【第1回】語彙力ハ思考力ナノダ!①:『熟語の組み立て』
小池 陽慈先生
こんにちは! 現代文講師、及び学習参考書等の執筆者をしております、小池 陽慈と申します。今回を含めて12回、本シリーズの連載を担当させていただくことになりました。何卒、よろしくお願い申し上げます。
さて、私は現在、大学受験の指導に専念しております。ですがもともとは、中学受験・高校受験の塾に出講し、小学生や中学生の国語を長年担当してきました。
そこで本シリーズでは、小学生から高校生、高卒生までを幅広く教えてきた経験を踏まえ、小学生のお子様がいらっしゃる保護者の皆様に、「高校での学びや大学受験対策」に向けた「小学国語の勉強」について、微力ながらご助言申し上げたく思います。
「高校での学び? ウチの子まだ小学生なんで、今そんなこと言われても……」
「小学生での国語の勉強が、大学受験対策に関係するの?」
皆様のなかには、もしかしたら、そのような疑問を抱かれた方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、小学校の国語学習と高校での学び・大学受験対策との間には、知識の量や扱う情報の抽象度、難解さ等、当たり前ですが、かなりの開きがあるのは事実です。
しかし、これだけは断言させていただきたい!
小学校の国語の学習こそが、高等学校での学び、大学受験対策における基盤となる!
本シリーズでは、お子様方の将来に直結する〈イマ、ココ〉での国語学習のなかでも、とりわけ重要なテーマに絞って、具体的に解説して参りたいと思います。
ぜひ、お子様にも、「あなたが今やっているその勉強、将来ものすごく役立つんだって! 大学受験の先生が言ってたよ!」とお伝えください。
さて、記念すべき第一回のテーマは、「熟語の成り立ち(組み立て)」です。
実はこれが、高校国語や大学入試現代文で、ものすごく大切な考え方になるんですね。
最初 manaviでTOPICSを執筆することが決まった際に、真っ先に「これを書きたい!」と思ったのが、まさにこのテーマだったんです。
ですが、この「熟語の成り立ち(組み立て)」について詳しくお話する前に、まずは「語彙」というものの重要性について、少しだけ触れておきたいと思います。
ひとまず、以下の文章を読んでみてください。
ヨーロッパ近代とは、古代から長きにわたり継承されてきた神話的・オカルト的な自然観――例えば、雷や地震は神々の怒りの象徴であるとか、天には美しいメロディが流れているなど――が退けられ、科学的な知や態度をもって世界が理性的に読みかえられていく時代であった。
要するに、〈西欧近代=神話的世界観が排除され、科学に基づく理性的な世界観が構築された時代〉ということを言っているのですが、このような、〈理性や論理に照らしてそれに見合わない考え方などを排除し、それに見合うものだけを認める〉という思考のありかたを、〈合理主義〉と呼びます。
つまり、仮に〈合理主義〉という語彙を理解し、自分の言葉として記憶しておいたなら、上記の文章は、より端的に、〈西欧近代は合理主義の時代であった〉などとまとめることができるわけですね。
具体的な記述を端的にまとめることを、〈抽象化〉あるいは〈一般化〉などと言いますが、実はこれが、高校での学習や大学入試において、きわめて大切な思考法になるのです。
例えば、文章を読む際。
僕の指導する高校生や受験生の中にも、「本文を読んでいくうちに、最初のほうの内容がどんどん頭から抜けていって、読み終えたときにはもう何が書いてあったかさっぱり覚えていないんです。どうすればよいでしょうか」と相談に来る子たちがいます。
その解決法はいろいろあるのですが、本文を読み進めるうえでポイントとなるような記述を端的に〈抽象化〉し、メモなどを残しておけば、文章を読み終えた際にそれを再度参照することで、冒頭から着地点までの流れを最低限は押さえることができます。
あるいは、問題を解く際。
例えば記述問題などで、使用する本文根拠が具体的な内容となっている場合、それを〈抽象化〉して答えることが大切になります。〈くだものが好きです〉と答えるべきところを〈リンゴとミカンなどが好きです〉と具体例だけで書いてしまうと、〈くだもの全般〉を表すことができません。間違いなく減点されてしまうでしょう。
そもそもだいたいの場合は、具体的な内容をそのまま使用すると、指定字数や解答欄をすぐにはみ出してしまう。となると、繰り返しますが、具体的な内容は〈抽象化〉〈一般化〉して答えることが大前提となるわけです。
とりわけ、東京大学をはじめとした国公立大学では、こうした思考を試す問題が多く出題されます。
選択肢問題とて、同じことです。具体的に記述された本文根拠が、正解の選択肢の中ではぎゅっと〈抽象化〉された表現になっていることがよくある。この〈具体→抽象〉の言い換え対応に気づけなければ、その選択肢が正解であることは見抜けません。
つまり、本文を読む際にも、問題を解く際にも、〈抽象化〉・〈一般化〉は本当に大切な思考となるということです。
では、そうした〈抽象化〉・〈一般化〉をスムーズに実践できるようになるには、まず何が必要なのでしょうか?
それは当然、先に挙げた〈合理主義〉の事例でもおわかりいただける通り、抽象的な概念を表すことができる語彙を、たくさん仕入れておくことです。
そしてこの、具体的な記述内容を〈抽象化〉・〈一般化〉する上で最も威力を発揮するのが、「熟語」と呼ばれるものなのですね。
では、熟語とは何か?
その定義については、『小学3・4年 自由自在 国語』から引用してみたいと思います。
「二つ以上の漢字が結びついて一つの言葉になったもの」。例えば、黒板・着陸・道路・上下・地震・時々・無理・整然・特急……等々ですね。
もちろんこれらの例は、皆、簡単な語彙ばかりですが、そうですね……普遍・主観・客観・絶対・相対・恣意・逆説・概念・観念・演繹・帰納……等々、熟語には、いわゆる学術系の論文などに登場する、難しいものも多い。
そしてこういった難度の高い熟語こそ、高校での学びや大学受験で読む文章において具体的な記述を〈抽象化〉・〈一般化〉する際に、非常に大切な道具となるのです。
では、そういった抽象的な概念を表す難度の高い熟語を覚える際に、どのようなことを意識すればよいのか。ここで、今回のメインテーマである、「熟語の成り立ち(組み立て)」という考え方に着目したいと思います。
これは簡単に言えば、〈熟語を構成する漢字と漢字とが、どのような関係でつながっているのか〉という観点ですね。
『小学3・4年 自由自在 国語』は、その「成り立ち(組み立て)」のパターンを、以下の9つに分類しています 。
・小川(小さい川)
・絵本(絵の本)
など
・決心(心を決める)
・作文(文を作る)
・帰国(国に帰る)
など
・戦争(戦う=争う)
・願望(願う=望む)
など
・左右(左⇔右)
・強弱(強い⇔弱い)
など
・人造(人が造る)
・市営(市が営む)
・頭痛(頭が痛い)
など
・国々(国+国)
・人々(人+人)
など
・不便(不+便利)
・無害(無+害)
・非運(非+運)
・未完(未+完成)
など
*「不・無・非・未」は、「~ない」という意味です。
・悪性(悪い+性)
・知的(知性+的)
・美化(美しい+化)
・必然(必ず+然)
など
・入試(入学試験)
・国連(国際連合)
など
実は、熟語を覚える際、この「熟語の成り立ち(組み立て)」を意識すると、その語についての理解も深まり、結果として、より記憶に定着しやすくなるのです。
例えば、「机上の空論」という表現の「空論」は〈空論(空しい論)〉で、「①上の漢字が下の漢字を修飾しているもの」というパターンであることがわかります。そして〈空しい+論〉であるわけですから、〈現実から離れた、役に立たない考え方〉という意味も、「なるほど!」と腑に落ちるはず。
ここで、最初のほうに言及した、〈合理主義〉すなわち〈理性や論理に照らしてそれに見合わない考え方などを排除し、それに見合うものだけを認める〉という概念に、再度着目してみましょう。
この〈合理主義〉の〈合理〉という部分、その「熟語の成り立ち(組み立て)」はどのパターンでしょうか。
正解は、「②『~を』『~に』にあたる意味の漢字が下にくるもの」。つまり、〈合理(理に合う)〉ということですね。
そしてこの〈合理(理に合う)〉という組み立てが理解できれば、〈理性や論理に照らしてそれに見合わない考え方などを排除し、それに見合うものだけを認める〉すなわち〈理性や論理に合致するものだけを認める〉という〈合理〉の意味も、より確実に覚えられるのではないでしょうか。
高校での学習や大学受験の勉強で必須となる、熟語の暗記。そこで意識すべき「熟語の成り立ち(組み立て)」は、なんと小学生のうちに習うことなのですね。
まさに、
小学校の国語の学習こそが、高等学校での学び、大学受験対策における基盤となる!
というわけです。
今、熟語をしっかりと覚えて語彙をつけておくと、それが高校受験、大学受験における思考力に繋がっていくのですね。
ぜひ、熟語がなかなか覚えられないと苦心しておられるお子様には、「熟語の組み立て」に注目するようにアドバイスしてあげてください。
それでは、今回はここまでとなります。
次回は「類義語/対義語」という知識についてお話したいと考えております。ここも極めて大切な内容となりますので、ぜひお読みください!
小学3・4年自由自在国語
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