【第9回】ブンポウってナニソレ、おいしいの?⑤:「つなぐ言葉 ~2~」
小池 陽慈先生
こんにちは。現代文講師の小池です。
前回は、〈接続詞〉に代表される〈つなぐ言葉〉についてお話をしました。
今回は、そこでの内容を前提として、さらに発展的な解説に入っていきたいと思います。前回の内容をお忘れの方は、ぜひ、そちらを再読してから本稿をお読みいただければと思います。
念のため、前回の内容のなかでも、今回の単元をご理解いただくうえで最も大切な点を、以下にまとめておきます。
・国語学習における「論理」
⇒言葉と言葉における、正しいつながりかた
⇒〈接続詞〉等に代表される〈つなぐ言葉〉は、その〈つながり方〉を示す標識
次の例文をご覧ください。
(例)彼は勉強ばかりしている。
この一文の後に「だから」という〈つなぐ言葉〉がきたら、そこから先はどのような内容になると考えられますか?
「だから」は【順接】の表現で、〈前の事がらが、後の事がらの原因になる〉という〈つながり方〉を示します。
したがって「だから」以降は、「彼は勉強ばかりしている」という内容を〈原因〉として、そこから導き出される〈結果〉について述べることが予想されますよね。
例えば、「だから、成績が良い」とか「だから、運動は苦手だ」、あるいは「だから、目を悪くした」などと続くはずです。
前回の記事の中盤で、
>「直前までの内容とそれに続く内容とのつながり方や関係性を示す」という役割を果たす語句については、〈接続詞〉以外にもいろいろと存在する
ということを注記しました。
つまり、〈つなぐ言葉〉についてより正確に知り、それを知識として運用していくためには、〈接続詞〉を覚えるだけでは不十分であるということですね。
例えば、「さらに」という言葉は学校文法では副詞と呼ばれる品詞で扱われるはずです。
しかし、「地方は過疎化という問題を抱えている。さらに、高齢化という問題も顕著である」などという言い方は、現代では不自然なものとは言えないでしょう。そしてこの場合の「さらに」は、〈前の事がらにつけ加える。=【並立・累加】〉という働きを担っていると考えられます。
あるいは、「第一に○○、第二に……」などの表現もまた、いくつかのものを列挙していくということで、【並立】の役割を果たしていることは明らかですよね。
また、「今日は疲れたので、休む」の「ので」や、「雨は降ったが、試合は続行する」の「が」などは〈接続助詞〉と呼ばれる語なのですが、これらも〈接続詞〉同様に、前後の論理関係を明示する働きを持っています。
他にも、こんなおもしろい例があります。
私は驚いた。犬が空を飛んでいるのだ。
⇒「のだ」が、二文目が前の文「私は驚いた」の【理由】であることを示している。
箱の中はもぬけの殻だった。彼はまんまとだまされたわけだ。
⇒「わけだ」が、二文目が前の文「箱の中はもぬけの殻だった」を根拠に推論した結果を表す【説明】であることを示している。
彼女は激怒した。権力の横暴を知ったからだ。
⇒「からだ」が、二文目が前の文「彼女は激怒した」の【理由】であることを示している。
このように文末の表現が前の文との〈つながり方〉を示す例も多々あります。
また、こんな例も広い意味では〈つなぐ言葉〉と言えるでしょう。
勉強ができるだけでなく運動も得意だ。
⇒「だけでなく」が、【並立・累加】の働きを担っている。
などですね。
さらに、こんな例もあります。
閑話休題、懸案の課題について話し合ってみよう。
⇒「閑話休題」は、〈閑話=暇つぶしにする雑談〉+〈休題=それまでの話を一時やめること〉、ということで、〈横道にそれていた話を本筋に戻しましょう〉という意味を持つ慣用表現。したがって、〈前の事がらから話題を変える。=【転換】〉のバリエーションとして考えることができる。
〈接続詞〉と呼ばれる品詞のみならず、何かと何かのつながり方を明示する表現があれば、それも〈つなぐ言葉〉として考え、そこに示された〈つながり方=論理〉をしっかりと確認する必要があるわけですね。
なお、ここから以降の内容もそうなのですが、今回の記事の執筆にあたっては、石黒圭『文章は接続詞で決まる』(光文社新書)の内容に参照するところが大きいです。〈つなぐ言葉〉についてより高度な内容を学びたいという方は、ぜひ同書をチェックしてみてください。
さて、いよいよ本題に入りましょう。
本題とは何か。
ここでもまた、前回の内容を引用いたします。
>このように、〈つなぐ言葉〉をその用法とともにしっかりと覚えておけば、文章を読む際の――いや、文章を論理的に読む際の、大きな武器となるのですね。
まさにこの点を説明したいからこそ、2回にもわたって長々とこの〈つなぐ言葉〉についてお話させていただいたのです。
〈つなぐ言葉〉の応用①~展開の類推~
では、具体的に〈つなぐ言葉〉をどのように読解に応用していくのでしょうか。
そのうちの一つについては、実は、すでにお話しているのです。
例えば前回の記事では、こんなことを書きました。
そして今回の記事の冒頭で、次のように書きました。
二つの事例に共通しているのは、いったいどうような点でしょうか?
もうおわかりかと思います。
前回の例でも、今回の例でも、
〈つなぐ言葉〉の示す論理関係に着目し、その後の展開を類推する!
という読み方を実践しているのですね。
もちろん、類推は外れることもあります。しかしながら、こうして先の展開を妄想ではなく論理的に類推しながら読むことは、主体的・能動的な読みを可能とし、文章全体の論の展開を正確に把握することにつながります。
それに、とても集中力を必要とする読み方なので、必然的に、文章の内容も頭の中に残りやすい。そうなれば、設問だって、当然、解きやすくなるのです。
〈つなぐ言葉〉の応用②~前後関係を把握~
皆さんは、次の文章を読んで、その意味を正確に理解することができるでしょうか。
(例)英語を勉強する。国語を勉強する。
ちょっと何を言いたいのか、わかりませんよね。一文ずつでなら、「あ、英語を勉強するのね…」とか「あ、国語を勉強するのね…」と理解できますが、この二つの文をポンポンと並べただけでは、伝えたいメッセージがよく見えてきません。
ところが、
A 英語を勉強する。そして国語を勉強する。
B 英語を勉強する。もしくは国語を勉強する。
とすると、Aのほうは「ああ…英語と国語の両方を勉強するのね」とわかりますし、Bのほうは「ああ…英語か国語のどちらかを勉強するのね」と理解できます。
では、なぜそうわかるのか?
それはもちろん、Aに使われた「そして」が〈前の事がらにつけ加える。=【並立・累加】」〉の働きを、そしてBに使われた「もしくは」が〈前の事がらとくらべたり、どちらかを選んだりする。=【対比・選択】〉の働きを、それぞれ有しているからですよね。
これは逆に言えば、文章を読む際に、「〈つなぐ言葉〉に着目し、前後の関係性を把握する」ということをしないと、つまりここで言うなら、「そして」や「もしくは」をいい加減に読み飛ばしてしまったら、書き手や話し手の伝えたいことを正確に理解することができない、ということでもあります。
繰り返しますが、
〈つなぐ言葉〉に着目し、前後の関係性を把握する!
という頭の働かせ方が、文章の正確な読み取りにおいてはとても大切になる、ということなのです。
〈つなぐ言葉〉の応用③~言外の情報も類推~
〈つなぐ言葉〉の読解への応用の仕方は、まだまだあります。以下の二つの例文をご覧ください。
A 今日の部活の練習はとてもハードだった。だから、夕飯はたくさん食べた。
B 今日の部活の練習はとてもハードだった。けれども、夕飯はたくさん食べた。
〈つなぐ言葉〉以外は、まったく同じ内容で構成されています。でも、もちろん、二つの例文から読み取ることのできる情報は、変わってきます。
まずAですが、「だから」は〈前の事がらが、後の事がらの原因になる。=【順接】〉の働きを持っています。
〈ハードな練習=原因〉→〈夕飯はたくさん食べた=結果〉
このような因果関係を示しているわけですが、しかしながらここには、ちょっとした飛躍があります。どうして練習がハードだと夕飯をたくさん食べるのか? それはもちろん、ハードな練習のためにお腹が減ったからですよね。
つまり、「だから」をヒントにして失われた情報を復元するなら、次のように理解できます。
〈ハードな練習=原因〉→〈お腹が減る=結果①〉→〈夕飯はたくさん食べた=結果②〉
これに対してBは、〈前の事がらとは逆の事がらが後にくる。=【逆接】〉の「けれども」でつながれています。ここはちょっと、「ん……?」と首を傾げた方もいらっしゃるかもしれません。
ハードな練習と夕飯はたくさん食べたという情報が逆の関係でつながるには、どのような解釈をすればよいのか……?
ハードな練習と夕飯はたくさん食べたという情報が逆の関係でつながるためには、次のような前提が必要です 。すなわち普段なら、
〈ハードな練習=原因〉→〈夕飯はあまり食べなかった=結果〉
それなのに今回に関しては、「夕飯はたくさん食べた」。したがって、【逆接】の「けれども」でつないだわけです。
では、例えばどんな原因・理由があるとき、このような因果関係が成立するのでしょうか。
〈ハードな練習=原因〉→〈夕飯はあまり食べなかった=結果〉
それは例えば、あまりにも疲労がたまると何も食べたくなくなる体質だったとか、あるいは、ハードな運動をすると胃酸過多になって食事を飲み込めなくなる、など、それなりにありそうな状況はあれこれと考えられますよね。
さらに言うなら、普段はそうした理由でハードな練習の後にはあまり食べることができなかったこの人が、なぜ今回に関してはたくさん食べたのか。
そこについても、監督から体重を増やすよう指令が出ていたとか、知らず知らずのうちに体力がつき、ハードな練習後も食べられる体質に変わっていたとか、いろいろと条件が考えられます。
整理すると、こうなります。
普段〈ハードな練習=原因〉
→〈疲労がたまると何も食べたくなくなる=結果①〉
→〈夕飯はあまり食べなかった=結果②〉
↑
【けれども】
↓
今回〈ハードな練習=原因〉
→〈疲労がたまると何も食べたくなくなる=結果〉
→〈しかしながら、監督から増量指令が出ている=原因〉
→〈夕飯はたくさん食べた=結果〉
このように明確に言語化されていない空白の部分を〈つなぐ言葉〉を基に埋めることもできます。
つまり、
〈つなぐ言葉〉に着目すると、言外の情報を類推することができる!
というのも、〈つなぐ言葉〉を読解に応用する際の大きなポイントなのですね。
例えば、〈つなぐ言葉〉が、そこに描かれた出来事や事象に対する書き手や話し手の認識を示すこともありますし、あるいは、書き手や話し手の感情を示唆することもあるのです!
いかがでしたか。
文章の読解において〈つなぐ言葉〉がどれほど大切な要素となるか、ご理解いただけましたでしょうか?
記事の途中でも言及しましたが、〈つなぐ言葉〉による類推は、主体的・能動的な読解を可能にします。
与えられた情報だけで受け身的に考えるよりも、一歩踏み込んで、言語化されていない文章のニュアンスや流れを掴むことができると、より高度な「読み」につながっていくはずです。
この〈つなぐ言葉〉と、そしてもう一つ、指示語とをしっかり意識して読むことができれば、文章のつながりを追いかけながら読むという読解において最も大切な能力が、格段にアップします。
ということで、次回は指示語についてお話させていただきます。ぜひご期待ください!