら学ぶ、ということの意義と実践例を解説してきましたが、単に調べるだけじゃ、理解はともかく、それを知識として暗記するには心もとないですよね。

人は、そのとき「わかった!」と思ったことも、すぐに忘れてしまう生き物ですから、やはり、調べたことはノートやカードなどにまとめたい。そして、事あるごとに読み返して、確実に定着させたい。

そのためにも、「意味調べノート」の作成を、ぜひ実践していただきたいのですね。

そこで、その「意味調べノート」の作成法なのですが、実際に作らせてみると、多くの生徒たちは、大学受験生でも、

【○○(←語句)】…○○○○○○○○○○(←意味)

と、語句とその意味だけをまとめて終わりとしがちです。

もちろんそれで意味がないわけではないのですが、でも、やはりせっかくですから、調べてわかったことは、なるべくきちんとまとめたいですよね。

例えば今回挙げた例で説明するなら、これくらいは調べてまとめておきたいところです。

敷設…電線をうめたり、線路をしいたりすること。

  • 【例文】小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。
  • 【関連知識】敷…
             しく
             意味 しく。一面にしきならべる。しいて広げる。

ご留意いただきたいのは、【例文】については、自分で考えるのではなく、文章や辞書に載っている使用例をそのまま引用するということです。そうしないと、間違った使い方で覚えてしまう可能性がありますから。

【関連知識】については、今回は漢字の知識として音訓と意味をまとめてみましたが、その漢字の「なりたち」などに注目することも大切です。

皆さんは、例えば、「保障」という語について、違和感を覚えたことはありませんか?

「保障」は〈権利や安全などを守ること〉という意味の語ですが、なぜ〈守る〉を主たる語義とする語に、「障害物」の「障」の字が使われているのか。そこでこの「障」を『漢和辞典』で引いてみると、次のように説明されています。

なりたち[形声]意味を示す阝(山)と、音を示す章(ショウ。さえぎる)を合わせた字。行くてをはばむ山の意味。 旺文社『小学漢字新辞典第四版』より抜粋

そして、「ふせぐ。まもる」という、この漢字の意味も載っている。

これを見て、「あー! 『行くてをはばむ山』って、確かに守勢側においては、敵の侵攻をふせぎ、自分たちを守ってくれるものだな!」と気づけるかもしれません。

ここに気がつくと、〈権利や安全などを守ること〉という意味の「保障」に「障」をあてることにも納得がいくはずです。こうした点についてまとめておくことも、非常に有効な勉強となります。

あるいは、『国語辞典』の解説には、しばしば、「類義語/対義語」などが紹介されていることもあります。その重要性は本シリーズの第二回で解説させていただきました。

もし辞書を調べた際にそうした知識についても触れられていたら、ぜひ、それも「意味調べノート」に整理しておきましょう。

こうして地道にまとめ、語彙にまつわる知識を積み重ねていくことが、高校受験、大学受験といった後の学習の「基礎体力」となるのです。

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まずは一語から始めよう!

もちろん、出会ったすべての〈熟語〉について上記のような学習を実践することは、時間的にも厳しいでしょう。

ですから、一回の国語学習につき一語~数語だけランダムに選んで調べてみる、という方法でかまいません。

例えば、漢字テストで間違えた、あるいはなかなか覚えられない〈熟語〉についてのみ実践する、といったやり方などもオススメですよ!

意味調べノート」を充実させないと!と躍起になってしまうと、どうしても苦になって長続きしない可能性もあります。

まずは、無理せずに自分のタイミングで一語、また一語と積み重ねていきましょう。一語も積もればとてつもなく大きな知識になっていきます!

さて、この連載での「語彙力ハ思考力ナノダ!」シリーズは、今回で終了ということになります。

次回からは、また別の観点から小中学生の国語学習の重要性について解説して参ります。引き続き、よろしくお願い申し上げます!

著者紹介

小池 陽慈


1975年生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。早稲田大学大学院教育学研究科国語教育専攻修士課程中退。現在、大学受験予備校河合塾および河合塾マナビスに現代文講師として出講し、テキスト作成の全国プロジェクトも担当している。また、国語専科塾博耕房でも教鞭をとる。

単著に『無敵の現代文記述攻略メソッド』(かんき出版)『大学入学共通テスト国語[現代文]予想問題集』(KADOKAWA)

共著に、紅野謙介編『どうする? どうなる? これからの「国語」教育』(幻戯書房)。その他、執筆記事多数。


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『一生ものの「発信力」をつける 14歳からの文章術』

拙著『一生ものの「発信力」をつける 14歳からの文章術』が、笠間書院より刊行されました。中学生から社会人までを対象とした、"論理的な文章"の書き方を学ぶための入門書です。本シリーズのテーマとも深くリンクする内容となっております。また、近年の中学受験では、自由度の高い記述あるいは作文を書かせる学校が増加傾向にあります。お子様の中学受験をお考えの保護者様も、ぜひお読みください!


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