説明文・論説文を読み解くコツ!小学生から意識したい文章の「すじ道」って?

【第11回】文章の読み方を知る「論の展開を把握する」
小池 陽慈先生

こんにちは。現代文講師の小池です。

今回を含めて残すところあと2回となったこの連載ですが、ここまで、語句、そして文法、さらには〈つなぐ言葉〉や〈指示語〉等の〝知識〟について、場合によってはかなり細かな点にまで言及してきました。

そして最後の2回では、この連載の締めということで、いよいよ、本格的な文章読解について解説していきたいと思います。

国語で扱われる文章にも様々なジャンルがありますが、その中でも今回スポットを当てるのは「説明文」「論説文」です。

これまでの記事で言及してきた「知識」を活用しながら、「説明文」や「論説文」を読み解くコツをお話いたしますので、ぜひご一読ください。

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説明文・論説文ってどんな文章?

説明文」と「論説文」と聞いて、その違いが何か分かりますか?

これ意外と説明するのが難しいと思います。

そこで、まずは、いわゆる「説明文・論説文」と呼ばれる文章がどんな文章なのかを確認しておきましょう。

「説明文」と「論説文」については、例えば『中学 自由自在 国語』にて次のように解説されています。

説明文…実験や観察の結果わかったことや物事の仕組みや由来などについて、事実を説明した文章。
論説文…筆者が、自分の主張や見解を、筋道立てて論理的に説明した文章。
『中学 自由自在 国語』p.34

前者が「事実を説明した文章」で、後者が「自分の主張」を「論理的に説明した文章」ということですね。両者はやはり、学習の過程においては区別する必要があります。

ただし、今回のテーマである「論の展開を把握する」という観点からいえば、「説明文」も「論説文」も同じ読み方が要求される文章です。

したがって本稿においては、両者は共通するカテゴリーに位置する文章として、区別せずに扱っていきたいと思います。

なお、大学受験の指導では、なぜか「論説文」という呼称より「評論文」という言い方が多く使われますが、もちろん、本稿でいう「論説文」は、この「評論文」も含むとお考えください。

ちなみに、近年、こうした文章を包括する概念として「論理的な文章」という呼称が用いられることがあるのですが、僕個人としては、この言い方はあまり好きではありません。

どのような文章も、文章が文章である以上は、すべて論理的に書かれていると思うので。よって本稿では、「論理的な文章」という言い方は、あえて避けたいと思います。

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説明文・論説文をどう読むか?

「事実を説明した文章」であれ「自分の主張」を「論理的に説明した文章」であれ、そうした「説明文」・「論説文」を読むとは、具体的にどのようなことなのでしょうか。

それを考察するうえで大変に示唆に富む解説が『小学3・4年 自由自在 国語』にありますので、ちょっと引用してみましょう。

1 説明文の読み方
 説明文とは、ある事がらや物事について、すじ道を立てて説明した文章のことです。筆者が何について、どのように考えているかを正しく読み取ることが大切です。次のような方法で読んでみましょう。
①文題に注目する
(中略)
②段落の要点をまとめる
 説明文では段落がわりあいはっきりしています。段落ごとに要点をまとめて、初めに――次に――それから――最後に――というように、説明の内容を整理して読み取っていきます。
『小学3・4年 自由自在 国語』p.242~243

高校や大学受験の勉強にまで直結するような、まさに本質をついた解説です。

とりわけ、「説明文」を「すじ道を立てて説明した文章」と定義し、したがって「筆者が何について、どのように考えているかを正しく読み取ることが大切です」と説明する点がすばらしい。

「説明文・論説文」の読み取りにおいては、しばしば、〈その文章を通じて筆者がいちばん伝えたい内容=主張・論旨〉を理解することの大切さが説かれます。

もちろん、それはその通りです。しかしながら、そこにおいてこだわらなければならないのが、その主張・論旨を、筆者がどのような「すじ道」で論証しているのか、すなわち「どのように考えているか」を把握することなのです。

ちょっとイメージがしづらいでしょうか。

そうですね……例えば、誰かと外食をすることになったとしましょう。

そこで、「何を食べにいく?」などとなった際、あなたは「カレーライスがいい!」ということを主張したい。

ではそんなとき、ただただひらすら「カレーが食べたいカレーが食べたいカレーが食べたいカレーが食べたい……」と繰り返すだけで、相手は「そうだな…確かにカレーがいいかもしれない」などと思ってくれるでしょうか?

おそらく、厳しいですよね。最悪の場合は、「ああ、うるさい! カレーだけはありえん! 今日は絶対に餃子とラーメン!」と怒ってしまうかもしれません。

では、どうするか。どのように訴えれば、「…じゃあ、カレーにするか」と思ってもらえるか。

ここで大切になってくるのが、まさに、主張を展開する際の「すじ道」(=論理)であるわけです。

具体的には、次のような展開になります。

① 今日の夕食については、考えがある。

   ↓

② ○○屋で、夏野菜カレーという新メニューが販売を開始し、評判になっている。

   ↓ そして

③ 今日は二人とも疲れていて食欲がない。でもカレーならきっとたくさん食べられる。

   ↓ このように

④ 今日カレーにうってつけの日だ。

   ↓ したがって

⑤ 夕飯はカレーを食べにいこう。

こうした展開があれば、相手も、「正直ラーメンの気分だったけれども、カレーもいいかも」と思ってくれるかもしれません。

そうです。言葉を通じて何かを主張し、そして相手を説得するためには、たんに主張を繰り返すだけではだめなのです。

大切なのは、その主張を相手に納得してもらうための「すじ道」(=論理)であり、もちろんそれは、上のような会話のみならず、文章を書くうえでもとても重要なポイントとなる。

そしてこれを逆から言いかえるなら、

筆者の主張と、その主張をどのような「すじ道」(=論理)で説明しようとしているのかを理解することで初めて、説明文・論説文は読めたことになる!

ということなのですね。

本稿では、このような〈主張を述べるうえでの「すじ道」(=論理)〉を、〈論の展開と呼びたいと思います。

端的に言えば、説明文・論説文の読解とは、

〈論の展開〉を把握し、筆者の主張=論旨を理解する

という営みのことなのですね。

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〈論の展開〉の把握についての実践例

では、ここで実際の大学入試に出題された文章の一部を引用し、〈論の展開〉の把握について、その実践例をお見せしたいと思います。

 電子書籍ではこの「読み終えた私」への小刻みな接近感を読者にもたらすことができない。紙の本という三次元的実体を相手にしているときには、「物語の終わりの接近」は指先が抑えている残りの頁の厚みがしだいに減じてゆくという身体実感によって連続的に告知されている。だが、電子書籍ではそれがない。仮に余白に「残り頁数」がデジタル表示されていても、電子書籍読書では、「読み終えた私」という仮想的存在にはパーティへの招待状が送られていないのである。
内田樹『活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?』(岩波書店による。)
『大学入試ステップアップ/現代文 基礎』p.9

冒頭の一文について少し説明を加えていきます。

筆者はここまでの文脈で、読書という行為について、その本を「読みつつある私」は、つねにその本を「読み終えた私」を想定しており、頁をめくるごとに両者が接近し、最後の一行を読み終えたときに、両者は「出会う」ことになる、というおもしろい分析をしています。

引用した文章の冒頭文中における「この『読み終えた私』への小刻みな接近感」とは、そうしたことを言っているのですね。

さて、この冒頭の一文ですが、「電子書籍ではこの『読み終えた私』への小刻みな接近感を読者にもたらすことができない」という内容は、まさに筆者の主張そのものであることがわかります。

電子書籍では、その本を「読みつつある私」がその本を「読み終えた私」へと「接近」していく感覚を持つことができない、と。

ズバリ伺いますが、この主張だけを聞いて、皆さんは納得がいきますか?

「なるほど」と思う人もいるかとは思いますが、おそらく、「え…? なんで?」と首をかしげる人も多いのではないでしょうか。

そう判断したからこそ、筆者は、このように続けています。

紙の本=三次元的実体
   →指先が抑えている残りの頁の厚みが減ってゆくという身体感覚
   →物語の終わりの接近を物理的に感じることができる

    ↑

   だが

    ↓

電子書籍=実体がない
    →指先が抑えている残りの頁の厚みが減ってゆくという身体感覚が持てない
    →物語の終わりの接近を物理的に感じることができない


逆接の〈つなぐ言葉〉「だが」によって提示されたこの対照性を理解した読者は、「ああ、なるほど。電子書籍は紙の本と違って、物語の終わりの接近を物理的に感じることができない。これは確かにそうだ。どれだけ頁をめくっても、〝厚み〟が減るわけではないからな……となると確かに、筆者の主張するとおり、電子書籍ではこの『読み終えた私』への小刻みな接近感を読者にもたらすことができない、ということになるなぁ」と納得するでしょう。

さらに、引用した文章の最後の一文に注目してみましょう。

筆者は、「仮に余白に『残り頁数』がデジタル表示されていても、電子書籍読書では、『読み終えた私』という仮想的存在にはパーティへの招待状が送られていないのである」と述べています。

この文末の「のである」によって、この一文が直前の一文を説明する働きを担っていることがわかります。

そして、その内容はまさに、直前に述べられた〈物語の終わりの接近を物理的に感じることができない〉ということの詳細な言い換えであり、しかもそれを、「『読み終えた私』という仮想的存在にはパーティへの招待状が送られていない」という比喩を用いて表現している。

この比喩が鮮烈なイメージとして読者の脳裏に焼き付いたとき、読者はもう、筆者の主張を完全に受け入れてしまっていることでしょう。

このように、説明文・論説文には、必ず〈論の展開〉というものがあります。今回のそれを最も抽象的に図示するなら、

主張→対比を用いた論証→比喩を用いた論証の反復

などとまとめることができます。そしてこの展開を把握することができれば、筆者の主張・論旨も、おのずと腑に落ちているはずなのです。

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小学生から積み重ねる〈論の展開〉を整理する力

今回は紙幅の都合により一段落のみの引用と解説に収めましたが、この〈論の展開〉は、むしろ、〈段落と段落の関係〉において把握することが大切になります。

〈段落と段落との関係〉において〈論の展開〉を把握することができれば、それはすなわち、〈文章全体の論の展開を把握する〉ことに等しいですからね。

先ほど参照した『自由自在』の解説のこの部分もまさにそのことを言っています。

 説明文では段落がわりあいはっきりしています。段落ごとに要点をまとめて、初めに――次に――それから――最後に――というように、説明の内容を整理して読み取っていきます。
『小学3・4年 自由自在 国語』p.242~243

これは、小学生の段階での国語学習がそのまま高校や大学入試レベルの現代文学習に直結するという例の典型であると言えましょう。

小学生、そして中学生の段階から〈論の展開〉を整理しながら読むという学習を徹底していくことが、後々の現代文学習を意識するなら、本当に、本当に、大切なことであるとわかるのです。

なお、今回は、文章を読むという側面から、〈論の展開〉を意識することの重要性を確認しました。

けれども、これはもちろん、文章を書くという観点からも、大事な考え方となります。

しかるべき〈論の展開〉を踏まえた書き方をすることで、文章の説得力がより向上することになるからですね。

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小学生が自分で読むには難しいかもしれませんが、保護者の皆様がお子様への文章指導やアドバイスをなさるうえでは格好の一冊であるかと自負しております。もちろん中学生以上なら、きっと自力で取り組めるはずです。ぜひとも、ご活用ください。

では、今回はここまでとなります。

本シリーズの連載も、次回で最終回
最後まで、何卒よろしくお願いいたします!

著者紹介

小池 陽慈


1975年生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。早稲田大学大学院教育学研究科国語教育専攻修士課程中退。現在、大学受験予備校河合塾および河合塾マナビスに現代文講師として出講し、テキスト作成の全国プロジェクトも担当している。また、国語専科塾博耕房でも教鞭をとる。

単著に『無敵の現代文記述攻略メソッド』(かんき出版)『大学入学共通テスト国語[現代文]予想問題集』(KADOKAWA)『小池陽慈の 現代文読解が面白いほどできる基礎ドリル』(KADOKAWA)

共著に、紅野謙介編『どうする? どうなる? これからの「国語」教育』(幻戯書房)難波博孝監修『論理力ワークノート ネクスト』(第一学習社)

川崎昌平『マンガで学ぶ〈国語力〉 ―大学入試に役立つ〈読む・書く・考える〉力を鍛えよう―』(KADOKAWA)を監修。その他、執筆記事多数。


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